甘党魔女の溺愛ルートは乙女ゲーあるあるでいっぱいです!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます

文字の大きさ
7 / 77
1章、王太子は悪です

番外編1、魔女家当主キルケは、親バカになっちゃいました

しおりを挟む
 『魔女家』ウィッチドール家の当主キルケは、会議室の議長席に座り、会議を始めた。
 会議室の黒板に、仮面の赤毛メイドが文字を書いている。

『議題:マリンベリーお嬢様の行動歴とその考察』 

「諸君。集まってくれて感謝する。支給した帽子と仮面は、仮面舞踏会を真似してみたんだ。ここでの発言は持ち出し禁止、無礼講。外でのキミたちの今後に影響しない。バレバレだけどお互い気づかないフリをするのがお約束だよ。いいね?」
  
 本日集めたメンバーは、揃いの魔女帽子をかぶり、目元には仮面をつけている。
 全員、身分を気にせず忌憚ない意見を言って構わない、という会なのだ。
 
「マリンベリーお嬢様は、お礼を仰いました。いつもありがとう、と……」
 
「いいことじゃないか」
「お礼が言えるのは人として大事なことだよな」

 と会議室のメンバーからコメントが返ってくる。
 仮面の赤毛メイドは黒板に発言を書きながら、情報を足した。
 
「メイドを罵らなかったんです! 私が変態っぽく縋りついてもちょっとびっくりしてるだけで怒ったりなさらなくて、可愛らしくて……」
 
 メイドは格好良い女性も好きだが、可愛い女性も好きだと普段から公言している。
 うっとりと頬を染めて身をくねくねさせている姿に、白銀の髪の仮面美男子からクレームが来た。
 
「おい。そこのメイドはクビにした方がいいんじゃないか、キルケ?」
「ボクもちょっと問題かなと思ったので、クビを検討しておこうと思う」
 
「ああっ、クビにしないでください! めっ」
 
 持ち出し禁止、無礼講。外でのキミたちの今後に影響しないとはなんだったのか。
 メイドは指をぱっちんと鳴らしてから、黒板に「私の発言はあくまで匿名の発言です」と書いて抗議した。

「チッ、そういえばそんなルールを設けたな」
「ついさっき決めたルールじゃないですか、お願いしますよ。あと王子様が舌打ちするのはお行儀が悪いと思います」
「俺は仮面の男だ。王子と呼ぶな」
    
 互いにルールを確認しつつ、会議は続く。
 魔女家当主キルケは会議室の隅で熱心に黒板を眺めている『王子』を見た。

 思えばマリンベリーの才能を見出したのはこのパーニス王子であった。
 振り返るたびに疑問なのだが、あの時、マリンベリーの魔法の才能は専用の測定器を使って調べてようやく「本当だ。魔力が高いね」とわかるような微妙なものだった。
 もっと言うなら、魔力があっても扱う才能があるかどうかは、教えてみないとわからなかった――教えてみたところ、才能はあったのだが。

 キルケでさえ気づかなかったのに、よく気づいたものだ。
 
「ご自分のことをご自分でなさり、我々には『1人で平気よ、今までごめんなさい』と言うのです」
 
「『ごめんなさい』は私も聞きましたよ。あと、魔法でドアを壊しませんでした!」
 
「孤児院に寄付なさったんですよ、子どもたちが喜んでいました」

「服装センスが変わったようです。あと、化粧もでしょうか。前よりも好みです」
「そこの男、名前は? 家名も聞いておきたい」
「ヒッ……ルールを思い出してください殿下!? 忌憚なく意見を言っていい場所ですからね!?」
 
 確かに、服装や化粧のセンスが変わったのは感じる――キルケは頬杖をついた。

「そこの銀髪仮面が何かしたんじゃないだろうね? 婚約は認めるが、嫁入り前のうちの子に不埒なことをしたら容赦しないよ。節度ある交際をしないと許さないよ」
「キルケ様、ルールがまったく機能してませんよ……というか、この会議を設けた事と言い、お嬢様を気にかけていらっしゃるんですね。興味が薄いと思っておりました」

 仮面の赤毛メイドが冷静に指摘してくる。
 
「別に興味が薄かったわけじゃない。あの子も怖がっていたし、女の子を育てるっていうのがよくわからなくて距離感を慎重にはかって接していただけだ。ほら、すぐ死んじゃう蝶々を籠に入れて愛でるような感じだよ。わかるだろ」
「ちょっとわかりません」 
 
 キルケの感性に会議室の半分が「わかります」と言い、半分は「ちょっとわからないっすね」と微妙な顔をしている。
 人の感性は様々だ。これは当然の結果と言えるだろう――キルケは気にせず会議を続けた。
 
「今までの行いを反省していて、『これからは変わる、暖かく成長を見守ってください』って言ってました。可愛らしくてモテてましたよ、王子様は嫉妬しちゃいますか?」
「あいつは可愛いから普通にしているとすぐモテるんだ。あと俺を王子と呼ぶな」
「ちょっと態度が悪いぐらいでいいんですよね……私、高飛車なお嬢様が好きなんですよ。格好良くて可愛いんです。初めて高笑いを聞いたときになんて可愛らしいんだろうって思いまして。あっ、でも――最近のお嬢様も、もちろん好きです」

 メイドが熱く語っている。格好良くて可愛いとはどういう概念だろう。
 キルケにはよくわからないが、養い子が褒められるのは正直――悪い気はしなかった。

「お金をくれました。臨時収入をありがたくいただいて病気の母に美味しい料理をご馳走してあげたら喜ばれました」
 
「失態に怒ることなく優しく労ってくださいました」

 会議室には、マリンベリーに対するポジティブな意見が溢れた。
 キルケは情報を紙にまとめさせ、自室の壁に貼り付けて悦に浸った。

「賢者家の当主カリストにこれの複写を送りつけてやろうか。手紙も書こう。守護大樹の件であちらの家にも協力してほしいし。『みんなに褒められているうちの子は、ボクを頼って甘えてくるんだ。頭を撫でてやったら喜んだんだ。魔化病の特効薬を開発したし、表彰されたし、王子と婚約もしたんだぜ。すごいだろう、可愛いだろう……』」

 お茶を給仕する赤毛のメイド・アンナは当主を見守り、部屋に帰ってから本当の主君であるパーニス王子に報告書を書いた。

『魔女家当主キルケは、親バカになっちゃいました』……と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは
恋愛
多くの乙女ゲームで悪役令嬢を演じたプロの悪役令嬢は、エリーナとして新しいゲームの世界で目覚める。しかし、今回は悪役令嬢に必須のつり目も縦巻きロールもなく、シナリオも分からない。それでも立派な悪役令嬢を演じるべく突き進んだ。  そして、学園に入学しヒロインを探すが、なぜか攻略対象と思われるキャラが集まってくる。さらに、前世の記憶がある少女にエリーナがヒロインだと告げられ、隠しキャラを出して欲しいとお願いされた……。  これは、ロマンス小説とプリンが大好きなエリーナが、悪役令嬢のプライドを胸に、少しずつ自分の気持ちを知り恋をしていく物語。なろう完結済み Copyright(C)2019 幸路ことは

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

聖騎士団長の婚約者様は悪女の私を捕まえたい

海空里和
恋愛
「目が覚めたか悪女」 前世の記憶だけを持ち目覚めたリリーは、騎士服姿のイケメンにいきなり責められる。一切の記憶はない。 鏡を見ればホワイトブロンドの美女で、どうやら異世界転生したらしい。そのイケメン・アンディは聖騎士団の団長でリリーの婚約者。彼が言うにはリリーは大聖女にしてとんでもない悪女らしい。そしてある罪で捕らえようとしていた。 自分のやらかした数々の罪を聞き絶望するリリーは、前世の後悔から罪を償うことを決める。 「どうか罪を償ってから私を捕まえてください」 リリーを疑いながらも見守ることを了承したアンディは、リリーが出頭するその時に婚約破棄をすると告げる。 自分がやらかしてきた罪に次々と直面するリリーだが、他人を大切にする彼女の誠意に周囲も変わっていく。それは婚約者のアンディにも影響を与えていて……。 二人の距離が近付く時、リリーは自分がとんでもない悪事をしていたことを知る。 これは、いきなり悪女のレッテルを貼られたヒロインがそれを覆し、みんなに愛され、幸せを掴むお話。

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~

浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。 (え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!) その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。 お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。 恋愛要素は後半あたりから出てきます。

処理中です...