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二日目
いきなり道に迷う
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「クレタ・・・本当に道、わかっているんだろうな。」
「う・・・うん。」
「なんか、さっきから景色が変なんだけど。」
「う・・・うん。」
クレタの様子が朝ごはんのときとは明らかに違うことが3人にはよくわかった。
しきりにポケットに手を入れて何かを探している様子だった。
「大丈夫、いつもと変りなし。しっかりついて来い。」
そうは言うが、なんとなく自身なさげで、周りの景色も時折、ぐにゃっとよじれてそれを眺めていると酔いそうだった。
「本当にお前大丈夫か?」
太はクレタの肩に手をかけた。
「お前って言うな。俺は神様なんだぞ。クレタ様って呼べ。
気安く俺に触るな。」
「昨日までクレタって呼んでたじゃないか。」
太は手を払われたことに腹を立ててクレタの胸を掴んだ。
「やめろよ二人とも・・・少し休憩しよう。きっと疲れているんだよ。
ヒロトの手も乾いてきたし、どこか水のあるところに連れて行ってよ。」
クレタは今までなら地図を広げていたが、なぜか下の世界を一生懸命覗いた。
「わかった。ついて来いよ。」
普通ならそういうと何も言わずスタスタと歩き出すのに、下を何度も見下ろしては、見下ろしては歩いて行った。
「大丈夫か・・・なんだかいつもと様子が違うけど。」
「全然。問題ない。」
「ならいいんだけど・・・」
理玖が休ませてくれと頼んでから、まだ相当歩いた。
やっと見つけた池のそばについたときは、ヒロトの手はカッサカサになっていた。
「痛いか・・・」
「ちょっと・・・」
ヒロトの手に巻いたタオルをはがし、池の中にヒロトの手をつけた。
「あんまりキレイじゃないけど、仕方ない。
また水道があったら寄ってもらうから我慢しような。」
「うん。」
その池は濁っていた。紫と薄い黄色と濃い緑色が渦を巻いていた。
匂ってみたが、匂いは悪くはなかった。
むしろ、何か甘いお菓子のような匂いがした。
ヒロトはその奇妙な色に少し戸惑ったが、ゆっくりと指の先からその池に入れると、フッと力が抜けるような心地良さで全身が包まれていた。
熱い温泉にゆっくり肩まで浸かってフーッとなるあんな感じだ。
ヒロトはあまりの気持ちよさに、目をつむってほんわかしていた。
ヒロトが落ち着いたところで、理玖はクレタのそばへ行った。
クレタは何かソワソワと落ち着かない様子だった。
「どうした。何か困ったことでも起きたのか。」
「なんともない。」
理玖にも太にも、なんともないようには到底、見えなかった。
自分たちの行き先をクレタに託しているから心配でならなかった。
「おい、昼飯は。」
「今日はない。」
「はあ?アホか。育ち盛りだぞ。」
「我慢しろ。そんな時もある。大人になるということは我慢の積み重ねだ。」
「我慢は大人になるギリギリでするから、今はメシを食わせろ。」
太はクレタの肩を持って思い切り揺すった。
クレタは首がぐわぐわして、首にばねの入った人形のように揺すられていたので、驚いた理玖は太をからクレタを引き離した。
「クレタ・・・なにがあった?」
「何も・・・いつもと同じだ。」
「それならいい。」
理玖はそう言うとクレタの肩をポンと叩き、太のほうへ向かおうとしていた。
クレタは後ろを向いてまたポケットをぱんぱんと叩きだしたが、フッと何を思ったのか、理玖の肩を叩き呼びとめた。
「おまえ、今の一言、なんか上からって感じでムカつく。」
「そんなつもりで言ってないよ。」
「イヤ。言った。絶対言った。」
「言ってないよ。」
「言った。謝れよ。」
クレタは理玖の肩をつき飛ばした。
非力なクレタのすることだから、理玖にとってはさほどどうってことはないが、気分は良くはなかった。
「もう謝っちまえよ。こいつガキっぽいところあるから、めんどくさい。」
「はあ?なんだめんどくさいって。ガキって、お前らより年上だぞ。」
太は理玖に耳打ちしたのだけど、クレタには聞こえていた。
「おまえ、今、めんどくさいって言ったろ。」
クレタは理玖を突き飛ばして太に詰め寄っていった。
「言ってねえよ。」
「イヤ。言った。」
今日のクレタは今までとは、明らかに違っていた。
イライラはいつもしていたが、落ち着きがないというか、余裕がないというか・・・
とにかくおかしい。
でも、ホントにめんどうになって、なんかもうどうでもよくなってクレタは太に任せよう、そう思ってヒロトの様子を見に行った。
するとヒロトはずるずると少しずつ池の中に引きずりこまれていた。
「理玖助けてー。」
「ヒロト・・・」
理玖が池の淵にたどり着いた時には、ヒロトの踵が池の中に沈んでいくところだった。
「ヒロト!!!!!」
理玖がヒロトを追って池に入ろうとしたが、ガラスの蓋がされたように池の上を走るだけで、気味の悪い模様の中を覗いてもヒロトの影も形も追えなかった。
「ヒロト、ヒロト!!」
池はさっきより甘い匂いをさせて、紫と薄い黄色と濃い緑色のマーブルのキャラメルのように固まっていた。
何度も叫びながら、池の中を覗いたり叩いたりしながらヒロトを探した。
その変な行動をクレタともめていた太も気づき、理玖のもとへ向かった。
内心、あんまりにもクレタがめんどくさくて、ちょっと助かったとも思った。
「理玖、どうした。」
「ヒロトがこの池の中に引きずりこまれたんだ。助けなきゃ。」
「どこからはいる?」
「わからない・・・さっきまで池だったのに、どうなっているんだ。」
理玖と太が池の上に這いずって入口を探しているところへ、息を切らしながらやっとクレタが追いついた。
「おまえ、謝れよ。」
「チッ、しつこいな・・・まだ言ってるのか。」
太は背中を向けたまま呟いた、ほんの独り言だったがクレタには聞こえていた。
「おい!しつこいってどういうことだ。俺、神様だぞ。」
「クレタ、謝るから、これなんとかなんとかしてよ。」
「これって・・・?」
「ここさっきまで池だっただろ。
ヒロトの手を浸していたら、池の中に引きずりこまれて、そのあと固まったんだ。」
クレタは自分の足元を良くみた。
上から見た時は確かに池だった・・・はず・・・
けど、今その池だったところに乗っている・・・・
「あ・・・!」
クレタは固まった池のちょっと波だった端っこをぱきっと折って、
「これ食べてみて、美味しいよ。」
と言った。
「美味しいよって・・・」
「これキャラメルだ。この池ぜーんぶ、キャラメルだ。よかったな太、腹減っていたんだろ。」
「よかったなって・・・ヒロトはこの下にいるんだぞ、どうするんだ。」
「ぜーんぶなめたらいいじゃん。そのうち出てくるだろ。」
「ぜーんぶって、これ全部舐めるのに何日かかると思っているんだ。
俺たちは行かなきゃいけないところあるんだろ。間に合うのかよ。」
「わからないけど・・・」
「クレタ、知っててここへ連れて来たのか。わざとか。」
「わざとじゃない。・・・この森には寄らないつもりでいたのにうっかりしていた。」
「なんだよ・・・うっかりって・・・」
「うっかりすることくらい誰でもあるだろ。」
「そうだけどさ・・・ヒロトのことどうするんだよ。」
「今、考えてる。」
考えている様子はなかった。
考えているより途方に暮れるといったほうが圧倒的に正しい。
「クレタ本当に考えてるのか。」
「もう、うるさい」
クレタは太に向かって拳骨を振り上げた。
理玖はその手を握って止めた。
クレタの拳がうっかり太に当たって太が本気で怒ったら、それこそ取り返しがつかなくなることは目に見えていた。
「このキャラメルを割る方法を本当は知っているんだろ?
教えてくれよ。どうしてもヒロトを助けたいんだ。」
「まあ、理玖がどうしても、っていうなら教えてあげなくもないけど。」
「なんでもするよ。」
クレタはポケットから手動ドリルと取扱説明書を理玖に渡した。
「これで池を割るんだ。少しヒビが入るだけで中から現れるはずだ。」
「何が?」
「俺の大嫌いな奴。」
「誰。」
「リリー・・・リリー・キャラメル。」
「お菓子か?」
理玖はしゃがみこみ、地味に手動ドリルで穴を開け始めた。
太とクレタは理玖が穴をあけているのを覗き込んでいた。
「お菓子じゃない。あいつは・・・悪魔だ。」
「今度は悪魔か・・・」
「甘い匂いで誘って迷わせるんだ。」
「なんか、甘い匂いとは別な感じで迷っていたような気がしていたけど。」
「ここはめんどくさいから避けて通れって聞いていたのに、失敗した。」
クレタがよくわからないことで苦悩しているその時、少しずつ足元にヒビが入って来た。
だから、そこから現れた。
「久しぶり、クレタ。」
「リリー・・・」
その人はピンクの髪にチョコレート色の肌、紫のラメのワンピースを着た男の人だった。
「近いな、何でこんなに近くに現れるんだよ。」
「ここが割れたからだろ。」
クレタと太と理玖が囲った真ん中にすっぽりと修まる格好で登場した。
「クレタ、いつぶり?今日はチョコレートリリーよ。」
クレタはリリーに肩を組まれて露骨に嫌な顔をした。
「今日はって、日替わりで色が違うのか?」
「味も違うんだよ。」
リリーは太の口のまえに人差し指を出した。
太は何のためらいもなくパクッとくわえた。
「ホントだ・・・チョコだ。うまい。」
「よくそんなもの食べられるな。」
「クレタも食べろよ。お腹すいているだろ。」
「俺は絶対に食べない。プライドがあるからな。悪魔の食べ物は食べない。」
「あ、そ。理玖も食べてみろよ。おいしいぞ。」
「君が理玖君か・・・君にはこれをあげよう。」
リリーはその裂け目からデカイなにかを引っ張りあげた。
「ヒロト・・・」
それはヒロトの等身大のなにかだった。
「ベリーミックスのヒロト、ミルクチョコのヒロト、ビターなヒロト、
メロンチョコのヒロト、ホワイトチョコのヒロト、チョコミントのヒロト、
カカオが多めのヒロト、クッキーいりチョコのヒロト、
オレンジピュレチョコのヒロト・・・・」
太と理玖は息を飲んだ。
そしてそれはまだまだまだ続いた。
「抹茶チョコのヒロト、紅茶味チョコのヒロト、
一味いりチョコのヒロト、黒ゴマチョコのヒロト、きな粉チョコのヒロト・・・」
「もういいよ。この中のどこに本物のヒロトが入っているんだ。俺たちに探させる・・・そういうゲームか。」
「違うよ。これは、ヒロトの型を取って作っただけだよ。
パクッと食べてヒロトがドローンなんて、そんなエグい事は僕はしないよ。」
「だったらヒロト出せよ。」
「本物は今ダメだ。手が離せない。」
「おまえ、まさか縛ったり牢屋に入れたり、してないだろうな。」
「残念ながら、僕にはそんな趣味はないよ。」
「だったらヒロト出せよ。」
「ここへ連れて来ることは出来ないけど、ヒロトのところへ連れて行くことは出来るよ。」
「どこだよそれ。」
「すぐそこだよ。行くかい?」
「行くよ。」
「罠だよ。ダメだよついて行ったら。」
クレタは太と理玖の腕を引っ張ってとめた。
「帰れなくなったらどうするんだ。」
「ヒロトだけ置いて行けない。一緒に行くんだ。」
「でも、危ないよ。こいつについて行ったら何されるかわからない。」
「相変わらず臆病だなクレタは。」
リリーは、クレタに顔を近ずけてニマッと一度笑い、軽くジャンプした。
着地した足元に下に降りるエスカレーターが現れ、リリーはそれに乗った。
理玖も太もそれに続き、クレタも太の腕にしがみついたまま乗った。
そして10秒もしないうちにその場所についた。
「う・・・うん。」
「なんか、さっきから景色が変なんだけど。」
「う・・・うん。」
クレタの様子が朝ごはんのときとは明らかに違うことが3人にはよくわかった。
しきりにポケットに手を入れて何かを探している様子だった。
「大丈夫、いつもと変りなし。しっかりついて来い。」
そうは言うが、なんとなく自身なさげで、周りの景色も時折、ぐにゃっとよじれてそれを眺めていると酔いそうだった。
「本当にお前大丈夫か?」
太はクレタの肩に手をかけた。
「お前って言うな。俺は神様なんだぞ。クレタ様って呼べ。
気安く俺に触るな。」
「昨日までクレタって呼んでたじゃないか。」
太は手を払われたことに腹を立ててクレタの胸を掴んだ。
「やめろよ二人とも・・・少し休憩しよう。きっと疲れているんだよ。
ヒロトの手も乾いてきたし、どこか水のあるところに連れて行ってよ。」
クレタは今までなら地図を広げていたが、なぜか下の世界を一生懸命覗いた。
「わかった。ついて来いよ。」
普通ならそういうと何も言わずスタスタと歩き出すのに、下を何度も見下ろしては、見下ろしては歩いて行った。
「大丈夫か・・・なんだかいつもと様子が違うけど。」
「全然。問題ない。」
「ならいいんだけど・・・」
理玖が休ませてくれと頼んでから、まだ相当歩いた。
やっと見つけた池のそばについたときは、ヒロトの手はカッサカサになっていた。
「痛いか・・・」
「ちょっと・・・」
ヒロトの手に巻いたタオルをはがし、池の中にヒロトの手をつけた。
「あんまりキレイじゃないけど、仕方ない。
また水道があったら寄ってもらうから我慢しような。」
「うん。」
その池は濁っていた。紫と薄い黄色と濃い緑色が渦を巻いていた。
匂ってみたが、匂いは悪くはなかった。
むしろ、何か甘いお菓子のような匂いがした。
ヒロトはその奇妙な色に少し戸惑ったが、ゆっくりと指の先からその池に入れると、フッと力が抜けるような心地良さで全身が包まれていた。
熱い温泉にゆっくり肩まで浸かってフーッとなるあんな感じだ。
ヒロトはあまりの気持ちよさに、目をつむってほんわかしていた。
ヒロトが落ち着いたところで、理玖はクレタのそばへ行った。
クレタは何かソワソワと落ち着かない様子だった。
「どうした。何か困ったことでも起きたのか。」
「なんともない。」
理玖にも太にも、なんともないようには到底、見えなかった。
自分たちの行き先をクレタに託しているから心配でならなかった。
「おい、昼飯は。」
「今日はない。」
「はあ?アホか。育ち盛りだぞ。」
「我慢しろ。そんな時もある。大人になるということは我慢の積み重ねだ。」
「我慢は大人になるギリギリでするから、今はメシを食わせろ。」
太はクレタの肩を持って思い切り揺すった。
クレタは首がぐわぐわして、首にばねの入った人形のように揺すられていたので、驚いた理玖は太をからクレタを引き離した。
「クレタ・・・なにがあった?」
「何も・・・いつもと同じだ。」
「それならいい。」
理玖はそう言うとクレタの肩をポンと叩き、太のほうへ向かおうとしていた。
クレタは後ろを向いてまたポケットをぱんぱんと叩きだしたが、フッと何を思ったのか、理玖の肩を叩き呼びとめた。
「おまえ、今の一言、なんか上からって感じでムカつく。」
「そんなつもりで言ってないよ。」
「イヤ。言った。絶対言った。」
「言ってないよ。」
「言った。謝れよ。」
クレタは理玖の肩をつき飛ばした。
非力なクレタのすることだから、理玖にとってはさほどどうってことはないが、気分は良くはなかった。
「もう謝っちまえよ。こいつガキっぽいところあるから、めんどくさい。」
「はあ?なんだめんどくさいって。ガキって、お前らより年上だぞ。」
太は理玖に耳打ちしたのだけど、クレタには聞こえていた。
「おまえ、今、めんどくさいって言ったろ。」
クレタは理玖を突き飛ばして太に詰め寄っていった。
「言ってねえよ。」
「イヤ。言った。」
今日のクレタは今までとは、明らかに違っていた。
イライラはいつもしていたが、落ち着きがないというか、余裕がないというか・・・
とにかくおかしい。
でも、ホントにめんどうになって、なんかもうどうでもよくなってクレタは太に任せよう、そう思ってヒロトの様子を見に行った。
するとヒロトはずるずると少しずつ池の中に引きずりこまれていた。
「理玖助けてー。」
「ヒロト・・・」
理玖が池の淵にたどり着いた時には、ヒロトの踵が池の中に沈んでいくところだった。
「ヒロト!!!!!」
理玖がヒロトを追って池に入ろうとしたが、ガラスの蓋がされたように池の上を走るだけで、気味の悪い模様の中を覗いてもヒロトの影も形も追えなかった。
「ヒロト、ヒロト!!」
池はさっきより甘い匂いをさせて、紫と薄い黄色と濃い緑色のマーブルのキャラメルのように固まっていた。
何度も叫びながら、池の中を覗いたり叩いたりしながらヒロトを探した。
その変な行動をクレタともめていた太も気づき、理玖のもとへ向かった。
内心、あんまりにもクレタがめんどくさくて、ちょっと助かったとも思った。
「理玖、どうした。」
「ヒロトがこの池の中に引きずりこまれたんだ。助けなきゃ。」
「どこからはいる?」
「わからない・・・さっきまで池だったのに、どうなっているんだ。」
理玖と太が池の上に這いずって入口を探しているところへ、息を切らしながらやっとクレタが追いついた。
「おまえ、謝れよ。」
「チッ、しつこいな・・・まだ言ってるのか。」
太は背中を向けたまま呟いた、ほんの独り言だったがクレタには聞こえていた。
「おい!しつこいってどういうことだ。俺、神様だぞ。」
「クレタ、謝るから、これなんとかなんとかしてよ。」
「これって・・・?」
「ここさっきまで池だっただろ。
ヒロトの手を浸していたら、池の中に引きずりこまれて、そのあと固まったんだ。」
クレタは自分の足元を良くみた。
上から見た時は確かに池だった・・・はず・・・
けど、今その池だったところに乗っている・・・・
「あ・・・!」
クレタは固まった池のちょっと波だった端っこをぱきっと折って、
「これ食べてみて、美味しいよ。」
と言った。
「美味しいよって・・・」
「これキャラメルだ。この池ぜーんぶ、キャラメルだ。よかったな太、腹減っていたんだろ。」
「よかったなって・・・ヒロトはこの下にいるんだぞ、どうするんだ。」
「ぜーんぶなめたらいいじゃん。そのうち出てくるだろ。」
「ぜーんぶって、これ全部舐めるのに何日かかると思っているんだ。
俺たちは行かなきゃいけないところあるんだろ。間に合うのかよ。」
「わからないけど・・・」
「クレタ、知っててここへ連れて来たのか。わざとか。」
「わざとじゃない。・・・この森には寄らないつもりでいたのにうっかりしていた。」
「なんだよ・・・うっかりって・・・」
「うっかりすることくらい誰でもあるだろ。」
「そうだけどさ・・・ヒロトのことどうするんだよ。」
「今、考えてる。」
考えている様子はなかった。
考えているより途方に暮れるといったほうが圧倒的に正しい。
「クレタ本当に考えてるのか。」
「もう、うるさい」
クレタは太に向かって拳骨を振り上げた。
理玖はその手を握って止めた。
クレタの拳がうっかり太に当たって太が本気で怒ったら、それこそ取り返しがつかなくなることは目に見えていた。
「このキャラメルを割る方法を本当は知っているんだろ?
教えてくれよ。どうしてもヒロトを助けたいんだ。」
「まあ、理玖がどうしても、っていうなら教えてあげなくもないけど。」
「なんでもするよ。」
クレタはポケットから手動ドリルと取扱説明書を理玖に渡した。
「これで池を割るんだ。少しヒビが入るだけで中から現れるはずだ。」
「何が?」
「俺の大嫌いな奴。」
「誰。」
「リリー・・・リリー・キャラメル。」
「お菓子か?」
理玖はしゃがみこみ、地味に手動ドリルで穴を開け始めた。
太とクレタは理玖が穴をあけているのを覗き込んでいた。
「お菓子じゃない。あいつは・・・悪魔だ。」
「今度は悪魔か・・・」
「甘い匂いで誘って迷わせるんだ。」
「なんか、甘い匂いとは別な感じで迷っていたような気がしていたけど。」
「ここはめんどくさいから避けて通れって聞いていたのに、失敗した。」
クレタがよくわからないことで苦悩しているその時、少しずつ足元にヒビが入って来た。
だから、そこから現れた。
「久しぶり、クレタ。」
「リリー・・・」
その人はピンクの髪にチョコレート色の肌、紫のラメのワンピースを着た男の人だった。
「近いな、何でこんなに近くに現れるんだよ。」
「ここが割れたからだろ。」
クレタと太と理玖が囲った真ん中にすっぽりと修まる格好で登場した。
「クレタ、いつぶり?今日はチョコレートリリーよ。」
クレタはリリーに肩を組まれて露骨に嫌な顔をした。
「今日はって、日替わりで色が違うのか?」
「味も違うんだよ。」
リリーは太の口のまえに人差し指を出した。
太は何のためらいもなくパクッとくわえた。
「ホントだ・・・チョコだ。うまい。」
「よくそんなもの食べられるな。」
「クレタも食べろよ。お腹すいているだろ。」
「俺は絶対に食べない。プライドがあるからな。悪魔の食べ物は食べない。」
「あ、そ。理玖も食べてみろよ。おいしいぞ。」
「君が理玖君か・・・君にはこれをあげよう。」
リリーはその裂け目からデカイなにかを引っ張りあげた。
「ヒロト・・・」
それはヒロトの等身大のなにかだった。
「ベリーミックスのヒロト、ミルクチョコのヒロト、ビターなヒロト、
メロンチョコのヒロト、ホワイトチョコのヒロト、チョコミントのヒロト、
カカオが多めのヒロト、クッキーいりチョコのヒロト、
オレンジピュレチョコのヒロト・・・・」
太と理玖は息を飲んだ。
そしてそれはまだまだまだ続いた。
「抹茶チョコのヒロト、紅茶味チョコのヒロト、
一味いりチョコのヒロト、黒ゴマチョコのヒロト、きな粉チョコのヒロト・・・」
「もういいよ。この中のどこに本物のヒロトが入っているんだ。俺たちに探させる・・・そういうゲームか。」
「違うよ。これは、ヒロトの型を取って作っただけだよ。
パクッと食べてヒロトがドローンなんて、そんなエグい事は僕はしないよ。」
「だったらヒロト出せよ。」
「本物は今ダメだ。手が離せない。」
「おまえ、まさか縛ったり牢屋に入れたり、してないだろうな。」
「残念ながら、僕にはそんな趣味はないよ。」
「だったらヒロト出せよ。」
「ここへ連れて来ることは出来ないけど、ヒロトのところへ連れて行くことは出来るよ。」
「どこだよそれ。」
「すぐそこだよ。行くかい?」
「行くよ。」
「罠だよ。ダメだよついて行ったら。」
クレタは太と理玖の腕を引っ張ってとめた。
「帰れなくなったらどうするんだ。」
「ヒロトだけ置いて行けない。一緒に行くんだ。」
「でも、危ないよ。こいつについて行ったら何されるかわからない。」
「相変わらず臆病だなクレタは。」
リリーは、クレタに顔を近ずけてニマッと一度笑い、軽くジャンプした。
着地した足元に下に降りるエスカレーターが現れ、リリーはそれに乗った。
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