クレタとカエルと騎士

富井

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二日目

リリーの店

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そこはとてもかわいいお菓子やさんの厨房で、そこでヒロトはクッキーを焼いていた。

「ヒロト!」

「あ、理玖、太。」

「大丈夫か。ヒロト。なにかされなかったか。」

「うん。型を取られたよ。

で、チョコ作って、ゼリーとプリン作って。

今、クッキー作っている。

ゼリーはそろそろ食べどきだよ。テーブルで待っていて、運ぶから。」

「ゼリー・・・」

「プリン・・・」

「うん。」

ヒロトはいつになく嬉しそうだった。

肩のところにひらひらのついた水玉模様のエプロンとおそろいのミトンを付けて、イキイキとキッチンを駆け回っていた。

「はい。クレタはミルクたっぷりの甘いアイスコーヒー。

太と理玖はレモンソーダ。」

「おい、オレもそっちがいい。」

「クレタはミルクたっぷりのアイスコーヒーが好きだったんじゃないの?」

「違う。」

「こいつはね、あまーいジュースしか飲めないのお子様だから。

しかも、人が持っているものが欲しいの。ガキだから。」

「うるさい。」

リリーはクレタの隣の席でクレタの背もたれに肘をかけて座った。

クレタは少しでもリリーから離れようと椅子の端っこで反対側を向いて座った。

「リリーはクレタと知り合いなのか?」

「小学校からの同級生。

僕は成績優秀で首席で卒業、クレタはおバカさんで親に泣きついて卒業させてもらった。」

「うるさい。小学校は誰でも卒業できるんだ。」

「僕は運動も二重まる。クレタは運動音痴。」

「悪魔と女神が同じ学校へ行くのか?」

「誰が悪魔だよ。」

「クレタがそう言った。」

「僕は悪魔じゃないよ。天使。」

「なんで天使がこんなところにいるんだ。」

「別に・・・特別な理由はないけど、ここを通る人においしいお茶を振る舞いたくて。」

「クレタがここはめんどくさいところだって・・・」


「案内の女神はここを避けるんだ。おいしいお茶と、おいしいお菓子。

そして僕の楽しいおしゃべりでみんなここから離れたがらないんだ。

だから女神はめんどくさいとか言って、ここを避けるんだよ。」

「クレタが悪いな。」

「なんで俺が悪くなるんだ。」


「はい。ゼリー。お待たせ。クレタは何味がいい?」


ヒロトを型どった30センチくらいの高さの色の違う10個のゼリーをボーリングのピンのように並べた。

「俺は赤いのにしようかなぁ。」

「はい、梅味ね。」

「いちごじゃないのか・・・・」

文句を言いながらもスプーンを使わず頭からパクッと噛み付いた。

「理玖と太はどれにする?」

「俺はヒロトをパクッと頭から食べるなんて出来ないよ。」

「ゼリーだよ。」

「ゼリーでもヒロトだ。俺には出来ない。」

「俺も。」

太と理玖は並んだヒロトのゼリーを眺めるだけで手を出そうとはしなかった。

「うまいぞ。」

クレタは2個目のゼリーを頭からパクッと噛み付いた。

それを見て太と理玖は同時に「えー・・・」という顔をした。

「ヒロト、そろそろ出よう。手にタオルを巻くよ。」

「僕行かない。リリーとここにいるよ。」

「そういうこと。だから君達、お腹いっぱいになったらとっとと行って。」

リリーと肩を組むヒロトはとてもかわいく微笑み、こっちの世界に来てからしばらく見ていないいい顔をしていた。

「何言っているんだ。俺はヒロトと一緒じゃないと行かない。」

太はリリーからヒロトを引き離そうとカエルの手を引っ張った。

「僕行かないよ。
今まで太と理玖のこと羨ましくて意地悪なことばかりして、挙句、カエルの手になってまだ迷惑かけて。」

「ヒロト、俺たち迷惑だなんて思って思ってないよ。」

「そのうち足手まといになるよ。臭いし。」

「ならないって、大丈夫。」

「なるよ。手がカエルだもん。イボイボの。」

「ならない。手がカエルなだけじゃないか。」

「きっともっともっとカエルになる。そのうち二足歩行もできなくなる。

その時きっと後悔するよ。あそこに捨ててきたらよかったって。」


「そうそう。

ヒロトは僕とここでクッキー焼いてのんびり暮らすんだ。

ここのカフェも“リリーとヒロトカエルカフェ” と名前を変えて・・・

ヒロトは顔もかわいいからきっと人気者になると思うよ。

ヒロト型のチョコはお土産にぴったりだし、ヒロトが手伝ってくれたら、

お客さんもいっぱい来るわ。」

「かわいいなら、クレタの方がかわいいじゃん

クレタ置いて行くから2人で仲良くやれよ。」


「嫌だよ。クレタなんて。いばってばっかでなんも出来ない。

そこいくとヒロトはクッキーも焼けるし、ジュースも作れる。

話だって面白いし、チョコの型にもなる。

第一、一人じゃないって最高じゃん!!

チョッと臭いのを我慢すれば毎日がとても楽しい。」

「そんなこと知ってるよ。」

「俺たちはずっとそうやって大きくなってきた。ヒロト行こう。一緒に。」

「行かない。僕は生き帰ることができたとしても、太や理玖みたいに待っている人もいない。
やりたい事も、夢もない。」

「見つかるかもしれないじゃないか。」

「もういいだろ。ヒロトはここにいるって言ってるんだから、早くいけよ。」

「ダメ。三人揃って行くんだ。」

理玖と太はヒロトのカエルの手を握った。ふにゃっ、ぬるっとしたその感触に背中がぞわっとなったが、たったそんなんことでヒロトを失いたくはなかった。

「何でだよ。ここにいたいって言ってるんだからいいだろ。クレタ、もう連れてさっさと行けよ。」

リリーはその二人が握った手を引き離そうと必死になっていた。

「連れて行くからヒロト返せよ。」

クレタは4個目のゼリーを食べながら言った。

「なに!」

「三人連れて来いって言われたんだよ。」

「パパにか。」

「ああ。俺は言いつけは守るお利口さんだから、三人連れて行かないとな。」

「このファザコン野郎。」

「悪いか!!!」

クレタとリリーは掴みあって殴り合いをはじめた。

それを理玖と太とヒロトは並んで見守った。

殴り合いと言っても理玖と太が小学生・・・いや、幼稚園の頃の、まだあまり要領がわかってない時の喧嘩で、それを見てしみじみ、
喧嘩はよくないな・・・かっこ悪い・・・
と感じていた。まさに反面教師だ。


そして同時に、理玖と太は「俺たちにヒロトがいてよかった・・・」

そう思った。

「ヒロト・・・ありがとうな。俺、やっぱお前がいないとだめだ。

お前のふわっとした笑顔でどれだけ癒されてきたか・・・」

「俺もだ。ヒロトが傍にいることが当たり前になっていた。

ヒロトが俺たちのそばからいなくなるなんて考えたこともなかった。

いつもあんな風に喧嘩が始まるとどこからか飛んできて喧嘩を止めてくれたよな。」

「ああ・・・。ありがとう、ヒロト。」

「理玖・・・太・・・」

「ケーキを焼いたりプリンを作ったりしたいなら、やればいいじゃん。

ここでやる必要ないだろ。三人であっちへ帰って、それから考えようよ。」

「俺たちは三人一緒じゃないとだめなんだよ。絶対に。」

「僕もそう思ったよ。リリーとクレタの喧嘩を見て。

太と理玖には僕が必要だって・・・」

「ちょっと待てヒロト。一緒にいるって言ったじゃん。」

 リリーはクレタとの喧嘩をパタッとやめて、ヒロトに向かってきた。

「ごめんね、リリー。」

「謝ることないよ。ヒロト。

リリーは一人で寂しいから適当なこと言って、ここにとどめておこうとするんだよ。

だから案内女神はここがめんどくさくなって遠回りするようになったんだ。」

ボロボロのクレタがリリーを押しのけてヒロトの腕を握った。
もう片方の手はリリーが握って。

「でも、ヒロトが手伝ってくれることになったら二人でやるもん。

ずっと二人でいいもん。寂しくないもん。二人でカフェやるもん。」

リリーは泣き出した。


「ごめん・・・リリー。本当にごめん・・・・」

「だったらさあ・・・ごめんって思うならさぁ・・・そばにいてよ・・・・」

チラリとヒロトを見た後、リリーの手はすかさずヒロトの首を掴むと、黒光りする金属のようなものに変わり、一気に4,5メートル伸びあがった。

「うヴ・・・・」

そしてそのまま頭から裂けてリリーを脱ぎ捨てガリウスが現れた。


「ガリウ・・・」

「リリーはどうした。」

「リリーはお前ら案内女神がここを通らなくなってすぐに寂しさに耐え切れずに天使の森に帰ったよ。」

「よかった・・・喰ったわけじゃないんだ・・・」

「ホッとしているなよ。ヒロトが捕まっているんだぞ。」

「ああ、そうだった。ガリウス。今日こそやっつけてやるからな。」

クレタは理玖の背中に隠れて言った。

太は背中に背負っていたバックから剣を抜き取り誰よりも前に出た。

「だから、剣はダメなんだって。学習しろよ。」

「これしかないから仕方ないだろ。俺が相手になるから、ヒロトを下ろせ。」

「どうしようかなぁ・・・・」

「言っとくけど、俺はつよいぞ。」

「そうかなぁ」

「ああ、少なくともクレタよりなあぁぁぁー」

そういうと太は走りだし、力強く踏み切ると剣を大きく振りかぶってヒロトを掴んでいる腕めがけて振り下ろした。

ガリウスの腕は胴体から避けヒロトはキャラメルの池の上に落っこちた。

「ヒロト!大丈夫かぁあああああ」

「いてぇえええええ・・・・

でもよかった、キャラメルで、なにげに柔らかくて助かった。」

ガリウスの腕はすぐに再生した。そしてその勢いで太めがけて伸びてきた。

その腕に向かって剣を立て、全速力で突き進んだ。

「俺は腹が減っているんだ。こんな時に絡んでくんな、チクショウ。

理玖のばあちゃんのコロッケが食いてぇええええ」

理玖もバックから剣を出して、太と反対側へ全速力で走りガリウスに剣を向けた。

「俺は毎日、揚げものばっかりいやだあああああ。今日はカレーが食いたいいいいいいいい。」

ヒロトもバックから剣を取り出したが、カエルの手ではうまく持てなかった。

だから、剣を肩に担ぎ走って、思い切り踏み切ったあと槍投げの要領で剣を投げた。

「僕はクリームシチューがいいよおおおおおおお。」


ヒロトの剣はガリウスの左目に命中し、青色の強い光のあと空一面に黒い渦を巻きヒロトの剣を中心に吸い込まれていった。

剣が宙を舞い、キャラメルの池の真ん中に突き刺さった。


「今晩はクリームシチューだな。」

「やった!!!美味しいパンも付けてね。」

「サラダもな。」

剣を抜いてバッグに入れると背中に背負い、歩き出した。

「腹減った。早く行こうぜ。クレタ。」

「行けない・・・・」

クレタはみんなが行く方とは反対の方向を向いて小さな声で言った。

「はあ?聞こえない。大きな声で話せよ。」

「だから、行けないって。」

「何で?」

「地図と方位磁針を持ってくるの忘れちゃったんだ。

夕べ、机の上に置いて、忘れて出てきちゃったんだ・・・

だから、戻れない・・・」

「あ、それ、俺が持ってるぞ。」

太は自分のカバンの中を探り、クレタの方位磁石と角がきちんと折ってある地図を出して見せた。

「何でおまえが持ってるんだ。」

それを太から奪うように取ると、地図を広げて手で伸ばし、もう一度角をそろえてきちんとたたんだ。

「おまえが忘れてったから俺が持ってきてやったんだろ。」

「すぐ渡せよ。クレタ様忘れてますよって。おまえから言えよ。」

「何でだよ。めんどくせえな・・・」

「だから、クレタはソワソワしてたのか。何で言わないんだよ。何度もどうしたって聞いただろ。」

理玖は太とクレタの間に入って、泣きそうなクレタを止めた。

クレタが泣き出すとややこしくて、今、太も自分もとてもお腹が減って、とにかく何か食べられるところへ、さっさと出発したいと思っていた。

「うるさい。」

それでもクレタはへそを曲げて動こうとしなかった。



「クレタ、もういいじゃん。あったんだし。ね。行こ。お腹すいたし。」


ヒロトはクレタの顔を覗き込んでニコっと笑った。

太と理玖がいつも騙されるあの魔性の微笑みだった。

クレタも、その微笑みにふわっとなってつい

「うん。」

と言って立ち上がり、腕を組まれて歩き出した。

クレタがいつもの調子をとりもどし、すたすたと歩き出すと、透明の階段がすぐに表れそれを上って行った。

理玖のばあちゃんの家に行く近道だ。

クレタはヒロトと腕を組んで先頭を歩いた。

ヒロトの微笑みマジックからとけて

カエルの手が臭いと暴れだしたのは、理玖のばあちゃんの家についてからだった。
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