クレタとカエルと騎士

富井

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三日目

夢の流しそうめん・・・その1

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「もう歩けない。」

クレタは突然その場にすくんで動かない。

靴も脱いでゴロンと寝っ転がった。

いつもだが、突然変なことを平気でやってのけて、理玖たちを驚かす・・・

いや苦しめる。

「もーやだ。もー飽きた。毎日同じ服にも、この靴にも。」

「なら裸で、裸足で歩けば?」

ヒロトがクレタを覗き込んだ。

「そういうんじゃない。」

「じゃあ、なんだよ。」

太も理玖も覗き込んだ。

「俺は王子様だろ、だから毎日毎日フリフリのついた、袖がふわっとなったブラウスを着て、侍女たちと花びらがいっぱい浮いたお風呂に入って・・・

髪もとかしてくるくるっとして、いい匂いがして・・・それが俺なのに・・・

毎日こんなきったないジャージ姿とかありえないよ・・・・」

「きったないって・・・おれのジャージだろ。」

「っていうか、上から俺を見下ろすな。」

ゴロンと大の字になって、道の真ん中に寝っ転がったまま駄々っ子のように暴れ出した。

「そんなこと言ったって、寝転んでいたらそうなるじゃん。だから、起きて。」

ヒロトはクレタの前にニコッと笑って手を差し出した。

その手をパチンと叩くと横を向いて

「おまえの手は臭い。俺の前にだすな。」

そう言ってすねだした。

「この間は喜んでヒロトと腕を組んで歩いていたじゃないか。」

「アレはちょっとしたアクシデントだ。」

膝の間に両手を挟んで猫のように丸くなった。

「じゃあ、俺も疲れた。ちょっと休暇しようぜ。」

太も同じようにゴロンと寝転んだ。

「じゃあ、ここら辺に水の出るところないかなあ。」

「ヒロトの手か?」

「うん・・・」

理玖はヒロトの手に巻いたタオルを手で押さえて、乾き具合を確認した。

「だから捨ててこれば良かったんだ。あのキャラメル池に。めんどくさい。」

「クレタ・・・そんな嫌がらせやめろよ。」

「そうだよ、クレタだってリリーがガリウだってわかった時、喰われたと思ってびびってただろ。」

「そうだよ。喰われてないってわかったら、ホットして腰抜かしてた。」

「ホッはしたけど、腰抜かしてなんかない。」

「どっちでも同じだよ。
クレタにリリーが大切なように俺たちにはヒロトが大切なんだよ。」

「へー・・・俺は?」

「は?」

「俺のことはどう思っている?」

「どうって・・・」

「大切に思っているのかっ?」

「そ、そりゃあ思っているよ。もう3日も一緒に暮らしているんだもんなぁ。」

太は理玖とヒロトに目配せして、二人もそれを見て軽く頷いた。

「じゃあ、おんぶしてよ。」

「えーなんでだよ。」

「大切に思っているんだろ。だったらおんぶして行けよ。」

「どうしてそうなるんだって。」

「してくれないなら歩かない。」

「歩かないって・・・歩かないからしてほしいんだろ。」

クレタは少し考えて、目を閉じてそっぽを向いた。

「おんぶしてくれないなら水が出るところ教えない。」

「意地悪なことを言うなって。」

「ヒロトの手なんかカッサカサになっちゃえ。」

クレタは相変わらず転がったままでほっぺを膨らましてすねていた。

「どうする・・・・」

三人は集まって顔を見合わせ、肩で息をついた。

「まったく毎日毎日、てこづらせやがって・・・」

「じゃんけんで決めようか。」

「そうだな。」

三人はじゃんけんをした。

理玖と太はチョキを出した。

「やっぱり理玖と太は仲いいな・・・息ぴったりじゃん。」
「仲良くねえよ。」
ヒロトはパーを出して負けた。
「次の電柱までな。」

次の電柱のところでまたじゃんけんをした。

「やっぱり理玖と太は仲良いな・・・息ぴったりじゃん。」
「仲良くないって。」
理玖と太はチョキを出してヒロトはパーを出して負けた。

「次の電柱までな。」
次の電柱のところでまたじゃんけんをした。
理玖と太はチョキを出した。

「ねえ、僕、パーしか出せない・・・・」

「うん。」
「二人は知ってた?」
「ごめん・・・」
「なさい・・・」

「おまえら、そういうずるい事したらダメだって言ってるだろ。
おまえらもカエルになりたいのか。」

「おまえが一番ずるいだろ・・・」

太は理玖にも聞こえないほど小さな声で呟いた。

「今何言った。聴こえたぞ。」

クレタは突然飛び起きて太の肩を掴んだ。

「なんだよ。元気いいじゃないか。」

「罰として太がおんぶしていけよ。体力ありそうだし。
チョコチョコ降ろされるのはめんどくさいからな。」

「そうなるような気がした。」

クレタは太の背中に喜んで飛び乗った。

「よし行こう。あの角を右だ!」

「ち」
太は背中のクレタを一回グッと持ち上げると指さす方向へと歩き出した。

「ポケットに乗り物入ってないの?」

「そんなでかいもの入れたら、武器が入らないだろ。」

「武器もあんまり活躍してねえじゃん。」

「そもそもさー俺、王子様だろ。
だから、体力ないんだよ。いつも雲に乗ってふわふわってしていたし。」

「あっそ。」

「そっけないねえ、太・・・しっかりしろよ。」

「暴れるなよ。重いって。」

「失敬な、そんなに太ってないだろ。」

クレタはよほどおんぶが気に入ったのか、足をバタバタさせたり、仰け反ったり、と、まったく落ち着かずおもちゃの馬にでも乗るかのように暴れていた。

「暴れると落とすぞ。」

「落としたら、太だけ昼飯無しな。」

「今日の昼飯なに。」

「流しそうめん。」

「マジか。俺、初だ。初、流しそうめんだ。」

「俺もだよ。ずっと憧れだったんだ・・・
白い糸みたいなのがスルスルって水と一緒に流れて・・・」

「早く行こうぜ!!どこだよ。」

「次を左の所だ。」

太はクレタをおんぶしたまま走った。

「まてよ!」

急に走り出した太を追って理玖もヒロトの手を引いて走った。

「いけいけ~」

クレタは大はしゃぎだった。いつも空の上から眺めてばかりのことが現実になるのだから、この短い期間に全部やっておきたいと思っていた。
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