感情前線

凄音キミ

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悲嘆の空

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 またある日のことです。ぽかぽか陽気の中ルサールカは一人、木陰に腰を下ろし、空を眺めておりました。そよそよと優しくそよぐ春風に撫でられ、さらさらとざわめく葉々の隙間から、ゆらゆらと揺らめく木漏れ日が降り注いでおりました。そんな心地のよい長閑な天気とは対照的に、空を見つめるルサールカの心はどこか暗く、淋しいものでした。
 ルサールカはこれまでも度々、無性に空が恋しくなることがありました。その度にこうして一人、空を眺めておりました。ルサールカは心に一抹の淋しさを感じておりましたが、それでも、この時間が嫌いではありませんでした。それは、寂寥を感じると同時に、心落ち着く時間でもあったからでした。
 ときおり空が恋しくなるわけは、ルサールカ自身、よくわかっておりませんでした。というのも、物心ついたときにはもう、すでに、この村にいたからです。ルサールカにはそれ以前の記憶がありませんでした。そこだけ記憶がぽっかりと抜け落ちてしまったかのように閑散としていて、どうにも思い出すことができませんでした。幼いルサールカの心にあったものは、無窮の空に対する恋しさと、少しばかりの淋しさだけでした。
 遠い目をして空を見つめるルサールカのもとへ、雨の匂いが近づいてきます。それは、いつぞやのことか、ルサールカの髪を引っ張った少年でした。仲間を引き連れてルサールカのもとへやってきたのです。
 少年は言いました。
「おいお前! ここは俺たちの遊び場だぞ! 早く出て行け!」
 ルサールカは驚き、悲しみました。ここは、ルサールカにとって、この村で唯一心安らぐ場所であったからです。
 ルサールカはこれまで何度もこの場所へ足を運んでおりましたが、それまでただの一度たりとも、少年たちを目にしたことはありませんでした。少年たちがここを訪れたのは、今日が初めてでした。「ここは俺たちの遊び場だぞ」というのは、少年のでっち上げで、理不尽にも、ルサールカから唯一の居場所を奪おうとしたのでした。
 普段はおとなしいルサールカも、これにはたまらず、言い返そうとしました。しかし、思うように言葉が口をついて出てはくれません。懸命に動かしたその口から、音が発せられることはありませんでした。自身の不甲斐なさに、ルサールカはひどく意気消沈し、黙り込んでしまいました。
 少年は、そんなルサールカの様子を見て、
「へんっ。気持ち悪い奴」
 と心ない言葉を掛けるのでした。
 ルサールカは堪らず泣き出してしまいました。すると、やはり、空には暗雲が立ち込めました。ぽつり、ぽつり……。ルサールカの頬を伝う雫と連動するように、雨は降ります。それはまるで、鈍色の空を伝う時雨のようでした。ルサールカの痛ましい姿を嘆き悲しみ、空が哭いているようでした。
 一人の少年が言いました。
「なあ、前もアイツが泣いたら雨が降らなかったか?」
 少しばかし、その声は震えておりました。
「ああ、言われてみれば……」別の少年が言いました。
 少年たちをつと、身の毛がよだつ恐ろしさが襲いました。寒さでしょうか、それとも恐ろしさでしょうか。少年たちは体をぶるっと震わせました。
「な、なあ、早く帰ろうぜ。なんだか気味が悪い」
 そう言って、少年たちは恐ろしげにその場を去っていきました。
 しとしとと降りしきる雨の中、ルサールカは今日も一人、泣きつづけるのでした。
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