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4、奪還のベリル
240、フルーツサンドウィッチ、花畑サラダ、ミニバーガーマロンスコーン、りんごとシナモンのレイヤードパフェ、真っ赤なトマトとたまねぎのスープ
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魔法植物園に生い茂る植物の隙間を縫うようにして、魔力でつくられた鳥がパタパタと飛んでいく。一羽、二羽、三羽。
「捜索用の鳥さんかしら」
フィロシュネーは鳥が三方向に分かれて飛んでいくのを見届け、魔法の使い手に声をかけた。
声をかけられて振り返るのは、青国の預言者ダーウッドだ。
これから雪の季節なのだと思わせる、少し冷たい風が吹く。
周囲に茂っている薬草がそよそよ揺れて、優しい香りがする。
「海の中は探せませんが……アーサー様は泳ぐのがお上手ですから、どこかの島で野性味あふれる生活でも営んでおられるかもしれません」
ダーウッドはどこか夢見るような声で言った。
「そうね。お兄様は、そういうところがあるわ。アルブレヒト様と一緒に、お魚を焼いて召し上がっているかも」
「……アーサー様なら、サメだって狩ってしまいそうですな」
ふわふわと言って、ダーウッドは改めてフィロシュネーに頭を下げた。
二人の食事席が設けられたパビリオンは、周囲の魔法植物を鑑賞しながらくつろげるスペースとなっている。
つる性の花植物をイメージしたデザインの白いガーデンテーブルに用意された料理は、軽めで可愛らしい印象だ。
ふんわりしたパンにイチゴやオレンジの断面が鮮やかなフルーツサンドウィッチ。
新鮮な緑の野菜の葉の上に薄いピンクや黄色、紫のエディブルフラワーを盛った花畑みたいなサラダ。
トリュフとたまごが香ばしい焼き色のパンに挟まれた、ミニバーガー。
マロンスコーンに、りんごとシナモンのレイヤードパフェ。
甘みと酸味が効いた、真っ赤なトマトとたまねぎのスープ。
「いただきましょうか」
「いただきます」
カクテルグラスには、透明感のあるジュースが注がれる。
底が赤く、中央は白く、上部はきれいな青色のジュースは、果実の味がした。
三角形にカットされたスイカが上に浮いていて、それも食べることができるのだ。
「このジュースはよろしいですな。赤より青が上……素晴らしい」
「それ、外交的に問題のある発言と受け取られかねないのでは?」
「ここには私とフィロシュネー様しかいませんから」
そうね、と頷いて、フィロシュネーはオレンジのサンドウィッチを口にした。
(あっ、美味しい)
オレンジの酸味と甘さが舌先で広がる。
ほどよい酸味とパンのもちもちとした食感が、絶妙!
「紅国の預言者とは、あやしいですな。預言者など存在いたしませんから、完全に詐欺師でしょう」
舌つづみを打っていると、ダーウッドが真面目な話を始めていた。
フィロシュネーはサンドウィッチを咀嚼し、飲みこんでひと息ついてから、声を返した。
「紅国の預言者は、サイラスからのお誕生日プレゼントみたいですの」
「プレゼント?」
ダーウッドはイチゴのサンドウィッチとオレンジのサンドウィッチの間で視線を彷徨わせてからオレンジのサンドウィッチを選んでいる。
「名前はなんというのです?」
「そういえば、お名前はわかりませんわね」
「紅国の詐欺師は、私のことを無能やら怠慢やら抜かしたのです。許しません」
ダーウッドはぱくりとオレンジのサンドウィッチを頬張った。
アーサーが行方不明になってから、昼夜限界まで魔力を使って捜索し、食も細り、痛々しいほどに痩せて憔悴したダーウッドが怒りによって元気を取り戻している。
(怒りが原因だけど、元気が出たのはよいことではないかしら)
フィロシュネーはこっそりとそう思った。
「ダーウッド。こちらのミニバーガーも美味しいですわ」
ミニバーガーぱくっと食べてみせると、ダーウッドは勧められるままミニバーガーに手を伸ばしている。
「いただきましょう。そもそも、他国の城内で無礼千万、許しがたく」
「お手紙で苦情を申しますわ」
「外交的に?」
「個人的に、サイラスに伝えておきます」
「うむ。それがよろしいでしょう。今は他国と諍いを起こす余裕がありませんからな」
真っ赤なトマトのスープは、豊かな味わいが楽しめる。
「ふむ。料理は美味しいですね」
「ええ、ええ」
怒りと料理は元気をくれる。自国の預言者の元気が出るのは、良いことだ。
ホットスープは身体の内側からじわっとあっためてくれる感覚もあって、フィロシュネーはニコニコした。
「捜索用の鳥さんかしら」
フィロシュネーは鳥が三方向に分かれて飛んでいくのを見届け、魔法の使い手に声をかけた。
声をかけられて振り返るのは、青国の預言者ダーウッドだ。
これから雪の季節なのだと思わせる、少し冷たい風が吹く。
周囲に茂っている薬草がそよそよ揺れて、優しい香りがする。
「海の中は探せませんが……アーサー様は泳ぐのがお上手ですから、どこかの島で野性味あふれる生活でも営んでおられるかもしれません」
ダーウッドはどこか夢見るような声で言った。
「そうね。お兄様は、そういうところがあるわ。アルブレヒト様と一緒に、お魚を焼いて召し上がっているかも」
「……アーサー様なら、サメだって狩ってしまいそうですな」
ふわふわと言って、ダーウッドは改めてフィロシュネーに頭を下げた。
二人の食事席が設けられたパビリオンは、周囲の魔法植物を鑑賞しながらくつろげるスペースとなっている。
つる性の花植物をイメージしたデザインの白いガーデンテーブルに用意された料理は、軽めで可愛らしい印象だ。
ふんわりしたパンにイチゴやオレンジの断面が鮮やかなフルーツサンドウィッチ。
新鮮な緑の野菜の葉の上に薄いピンクや黄色、紫のエディブルフラワーを盛った花畑みたいなサラダ。
トリュフとたまごが香ばしい焼き色のパンに挟まれた、ミニバーガー。
マロンスコーンに、りんごとシナモンのレイヤードパフェ。
甘みと酸味が効いた、真っ赤なトマトとたまねぎのスープ。
「いただきましょうか」
「いただきます」
カクテルグラスには、透明感のあるジュースが注がれる。
底が赤く、中央は白く、上部はきれいな青色のジュースは、果実の味がした。
三角形にカットされたスイカが上に浮いていて、それも食べることができるのだ。
「このジュースはよろしいですな。赤より青が上……素晴らしい」
「それ、外交的に問題のある発言と受け取られかねないのでは?」
「ここには私とフィロシュネー様しかいませんから」
そうね、と頷いて、フィロシュネーはオレンジのサンドウィッチを口にした。
(あっ、美味しい)
オレンジの酸味と甘さが舌先で広がる。
ほどよい酸味とパンのもちもちとした食感が、絶妙!
「紅国の預言者とは、あやしいですな。預言者など存在いたしませんから、完全に詐欺師でしょう」
舌つづみを打っていると、ダーウッドが真面目な話を始めていた。
フィロシュネーはサンドウィッチを咀嚼し、飲みこんでひと息ついてから、声を返した。
「紅国の預言者は、サイラスからのお誕生日プレゼントみたいですの」
「プレゼント?」
ダーウッドはイチゴのサンドウィッチとオレンジのサンドウィッチの間で視線を彷徨わせてからオレンジのサンドウィッチを選んでいる。
「名前はなんというのです?」
「そういえば、お名前はわかりませんわね」
「紅国の詐欺師は、私のことを無能やら怠慢やら抜かしたのです。許しません」
ダーウッドはぱくりとオレンジのサンドウィッチを頬張った。
アーサーが行方不明になってから、昼夜限界まで魔力を使って捜索し、食も細り、痛々しいほどに痩せて憔悴したダーウッドが怒りによって元気を取り戻している。
(怒りが原因だけど、元気が出たのはよいことではないかしら)
フィロシュネーはこっそりとそう思った。
「ダーウッド。こちらのミニバーガーも美味しいですわ」
ミニバーガーぱくっと食べてみせると、ダーウッドは勧められるままミニバーガーに手を伸ばしている。
「いただきましょう。そもそも、他国の城内で無礼千万、許しがたく」
「お手紙で苦情を申しますわ」
「外交的に?」
「個人的に、サイラスに伝えておきます」
「うむ。それがよろしいでしょう。今は他国と諍いを起こす余裕がありませんからな」
真っ赤なトマトのスープは、豊かな味わいが楽しめる。
「ふむ。料理は美味しいですね」
「ええ、ええ」
怒りと料理は元気をくれる。自国の預言者の元気が出るのは、良いことだ。
ホットスープは身体の内側からじわっとあっためてくれる感覚もあって、フィロシュネーはニコニコした。
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