お気に入りの悪魔

富井

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仕事

一、

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1件目は、商店街の寂れた喫茶店だった。

店主らしき男とその女房と思われる二人共に縄がかけられていた。

僕達は店のカウンターにすわって二人を少し観察した。

二人はまったく客のこない店のカウンターの向こうから窓の外を二人並んで眺めていた。ただ何もせずに人通りのない外を眺めているだけだった。



「お客さんこないね~。いったいどこいっちゃったんだろう。あんなにいっぱい来てたのにね。」



女房らしき人がつぶやいた。



「俺達だけが悪いわけじゃない。商店街だってさびれてる。そういう時代だよ。」

店主らしき男もぶつぶつと愚痴を言った。



ロビンはハーモニカをしずかに弾き始めた。ゆっくりとした音楽だった。キレイな音が店内に流れた。でもこの人たちの耳には聞こえていない。聞くのは心、そしていい気分になってきたのか薄笑いを浮かべた。



「あの時はよかったね~。毎日いっぱいで・・・」

「ああ。」

「朝も昼も夜も。」

「ああ。」

「この喫茶店やっているだけで車も家も買えたね。」

「ああ・・・」

ロビンはまだ曲の途中のような気がしたがハーモニカをやめて立ち上がった。

「今日はここまでだ。次いくぞ。」

ハーモニカをやめたあとの二人は 僕達がきたときよりさらにガックリと肩を落としていた。



二件目は少し飛んで、違う街のさびれた商店街の中のとても小さなレストランだった。

ここでも店主らしき男が縄に縛られていた。


それでもこの男は、何やら一生懸命作っていた。

僕達はテーブル席に座って男の様子をしばらく眺めることにした。

男が作っていたのはカレーだった。一生懸命味見をして、ノートを取っていた。

もちろん客はこない。商店街にも歩いていない。

それでもこの男は諦めてないようだった。

ロビンはハーモニカを吹きだした。

ゆっくりした曲だがさっきのとは少し違う、力が湧いてくるような音色だった。

男は顔がポッとなって呆然とし、味見をやめた。

彼はなにを考えているのか、急に立ち上がって、玄関を掃除し出した。

心と身体と考えのバランスを崩しているのだ。

だが、この店にとってはあながち間違いな行動ではなかったのかもしれない。

薄汚れていた店が少しづつ綺麗になると、店が明るく見えてきた。

男はハーモニカが鳴っている間中、ずっと掃除をしていた。

窓もみがき外の景色がくっきり見えるようにところでハーモニカは終わった。

終ると男はハッとし、厨房に戻ってまたカレー作りに戻った。

僕とロビンは、ドアベルを鳴らさないようにそっと店を出て行った。



次の現場へ行った。そこは集合団地の1室で母親と女の子の二人暮らし。父親はいないようだった。

「この二人だ。秋山潔子 二十二歳 娘、華 四歳、俺は母親を縛るから、エーゴは子どものほうを頼む。
子どもはこのピンクの縄をつかってやってくれ。」

すこし細めのかわいい色の縄を僕に渡した。その縄で子どもを縛った。子供はお人形さん遊びをしていた。とても大人しい子だ。母親に目元がそっくりだ。

「このくらいでいいですか?」

「ああこのくらいでいい。」

指で確認した後ロビンはハーモニカを吹いた。子どもが喜びそうなかわいい曲だった。

子どもには聞こえているのか、あやされているかのように笑った。

でも、子どもの縄も同じように締まっていった。

「・・・仕方ない平等なんだ・・・。」

ロビンは子供の頭を撫でてポツリといった。がんばれよと言っているようにも思えた。



僕らは部屋を出て屋上に向かった。



「あと1件だな。」

僕は差し出されたロビンの腕に手を絡め、フワリとあがってゆっくりと進んだ。

そして、とある病院の上でとまると、そのまましばらくそこに浮いていた。

ゆっくりと下降して3階のあいている窓にとまった。

「ココだ。」

そこは小児病棟だった。



ロビンはゆっくりと足音を立てないように歩いて、新生児病棟のICUのガラスの前に立った。ほんの小さな体に細い縄がかかっていた。



ロビンがハーモニカを吹こうとすると、一人の男がロビンのとなりに立った。



「ハーモニカはもういいよ。」

「十八番・・・」

「やっぱり君が担当だったんだね。丁寧に巻いてある。もう外してあげて。」

「誰ですか?」

「死神だよ。」



「この子が見習い君。はじめまして。死神十八番です。」



僕の想像では、死神っていうのはくろいマントを来てどくろのお面をかぶり、大きなカマを持ってあらわれるのかと思いきや、白いシャツに白のパンツ。色が白くてとてもキレイな、この人が死神。



「君がここにいるということはこの子・・・ダメなのか?」

「ああ、もともと助からない運命だったんだ。運が悪かった。この子も君も。

気を落すな。」



「落としてないよ。ただ、ノルマが達成できなかったのが悔しいだけだよ。スーツを新調し損ねた。」

「あと何日だった?」

「あと2日。」

「2日か・・・2日がんばれたら強い子になっていたかもしれないのにな。」

「かも・・・なんて話しはいらない。

俺は悪魔だ。」

「そうだったな。」

ロビンは部屋の中に入って縄を解いた。とてもか細いがまだ少し息はあった。真上から赤ん坊の顔をまじまじと見ていた。その長い前髪で表情まではわからなかったが、きっと苦しい顔をしているんだろうなと想像していた。

「いいぞ、連れてけ。」

死神十八番は壁をすり抜け両手でその子を抱いた。死神が抱いた瞬間、その子は腕の中で元気に可愛く笑った。

「さわっていいですか?」

僕は死神に聞いた。

「ああ、優しくな。」



指先で頬をさわった。温もりもなく無機質なプラスチックの表面をさわっているような気がした。それでもその子は僕を見てアバアバとご機嫌に笑った。



「不思議な感じだろ。タマシイって温度がないんだ。」

僕の隣に並んでその子の顔を見せるように抱きなおした。

「もういいだろ。連れてけ。忙しいんだろ。」

「うん じゃ、また。」

死神は、愛おしそうにその子を見つめながら歩いて、そして消えて行った。

「泣くなと言っただろ。」

僕は涙を流していた。まったく気づいていなかった。

「すいません。」

「涙ふけ いくぞ。」

ロビンはハンカチを僕の手に持たせると、くるりと背中を見せ、スタスタと歩いて行った。入った時と同じ窓にのってロビンが手を差し出した。その手につかまり、どこかわからないはじめての場所まで高く飛んだ。
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