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悲嘆の空
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ある村に一人の少女がおりました。名をルサールカと言います。少女は、それはそれは美しい容姿をしておりました。晴れ渡る夏空のように透き通った空色の髪と、色濃く鮮明な秋空のような蒼い瞳。それは、誰もが羨むような鮮麗な色でした。
しかし、村の人々はそれをよく思いませんでした。人とは異なる彼女の見目麗しいはずの風貌は、化け物のようにさえ思えたのです。
人々は口々に言いました。
「なんて不吉な髪の色なのかしら」
「なんて不気味な瞳なのかしら」
「彼女と仲よくしてはダメよ」
「ああ、恐ろしい子。きっと捨てられたんだわ」
少女には両親と呼べる者がおりませんでした。いつのころからか、誰も知らないいつのころからか、気づいたときには自然と、村に住み着いていたのです。ですが、人々はそれを疑問には思いませんでした。少女がそこにいることは、人々にとっては当たり前のことだったからです。
人々は、ルサールカと積極的に関わろうとはしませんでした。遠巻きに眺め、聞きしに堪えない罵詈雑言を並べ立てるばかりでした。皆、思い思い、好き勝手喋っておりました。ありもしない噂話や、憶測で語ることが大好きだったのです。
大人たちから忌み子として恐れられているということは、当然、その大人たちの影響で、子供たちからも。好き好んで、ルサールカと仲よくしようとする子供など一人もおりませんでした。
けして広くはない村の中、ルサールカは天涯孤独の身だったのです。
「おい、お前!」あるとき、一人の少年が言いました。「母ちゃんが言ってたぞ! お前は『“忌み子”なんだ』って! 『生きてちゃいけないんだ』って!」
ルサールカは何も答えません。ただ黙って、じっと、下を向いておりました。
「おい! なんとか言ったらどうなんだ!」
少年はものすごい剣幕で怒鳴りつけます。しかし、それでもルサールカは口を噤んだままです。
ついに堪えきれなくなった少年が、ルサールカの美しい空色の髪を、力強く、ぐいっと引っ張りました。
乱暴をされたルサールカは声を上げて泣き出してしまいました。するとどうでしょう。たちまち空模様が変わり始めたのです。それまで、からりと晴れ渡っていた空は、瞬く間に雨雲に覆い尽くされてしまいました。――ぽつり、ぽつり。雨が降り始めました。それはまるで、ルサールカの感情に呼応しているかのようでした。
少年は悪びれもせずに言います。
「へんっ。気持ち悪い奴」
泣きっ面に蜂とはまさにこのことでしょう。追い打ちを掛けられたルサールカは、より一層、激しく泣きました。嗚咽交じりの泣き声でさえも、真水のように透き通った美しい声をしておりました。
そんな声に呼ばれたかのように、漸次雨脚が強くなってまいります。始めは、しとしとと、乾いた大地を潤すように降っていた雨でしたが、次第々々に、岩を穿つように打ちつける激しい雨となりました。
たまらず、少年は家へと避難します。外へ出ていた他の人々も、皆一様に家へ引っ込みました。人々が突然の豪雨に慌てふためく姿はさぞかし愉快だったでしょう。ですが、ルサールカはそんなことなどどこ吹く風。一人取り残され、降りしきる雨の下、泣きつづけていたのです。
……どれくらい時間が経ったでしょう。雨は降りつづけています。雨の中、ルサールカは立ち尽くし、声も上げずに啜り泣いておりました。
人々は、そんなルサールカのことを心配することなどなく、そればかりか、さらに気味悪がったのです。この急変した空模様が、まさかルサールカの仕業だとは思いもよりませんでしたが、わけもなく、ルサールカを忌み嫌い、これまで以上に彼女から遠ざかるのでした。
しかし、村の人々はそれをよく思いませんでした。人とは異なる彼女の見目麗しいはずの風貌は、化け物のようにさえ思えたのです。
人々は口々に言いました。
「なんて不吉な髪の色なのかしら」
「なんて不気味な瞳なのかしら」
「彼女と仲よくしてはダメよ」
「ああ、恐ろしい子。きっと捨てられたんだわ」
少女には両親と呼べる者がおりませんでした。いつのころからか、誰も知らないいつのころからか、気づいたときには自然と、村に住み着いていたのです。ですが、人々はそれを疑問には思いませんでした。少女がそこにいることは、人々にとっては当たり前のことだったからです。
人々は、ルサールカと積極的に関わろうとはしませんでした。遠巻きに眺め、聞きしに堪えない罵詈雑言を並べ立てるばかりでした。皆、思い思い、好き勝手喋っておりました。ありもしない噂話や、憶測で語ることが大好きだったのです。
大人たちから忌み子として恐れられているということは、当然、その大人たちの影響で、子供たちからも。好き好んで、ルサールカと仲よくしようとする子供など一人もおりませんでした。
けして広くはない村の中、ルサールカは天涯孤独の身だったのです。
「おい、お前!」あるとき、一人の少年が言いました。「母ちゃんが言ってたぞ! お前は『“忌み子”なんだ』って! 『生きてちゃいけないんだ』って!」
ルサールカは何も答えません。ただ黙って、じっと、下を向いておりました。
「おい! なんとか言ったらどうなんだ!」
少年はものすごい剣幕で怒鳴りつけます。しかし、それでもルサールカは口を噤んだままです。
ついに堪えきれなくなった少年が、ルサールカの美しい空色の髪を、力強く、ぐいっと引っ張りました。
乱暴をされたルサールカは声を上げて泣き出してしまいました。するとどうでしょう。たちまち空模様が変わり始めたのです。それまで、からりと晴れ渡っていた空は、瞬く間に雨雲に覆い尽くされてしまいました。――ぽつり、ぽつり。雨が降り始めました。それはまるで、ルサールカの感情に呼応しているかのようでした。
少年は悪びれもせずに言います。
「へんっ。気持ち悪い奴」
泣きっ面に蜂とはまさにこのことでしょう。追い打ちを掛けられたルサールカは、より一層、激しく泣きました。嗚咽交じりの泣き声でさえも、真水のように透き通った美しい声をしておりました。
そんな声に呼ばれたかのように、漸次雨脚が強くなってまいります。始めは、しとしとと、乾いた大地を潤すように降っていた雨でしたが、次第々々に、岩を穿つように打ちつける激しい雨となりました。
たまらず、少年は家へと避難します。外へ出ていた他の人々も、皆一様に家へ引っ込みました。人々が突然の豪雨に慌てふためく姿はさぞかし愉快だったでしょう。ですが、ルサールカはそんなことなどどこ吹く風。一人取り残され、降りしきる雨の下、泣きつづけていたのです。
……どれくらい時間が経ったでしょう。雨は降りつづけています。雨の中、ルサールカは立ち尽くし、声も上げずに啜り泣いておりました。
人々は、そんなルサールカのことを心配することなどなく、そればかりか、さらに気味悪がったのです。この急変した空模様が、まさかルサールカの仕業だとは思いもよりませんでしたが、わけもなく、ルサールカを忌み嫌い、これまで以上に彼女から遠ざかるのでした。
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