感情前線

凄音キミ

文字の大きさ
1 / 5
悲嘆の空

1

しおりを挟む
 ある村に一人の少女がおりました。名をルサールカと言います。少女は、それはそれは美しい容姿をしておりました。晴れ渡る夏空のように透き通った空色の髪と、色濃く鮮明な秋空のような蒼い瞳。それは、誰もが羨むような鮮麗な色でした。
 しかし、村の人々はそれをよく思いませんでした。人とは異なる彼女の見目麗しいはずの風貌は、化け物のようにさえ思えたのです。
 人々は口々に言いました。
「なんて不吉な髪の色なのかしら」
「なんて不気味な瞳なのかしら」
「彼女と仲よくしてはダメよ」
「ああ、恐ろしい子。きっと捨てられたんだわ」
 少女には両親と呼べる者がおりませんでした。いつのころからか、誰も知らないいつのころからか、気づいたときには自然と、村に住み着いていたのです。ですが、人々はそれを疑問には思いませんでした。少女がそこにいることは、人々にとっては当たり前のことだったからです。
 人々は、ルサールカと積極的に関わろうとはしませんでした。遠巻きに眺め、聞きしに堪えない罵詈雑言を並べ立てるばかりでした。皆、思い思い、好き勝手喋っておりました。ありもしない噂話や、憶測で語ることが大好きだったのです。
 大人たちから忌み子として恐れられているということは、当然、その大人たちの影響で、子供たちからも。好き好んで、ルサールカと仲よくしようとする子供など一人もおりませんでした。
 けして広くはない村の中、ルサールカは天涯孤独の身だったのです。

「おい、お前!」あるとき、一人の少年が言いました。「母ちゃんが言ってたぞ! お前は『“忌み子”なんだ』って! 『生きてちゃいけないんだ』って!」
 ルサールカは何も答えません。ただ黙って、じっと、下を向いておりました。
「おい! なんとか言ったらどうなんだ!」
 少年はものすごい剣幕で怒鳴りつけます。しかし、それでもルサールカは口を噤んだままです。
 ついに堪えきれなくなった少年が、ルサールカの美しい空色の髪を、力強く、ぐいっと引っ張りました。
 乱暴をされたルサールカは声を上げて泣き出してしまいました。するとどうでしょう。たちまち空模様が変わり始めたのです。それまで、からりと晴れ渡っていた空は、瞬く間に雨雲に覆い尽くされてしまいました。――ぽつり、ぽつり。雨が降り始めました。それはまるで、ルサールカの感情に呼応しているかのようでした。
 少年は悪びれもせずに言います。
「へんっ。気持ち悪い奴」
 泣きっ面に蜂とはまさにこのことでしょう。追い打ちを掛けられたルサールカは、より一層、激しく泣きました。嗚咽交じりの泣き声でさえも、真水のように透き通った美しい声をしておりました。
 そんな声に呼ばれたかのように、漸次雨脚が強くなってまいります。始めは、しとしとと、乾いた大地を潤すように降っていた雨でしたが、次第々々に、岩を穿つように打ちつける激しい雨となりました。
 たまらず、少年は家へと避難します。外へ出ていた他の人々も、皆一様に家へ引っ込みました。人々が突然の豪雨に慌てふためく姿はさぞかし愉快だったでしょう。ですが、ルサールカはそんなことなどどこ吹く風。一人取り残され、降りしきる雨の下、泣きつづけていたのです。
 ……どれくらい時間が経ったでしょう。雨は降りつづけています。雨の中、ルサールカは立ち尽くし、声も上げずに啜り泣いておりました。
 人々は、そんなルサールカのことを心配することなどなく、そればかりか、さらに気味悪がったのです。この急変した空模様が、まさかルサールカの仕業だとは思いもよりませんでしたが、わけもなく、ルサールカを忌み嫌い、これまで以上に彼女から遠ざかるのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...