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46、仕方ない
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そろそろいいと思う。
自分を正当化するのは簡単だ。適当に屁理屈をこねてしまえば終わりである。うん、そう。だから頑張って耐えた自分を寧ろ褒め称えたい。よく頑張った私!
「赤」
「どうしましたか御館様」
「そろそろいいと思うんです」
にっこりと、笑顔を向けると優秀な彼は同意の意を込めて笑顔で頷いた。
「宜しいかと!!ええそりゃもう当然の行いかと思いますっ!!」
「ですよね~」
そっと赤の手を握って、うんうんと頷く。
彼の言う通り当然の行いである。
だってもう三日も経った。それなのにまだ帰って来てないなんておかしいじゃないか。
迎えに行ったって誰も咎めることは無い。
「それじゃあ、後のことは任せました」
「お任せください!御館様!!」
「はぁい」
赤にすべての雑務を押しつけ……いえ、任せて悠々と自室に戻る。棚から漆塗りの口を覆う仮面を手にして今しているものを取り、代わりにそれを見につけた。
何故そんな事をするかって?あちらにはお菓子が沢山あって困ってしまうのだ。
だから食べないようにきちんと自制をしないといけない。
琥珀の前でなければいいと思うが、一応食べていいものと悪いものがあるようで、それらを檳榔や黒橡に選出してくれていた。自分では何がよくて何がダメなのか分からないのでそれが困る。
黒橡を連れて行こうか、と考えたがここに帰ってくればまたお菓子を用意してくれると思いやめることにした。今はそれほどお腹もすいていない。
「琥珀を食べればお腹も満たされるのですが……」
そう呟いた彼は、自分の下で快楽に悶えて喘ぐ姿の琥珀を思い出してぺろっと唇を舐める。
美味しそう……。
そう思ったらきゅうっと腹がなってしまった。
ああ、しまった。お腹すいてきた……。
きゅるきゅると腹を鳴らしながら色んな妖に頭を下げられつつ、目的の場所に向かう。
怪しげな明かりのついた店が立ち上りピンク色の煙がそこかしこに漂う。華やかな着物を身に纏った妖が小屋から手を伸ばし、道行く妖を誘惑する。ここはそういう場所であるので気に留めることなく目的の屋敷までずんずん歩いていき、ついた。玄関先で、出迎えられて客間に案内され待っていると不意に扉がノックされた。
もう来たのだろうかっと思いどうぞっと声をかけると扉が開いて現れたのは全く知らない子であった。
誰だろうかっと首を傾げるとその男はすすっと私に近づいてくる。
「初めまして、椿です」
「はい。ご丁寧にどうも」
私はその男にそう答えて視線を逸らす。挨拶は大事だ。琥珀がそう言っていたし、彼も最初は挨拶から始めると聞いた。この言葉が無ければ無視していた。とはいえ、もう話すことなんてない。
そう思ったが彼が近づいてきた。そして、「失礼します」っと隣に座ってきた。
はて、この男は知り合いだっただろうか。私はそう思ってきょとんっと首を傾げると、男がしなだれてきた。あまりの行動に驚いて席から立つと男はくすくすと笑った。
「初心なんですね」
「は……?」
何を言われたのか分からずに顔を歪ませて距離を取る。そして気が付いた。
「なんだ、お菓子ですか」
「え?」
がっと彼の首を掴んだ。お菓子ならば挨拶して損した。掴んだ首から力を吸い取ると彼がじたばたともがいて動かなくなった。ぽいっと床に捨てると「失礼します」っと今度は聞いたことのある声がした。
「どうぞ」
そう返すと扉が開き鳩羽がいる。にっこりといつものように笑顔を張り付けた顔を私に見せてそれから足元に転がっている男を見た。
「おや、どこに行ったと思ったら」
「ああ、ありがとうございます。丁度お腹減ってたんですよ」
「それは何よりです」
「はい、なので家に帰してあげてください。あの川に流せば辿り着くんでしょう?」
「ええ、そうですね」
鳩羽がそう言って、いつも持っている箱を机に置いた。
「よいと許可を頂きましたのでどうぞ」
「おや、本当ですか?ありがとうございます」
「はい。私もそろそろ琥珀様に会いたいのでよろしくお願いします」
私の琥珀に会わせるのは嫌ですが、気分を損ねてダメだと言われても困るのでここは笑顔でうなずいておこう。
鳩羽の持っている箱は、人の都の陰陽師が持っている箱と繋がっている。というのも、鳩羽はその陰陽師に使役されているのだ。
その陰陽師は珍しく人がとても嫌いらしく、度々人を彼の持っている箱に入れてこの箱に転送している。鳩羽はその度にあの川に投げ捨てていたらしい。死んだ者もいれば、琥珀に回収された人もいる。まあ、中には私のお菓子として檳榔たちから献上されることもある。
どういう原理かは知らないが便利なものだ。
よいしょっと、箱の中に片足を突っ込むとぶわっと手が伸びてくる。しかし私を掴んで引きずり込むことは無く寧ろぐいぐいと箱の外に引っ張られる。これでは入れない。
「鳩羽」
「すみません。琥珀様だったら喜んで入れてあげるんですが、どうにもぞわぞわして……」
「分かりました。じゃあおやすみなさい」
思いっきり腹を蹴り上げるとうっとくの字になって血を吐きながら足を折るので間髪入れずに後頭部にかかとを落とした。完全に眠りについた鳩羽の様子を見てから箱を見ると手は消え、するすると体がその中に入っていく。
よし、これであちらに行けそうだ。
川の方に向かうと瘴気まみれの何かが川から頑張って出てくるのだ。私が御館様だからかわざわざ挨拶してくれるようでそれをいちいち相手するのがめんどくさ……、いえ、申し訳ないので使うことはまずない。
兎に角今は琥珀だ。
これは決して私がもう我慢できないから会いに行くわけではない。そう、赤や鳩羽だって会いたがってるんだから仕方ない。
お腹が減って間違って琥珀を食べちゃってもそれは仕方ない。
自分を正当化するのは簡単だ。適当に屁理屈をこねてしまえば終わりである。うん、そう。だから頑張って耐えた自分を寧ろ褒め称えたい。よく頑張った私!
「赤」
「どうしましたか御館様」
「そろそろいいと思うんです」
にっこりと、笑顔を向けると優秀な彼は同意の意を込めて笑顔で頷いた。
「宜しいかと!!ええそりゃもう当然の行いかと思いますっ!!」
「ですよね~」
そっと赤の手を握って、うんうんと頷く。
彼の言う通り当然の行いである。
だってもう三日も経った。それなのにまだ帰って来てないなんておかしいじゃないか。
迎えに行ったって誰も咎めることは無い。
「それじゃあ、後のことは任せました」
「お任せください!御館様!!」
「はぁい」
赤にすべての雑務を押しつけ……いえ、任せて悠々と自室に戻る。棚から漆塗りの口を覆う仮面を手にして今しているものを取り、代わりにそれを見につけた。
何故そんな事をするかって?あちらにはお菓子が沢山あって困ってしまうのだ。
だから食べないようにきちんと自制をしないといけない。
琥珀の前でなければいいと思うが、一応食べていいものと悪いものがあるようで、それらを檳榔や黒橡に選出してくれていた。自分では何がよくて何がダメなのか分からないのでそれが困る。
黒橡を連れて行こうか、と考えたがここに帰ってくればまたお菓子を用意してくれると思いやめることにした。今はそれほどお腹もすいていない。
「琥珀を食べればお腹も満たされるのですが……」
そう呟いた彼は、自分の下で快楽に悶えて喘ぐ姿の琥珀を思い出してぺろっと唇を舐める。
美味しそう……。
そう思ったらきゅうっと腹がなってしまった。
ああ、しまった。お腹すいてきた……。
きゅるきゅると腹を鳴らしながら色んな妖に頭を下げられつつ、目的の場所に向かう。
怪しげな明かりのついた店が立ち上りピンク色の煙がそこかしこに漂う。華やかな着物を身に纏った妖が小屋から手を伸ばし、道行く妖を誘惑する。ここはそういう場所であるので気に留めることなく目的の屋敷までずんずん歩いていき、ついた。玄関先で、出迎えられて客間に案内され待っていると不意に扉がノックされた。
もう来たのだろうかっと思いどうぞっと声をかけると扉が開いて現れたのは全く知らない子であった。
誰だろうかっと首を傾げるとその男はすすっと私に近づいてくる。
「初めまして、椿です」
「はい。ご丁寧にどうも」
私はその男にそう答えて視線を逸らす。挨拶は大事だ。琥珀がそう言っていたし、彼も最初は挨拶から始めると聞いた。この言葉が無ければ無視していた。とはいえ、もう話すことなんてない。
そう思ったが彼が近づいてきた。そして、「失礼します」っと隣に座ってきた。
はて、この男は知り合いだっただろうか。私はそう思ってきょとんっと首を傾げると、男がしなだれてきた。あまりの行動に驚いて席から立つと男はくすくすと笑った。
「初心なんですね」
「は……?」
何を言われたのか分からずに顔を歪ませて距離を取る。そして気が付いた。
「なんだ、お菓子ですか」
「え?」
がっと彼の首を掴んだ。お菓子ならば挨拶して損した。掴んだ首から力を吸い取ると彼がじたばたともがいて動かなくなった。ぽいっと床に捨てると「失礼します」っと今度は聞いたことのある声がした。
「どうぞ」
そう返すと扉が開き鳩羽がいる。にっこりといつものように笑顔を張り付けた顔を私に見せてそれから足元に転がっている男を見た。
「おや、どこに行ったと思ったら」
「ああ、ありがとうございます。丁度お腹減ってたんですよ」
「それは何よりです」
「はい、なので家に帰してあげてください。あの川に流せば辿り着くんでしょう?」
「ええ、そうですね」
鳩羽がそう言って、いつも持っている箱を机に置いた。
「よいと許可を頂きましたのでどうぞ」
「おや、本当ですか?ありがとうございます」
「はい。私もそろそろ琥珀様に会いたいのでよろしくお願いします」
私の琥珀に会わせるのは嫌ですが、気分を損ねてダメだと言われても困るのでここは笑顔でうなずいておこう。
鳩羽の持っている箱は、人の都の陰陽師が持っている箱と繋がっている。というのも、鳩羽はその陰陽師に使役されているのだ。
その陰陽師は珍しく人がとても嫌いらしく、度々人を彼の持っている箱に入れてこの箱に転送している。鳩羽はその度にあの川に投げ捨てていたらしい。死んだ者もいれば、琥珀に回収された人もいる。まあ、中には私のお菓子として檳榔たちから献上されることもある。
どういう原理かは知らないが便利なものだ。
よいしょっと、箱の中に片足を突っ込むとぶわっと手が伸びてくる。しかし私を掴んで引きずり込むことは無く寧ろぐいぐいと箱の外に引っ張られる。これでは入れない。
「鳩羽」
「すみません。琥珀様だったら喜んで入れてあげるんですが、どうにもぞわぞわして……」
「分かりました。じゃあおやすみなさい」
思いっきり腹を蹴り上げるとうっとくの字になって血を吐きながら足を折るので間髪入れずに後頭部にかかとを落とした。完全に眠りについた鳩羽の様子を見てから箱を見ると手は消え、するすると体がその中に入っていく。
よし、これであちらに行けそうだ。
川の方に向かうと瘴気まみれの何かが川から頑張って出てくるのだ。私が御館様だからかわざわざ挨拶してくれるようでそれをいちいち相手するのがめんどくさ……、いえ、申し訳ないので使うことはまずない。
兎に角今は琥珀だ。
これは決して私がもう我慢できないから会いに行くわけではない。そう、赤や鳩羽だって会いたがってるんだから仕方ない。
お腹が減って間違って琥珀を食べちゃってもそれは仕方ない。
応援ありがとうございます!
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