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旅の終わり
変らない友情を誓う!
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「それにしても真っ暗だな・・・・」
「空の様子も、通り過ぎる風景も何もない。夜って言うより、押し入れの中にでも入れられているような感じだな。」
「押し入れか・・・懐かしいな。悪さをしたときは入れられたっけ。」
「俺なんか、理玖と喧嘩するたびに入れられてたから、ほぼ毎日入ってた。押し入れに物が入れられないって、親が怒ってたなぁ・・・・」
「じゃあ、帰ったら押し入れに物を片付けるのを手伝ってやれよ。」
「そうする。しっかし・・・クレタはダメだな。まだ眠ってる。考えてみれば、俺達にクレタは必要なかったな。」
「案内らしきものはあまりなかったよな・・・」
「会ったときはスタスタと勝手に歩いて行っちゃうし、何も話さないし。」
「仕方ないだろ。俺は人見知りなんだから。」
三人の肩寄せ合っているところに、いつの間にかクレタの顔もあった。
「起きていたのか・・・いつからそこに居たんだ。」
「クレタはダメだな・・・のところからだ。」
「本当に悪口には敏感な奴だ。」
太は、ぽそっと呟いた。
「なに?また何か言ったか?」
「何も言ってねぇよ。」
「言っただろ。また、悪口!言った。」
「もうあとわずかでお別れなんだから、仲良くしろよ。」
「そうだね。クレタも一週間ありがとう。弱いのによく頑張ってくれたね。」
「弱いのには余分だ。けど、俺は本当によく頑張った。やっとゆっくり風呂に入って眠れる。この汚いジャージともおさらばだ。」
「汚いって、それは俺のジャージだぞ。武器はポケットに入れたままでもいいから、洗濯だけはして返せよ。ガリウスには数学の本を失くされるし、また買わないといけないや。教科書ってどこに売ってるんだ?」
「さあ?」
「お前らさ、帰らずに俺といろよ。俺の屋敷で雇ってやるよ。太は俺のボディガード、理玖は家庭教師、ヒロトは・・・ペットでどうだ。」
「やだよ。なんで僕がペットなんだ。」
「カエルだからだろ。」
「なんでだよ。いつまでもカエル、カエルって。直してもらって元いた場所に三人で帰るんだ。」
「なあ、太、今カエルと帰るをかけた?ねえ、かけた?」
王子さまはこの一週間で、すっかり駄洒落にはまっていた。
「かけてねぇって、俺達は元居た場所に帰って、もう一回始めるんだ。」
「何を?」
「何をって・・・・もう一度人生をやり直すんだ。始まったばかりで止まったままだからな。クレタはこっちの世界から俺達のことを見守っていてくれよ。」
「えーいやだな・・・」
「どうせ暇なんだろ。」
「暇だけどさー・・・」
「もう、その終わりのない話やめろよ。それよりクレタ何か知らないか?延々とこの暗い道を走っているんだけど、この道はあっているのか?」
「やけに暗いよね・・・」
「合ってるんじゃないの。リリーも言ってたじゃん。真っすぐだって。」
「言ってたじゃん、じゃなくて、クレタが案内係なんだから、最後くらいしっかりしろよ。」
「ムリ。地図だってダメになったし、後はカンで行くしかない!」
「カンか・・・クレタのカンなんて、一番頼りにならないヤツだ。」
「俺もそう思う。」
クレタの表情もわからないほどの闇の中にいた。けれど三人は、きっとクレタはむかつくへらっとした顔で自分達を見ているに違いないと想像していた。
(いっそここで車から落っことしてやろうか)
とも考えていたが、それをしたばっかりに元の世界に戻れないなんてことになったらそれこそ身も蓋もない。今までの苦労が全く報われないまま終わりを迎えるなんて、三人には一番バッドエンドだ。
(我慢、我慢・・・あと少しの辛抱だ・・・・)
だが、あと少しは意外に長かった。行けども行けども闇の中で、この道は正しいのか、間違っているのかもわからないほど黒一色。
わからないと言うストレスが、次第に三人の心に苛立ちを覚えさせた。
そんな三人のいらだちとは裏腹に、クレタは鼻歌を歌いだした。
「やけに楽しそうだな。」
「そりゃあそうさ。やっと家に帰れるんだ・お前らだってそうだろ。
花びらがいっぱい浮かんだお風呂で、手も足も延ばして、侍女たちに体を洗ってもらうんだ。パパ待ってるだろうな・・・・俺が案内に行くって決まっておろおろしてたもんな・・・帰ったらきっとすっごく喜ぶと思うんだ!」
「パパねぇ・・・・」
「お前らも楽しいこと考えろよ。俺のカンではあと20分もしないうちに出口に到達すると思うんだ!だから、それまで、戻ったらやることを考えておかないと!
帰ったら風呂の先に飯かな・・・・パンケーキ・・・甘いものはもういい!
裂きイカで一杯。」
「クレタって酒飲むのか。もう大人だもんな。」
「いや、飲まない。飲むのは牛乳。俺は大人のように見えて9歳だ。見た目は大人、頭脳は子供。」
「すげー厄介・・・ベジービーとかリリーは大人だったじゃないか。」
「あいつらはちゃんと学校を卒業して、単位をもらったから見た目も頭脳も心も大人。俺はちゃんと卒業していないから子供のままだけど、今回だけは大人の姿にしてもらったんだ。子供だとバカにされるだろ。
それに、ベジービーとかに会った時もかっこ悪いじゃないか、まだ単位取れてないのかって、バレバレだし。」
「なんか、その姿でいてもばれてた気がする・・・・」
「でも、俺って頑張ったよな!ご褒美何にしようかな・・・・」
クレタはとても楽しそうだった。暗闇の中で、表情はいま一つ見えず、クレタの声だけでかえってよかった。
(幸せそうな顔を見たらやっぱ車から突き落としてる・・・)
と考えていた。
「ねえ、僕達も考えようよ。何か楽しい事。帰ったら一番に何がしたい?」
「・・・・」
「ねえ、ひょっとして、理玖も太も、僕に気を使って喜べないとか・・・考えている?
僕のことなんて気にしないで、帰ったら何がしたいか教えてよ。」
「・・・・」
理玖も太も何も言えなかった。二人には帰ったら喜んでくれる家族がいたし、帰る家もある。母親が作ってくれる暖かい食事も、風呂も待っている。
帰ったらかなえたい夢も希望もある。けれど、ヒロトにはその一つもない。
「俺は・・・・」
ヒロトのそれをすべて理解したうえで、太がカエルの手をぐっと握って声をかけた。
「俺は帰ったらまず飯が食いたい。母親の作った飯もいいけど、コンビニの肉まんも学校の傍のラーメン屋も、寮の傍のお好み焼きも全部食って回る。ヒロトも一緒に連れて行く。一緒に回ろう。風呂は俺んちで入ればいい。何ならそのまま家に住めばいい。」
「じゃあ・・・俺も一緒に連れて行けよ。俺は外食はしたことがないから連れてはいけないけど・・・ばあちゃんちのレストランでエビフライとか、コロッケとか・・・」
「おお、いいな。その時は俺も参加するぞ。」
クレタはヒロトの肩を組んだ。運転席と助手席の狭い間にヒロトとクレタの二人が身を乗り出した。
「なんか、食い物のことばかりを考えていたら腹が減って来た。違うことを考えよう。」
「理玖はまた帰ったら勉強漬けの日々になるんだろ。」
「たぶんな。太もサッカーだろ?」
「ああ・・・少し離れてみてわかったんだ。もっともっとやりたい。今やっておかないとダメだと言うことが。だから、帰って、さっさとけがを直して、思う存分サッカーをやる。
もう、邪魔すんなよ。あのクソ青いシャツは捨てろ。」
「そうするよ。俺も一生懸命勉強して・・・その先何になるかはちょっと考える。
もっと別の道もあるのかな・・・って思った。けど、勉強は続ける。
ヒロトはケーキを作るんだろ?」
「うん・・・そうだね。リリーやベジービーみたいな仕事ができればいいかな・・・って。」
「だったら、ばあちゃんの店でバイトしろよ。二階に住んでもいいぞ。」
「ありがとう。二人とも僕に気を使ってくれて・・・」
ヒロトは泣いていた。
元はと言えばという話になれば、攻められてこの場所に一人ぼっちで捨てられてもおかしくないのに、最後まで友達でいてくれた二人の心が、これから先も友達でいてくれる二人の気持ちが、うれしくて、うれしくて、うれしくて、言葉に出来ずに泣いていた。
「空の様子も、通り過ぎる風景も何もない。夜って言うより、押し入れの中にでも入れられているような感じだな。」
「押し入れか・・・懐かしいな。悪さをしたときは入れられたっけ。」
「俺なんか、理玖と喧嘩するたびに入れられてたから、ほぼ毎日入ってた。押し入れに物が入れられないって、親が怒ってたなぁ・・・・」
「じゃあ、帰ったら押し入れに物を片付けるのを手伝ってやれよ。」
「そうする。しっかし・・・クレタはダメだな。まだ眠ってる。考えてみれば、俺達にクレタは必要なかったな。」
「案内らしきものはあまりなかったよな・・・」
「会ったときはスタスタと勝手に歩いて行っちゃうし、何も話さないし。」
「仕方ないだろ。俺は人見知りなんだから。」
三人の肩寄せ合っているところに、いつの間にかクレタの顔もあった。
「起きていたのか・・・いつからそこに居たんだ。」
「クレタはダメだな・・・のところからだ。」
「本当に悪口には敏感な奴だ。」
太は、ぽそっと呟いた。
「なに?また何か言ったか?」
「何も言ってねぇよ。」
「言っただろ。また、悪口!言った。」
「もうあとわずかでお別れなんだから、仲良くしろよ。」
「そうだね。クレタも一週間ありがとう。弱いのによく頑張ってくれたね。」
「弱いのには余分だ。けど、俺は本当によく頑張った。やっとゆっくり風呂に入って眠れる。この汚いジャージともおさらばだ。」
「汚いって、それは俺のジャージだぞ。武器はポケットに入れたままでもいいから、洗濯だけはして返せよ。ガリウスには数学の本を失くされるし、また買わないといけないや。教科書ってどこに売ってるんだ?」
「さあ?」
「お前らさ、帰らずに俺といろよ。俺の屋敷で雇ってやるよ。太は俺のボディガード、理玖は家庭教師、ヒロトは・・・ペットでどうだ。」
「やだよ。なんで僕がペットなんだ。」
「カエルだからだろ。」
「なんでだよ。いつまでもカエル、カエルって。直してもらって元いた場所に三人で帰るんだ。」
「なあ、太、今カエルと帰るをかけた?ねえ、かけた?」
王子さまはこの一週間で、すっかり駄洒落にはまっていた。
「かけてねぇって、俺達は元居た場所に帰って、もう一回始めるんだ。」
「何を?」
「何をって・・・・もう一度人生をやり直すんだ。始まったばかりで止まったままだからな。クレタはこっちの世界から俺達のことを見守っていてくれよ。」
「えーいやだな・・・」
「どうせ暇なんだろ。」
「暇だけどさー・・・」
「もう、その終わりのない話やめろよ。それよりクレタ何か知らないか?延々とこの暗い道を走っているんだけど、この道はあっているのか?」
「やけに暗いよね・・・」
「合ってるんじゃないの。リリーも言ってたじゃん。真っすぐだって。」
「言ってたじゃん、じゃなくて、クレタが案内係なんだから、最後くらいしっかりしろよ。」
「ムリ。地図だってダメになったし、後はカンで行くしかない!」
「カンか・・・クレタのカンなんて、一番頼りにならないヤツだ。」
「俺もそう思う。」
クレタの表情もわからないほどの闇の中にいた。けれど三人は、きっとクレタはむかつくへらっとした顔で自分達を見ているに違いないと想像していた。
(いっそここで車から落っことしてやろうか)
とも考えていたが、それをしたばっかりに元の世界に戻れないなんてことになったらそれこそ身も蓋もない。今までの苦労が全く報われないまま終わりを迎えるなんて、三人には一番バッドエンドだ。
(我慢、我慢・・・あと少しの辛抱だ・・・・)
だが、あと少しは意外に長かった。行けども行けども闇の中で、この道は正しいのか、間違っているのかもわからないほど黒一色。
わからないと言うストレスが、次第に三人の心に苛立ちを覚えさせた。
そんな三人のいらだちとは裏腹に、クレタは鼻歌を歌いだした。
「やけに楽しそうだな。」
「そりゃあそうさ。やっと家に帰れるんだ・お前らだってそうだろ。
花びらがいっぱい浮かんだお風呂で、手も足も延ばして、侍女たちに体を洗ってもらうんだ。パパ待ってるだろうな・・・・俺が案内に行くって決まっておろおろしてたもんな・・・帰ったらきっとすっごく喜ぶと思うんだ!」
「パパねぇ・・・・」
「お前らも楽しいこと考えろよ。俺のカンではあと20分もしないうちに出口に到達すると思うんだ!だから、それまで、戻ったらやることを考えておかないと!
帰ったら風呂の先に飯かな・・・・パンケーキ・・・甘いものはもういい!
裂きイカで一杯。」
「クレタって酒飲むのか。もう大人だもんな。」
「いや、飲まない。飲むのは牛乳。俺は大人のように見えて9歳だ。見た目は大人、頭脳は子供。」
「すげー厄介・・・ベジービーとかリリーは大人だったじゃないか。」
「あいつらはちゃんと学校を卒業して、単位をもらったから見た目も頭脳も心も大人。俺はちゃんと卒業していないから子供のままだけど、今回だけは大人の姿にしてもらったんだ。子供だとバカにされるだろ。
それに、ベジービーとかに会った時もかっこ悪いじゃないか、まだ単位取れてないのかって、バレバレだし。」
「なんか、その姿でいてもばれてた気がする・・・・」
「でも、俺って頑張ったよな!ご褒美何にしようかな・・・・」
クレタはとても楽しそうだった。暗闇の中で、表情はいま一つ見えず、クレタの声だけでかえってよかった。
(幸せそうな顔を見たらやっぱ車から突き落としてる・・・)
と考えていた。
「ねえ、僕達も考えようよ。何か楽しい事。帰ったら一番に何がしたい?」
「・・・・」
「ねえ、ひょっとして、理玖も太も、僕に気を使って喜べないとか・・・考えている?
僕のことなんて気にしないで、帰ったら何がしたいか教えてよ。」
「・・・・」
理玖も太も何も言えなかった。二人には帰ったら喜んでくれる家族がいたし、帰る家もある。母親が作ってくれる暖かい食事も、風呂も待っている。
帰ったらかなえたい夢も希望もある。けれど、ヒロトにはその一つもない。
「俺は・・・・」
ヒロトのそれをすべて理解したうえで、太がカエルの手をぐっと握って声をかけた。
「俺は帰ったらまず飯が食いたい。母親の作った飯もいいけど、コンビニの肉まんも学校の傍のラーメン屋も、寮の傍のお好み焼きも全部食って回る。ヒロトも一緒に連れて行く。一緒に回ろう。風呂は俺んちで入ればいい。何ならそのまま家に住めばいい。」
「じゃあ・・・俺も一緒に連れて行けよ。俺は外食はしたことがないから連れてはいけないけど・・・ばあちゃんちのレストランでエビフライとか、コロッケとか・・・」
「おお、いいな。その時は俺も参加するぞ。」
クレタはヒロトの肩を組んだ。運転席と助手席の狭い間にヒロトとクレタの二人が身を乗り出した。
「なんか、食い物のことばかりを考えていたら腹が減って来た。違うことを考えよう。」
「理玖はまた帰ったら勉強漬けの日々になるんだろ。」
「たぶんな。太もサッカーだろ?」
「ああ・・・少し離れてみてわかったんだ。もっともっとやりたい。今やっておかないとダメだと言うことが。だから、帰って、さっさとけがを直して、思う存分サッカーをやる。
もう、邪魔すんなよ。あのクソ青いシャツは捨てろ。」
「そうするよ。俺も一生懸命勉強して・・・その先何になるかはちょっと考える。
もっと別の道もあるのかな・・・って思った。けど、勉強は続ける。
ヒロトはケーキを作るんだろ?」
「うん・・・そうだね。リリーやベジービーみたいな仕事ができればいいかな・・・って。」
「だったら、ばあちゃんの店でバイトしろよ。二階に住んでもいいぞ。」
「ありがとう。二人とも僕に気を使ってくれて・・・」
ヒロトは泣いていた。
元はと言えばという話になれば、攻められてこの場所に一人ぼっちで捨てられてもおかしくないのに、最後まで友達でいてくれた二人の心が、これから先も友達でいてくれる二人の気持ちが、うれしくて、うれしくて、うれしくて、言葉に出来ずに泣いていた。
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