魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます

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3、カルディアの聖女様

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 やがて、魔法植物の採取実習の日がやってきた。
 
 ルナティス山までは何台もの馬車で移動した。気分は遠足だ。
 目もくらむような青空を、絵描きが気ままに描いたような白い雲が薄っすらと彩っている。
 降り注ぐ陽射しは強めだけど、木々が並ぶ山中に入ると自然の葉冠が日除けになっていて、ちょうど過ごしやすい涼しさだ。
 
 生徒たちは遠足気分で浮き足立っている。
 
「パメラ、あそこに『夢見ゆめみミモザ』があるよ。好きな夢が見れるんだ」
「セレスティン、次はもうちょっと東に行ってみない?」
「いいよ」
 
 淡い紫色の草をセレスティンと一緒に採取して移動しようとすると、ぷよぷよの花蜜ハニースライムが転がってくる。
 赤、青、黄色のグミみたいなスライムたちの可愛さに目を奪われていると、アトレイン殿下が保護者よろしく歩いてきた。後ろには従者兼友人のレイオンがいる。

「やあ、パメラ。スライムたちの散歩を兼ねて植物を探させていたんだが、偶然だな。俺と回らないか?」
「そうか? ボクには偶然を装って近づいてきたように見えるけど?」
「婚約者はいつも運命に導かれて出会ってしまうものなんだ。特別な関係だからな」
「酔ってるのかな、この色ボケ王子」

 セレスティンは不服そうにしながら私を見る。つっこみに遠慮がなさすぎる……!
 
「殿下なりに努力なさってるんですよ。今のは甘い言葉のおつもりなんです」 
 
 レイオンが擁護しているけど、なんか完璧な王太子殿下の偶像にヒビが入ってしまいそう。
  
 というか、この実習は小説にもあったイベントエピソードなんだよね。
 『偶然だな。俺と回らないか?』は殿下がコレットに言う台詞で、コレットが頷いた後、パメラが『殿下ー!』とやってくるんだ。
 ま、さ、か?

「殿下ー!」

 予感的中!
 甘い声が響いて、コレットが駆け寄ってくる。ねえ、それ私の台詞だったんだけど!

「はぶられちゃいました。あたしも一緒のグループに入れてください。いいですよね? 役に立ちますし!」
「コレット嬢は距離が近すぎないか?」
「可愛い女の子と距離が近いのって嬉しくないですか?」
「そういうのは、『ただし好きな子に限る』という条件が付くんだ。俺は嬉しくない。婚約者がいる男にそういう言動は関心しない」
 
 腕を絡めようとしてきたコレットをアトレイン殿下がたしなめている。
 そっか。嬉しくないんだ――なんか胸がスッとした。
 
 さて、小説ではこの後、幽霊を見つけて追いかける展開になる。
 幽霊は無害で優しい雰囲気があって、縁結びの言い伝えがあるカルディアの花木の場所を教えてくれて、煙のように消えてしまう。
「恋愛イベントを進めるためのご都合キャラ?」「結局あの幽霊は何だったの?」と読者に言われていた、不思議な存在なんだよね。
 でも、今の私ならその正体がわかる気がする。
 ――フェリックの婚約者、ユーメイだ。
 
「さっき聞いたんですけど、あっちで幽霊が出たって言ってる子がいるって。あっちに行きましょうよ!」

 コレットは小説通りに幽霊の噂話を持ち出してきた。
 私の目的の場所も同じ方向なので、利害は一致している。
 あと、小説のパメラは「幽霊なんて嫌ですわ」と反対していたので、逆の発言をするのは良いと思うんだよね。

「コレットさんの仰る場所に行きませんか? ほら、フェリックさんの……」

 セレスティンに言えば、わかってもらえた。
 
「ああ~、もしかして、ユーメイさん?」
「そうそう! 見つけたらフェリックさんのことを教えてあげようよ」
「いいね」
 
 セレスティンと話しながら歩いていると、ネクロセフ教授とすれ違った。
 首元のクラヴァットも指先まで覆う手袋も漆黒で、山の中でも髪の毛一本も乱れることのない紳士姿だ。
 
「妙な噂があって浮足立っている生徒が多いようだが、あまり遠くには行かないように」
「はい、教授!」
 
 課外実習の引率をする教授も素敵……! 
 待っていてください、薬草を見つけてきますからね!
 
「安全には十分注意するように。危険を感じたら、すぐに笛を鳴らせ。我々が駆けつける」
「承知しました!」

 生徒には小さな銀の小笛ホイッスルが配布されている。
 吹いても音はしないけど、魔法の効果で引率の教授に居場所を知らせてくれるらしい。
 危険に駆け付けてくれる教授を想像すると格好いい。
 
 私がうっとりしていると、ネクロセフ教授のライバル、エドナミイル教授が来た。
 
「本日は私が主導で行います。ネクロセフ教授は補助として……」
「補助?」
 
 ネクロセフ教授の声が、冷たくなる。
 
「お前一人では、生徒の安全を守りきれないだろう」
「私を侮辱しているのですか?」
「事実を述べているだけだ」
 
 引率の二人の仲が険悪すぎる。今にも魔法の撃ち合いを始めそうで怖い。

 教授たちが睨み合う中、私たちはコソコソと二人から距離を取った。
 整備され、拓かれた道沿いを離れ、木が密集する深い森の中へと入っていく。
 
 幽霊がいる場所。そして、洞窟を隠している森の中は、思っていたよりも美しかった。
 木々の間から差し込む木漏れ日は神秘的で、鳥のさえずりが涼やかだ。

「あ……これは採取していこう。香水の材料になる」
 
 アトレイン殿下が指差すのは、ほのかに甘い香りがする紫色の小さな花だ。

 私たちは慎重に、根を傷つけないように花を採取した。

「あっちにあるのは美容成分があるお花じゃないかしら! 美容花フィオレンティアよ!」
 
 コレットがはしゃいだ声をあげて鈴生りの花に手を伸ばしている。
 待って。私、あのお花を知ってる。以前、元友人グループが贈ってきた毒花だ。

「コレットさん、そのお花、フィオレンティアによく似てるけど毒の花よ!」
「えっ」
 
 コレットの手を掴んで止めると、びっくりした様子で目を真ん丸にしている。
 私は図鑑を荷物から出してフィオレンティアのページと毒花のページを開いて比較して見せた。
 
「ほら、よく見て。この葉っぱの形と先端の色味が毒花でしょう?」
「あ、ほんとだ! やだー、怖い。ありがとうパメラさん」
「怪我をしなくてよかった……!」
 
 なんか、こうして話してると普通の友達みたい。
 
 毒花からは手を引いて、私たちは紫色の花を採取した。
 保存魔法液を浸した瓶に入れて蓋をして、また歩き出す。すると、目的のモノが見えた。
 半透明の幽霊だ。
 ピンク色の長い髪に制服姿……どう考えてもフェリックの婚約者では?
 
 まだ誰も気づいていないようなので、私は声を上げた。

「あれが幽霊ではないでしょうか? ほら。あの女の子……?」
 
 指を差してみんなに知らせると、白い影は揺れながら逃げていく。

 肝試しを一緒にしていたアトレイン殿下とセレスティンは私が言わんとすることを理解した様子で「あっ」と声を上げている。

「幽霊の婚約者じゃないか?」

 アトレイン殿下が先に言って、セレスティンが首をかしげる。
 
「パメラ、フェリックのことを教えてあげよう。……あれ? アトレイン殿下はなぜ幽霊のことをご存じなんですか?」
「疑問は後にしようじゃないか」
  
 セレスティンの当然の疑問に、アトレイン殿下は誤魔化すように首を振って駆けだした。
 その後を「何の話ですか?」と言いながらレイオンが付いて行く。
 
 コレットは「出ましたよ! さあ、男子が先に行って!」と張り切った声を上げている。
 
 さっきの様子だと、アトレイン殿下とセレスティンがあの幽霊にフェリックのことを伝えてくれるだろう。

 なので、幽霊は他の人に任せて私はこっそりとはぐれたいな。
 みんなが幽霊に夢中になっている間に、薬草をいただきたい。
 密やかに入手したそれは、教授に渡して彼の功績にするのだ。
 怪しい研究をしていると白眼視されていた推しが世間に認められる姿を想像すると恍惚となる……!
 
 どのタイミングではぐれよう、と考えていると、コレットが私に近づいてきた。
 
「パメラさん、お嬢様だし、なんか病弱って噂あるし……怖がり屋さんだよね? 幽霊、苦手だったりする? 男子が行ったから、幽霊が苦手な女子は追いかけなくていいと思うんだよね」
 
 心配するような口ぶり。
 うーん? どういう魂胆?
 原作のパメラだと考えると「ライバル女子にいなくなってほしい」みたいな意図なんだろうけど、このコレットって原作のパメラと同じこと考えてるのかな? 
 
 まあ、同じでも違っても、「追いかけなくていい」って私に好都合な気もするな?
 
「……ありがとう、コレットさん。私、先に戻るね。コレットさんは気にしないで行って」
「え、戻るの? ここで待ってたらいいんじゃない?」
 
 コレットはこてんと可愛らしく首をかしげた。予想外の返事だったのかもしれない。
 
「推しのネクロセフ教授の近くでご尊顔を鑑賞したいのよ。コレットさん、ほら、早く行かないと男子に追いつけなくなるわ。じゃあね」 
「え……あ、うん。じゃあ、行ってくるね。後は任せて」
「うん! ばっちり任せたよ」
  
 コレットは戸惑いながら殿下たちの後を追いかけていった。

「……ん?」
 
 コレットが走って行った後の虚空に、ふわふわとしたオレンジ色の光文字が浮かぶ。
 これ、前にも見た光文字だ。

『幽霊の対応や洞窟への障害物除去などをサポートします。どうぞ向かってください。賢者より』 
 
 な、謎の賢者さん~~っ!?

 文字はあっという間に消えて、代わりに洞窟に向かう道乗りがピカピカとしたオレンジ色の光で示されている。
 
 まるでゲームのナビゲーション機能みたいだ。
 
「……考えていてもわからないし、サポートしてもらえるなら助かる……よね?」
 
 私は鞄から地図を取り出し、オレンジ色の光の道が洞窟に向かっていることを確認した。
 
 それなら行こう。行かない選択肢はない!
 
 ネクロセフ教授とグレイシア姫殿下を救う薬草が待つ洞窟へと走り出した。
 待っててね、薬草ちゃん!
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