クレタとカエルと騎士

富井

文字の大きさ
22 / 50
四日目の午後

めんどくさいクレタ

しおりを挟む
けれど、ほんの三十分ほどの一番気持ちよく深く眠れたくらいの時におこされた。
「おい、理玖、勝手に寝るな。」

「なんだよ・・・クレタか・・・もっと風呂に入っていればいいだろ・・・起こすなよ。」
「だめだ、寝るな。」
「なんだよ、なんか大切な用があるのか?」
「俺が暇だ。だから寝るな。」

「クレタも昼寝しろよ・・・」

「寝れない。さっき池のほとりで爆睡したから眠くない。」

「だったら本でも読んでいたらいいだろ・・・」

「目が悪くなったらどうする。」

「じゃあ、ベジービーと話しして来いよ・・・」

「忙しいって。」
「じゃあ、散歩でもして来いよ・・・」
「一人じゃいやだ。」

「もー・・・・」

理玖は布団を頭からかぶってクレタのバカな話を聞かないことにした。けれど、布団を引っ張ったり、体を揺らしたり、ついには布団の中へもぐって来た。
「ねえ、ねえ、ねえ、おきろよ。俺が退屈なんだって。」

「知るかよ・・・」

「なんでだよ。この俺が、暇なんだぞ。可哀そうだろ。」
「べつに・・・寝かせてくれよ・・・」
「いやだ・・・いやだ・・・起きろよー起きろって。」

「うるさい!!」

太が怒って怒鳴った。太は寝起きがすこぶる悪い。特に、寝入り端を無理に起こされた時が最高に機嫌が悪い。太は眠ったままクレタを蹴った。

「お前誰に向かって・・・」

「もうやめとけよ、ぼこぼこにされるぞ。俺知らないからな。」

今度はクレタは泣き出した。グスグスと鼻をすすり、理玖の背中にしがみついてきた。

「めんどくせえな・・・」

理玖は太とヒロトを起こさないように、そっと起きて布団を直すと、クレタを連れて店に行った。
クレタの着るものは洗濯中で、貧相な細細の体にベジービーのランニングシャツを借りて着ていた。
「あ、もう起きたのか。」
「本当はもっと眠っていたかったんですけど・・・」
「クレタか・・・しょうがねえ奴だな・・・」
顔色の悪い理玖の後ろに、最高にテンションの高い風呂上がりのクレタの姿を見つけて、やれやれ・・・可哀そうに、と同情した。
「なあ、理玖、暇だから散歩してくる?」
「お前、暇ならサントさんのところ行ってこいよ。」
「えーやだ。行かない。第一、あの爺さん、まだ生きてんの?」
「お前を待っているんだぞ。お前が途中で放り出すから死ねないんだ。」
「なんだよ、俺のせいかよ。しらねえよ。行かねえ。」
「ここからならそう遠くはない、車かしてやるから行ってこいよ。」
ベジービーは車のカギをポケットから取り出し、クレタの手のひらに乗せようとしたが、手を引っ込めて後ろで組んだ。
「行かねえって。理玖、気分悪いからくるっと散歩してくるぞ。ついて来い。」
クレタは立ちふさがったベジービーの体を細―くなってよけ、店から外へ飛び出した。
理玖も又、クレタを追って店の外へと飛び出した。
「クレタ、行かなくていいのか?」

「なんでだよ。ここは楽しいところいっぱいあるんだぜ。鬼も来ないし。遊ぼうぜ。」
「サントさんって誰だよ。」

「しらねえ。お前にも俺にも関係のない人だ。」

クレタはゲームセンターめがけて走って行った。そしてこれ以上ないほど遊び回った。理玖はポツンとベンチに座り、転寝を始めた。

「こら、お前も遊べ。」

「どうやって遊んでいいかわからないよ。こういう場所に行ったことないんだ。」
「教えてやるよ。」
「いいよ。クレタ遊んできなよ。俺ここで見てる。」

「やだ。一緒に遊ぶ。」

クレタは駄々っ子のように体を左右に振って理玖に甘えた。クレタは今までの経験上、こうすれば、対外わがままが通ると信じていたが、少しくたびれていた理玖には、ただめんどくさいだけだった。

「ごめん。無理。」

理玖はベンチから立ち上がるどころか、寝転がった。

そんな理玖の手をぐいっと引っ張って遊園地に連れて行き、コーヒーカップに乗せた。
「これなら乗ってるだけだからいいだろ。俺が回すから。」
クレタはコーヒーカップがゆっくりと動き始めると同時に、テンションが上がりハンドルをぐるぐる回し始めた。ただでさえ調子が悪い理玖はヘロヘロになったが、クレタのテンションは上がる一方だった。つぎはメリーゴーランド、ゴーカートと、理玖を散々連れ回した。理玖は僅かに残った気力を振り絞って立ち上がり、クレタに向かって一言、
「もう帰る。」
と言った。
「あと一個だけ。後、一個乗ったら帰るから。お願い!!」
「絶対だな。」
「うん。うん。絶対!」
理玖は肩で息をして、やっと立っているような状態だった。クレタはぎゅっと腕を掴むと今度は観覧車にムリクリ押し込んだ。
「これならいいだろ。ラクチンで楽しい!!」
理玖は高所恐怖症だった。
キャアキャアはしゃぐクレタとは逆に、どんどん顔色も悪くなって、体の力も抜けて窓に頭をくっつけてダルダルっと溶けてようにすわった。
「やばい・・・気持ち悪い・・・」

「そうやって真下を見るから気分が悪くなるんだって。遠くを見ろよ。遠くを。
きれいな景色だろ・・・」

理玖もほんの少しだけ視線を上にあげた。景色は理玖たちが住んでいた町の景色とはだいぶ違って、空は七色に輝き、水は青く、草木は美しい緑。豊かな色彩にキラキラと光の粒が輝いていた。みんな幸せそうで、みんな仲良し。それが見ているだけでよくわかった。
「なんだか、見える景色が変わって来たね。」

「だいぶ近づいてきたからな・・・・ゴールに・・・ほら、あのピンクと薄紫が混じったようなあそこ・・・あそこに俺の家があるんだ。パパまってるだろうなー・・・あー、早く家に帰りたい・・・」

「パパ・・・」

「あ・・・」

クレタは気まずくなって、理玖とは反対側の窓を見た。

理玖は観覧車が昇っていくごとに少しずつ変わる景色に見とれていた。気分も少しづつよくなっていくように感じた。

みんなが幸せそうな中、少し離れた広場にポツンと一人立つ寂しそうな老人がいた。

その老人の立っている広場だけが色のない荒れ果てた荒野で、上空には大きな鳥が一羽、飛んでいた。

「クレタ・・・あそこは何?あの人は鳥を飼っているの?」
「なに?どれ?」
「ほら、あの広場に一人立っている人・・・」
「あ・・・サントさん・・・」

クレタの顔色が変わった。さっきまで子供のようにはしゃいで笑い転げていた顔が、一気に深い後悔と懺悔・・・悲しそうで苦しそうな顔に変わった。

遠くにいるその人の表情もなぜか手に取るように分かった。

怒ってはいない。

それより、会えた事を喜んでいる。

そして、ただ・・・心配している。病院で見た父母や祖母のあの表情に似ていた。

「クレタのことを待っている人だろ?行かなくていいのか?」
「いい。」
「誰?」
「知らない人。」
クレタは反対側の窓のほうへ移動した。理玖はその老人の祈るような目にくぎ付けだった。長く伸びた白髪、長く伸びた髭。かなりそこに長くいたのだろう、足は地面に埋まりかかっている。
「知らない人じゃないだろ。誰?」

「知らないって・・・」

観覧車が下降し始めてその老人の姿が徐々に見えなくなると、その目は途轍もなく悲しい目に変わっていった。

「本当に会いに行かなくっていいのか?」
「いい。」

観覧車が到着すると、クレタは走って飛び出していった。

理玖は走って追いかける力も残っていなくて、よろよろと壁伝いに体を引きずるようにしてベジービーのお店に帰って行った。行きはクレタに引っ張られてきたから、そんなに遠くはないと思っていたが、いつまで歩いてもつかないし、しかも道が分からない・・・で、その場にぶっ倒れた。

空が青かったり、緑だったり、黄色だったり・・・きれいだな・・・と思いながら静かに目を閉じて行った。

こんなところで俺は終わるのか・・・と、理玖が一筋涙をこぼしたとき、誰かにひょいっと抱っこされた。

ベジービーだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

処理中です...