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最後の最後
カエルの理由
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パビレックがパンパン、と手を叩くと、あの森で大きな風呂敷包みを背負っていたおばさんが現れた。
その人は深々とお辞儀をして理玖と太の前に現れた。
「それでは帰りましょう。」
その人は、理玖と太の手を握り、パビレックたちが出て来た門と真逆の方向へ向かおうとした。
「ちょ、ちょっとまっておばさん・・・俺達、結構苦労してここまで来たのに、これで終わり?ひょっとして、クレタの遊び相手だっただけ?」
「いえ・・・そういう訳では・・・・」
おばさんは言葉を濁したのを隠すように、また深々とお辞儀をし、理玖と太の手を引いて歩き出した。
「おばさん、ちょっと待って、ヒロトを忘れてる・・・ヒロトも・・・」
「・・・ヒロト・・・とは、あのカエルの子のことでしょうか?」
「あ・・・ああ・・・」
理玖と太はクレタの傍で置き去りになっているヒロトを振り返った。
「あの子は連れては行けません。帰れるのは理玖さんと太さんだけです。」
「どうして、俺達は三人で来たんだぜ、三人で帰るのが当然だろ。」
「それは無理です。」
そのおばさんはあっさり言い切るとまた歩き始めた。
「なんだムリって!もっと偉い神様に会わせろ!ムリかどうか、俺が聞いてくる!」
太はそのおばさんの手を振り払い、パビレックに詰め寄った。
「いやぁ・・・もっと偉い神様にも、君たちは会えないんだ。君たち二人はこの門をくぐることはできないんだよ。」
「なんで!やっとここまで来たんだ。何のために来たと思う!
ヒロトのカエルを直せ!元居た場所に帰せ!三人でだ!やらないとクレタを殴る!」
太はパビレックの背にしがみついていたクレタをガシッと掴み、右手は拳骨を握った。
「ちょ・・・ちょっと待て!話し合おう・・・な。」
「ぱ・・・パパ・・・」
パビレックと従事者たちはおろおろし始めた。その様子で、ただ事でないことはどんな鈍感な奴でもわかった。
「こ、ここで暴力事件を起こされると大変なことになる・・・とにかく、訳を放すから、クレタをおろしてくれ。な、頼む・・・」
「訳?訳ってなんだよ。」
理玖も腕をつかんでいたおばさんから離れてパビレックのところへやって来た。
「ヒロト・・・・」
理玖はヒロトの腕をつかんだ。絶対に三人は一緒に居ようと、ついさっきも誓ったところだった。
ヒロトはなぜかわからないまま、ただ泣いていた。
「実は・・・・クレタが間違えて君たちを連れて来てしまったんだ・・・」
「はぁ?」
「間違えた?」
「うそ?俺、間違えた?」
クレタはパビレックの後ろに隠れてケロッとした顔で答えた。
「あ、ああ・・・クレタ、何度も名簿を持って行かなければいけないといっていたのに、名簿を持たずに出て行っただろう。」
「でも三人って言ったでしょ。だから三人連れて来たじゃないか。」
「三人とは言ったが、あそこで連れてくるのはヒロト君だけで、ほかの二人は別の場所で拾う予定だったんだ・・・」
「そうだったんだ・・・けど、ちょうど三人いたからさ・・・ごめん。」
クレタはペロッと舌を出して見せたが、そんなことで太は誤魔化されなかった。
気の短い太は、また、カッとなってクレタを掴み、拳骨を握った。
「おまえ・・・いい加減な奴だってことはわかっていたけど、ここまでだったなんて・・・俺のデートをどうしてくれるんだ!」
「太、やめろよ。どっちにしてもあの状態ではデートは無理だったって。
それより、最後までちゃんと話を聞こう。な。」
理玖の必死のとりなしで太もクレタから手を放したものの、一瞬の気持ちのズレで爆破しそうなほど怒りに震えていた。
「じつは、あの事故のあった後、あそこで起こすのはヒロト君だけだったんだ。
それなのに最初に理玖君を起こしてしまい、三人共をここへ導いたのはクレタのミスだ。ほんとにすまない。」
「すまないで済む事かよ!」
「怒りはもっともだ・・・けれど、何度も理玖君と太君は帰る事が出来るように手配はしたんだ。まあ、クレタはまったく気づかずに、結局ここまで君たちを連れてくることにはなってしまったが・・・ほんとにすまない事をした。
クレタもコッチに来てちゃんと謝りなさい。」
パビレックは隠れていたクレタを自分の前に出し、頭を下げさせた。けれど、太と目を合わせないようにそそくさとパビレックの背後にいた従事者の一番後ろの人の背中にピッタリとくっついて隠れた。
「手配って・・・あの金の紙をもらったことですか?」
「ああ・・・それもだが・・・まあ、私としては、あそこで君が断ってくれてよかったとは思っているよ。なんせ、クレタが案内じゃあの後すぐにでもガリウスに食われていただろう。クレタとヒロト君だけではこの旅は成立しない。君たち二人の知恵と勇気があってこそのこの結果だと、ほんとうに感謝している。」
パビレックはうっすらと涙を浮かべ太と理玖の両手を握りしめた。
二人にしてみれば、結果、パビレックの親ばかと、クレタのカン違いでここまで来てしまったようにも思えた。
「それより、ヒロトだけって・・・どういう意味ですか。」
理玖はパビレックの前にヒロトを出した。ヒロトはまだ泣いていた。
手も足もカエルで、よく見たら首のところまでカエル模様になっていた。
足も蟹股で背中も少し丸くなって、二足歩行にも支障が出ていた。
「そ、それは・・・・」
パビレックもヒロトの姿に少し哀れを感じている様子だった。それはもちろん、カエルを直してもらえると信じてここまで旅をしてきた3人の気持ちに気づいていたからだった。
突然、理玖の手を引いて帰ろうとしていたおばさんが、パビレックと理玖たちの間に入り、口を開いた。
「ここからは、私がお答えしましょう。」
あの道で迷っていたときもそうだったが、この人は表情も冷たく話かたも機械のように固く「情」というものは一切感じられなかった。
「理玖さんと太さんはあの場所で目を覚ますのではなく、そのまま病院で目を覚ます予定になっていました。そしてそのまま、しばらくは入院いたしますが、その後順調に回復し、ごく普通の青春を送り大人になり、それぞれの夢に向かって進むはずでした。
けれど、ヒロトさんは違います。」
「違うって・・・ヒロトは・・・」
「ヒロトさんは、クレタさんとこの門を目指す旅に出ることになる予定でした。まあすべてあの場所から変ってしまいましたが・・・」
おばさんはパビレックとクレタをちらっと見た。パビレックはそっと視線を外した。
その人は深々とお辞儀をして理玖と太の前に現れた。
「それでは帰りましょう。」
その人は、理玖と太の手を握り、パビレックたちが出て来た門と真逆の方向へ向かおうとした。
「ちょ、ちょっとまっておばさん・・・俺達、結構苦労してここまで来たのに、これで終わり?ひょっとして、クレタの遊び相手だっただけ?」
「いえ・・・そういう訳では・・・・」
おばさんは言葉を濁したのを隠すように、また深々とお辞儀をし、理玖と太の手を引いて歩き出した。
「おばさん、ちょっと待って、ヒロトを忘れてる・・・ヒロトも・・・」
「・・・ヒロト・・・とは、あのカエルの子のことでしょうか?」
「あ・・・ああ・・・」
理玖と太はクレタの傍で置き去りになっているヒロトを振り返った。
「あの子は連れては行けません。帰れるのは理玖さんと太さんだけです。」
「どうして、俺達は三人で来たんだぜ、三人で帰るのが当然だろ。」
「それは無理です。」
そのおばさんはあっさり言い切るとまた歩き始めた。
「なんだムリって!もっと偉い神様に会わせろ!ムリかどうか、俺が聞いてくる!」
太はそのおばさんの手を振り払い、パビレックに詰め寄った。
「いやぁ・・・もっと偉い神様にも、君たちは会えないんだ。君たち二人はこの門をくぐることはできないんだよ。」
「なんで!やっとここまで来たんだ。何のために来たと思う!
ヒロトのカエルを直せ!元居た場所に帰せ!三人でだ!やらないとクレタを殴る!」
太はパビレックの背にしがみついていたクレタをガシッと掴み、右手は拳骨を握った。
「ちょ・・・ちょっと待て!話し合おう・・・な。」
「ぱ・・・パパ・・・」
パビレックと従事者たちはおろおろし始めた。その様子で、ただ事でないことはどんな鈍感な奴でもわかった。
「こ、ここで暴力事件を起こされると大変なことになる・・・とにかく、訳を放すから、クレタをおろしてくれ。な、頼む・・・」
「訳?訳ってなんだよ。」
理玖も腕をつかんでいたおばさんから離れてパビレックのところへやって来た。
「ヒロト・・・・」
理玖はヒロトの腕をつかんだ。絶対に三人は一緒に居ようと、ついさっきも誓ったところだった。
ヒロトはなぜかわからないまま、ただ泣いていた。
「実は・・・・クレタが間違えて君たちを連れて来てしまったんだ・・・」
「はぁ?」
「間違えた?」
「うそ?俺、間違えた?」
クレタはパビレックの後ろに隠れてケロッとした顔で答えた。
「あ、ああ・・・クレタ、何度も名簿を持って行かなければいけないといっていたのに、名簿を持たずに出て行っただろう。」
「でも三人って言ったでしょ。だから三人連れて来たじゃないか。」
「三人とは言ったが、あそこで連れてくるのはヒロト君だけで、ほかの二人は別の場所で拾う予定だったんだ・・・」
「そうだったんだ・・・けど、ちょうど三人いたからさ・・・ごめん。」
クレタはペロッと舌を出して見せたが、そんなことで太は誤魔化されなかった。
気の短い太は、また、カッとなってクレタを掴み、拳骨を握った。
「おまえ・・・いい加減な奴だってことはわかっていたけど、ここまでだったなんて・・・俺のデートをどうしてくれるんだ!」
「太、やめろよ。どっちにしてもあの状態ではデートは無理だったって。
それより、最後までちゃんと話を聞こう。な。」
理玖の必死のとりなしで太もクレタから手を放したものの、一瞬の気持ちのズレで爆破しそうなほど怒りに震えていた。
「じつは、あの事故のあった後、あそこで起こすのはヒロト君だけだったんだ。
それなのに最初に理玖君を起こしてしまい、三人共をここへ導いたのはクレタのミスだ。ほんとにすまない。」
「すまないで済む事かよ!」
「怒りはもっともだ・・・けれど、何度も理玖君と太君は帰る事が出来るように手配はしたんだ。まあ、クレタはまったく気づかずに、結局ここまで君たちを連れてくることにはなってしまったが・・・ほんとにすまない事をした。
クレタもコッチに来てちゃんと謝りなさい。」
パビレックは隠れていたクレタを自分の前に出し、頭を下げさせた。けれど、太と目を合わせないようにそそくさとパビレックの背後にいた従事者の一番後ろの人の背中にピッタリとくっついて隠れた。
「手配って・・・あの金の紙をもらったことですか?」
「ああ・・・それもだが・・・まあ、私としては、あそこで君が断ってくれてよかったとは思っているよ。なんせ、クレタが案内じゃあの後すぐにでもガリウスに食われていただろう。クレタとヒロト君だけではこの旅は成立しない。君たち二人の知恵と勇気があってこそのこの結果だと、ほんとうに感謝している。」
パビレックはうっすらと涙を浮かべ太と理玖の両手を握りしめた。
二人にしてみれば、結果、パビレックの親ばかと、クレタのカン違いでここまで来てしまったようにも思えた。
「それより、ヒロトだけって・・・どういう意味ですか。」
理玖はパビレックの前にヒロトを出した。ヒロトはまだ泣いていた。
手も足もカエルで、よく見たら首のところまでカエル模様になっていた。
足も蟹股で背中も少し丸くなって、二足歩行にも支障が出ていた。
「そ、それは・・・・」
パビレックもヒロトの姿に少し哀れを感じている様子だった。それはもちろん、カエルを直してもらえると信じてここまで旅をしてきた3人の気持ちに気づいていたからだった。
突然、理玖の手を引いて帰ろうとしていたおばさんが、パビレックと理玖たちの間に入り、口を開いた。
「ここからは、私がお答えしましょう。」
あの道で迷っていたときもそうだったが、この人は表情も冷たく話かたも機械のように固く「情」というものは一切感じられなかった。
「理玖さんと太さんはあの場所で目を覚ますのではなく、そのまま病院で目を覚ます予定になっていました。そしてそのまま、しばらくは入院いたしますが、その後順調に回復し、ごく普通の青春を送り大人になり、それぞれの夢に向かって進むはずでした。
けれど、ヒロトさんは違います。」
「違うって・・・ヒロトは・・・」
「ヒロトさんは、クレタさんとこの門を目指す旅に出ることになる予定でした。まあすべてあの場所から変ってしまいましたが・・・」
おばさんはパビレックとクレタをちらっと見た。パビレックはそっと視線を外した。
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