やおや岡吉 青の失踪

富井

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幸せのあおいさかな

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「隊長ーー!!青が逃げました・・・・」

「えー困るよ・・・どうすんの・・・あと3時間で出動だよ!」


ある市、ある街の商店街。
駅にほど近く、大きな病院も近くにあり、かつては賑わったこの商店街も、道路事情の変化、インターネットの普及、近隣に出来た大型複合商業施設など、様々な理由でもれなくシャッター商店街となった。

そのうらびれたシャッター商店街の、ど真ん中に位置する、まあまあ大きな八百屋。

『やおや岡吉』

地元に愛され88年。雨の日も、雪の日も、不況の時も、野菜不足の時も、地元の人に、安心安全、安くておいしい食品を提供し続けてきたが、訪れる客の激減に戦々恐々の日々。

何か打つ手はないかと考え出されたアイデアが、『スーパー戦隊やおやー』だった。

何のことはない、各売り場責任者が戦隊ヒーローのぴちぴちスーツを着て、踊って歌ってMCして、時には陳列、時にはレジを、タイムセールの卵1パック88円の手渡しは握手会も兼ねるなど、いつもと変わらない仕事に、あってもなくてもいいようなサービスをくっつけただけ。

いささか古臭い印象もあるが、本人たちは大まじめ。生きるか死ぬかの大戦《おおいくさ》なのだ。

奇しくも、本日は敵対する大型複合商業施設の大バーゲンの日。それに対抗しての『やおや岡吉』決死の大売り出しの日。


手製のポスターを商店街中に張り出し、今日に合わせ、仕入れから陳列、チラシ配りなどなど、全社一丸となって邁進してきたのに、当日になっての青の裏切りは最悪の結末を予見した。

ーーーここで説明しようーー

青とは、鮮魚担当主任、溝口君 46歳。
女房一人、子供は三人。ここでは店長の次に年長者。高校を卒業と同時に入社、以来、魚一筋。温厚で人当たりのいい、声のでかい、色が浅黒い、背は高くも低くもない、ハチマキとビニールの前掛けと白い長靴が似合うごくフツーのどこにでもいるような男である。

-------


「どうしよう・・・チラシ出しちゃったのに、今更間に合いませんでしたなんて言えないよ・・・。」

「店長・・・」

一同、鮮魚コーナー前に集まり、空っぽのケースを見ながら作戦会議。
といっても、一番手に入れにくい鮮魚を当日の開店3時間前に用意するなどできようはずもなく、ただ呆然とする以外、手立てがなかった。


「でも、うちの売りは野菜っす。野菜は店長がガツンと仕入れてくれたんで大丈夫っすよ。何とか乗り切れますって。」

「そ、そうかな・・・でも、お魚がないって怒られないかな・・・」

「大丈夫っす。肉もガツンと仕入れましたんで。お任せください。
そもそも、今は魚より肉っす。子供だって魚より肉のほうが好きでしょ。魚の入荷がない分は肉でカバーっす!!」

-----この男は 赤。
精肉担当主任 山口君 35歳 子供一人、嫁無。離婚歴1。
大卒でここへ入社。
おまえならもっといいとこ就職できただろ・・・とよく言われるが、彼は就職氷河期真っただなか世代。しかも、大学在学中に子供ができてしまって、『もう、どこでもいいや』と思い入社。同時に結婚したが、1年もせず嫁に逃げられた。

男手一つで子育てと両立するには、この会社はとても暖かかった。『熱を出せば仕事場の休憩室に連れておいで』と言われ、パートさんがかわるがわる休憩時間を利用して見てくれる。

休日欠勤しにくい主任という立場だが、運動会や文化祭などの行事には、率先して休日を取らせてくれる。参観日、親子遠足も、一度たりとも欠かしたことはない。そんなこんなの恩義を感じ、身を粉にして働き。ここへ骨を埋める所存なのである。

「店長!干物類は冷蔵庫から出して並べました。開いた刺身のケースには缶詰でも並べましょうか。」

「缶づめか・・・」

ちょっと弱気なこの人は店長兼、社長の岡さん、55歳。最近先代から社長の座を譲り受けたばかり。気の弱いところもあるが、人望もあるし仕事もできる。
ただ、先代、先々代が偉大過ぎるのと、『やおや岡吉』の現況のせいで、まだちょっと社長としての自信が持てない。

「だったら、お魚チップスとかの菓子類も・・・」

「あ、つまみは?するめもよくね。」

この二人は
緑・・・菓子・飲料水担当 堀田君 最近結婚したばかりの32歳。
彼の両親は岡吉からさほど遠くないところで工場を営んでいた。吹けば飛ぶような零細企業だったが、真面目にコツコツと『いい品』を作っていた。

堀田君は、都会の大学に行き、そのまま就職していたのだが、26歳の時、突然、父親が急死。
呼び戻されることになる。跡継ぎといわれても、経営も生産も、機械の使い方すらしらない堀田君は、あれよあれよという間に顧客をうしない、工場は倒産。借金を抱えて路頭に迷っていたときに救いの手を差し伸べたのがここ、『やおや岡吉』の先代社長。借金を立て替えてくれただけでなく、店で働かせて貰い、嫁はここでバイトしていた現社長の娘を貰った。素晴らしい『わらしべ』っぷりだ。

もう一人の
「するめもよくね。」と言ったのは
ピンク・・・レジ担当主任  秋野さん 28歳。
家族は父親と秋野さんを頭に7人もの弟妹で9人家族。母親とは死別。
家は大変貧乏なうえ、大家族。父親は長距離トラックの運転手。ほぼ家には帰って来ない。
家事の全てと弟妹の面倒は長女の秋野さんが一人で見ていた。

彼女は中学の時、大変ぐれていた。ぐれて、ぐれて、ぐれたおして、爆音でスクーターを乗りまわすレディースの曹長だった。
学校に家事に子育てにレディースと、十代にして4つのわらじを履きこなしていた彼女が『やおや岡吉』で1個10円のガムを4個万引きした日に、先代の社長がスカウトした。
中学卒業後、品出し、総菜売り場、野菜売り場を経てレジ担当主任まで昇格。
ここの女子パート、アルバイトは彼女を頼ってくるものが後を絶たず、『やおや岡吉』では、人手不足に悩んだことは1度もない。

「いや・・・・ギリギリまで、青を待つべきです!刺身ケースは彼の命ですから!!」

そう言ったのは、

黄・・・惣菜担当 三島君 24歳。彼は『スーパー戦隊やおやー』の中で唯一のバイト店員。彼の持ち場である惣菜の売り場主任は42歳の女性。彼女と惣菜売り場からの強い希望で&ごり押しで、彼の入隊は決まった。
三島君はミュージシャン志望で、ド田舎からこの中途半端でちょっぴり都会のこの街へとやって来た。
最初は菓子・飲料コーナーの品出しとして入社。彼を見かけた総菜売り場のパートさんがすぐさま「背が高く、色白でにっこり笑うと八重歯がとてもかわいいメンズがいる。」と、担当主任に報告。翌日から惣菜コーナーへの転属が決まった。依頼、彼は『やおや岡吉』のアイドルとなり、彼のために総菜売り場のマスクは透明のものに変えられた。
総菜売り場の売り上げも順調に伸び、先月は前年比60%超え!

彼は、なぜか年の離れた鮮魚担当 青とはとてもウマが合い、バイト終わりに1っ杯飲んで仕事の悩みや将来の不安を打ち明けるような間柄になっていた。

「青は絶対きます!!あの人は裏切るなんて、そんなまねは絶対に出来ない人です!!」

「でも、携帯もつながらないんだぞ!おおよそ、今日の仕入れにミスして怖くなって逃げたんだ。」

「あの人は、そんな人じゃない!!」

黄は拳を握りしめ、刺身ケースの前に立ちはだかった!

「夕べから・・・いや、1週間前からおかしいと思ったんだ。仕事中にこそこそ電話はしてるし、メールチェックばっかしてるし、閉店時間にソワソワしだすし、遅刻もするし。」

「何か理由があるはずです!」

「俺達、仲間にも言えないような訳ってなんだよ!!」

「赤、そう熱くなるな・・・今日、青が出社して来ないということが、仕入れミスと決まった訳じゃない。黄の言う通りギリギリまで待とう。いま、俺達に出来ることは信じて待つことだけだ。」

「そうそう、そいでもって、自分の売り場を充実させること。
赤だって、まだ肉のパック詰め全部終わってないでしょ。さっさと仕事に戻る!!あたいの友達にも青を見かけたら連絡するようにメールしてあるしさ。」

「緑、ピンク・・・すまない・・・そうだな・・・あいつの事、もっと信じないとな・・・」

赤は、自分が受けて来た恩を返さなければならないと少し熱くなり過ぎたことを反省した。
じぶんだけではないのだ、恩義を感じていない社員などこの会社には一人もいない!
キット青も最後の時まで、あらゆる手段を講じて戦っているに違いない!

「よし、残り3時間を切った!持ち場へ帰って最後のパック詰めだ!! 」

「オーーーーーーー!!」

それぞれが、それぞれの持ち場へ帰り、開店に向かってそれぞれの仕事を開始。

一同、戦いに向けての最後の準備に取り掛かる。

「ねえ、これ、秘密にしてね。SNSとかダメだよ、絶対!!」

そんな中、一人頭を抱える男・・・

店長で社長の岡
「なんか・・・胃が痛くなってきた・・・・うぅぅぅ・・・」

信じなければと思いつつ、キャベツの売台の影でうずくまる。


「社長・・・青さんが失踪って・・・・」
そのとき、総務の明知さんがそーっつとやって来た。

「いや・・・まだわからないんだ・・・でも、今のところ出社していないのは確かで、刺身ケースも空っぽ。鮮魚冷蔵庫も空っぽなんだ・・・どうしよう・・・」

「普段なら1番に出社して準備している人ですからね・・・」

明知さんは先代の時からいる。とてもやさしくてみんなの愚痴をがっつり受け止めてくれる深い懐の持ち主!

「明知さん、青君から何か聞いてない?何かとても悩んでいたとか・・・体がつらいとか・・・どんな些細なことでもいいよ。」

「いえ、特には・・・悩みなどは聞いておりませんが・・・」

「ほんと?そうならいいけど・・・青君が何かに悩んでいて、失踪したなら、僕は社長失格で怒られちゃうよ・・・あー胃が痛い・・・」


どこの会社でも、社長になるからにはそこそこの覚悟はいるものだ。
もちろんこの会社にも先々代から伝わる厳しい教えがあった。

『社員の幸せは地域の幸せ。地域の幸せはお客様の幸せ。お客様の幸せは私の幸せ』
これは、初代社長から伝わる社訓だ。
最初は皆「えっ?」と思うような、理解しずらい社訓だが、ここの社長は代々、大真面目でこれを受け継ぐ。

社員は、ほぼ地元の人間だ。多々ある会社の中からわが社をよくぞ選んでくれました。ともに働き、幸せになりましょう。あなたの幸せ失くしては、地域もお客様も幸せなど感じてはいただけません。幸せの根本はあなたにあるのですよ。

そうした暖かい心があることを、そしてそれをきれいごとで終わらせない覚悟がこの会社の社長には必要なのだ。

跡取りと決まったその日から、厳しくそれを教え込まれてきたのに、彼の異変に何も気づけなかった・・・


「あーそう言えば何度か話があるとか言っていたような・・・でも、僕もセールの用意で忙しくて・・・後でねって言ったきり、時間作ってあげられなかったんだ・・・・悪いことしたなー。何か悩んでたんだよキット。
あーーーー胃が痛いーーーー。」

「社長・・・・ちょっと休憩されたらどうですか・・・」

「ねえ・・・明知君・・・本当に何か聞いてない?」

「は・・・・はい・・・・あ、あの・・・」

「あーそうだ!明知君。青の衣裳、もう一枚ある??」
「ありますが・・・代役ですか?鮮魚売り場の誰にします?」
「いや、もう鮮魚売り場からは出せない。人員がギリギリだからね。僕が出るよ。野菜売り場は朝陳列してしまえば、追加はパートさんでも十分賄えるでしょ。」
「ですが、社長!サイズが・・・・青は溝口君のサイズで作ってしまったので、Lサイズなのです。しかも彼は社長より10センチほど背も高いし・・・」

岡は自分のお腹をさすった・・・どう考えてもXL・・・いやそれ以上・・・Lサイズのぴちぴちスーツはさすがに無理か・・・
「じゃあ何でもいいや、青いもの。あ、青いジャージがあったよね。こないだ草むしりに着たやつ。とにかくアレに着替えるよ。明知君は雑貨売り場に行って、青色の軍手探してきて。」
「わかりました。」
岡は痛む胃を抑えながら社長室へと急いだ。踊りも歌もMCも、練習は見てはいたが自分では一度もやったことはない。けど、何とかなる、なさねばならぬのだ!!
(立ち位置は端っこにしてもらって、なるべく目立たないように頑張ろう・・・
あとはカンペを見ながらでも・・・何とかなるよね。)
不安を必死でかき消しながら、先日の草むしりで少し汚れてしまったブルーのジャージに着替えるのであった。


丁度その頃、店前の掃き掃除をしていたピンクに、大勢の女性客がガンガン詰め寄られていた。

「ちょっと、あんた!このSNSに書き込んだんあんたやろ!」

「そうですけど・・・なにか。」

「なにか、やないやろ、なんやの青ちゃんのこと無茶苦茶書いて」
「そうや、逃げたて、どういう事。」
「ほや、あの子はそんな子ちゃうよ。私はあの子がランドセル背負ってる時から知ってるんや!あんたみたいな髪の毛ピンクの子に言われたないわ。」

「ちょ!このピンクはズラです!今日のショーのためのズラです!」

「いつもかて、オレンジ色やない。ピンクと変わらんやろ。」

「ほや、ほや。そんな子に青君の悪口言われたら黙っとけへんわ。」

「悪口なんて言ってません!早く帰って来てほしいから、友達に頼んだんです。情報集めようと思って・・・それに、ピンクとオレンジは全く違います!」

「悪口やなかったらなんやの!現に、この返事しとる奴も「逃げたん」って書いとるがな!
ピンクとオレンジなんてうちらから言わせればおんなじや、違うって言うならどこがどう違うかはっきり言ってみ!」

「そや、そや!」

「『逃げたん』ってかいてある後に、『そやないと思う』って書いてありますやん!」

「そんなん、小さい字で書かれても読めんわ。」
「そや。そや!」
元レディース曹長も『お客様』という鎧を着た年配兵士にはたじたじだ。
「あんなぁ~~~~」

「まあ、まあ、」

ピンクが昔取った杵柄を振り上げようとしたそのとき、騒ぎを聞きつけた赤と黄が店前に駆け付けた。

「まあ、お嬢様がた。ご心配ありがとうございます。」

「あ、赤ちゃん、黄ちゃん!!」

騒動を止めに駆け付けた赤と黄に、声のトーンが変る女性客・・・

「ご心配感謝いたします。けど、青は大丈夫です。ちょっと・・・言葉のニュアンスに間違いがありましたが、青は逃げてなんていませんよ。行方不明でもありません。」

「ほんと?ちゃんといるのね。」

「ええ、大丈夫ですよ。」

「じゃあ、これ何よ、SNSでなんか変な目撃情報流されちゃってるじゃない!」

「こ、これは・・・ぱ、パフォーマンス・・・パフォーマンスです。
こ、これは、皆さまの気持ちを煽るためのほんの軽い冗談のつもりだったんですが・・・」

「そ、そうですよ、あ、青は朝4時に来て皆さまのためにお刺身を切ってますよ。
アハハ、アハハ・・・」

「なーんだ、そうなの、それならいいのよ。おばちゃんびっくりしちゃった。
ごめんね、こんな忙しい時間に押しかけちゃって。」

「開店、待ってるから、また来るわね。」

「はい、お肉コーナーでは豚肉100グラム99円でお待ちしてます。」

「今日の総菜コーナーは中華総菜、どれでも100グラム68円でーす。」

「ステージは11時から、その後、握手会デーす。」

ピンクは帰って行く女性客に散々睨まれたが、ググっと堪えて、深々とお辞儀をし、赤と黄はにこやかに手を振ってお見送りしたが、三人とも背中は汗でぐっしょりだった。

「大丈夫だった。僕も頭下げたほうがよかったかな・・・」

騒動がひと段落すると、柱の陰で見守っていた社長で店長の岡が三人に駆け寄った。

「て、店長・・・・なんて格好してるんですか。」

「いや、青君が来ないとステージが困ると思ってさ・・・僕が代役努めようと思って・・・」

「いや・・・でも・・・それは・・・」

三人は、あの女性客に絡まれている場面で、この居格好の店長が出てこなかったことを、本当に幸いに感じていた。青いジャージに青い軍手。青いニット帽で、青になる気力は感じられたが、ここへやってくる女性客を納得させるには、少々サイズ的に問題があるな・・・と思っていた。

「社長は野菜売り場に戻ってください。そろそろバナナが到着するころでしょう。開店までもう2時間切りましたよ。」

「じゃあ、もうそろそろ各売り場のパートさんが出勤してきますね・・・」
「なんて説明する?」
「あ・・・・他の売り場には説明なしで・・・そんなことあったかなのテイでお願い。」
「でも、鮮魚売り場にはそれでは通りませんよ。」
「だよねー・・・じゃあ、説明に行ってくるよ・・・あー胃が痛い・・・」

店長で社長の岡は、一度フラッとよろめいたが、いやいや、ここで頑張らなきゃ、これは俺の仕事だ(できる、できる)と、二度心の中で唱えて鮮魚売り場へと向かった。



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