5 / 5
5、ハートクライン家は不正をよしとしません
しおりを挟む
伯爵家に帰る馬車の中で、ウィスベル様は私に全てを打ち明けてくれた。
「今まですみませんでした」
「いいえ。お話してくださってありがとうございます」
とても申し訳なさそうに俯くので、私は思わず彼の手に自分の手を重ねて、自分の昔話を打ち明けてしまった。
手と手が触れた瞬間、ウィスベル様はびくっと大袈裟なほど体を跳ねさせる。
予想外の大きなリアクションにあわてて手を引こうとしたら、ウィスベル様の手が追いすがってきて、今度はあちらから手を握られる。どきり、と、私の胸で鼓動が跳ねた。
「私も、実は恩返しみたいなものだったんです」
それは、私が彼を初めて知ったときのこと。
「5歳の時のことです。私はバザールにお父様と一緒にお出かけして、お父様が商談に夢中になっている隙に迷子になりました。そして、貴族の子どもたちにぶつかってしまって、大変なことになりかけていたんです」
貴族の子どもたちは、「無礼な平民め!」と私を寄ってたかっていじめようとしたのだ。あの時はこわかった。
「なんと……」
それは大変、と心配するように顔をあげるウィスベル様の瞳が、当時の少年の瞳を思い出させる。懐かしい。
「泣いている私に手を差し伸べて、守ってくださったのがウィスベル様でした」
貴族の中にも、やさしい方はいるんだ――と、当時の私は感激した。
ウィスベル様が助けて下さらなかったら、きっと貴族嫌いになっていたと思う。
「それからずっと私はあなた様に憧れてまして……父は、それを知っていたので契約結婚をさせてくれたのだと思います」
「俺に憧れて……?」
「は、はい。その――」
「待って」
「ずっと好きでした」と言いかけた唇が、彼の唇でふさがれる。
一瞬だけ触れてすぐに離れたキスと、間近にそそがれる真剣で熱い眼差し。
誤解のしようもなく特別な好意が感じられて、顔が真っ赤になる。
「俺から言わせてほしい……」
ちょっと早口に告げられるのは、夢のような言葉だった。
「レジィナさんの明るいところが好ましいと思います。オポンチキなんてとんでもない。あなたは太陽の化身……聖女のようです」
大きな手が、私の頬から耳の下あたりを撫でる。甘く痺れるような幸せな感覚が、触れられた場所からじぃんと広がっていく。
ところでオポンチキってなに? 本当にわからない。でも、質問するムードじゃないな……。
「高い地位になっても思い上がったり偉ぶったりせず、使用人にやさしいところは素晴らしい。前向きで働き者のあなた――いつも元気な妻が、俺は好きです」
そう言って、ウィスベル様はもう一度キスをしてくれた。
そして、ふと思い出したように言葉を足した。
「そういえば、レジィナさん」
「はい、ウィスベル様……」
「ハートクライン家は不正をよしとしません。今後、黄金の菓子をばら撒くのはおやめください。ちゃんと正規の給金を上げますから」
「あっ……」
* * *
屋敷に戻って就寝準備を終えて寝室に行くと、その夜はなんとウィスベル様が一緒に寝るという。
ウィスベル様の就寝用の夜着姿は普段の何倍も色気を感じる。
自分が薄い生地のネグリジェ姿なのもあって、どうしても意識してしまう――ところで、ウィスベル様の腕にある金髪の女の子みたいなぬいぐるみはなに?
「はっ、癖で持ってきてしまった」
視線に気付いたウィスベル様は慌てて部屋にぬいぐるみを置きにいった。
いつも一緒に寝ていたりするのかな、可愛い。
パーティで決闘を申し込んだときといい、知らなかった一面がどんどん見れて、嬉しい。
微笑ましさに緊張が和らいだタイミングで、ウィスベル様が戻ってきた。
「こほん……失礼」
少し顔を赤くしたウィスベル様は、私を優しく抱擁して寝台に横になった。
「あなたをこれから愛したいと思うのですが、いいでしょうか」
美しい瞳に間近に見つめられて頷くと、喜びをあふれさせたように抱きしめられて――その夜、夫婦は幸せに結ばれたのだった。
ちなみに、後日彼ら夫婦のもとにはお城の王子殿下から「美人の夫人が気に入ったので遊びに来い」という招待状が届いた。
そのあとしばらく、夫は「殿下に妻を取られてなるものか」とピリピリしていたという……。
――Happy End!
「今まですみませんでした」
「いいえ。お話してくださってありがとうございます」
とても申し訳なさそうに俯くので、私は思わず彼の手に自分の手を重ねて、自分の昔話を打ち明けてしまった。
手と手が触れた瞬間、ウィスベル様はびくっと大袈裟なほど体を跳ねさせる。
予想外の大きなリアクションにあわてて手を引こうとしたら、ウィスベル様の手が追いすがってきて、今度はあちらから手を握られる。どきり、と、私の胸で鼓動が跳ねた。
「私も、実は恩返しみたいなものだったんです」
それは、私が彼を初めて知ったときのこと。
「5歳の時のことです。私はバザールにお父様と一緒にお出かけして、お父様が商談に夢中になっている隙に迷子になりました。そして、貴族の子どもたちにぶつかってしまって、大変なことになりかけていたんです」
貴族の子どもたちは、「無礼な平民め!」と私を寄ってたかっていじめようとしたのだ。あの時はこわかった。
「なんと……」
それは大変、と心配するように顔をあげるウィスベル様の瞳が、当時の少年の瞳を思い出させる。懐かしい。
「泣いている私に手を差し伸べて、守ってくださったのがウィスベル様でした」
貴族の中にも、やさしい方はいるんだ――と、当時の私は感激した。
ウィスベル様が助けて下さらなかったら、きっと貴族嫌いになっていたと思う。
「それからずっと私はあなた様に憧れてまして……父は、それを知っていたので契約結婚をさせてくれたのだと思います」
「俺に憧れて……?」
「は、はい。その――」
「待って」
「ずっと好きでした」と言いかけた唇が、彼の唇でふさがれる。
一瞬だけ触れてすぐに離れたキスと、間近にそそがれる真剣で熱い眼差し。
誤解のしようもなく特別な好意が感じられて、顔が真っ赤になる。
「俺から言わせてほしい……」
ちょっと早口に告げられるのは、夢のような言葉だった。
「レジィナさんの明るいところが好ましいと思います。オポンチキなんてとんでもない。あなたは太陽の化身……聖女のようです」
大きな手が、私の頬から耳の下あたりを撫でる。甘く痺れるような幸せな感覚が、触れられた場所からじぃんと広がっていく。
ところでオポンチキってなに? 本当にわからない。でも、質問するムードじゃないな……。
「高い地位になっても思い上がったり偉ぶったりせず、使用人にやさしいところは素晴らしい。前向きで働き者のあなた――いつも元気な妻が、俺は好きです」
そう言って、ウィスベル様はもう一度キスをしてくれた。
そして、ふと思い出したように言葉を足した。
「そういえば、レジィナさん」
「はい、ウィスベル様……」
「ハートクライン家は不正をよしとしません。今後、黄金の菓子をばら撒くのはおやめください。ちゃんと正規の給金を上げますから」
「あっ……」
* * *
屋敷に戻って就寝準備を終えて寝室に行くと、その夜はなんとウィスベル様が一緒に寝るという。
ウィスベル様の就寝用の夜着姿は普段の何倍も色気を感じる。
自分が薄い生地のネグリジェ姿なのもあって、どうしても意識してしまう――ところで、ウィスベル様の腕にある金髪の女の子みたいなぬいぐるみはなに?
「はっ、癖で持ってきてしまった」
視線に気付いたウィスベル様は慌てて部屋にぬいぐるみを置きにいった。
いつも一緒に寝ていたりするのかな、可愛い。
パーティで決闘を申し込んだときといい、知らなかった一面がどんどん見れて、嬉しい。
微笑ましさに緊張が和らいだタイミングで、ウィスベル様が戻ってきた。
「こほん……失礼」
少し顔を赤くしたウィスベル様は、私を優しく抱擁して寝台に横になった。
「あなたをこれから愛したいと思うのですが、いいでしょうか」
美しい瞳に間近に見つめられて頷くと、喜びをあふれさせたように抱きしめられて――その夜、夫婦は幸せに結ばれたのだった。
ちなみに、後日彼ら夫婦のもとにはお城の王子殿下から「美人の夫人が気に入ったので遊びに来い」という招待状が届いた。
そのあとしばらく、夫は「殿下に妻を取られてなるものか」とピリピリしていたという……。
――Happy End!
80
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
死を回避するために筋トレをすることにした侯爵令嬢は、学園のパーフェクトな王子さまとして男爵令嬢な美男子を慈しむ。
石河 翠
恋愛
かつて男爵令嬢ダナに学園で階段から突き落とされ、死亡した侯爵令嬢アントニア。死に戻ったアントニアは男爵令嬢と自分が助かる道を考え、筋トレを始めることにした。
騎士である父に弟子入りし、鍛練にいそしんだ結果、アントニアは見目麗しい男装の麗人に。かつての婚約者である王太子を圧倒する学園の王子さまになったのだ。
前回の人生で死亡した因縁の階段で、アントニアは再びダナに出会う。転落しかけたダナを助けたアントニアは、ダナの秘密に気がつき……。
乙女ゲームのヒロインをやらされているダナを助けるために筋トレに打ち込んだ男装令嬢と、男前な彼女に惚れてしまった男爵令嬢な令息の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。表紙は、写真ACよりチョコラテさまの作品(作品写真ID:23786147)をお借りしております。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。
石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。
七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。
しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。
実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。
愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。
婚約している王子には少しも愛されていない聖女でしたが、幸せを掴むことができました!
四季
恋愛
多くの民が敬愛する女神パパルテルパナリオンの加護を受ける聖女リマリーローズ・ティアラはそれを理由に王子ガオンと婚約したが、愛されることはなかった。
なぜならガオンは幼馴染みルルネを愛していたからだ。
ただ、無関心だけならまだ良かったのだが、ことあるごとに嫌がらせをされることにはかなり困っていて……。
契約婚なのだから契約を守るべきでしたわ、旦那様。
よもぎ
恋愛
白い結婚を三年間。その他いくつかの決まり事。アンネリーナはその条件を呑み、三年を過ごした。そうして結婚が終わるその日になって三年振りに会った戸籍上の夫に離縁を切り出されたアンネリーナは言う。追加の慰謝料を頂きます――
契約書にサインをどうぞ、旦那様 ~お飾り妻の再雇用は永年契約でした~
有沢楓花
恋愛
――お飾り妻、平穏な離婚のため、契約書を用意する。
子爵家令嬢グラディス・シャムロックは、結婚式を目前にしてバセット子爵家嫡男の婚約者・アーロンが出奔したため、捨てられ令嬢として社交界の評判になっていた。
しかも婚約はアーロンの未婚の兄弟のうち「一番出来の悪い」弟・ヴィンセントにスライドして、たった数日で結婚する羽目になったのだから尚更だ。
「いいか、お前はお飾りの花嫁だ。これは政略結婚で、両家の都合に過ぎず……」
「状況認識に齟齬がなくて幸いです。それでは次に、建設的なお話をいたしましょう」
哀れなお飾り妻――そんな世間の噂を裏付けるように、初夜に面倒くさそうに告げるヴィンセントの言葉を、グラディスは微笑んで受けた。
そして代わりに差し出したのは、いつか来る離婚の日のため、お互いが日常を取り戻すための条件を書き連ねた、長い長い契約書。
「こちらの契約書にサインをどうぞ、旦那様」
勧められるままサインしてしまったヴィンセントは、後からその条件を満たすことに苦労――する前に、理解していなかった。
契約書の内容も。
そして、グラディスの真意も。
この話は他サイトにも掲載しています。
※全4話+おまけ1話です。
晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。
四季
恋愛
晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。
どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。
お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。
四季
恋愛
お前は要らない、ですか。
そうですか、分かりました。
では私は去りますね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
かわええ!
面白かったです!
ハッピーエンドで安心しました。
…で、オポンチキ?ってなんなんですか???
ohana様
読んでくださってありがとうございました!
〇オポンチキについて
1、意味合い→すかぽんたん、ちゃらんぽらん、パリピ……といった単語と似た方向性であり、スラングといっていい言葉だと思われます。
にぎやか、明るく、あまり深く真面目でなく、適当な、くだらない……みたいなニュアンスのイメージです。
現実に使われている言葉ですが、あまり一般的ではありません。
たとえば、大正時代の夏目漱石の小説などに「オタンチン パレオロガス」という言葉がでてきます。それと似たような言葉です。
私の記憶ですと、夏目漱石は、「その言葉を口にしても妻に意味が伝わらないのを楽しんでいた」というエピソードがあったかなと思います。
「当時の人が、当時の社会の時事ネタを使っている。その時代の人でも、ある程度、教養がある人にしか伝わらない」みたいなイメージです。
つまり、それをモチーフにして、わかる人に「ああ、夏目漱石をしてるのねこいつら」とにっこりしてもらえたらいいかな、という隠し(?)スパイス的な味付けでした(もちろん、わからなくても本編に影響なくお楽しみいただけますっ)。