クレタとカエルと騎士

富井

文字の大きさ
上 下
16 / 50
三日目

夢の流しそうめん・・・その2

しおりを挟む
だから、女神の特権をフルに活かして流しそうめんを食べるための遊園地を作った。

「なんじゃこれ。」

「う・・・」
「スゲーだろ。流しそうめんスライダーだ。」
「凄すぎる・・・」

目がかすむほど高い滑り台や、どうしようもないほどぐるぐる回りすぎて、下から見上げているだけで目が回りそうな滑り台とか、途中が鹿威しになっている滑り台や、ピタゴラスイッチタイプの滑り台、ジェットコースタータイプ滑り台などなどがぎっしりとあった。

「そうめん食うだけにこれだけの物作れるなら、乗り物だせただろ。」

「じゃあ、ひとまず、あのぐるぐるって回ったやつから行ってみようか。」

クレタは太の背中から飛び降りて、ぐるぐる渦を巻いた大きな水が流れる滑り台に向かった。
靴を脱ぎ、ズボンのすそをいくつか折りあげて階段を上っててっぺんで「うおー」っと叫んだ。

クレタの興奮は頂点に達していた。

三人もそれに倣って、カバンを置き、靴と靴下を脱いでズボンのすそを折り上げた。

太と理玖は高いところが少し苦手で、登ったものの、下を見下ろす事が出来なかった。

「ずいぶん高いね。」

ヒロトはぜんぜん平気だった。

「これどうやって食べるつもり。」

「この滑り台を滑りながら真ん中の溝を流れるそうめんを食う。二倍楽しいだろ。どうだ。」

「どうだって・・・どうかなあ・・・」

「すげえ楽しそうじゃねえ。ワクワクする・・・さあ並んで。」

クレタの向かいにヒロト、理玖の向いに太が座った。


「よし、行くぞーーーー!」

四人はおわんと箸を持ってぐるぐる回る滑り台を滑っていった。

そして真ん中の溝を流れるそうめんを追いかけた。

けど、思ったよりそうめんの速度が速く、箸で溝をつついて暴れているだけになった。

「チッ。もう一回行くぞ!!」

クレタは走って階段を駆け上がった。
また同じように並んで滑ったが、そうめんのスピードは圧倒的だった。

「このままでは食えない。一人ずつだ!!」

クレタはムキになってそうめんを追いかけた。

下まで滑るとまた階段を駆け上がり、滑り台を滑ってそうめんを追いかけた。

理玖も太もヒロトの同じように滑り台をぐるぐる、ぐるぐる滑り降りてそうめんを追いかけたが、何万本のそうめんが流れていっても、四人に捕まるそうめんは一本もなかった。

「勘弁して・・・」
「余計腹減る。」
「目が回る。」
「気持ち悪い。」

三人はもう階段を上る力の一滴も残ってはいなかった。
クレタは、しゃがみこんだ三人を小走りに追い越し、

「次の滑り台に行くぞ。」

そう言って一人はしゃいでいた。

「もう、普通に止まってるそうめん食べた方がいいよ。」
「それ賛成。クレタ、そうしよう。」

「嫌だ!!俺は、絶対!流しそうめんを楽しむんだ!!!」

「楽しむって感じじゃないぞ・・・」
「克服だな。」

クレタは次へ、また次へと滑り台に走ってそうめんと戦った。

理玖達三人は、桶に溜まったそうめんを食べた。

滑り台について行くのも疲れたし、お腹が空いていたのもあったが、そうめんはこんなに必死になって食べるほどのものでもない事に気がついた。

「そうめんってさ、夏休みの昼飯って感じだよなぁ。」

「そうだな。母さんが買い物に行き忘れた時のやっつけって感じ。」

「ここまでムキになるのもどうなんだろう・・・」

三人がお腹いっぱいになって食べるのをやめても、クレタはまだ階段を駆け上がっていた。

「そろそろやめさせた方が良くない?」

「気がすむまでやらせとけばいいさ。俺ちょっと寝るよ。」

「俺も。」
「じゃあ、僕も。」

理玖と太とヒロトはお腹がいっぱいになって昼寝した。

「おい、起きろ。昼寝は終わりだ。」

汗だくのクレタが息を切らせて立っていた。

「あ、食えたか。そうめん。」

「イヤ、ダメだ・・・なにがいけなかったんだろう・・・」

「そんな事考えても始まらないだろ。桶に溜まったそうめん食えよ。」

「イヤだ。負けた気がする。」

「そうめんに負けるより腹減る方が辛くねえ?」

「辛い。」

「じゃあ、食えよ。敵討ちだと思えばいいだろ。」

「敵討ち?」

クレタはお腹が空きすぎて、難しい事は考えられなくなっていた。

桶の淵に座って泣きながら食べ始めた。

「泣くなよ。わかるぞおまえの気持ち。
アレとこれが楽しいから、一緒になったらもっと楽しいんじゃないかと思う事。
けど、想像じゃあ二倍楽しめるはずが、意外につまんなくてガッカリするって事。
しかも自分が作ったもんだから引くに引けないってところもな。」

「クレタ・・・かわいそう・・・・」

ヒロトはカエルの手でクレタの頭を撫でた。

「その臭い手で触るなって言ってるだろ。」

「なんでよ。可哀想だと思って撫でただけなのに。」

「うるさい。」

クレタはヒロトをつき飛ばし、バランスを失ったヒロトはそうめんの入った桶の中にはまってしまった。

「食えなくなってしまっただろ、カエル。何しやがる。」

「クレタがやったんじゃないかーー」

「そもそも、ヒロトがカエルの手で俺を触るからだろ。気持ち悪い手で。
そうめんだらけで卵産んだみたいになってるぞ。すげえ気持ち悪い。」

「もうイヤだ、僕クレタとはもう行けない。もういい。僕行かない。」

「行かないってどうするんだよ。」

「ここで待っていたら別の誰かがそのうち通るでしょう。
その人に連れて行ってもらうからいいよ。
もうイヤだ。」

「ヒロトが悪いからカエルになった。」

「知ってるよ。悪いと思っているし、ごめんと思ってる。
理玖や太にいじわるされるなら我慢する。でもクレタはヤダ。意地悪ばっかり。」

「クレタが悪いな。謝れ。」
太はヒロトとクレタの間に入ってその場を抑えようと試みた。

「ヤダよ。謝らないよー。」

「子供っぽいこと言うなって。昨日も三人一緒じゃないと、ってクレタも言ってたろ?謝れよ。」

「ヤダよー。カエルヒロトーーヒロトが悪いからカエルになったーーー」

「やめろって。」

「なんでだよ。理玖だって、太だって、カエルは大嫌いなんだろ。
ヒロトがいなくなったら理玖だってあの気持ちの悪い手を見なくて済むんだぜ。
そのほうが楽じゃん。仲良くしようぜ。ヒロトが謝るなら連れていってやってもいいけどな。」

「クレタ・・・」

すこし小躍りしながらふざけた顔をしてヒロトを挑発するクレタを、理玖も太も呆れてみるしかなかった。

「なんで僕が謝らないとだめなんだよ。僕はヤダ、絶対クレタとは行かない。絶対行かないからね。」

「俺と来ないと晩飯は理玖のばあちゃんのメシじゃなくなるぞー。」

「・・・いい。もう行けよ。」

ヒロトは中でも一番高い、てっぺんが目がかすみそうなほど高いところにある滑り台の階段を登り始めた。

その滑り台は作ったクレタ自身もだめだな、と思うほど高くて登れないものだった。

「どうするんだよ。クレタが悪いんだからな。」

「連れて来いよ。俺たちは高いところが嫌いなんだ。」

「俺もヤダ・・・これは高い。」

「クレタが作ったんだろ。」

「これはオブジェだ。高すぎて安全性が保障されない。」

「じゃあ、どうするんだよ。」

三人でその一番高い滑り台の下にあぐらをかいてヒロトが降りて来る方法を考えることにした。

「何かいい方法ないのか。」

「ないな。」

考えてみたが、出るのはため息だけだった。

「じゃあ、謝れよ。」

「ごめんなさい。ヒロト。行こー。」

クレタはまったく心を込めず、棒読みでヒロトに言った。
「それで降りて来たら奇跡だな。」
「ホント・・・・はぁ・・・・」
理玖も太はさらに呆れて、全く悪びれることもないクレタの顔を見た。

「クレタさー、なんかヒロトの好きなもの出せよ。」
「何だ?好きなものって。」
「ゲームかなあ・・・」
「ゲームか・・・」

クレタはズボンのポケットを探ってゲームのコントローラを出した。

「これか、ゲームって?」
「そうだな。それだ。」
「おーいヒロトちゃん。これあげるからさー、降りて来なよ。」

クレタはコントローラを大きく振ってヒロトの気を引こうとした。


「バッカじゃないのクレタ。コントローラだけで何やるんだよ。バーカ!!
ゲームつうのはゲームのハードとソフトとモニターもないとできねえんだよ。バーカ!!バーカ!!バーカ!!」

「おい、ヒロトがバーカって三回も言ったぞどうなってるんだ。」

クレタは理玖と太に詰め寄った。クレタのプライドはバキバキに折れたが、理玖と太はさらに、さらに呆れていた。

「俺たちはゲームってしたことないから良くわからないんだ。悪かったよ。」

「悪かったよじゃない。あとはおまえらが考えろ。俺はもう知らない。もう、どっちでもいい。」

「どっちでもいいって・・・なんだよ・・・」

理玖と太はこのガキっぽい振る舞いにほとほと困り果てた。
しおりを挟む

処理中です...