恋人の愛は少し……いや、かなり重いです。【完結後の小話】

あげいも

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甘い日

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「これどうぞ!女子社員一同からです!」
 自分の周りでわっと賑やかになるのを眺めながら、洋佑は一息入れようと席を立った。
 今年から自分の分はいらないから──そう言って断った時に見せた左手の指輪。いつの間に、と盛り上がった同僚をのらりくらりとかわして、とにかく必要ないことだけを伝えたのは何時だったか。
 佑から受け取るな、と言われた訳ではない。が、自分が貰う気になれないから必要ないと断った。こういったイベントが煩わしいといった理由でも正直に伝えられるし、それが評価に一切響かないところは、この会社のいいところではあると思う。
 コーヒーの自販機のボタンを押す。注がれるのを待つ間にぼんやりと視線を流した。
「……チョコレート、かぁ」
 ピー、と電子音が響くのを待ってから、コーヒーの注がれた紙コップを取り出す。手近なソファへと腰を下ろし、吹き冷ましながら口へと運ぶ。
 正直、何も考えていなかった。渡す気も、貰う気もなかったものなのに、意識してしまうと何とも落ち着きが悪い。
 少しばかり冷めたコーヒーを飲み干す。紙コップを潰してからゴミ箱へと。今日は外れることなく入ったそれに、小さくガッツポーズをしてから仕事に戻った。

        ◇◇◇◇◇◇◇

 今日は定時で退社。帰りに少しのぞいてみよう──なんて軽い気持ちで来る場所ではなかった。
 デパートの中、催事の案内に従って足を運んだ特設会場。甘い匂いの立ち込める中、人気店や限定の品は既に完売の文字が並んでいたが、それでも大盛況と言える程の混雑で。
 早々に離脱して深呼吸。スーツ姿のサラリーマンが一人で訪れては目立つかと気にしていたが、正直それどころではなかった。
 再び会場に戻ろう、という気持ちにはなれず、通常の食品売り場へと足を向ける。以前、佑が好きだと言っていたケーキを買って帰宅した。
「お帰りなさい」
 いつものようにリビングで出迎えてくれる佑。洋佑の手にした箱を見て眼を瞬かせる。
「実はさ──」
 と、催事に立ち寄ったことを正直に答えながら、ケーキの箱を冷蔵庫へとしまった。
「それで帰りが遅かったんだ」
「あんなにに混んでると思わなく──」
 て。
 続けるはずの言葉が飲み込まれる。振り返ると同時に、冷蔵庫と佑の間に挟まれるかたちで閉じ込められたから。壁ドンならぬ冷蔵庫ドン。
 顔を寄せられて僅かに息をのむが、こめかみへと鼻先を埋めるように触れられて肩から力が抜ける。
「……チョコレートの匂いがする」
 会場の残り香だろうか。自分ではわからなかったから首を傾げる。
「──先にシャワー浴びた方がいい?」
 こめかみから耳へと滑る動きに声が上擦る。肌をついばみながら、佑は小さく笑った。
「ご飯たべてから、一緒に入ろ」
 熱を残すように肌を吸い上げて離れていく。煽るだけ煽って、放置されたような気持になって、ほんの少し恨みがましい視線を向ける。
「……そんな顔しないで」
 触れ合わせるだけの口付け。離れた佑が食事の準備を始める背中を見ながら、洋佑は複雑な表情のままで食器を並べるために冷蔵庫を離れた。
 何事もなかったかのように準備を終えた佑。テーブルの上に並べられた食事はいつも通りに美味しそうだし、実際に美味しいことは食べなくても分かる程、佑の料理の腕の良さは理解している。
 が。正直、洋佑はそれどころではなかった。
 中途半端に煽られたせいか、意識が食事に向かない。手を合わせて箸を動かす間も、ちらちらと隣に座る佑を見てしまう。
 箸を使う指の動きから、唇を開いて閉じるまで。咀嚼して飲み込むまでの間。
「……洋佑さん?」
 食事が進まないのを見て、佑が心配そうに声をかけてきた。あ、と気づいて笑う。
「ごめん。ちゃんと食うよ」
「美味しくなかったら無理しなくていいよ?」
 さっきのことなどまるでなかったかのように。ただ心配そうな表情と声に、洋佑は、違うよ、ともう一度首を振った。改めて箸を伸ばそうとしたところで、横から伸びて来た佑の箸がおかずを摘まみ上げる。
「佑?」
 横取りしたい訳ではないだろう。どうしたのかと、視線を向けると、おかずを摘まんだ箸の下に手を添えながら、にこりと笑う佑と目が合う。
「はい、あーん」
 思ってもなかった行為に固まってしまう。恥かしさで視線を逸らす。それでも、目を伏せたまま、おずおずと差し出されたおかずへと顔を寄せた。
「……おいし」
 正直な感想。良かった、と笑う佑がもう一度同じようにおかずを差し出してくるのを食べる。
 何度か繰り返した後、佑の箸が次のおかずを摘まむ前に洋佑は、その手を掴んで動きを止めた。
「……洋佑さん?」
「俺、こっちが食べたい」
 掴んだ手を引き寄せると、箸を持つ指へと唇で触れた。ぴく、と指が跳ねるのに合わせて、音を立てるようにして肌を吸い上げる。
「っ、行儀、わるいよ」
 言いながらも、佑は反対の手で箸を抜くとテーブルへと。洋佑の動きを妨げないようにしながら、ちょいちょいと指先がいたずらげに唇へと触れてくる。
「ん、だって……」
 不明瞭な返事を返しつつ、洋佑は動きを止めない。触れる指先を咥え込むと、赤ん坊のように吸い上げる。びく、と大きく佑の肩が跳ねた。
 ちゅ、ちゅ、と音を立てて吸い上げる。指先だけでなく、根本までを口腔へと含むと、佑の指先が舌や口蓋を撫でるように動きを変えた。
 小さく響く水音に吐息が混ざる。夢中になって指をしゃぶる洋佑を見ながら、佑は自由な方の手を伸ばす。
「~~~~ッ!」
 刺激をうけて、指を噛みそうになる。佑の指が洋佑のスラックスを押し上げている熱へと布越しに触れたからだ。すり、と中の存在を確かめる動きに飲み込み切れない唾液が顎へと伝い落ちる。
「僕の指、舐めてるだけでこんなにしたの?……洋佑さん、えっちだね」
 布越しのもどかしい刺激に腰を摺り寄せてしまう。口に含んでいた指から手を離すと、佑の首へと指を伸ばして腕を絡めた。椅子ががたんと音を立てる。
「危ないよ」
 佑の腕が身体へと回る。椅子から床へと場所を移した後、床に腰を落ち着けた佑をまたいで膝立ちの格好に。普段は見下ろすことのない佑を見下ろしながら、頬に触れると顔を寄せる。
「……たすく」
 言葉で伝える前に唇が重なる。角度を変えて舌を絡ませ合いながら、唾液で濡れた指がシャツの上から小さな突起を探して肌を這う。
 見つけた粒を布越しに浮き立たせるよう指が這う動きに、洋佑の腰が震える。もっととねだる動きで腰を押し付けると、佑のものが尻を押し上げる感覚。
「ん──は、……」
 離れては触れ合わせる間。佑の指が器用に動いて洋佑の服を脱がせていく。ベルトを緩められ、緩んだ隙間から差し込まれた指が下着ごとスラックスを脱がそうとする動きに一度体を離して足を抜いていく。
 動きに合わせて揺れる性器の先端が重く揺れる。シャツも脱ごうとしたが、その前に佑が胸に吸い付いてくる。
「?!」
「このまま、シよ」
 ちゅう、とわざと音を立てて吸い上げられる。シャツごと歯を立てられ、一際大きく体が跳ねて声をあげてしまう。
「ぁっ、……たすく、……脱ぐから」
「だめ」
 シャツを噛んだまま話す言葉は不明瞭。じゅ、と音を立てる程に唾液で濡れた布を持ち上げる乳首の色は透けて見える程。甘噛みを続ける佑が尻の奥を擽る動きに弱々しい抵抗はとまった。
 散々自分が舐めた指が中へと入り込んでくる。熟れた肉壁は性急な動きに合わせて収縮を繰り返し、佑の指を受け入れた。
「ひぁ、っ、う……も、無理……でる、から……っ」
 ぎゅうと腹に力が入る。逃げようともがく動きに、佑は指を勢いよく引き抜いた。強い刺激に耐えられず、腹の間に白濁が広がる。
「んア、あ……ふ、」
 余韻に震える身体を抱きしめた後、佑は殊更に優しく頬へと触れた。定まらない視線が自分に向くのをまってから、優しく笑いかける。
「洋佑さん……食べていい?」
 呆けた顔に笑みが浮かぶ。愛し気に頬に触れる手と重なる視線。
「……ん。俺も……食べたい」
 言い終わるか終わらないかで身体が沈む。押し当てられた熱が腹の奥へと埋められていく感覚。指とは違うそれに洋佑の全身が震える。
「あ、ぁっ、──ふ、か……、っ……」
 ばちゅ、と結合部が音を立てた。自分だけで身体を支えられず、佑の頭を抱え込むように腕を回して堪える。洋佑の身体に回された佑の腕が、腰を持ち上げては落とす動きにただ声を上げながら、熱に溺れる。
 普段よりも深い場所を抉る熱に時折声が途切れる。腹の中で震える熱の変化を感じて、洋佑は佑へと笑みを向けた。
「……ふ、たすく、いきそ?」
 腹に力を込めると、佑が僅かに眉を寄せる。中で跳ねる熱に嬉しくなって、軽く口付けた。
「俺、も、また……でそ、だから……いいよ、だして」
 自分からも軽く腰を揺らしてみる。熱を煽るには拙い動きではあるが、予想外の刺激に佑の動きが止まる。続けて中で吐き出された熱を感じて、洋佑はどこか恍惚とした色を浮かべて、佑を見下ろす。
 達した直後の敏感な性器へと絡みつく肉の動きの刺激が強いのか、複雑な表情を浮かべた佑。視線が重なると、甘えるのか、甘やかすのか、柔らかい動きで何度も唇で肌に触れては離れていく。
「……、たすく」
 名前を呼ぶと動きが止まる。汗で濡れた髪を撫でながら、ゆるりと笑った。
「もっと……ほしい」
 佑の眼が優しく細められる。答える声はないが、シャツ越しに触れられる動きが答え。笑みを深めて抱き着いた。
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