ローズマリーへようこそ

みるくてぃー

文字の大きさ
11 / 61
夢のはじまり

第11話 初日の喧騒

しおりを挟む
「いらっしゃいませスイーツショップ ローズマリー本日オープンです」
「ご試食をご用意しております。お手間を取らせませんのでお一つお受け取りください」
「よろしくおねがいします、お一つどうぞ」
 私とエレン、そしてエリスの三人でお店前を通る人たちに試食用のケーキを配っている。

 そしてリリーは空から花びらの幻影を降らしてくれているので、行き交う人々は物珍しさに私たちに寄って来てくれているのだ。
 おかげで試食用のケーキが湯水のように無くなっていく。

「エレン、ここはお願い私は調理場へ戻るわ」
「はい、お嬢様」
「エリス、リリーも頑張ってね」
「はい、お姉さま」
「はい、ママ」

 店の中はそれほど混んではいないけれど、そろそろグレイ一人では苦しくなりそうな雰囲気ね。
 私はすぐに調理場に入りディオンと一緒に試食用のケーキを切り分けていく。

「お嬢様シュークリームが売り切れました。あとタルトが残り僅かでございます」
「分かったわグレイ」
「シュークリームできたぜ、タルトはもうちょいだ」

 前言撤回、店内も戦場だわ。
 お客さんが少ないと思っていたけれど思った以上に大量買いのお客様が多いみたい。
 商人さん達や使用人さん達は大勢の仕事仲間に差し入れとして買っていってくれるみたいで、一人一人のお客様が大量買をしてくれているらしい。
 そこまで考えてなかったわね、買いやすい値段設定にしたのが更に拍車をかけたみたい。

「お嬢様試食用ケーキがなくなりました」
「今持っていくわ」
 私は急いで切り揃えたケーキをエレン達に持っていく。

「一つもらっていいか?」
「これ何て食べもんなんだ?」
「美味しいけど高いんじゃないの?」
 持っていった瞬間沢山の人達が寄ってきた。

 嬉しいことだけど全てのお客様に対応しきれていない。

「スイ、エン悪いんだけどエレン達と一緒にお客様の対応をおねがい、言葉遣いにはくれぐれも気をつけてね」
「まったく精霊使いが荒い主人あるじだ」
主人あるじだ」
 二人とも口では文句を言っているけれど顔はとびきりの笑顔だ、任せても大丈夫だろう。

 二人の後ろ姿を見送り私は再び調理場せんじょうに戻った。





「はぁ、少し落ち着きましたね」
 嵐のような午前が過ぎお昼を少し回った辺りでようやくお客様が引いてきた。
 エレンもエリスもさすがに疲れたのか奥の休憩スペースでぐったりしている。

 さすがにディオンやグレイそれに私は疲れてはいるが互いに顔には出していない。

私奴わたくしめはお嬢様に謝らなければなりません」
「どうしたの急に?」
 簡単にお茶の準備をし、みんなに配り終えたところでグレイが私に話しかけてきた。

「お嬢様がお店を始めると言い出された時、正直難しいだろうと思っておりました。ですが今はあの時のお嬢様の言葉は正しかったのだと、考えを改めさせて頂きました」
「ありがとう今の私にとっては最高の褒め言葉だわ。でも謝るのまだ早いわよ。そうね……一年後、今の気持ちがまだ残っていればもう一度その言葉を聞かせて頂戴。それまでは振り向かずに頑張るから」
「畏まりました」

「それにしてもこのお茶おいしいですね、何なんでかこれ?」
 エレンが聞いてきたのは今私が適当に入れたハーブティー。

「これはオリジナルのハーブティーよ」
 この世界にもハーブティーは存在するのだが種類が極端に少ないのだ。定番とされるカモミールやシナモン等はあるのだけどちょっと、風変わりの物がまったくない。
 だから屋敷に出入りしていたセネジオにお願いして色々なもので試していたのだ。

「オリジナルですか?」
「ええ、ハイビスカスとローズヒップの組み合わせよ」
「これも嬢様の発案で?」
「もちろん、色々試している課程で出来た新商品……の予定よ」
 ごめんなさい嘘です! 前世の記憶です! エレンに心の中で思いっきり謝罪しました。

「あと、ついでに言うなら美容の効果もあるわよ」
「美容ですか!? これ絶対売れますよ!」
「そ、それはいいんだけど茶葉の状態で売るには人手も時間も足りないのよ。今飲んでいるのは屋敷にいた時に試作品として作った残り物ね」
 エレンの勢いに思わず後ずさりしてしまったわ、やはりエレンもお肌が気になるお年頃なのね。若いけど。

「勿体ないですね、こんなに美味しいのに」
「今はまだ攻める時ではないからね今は広めることが先決よ。でもこのまま行けばそう時間はそう掛かりそうにないけれど」

カランカラン
「いらっしゃいませ。」
 話をしていたらお客様が入ってこられすぐ様エレンが対応に入る。
 さすがノエルに鍛えられて来ただけの事はあるわね、業種が変わったというのに対応がすごくスムーズだわ。

「さっきうちの店の子が買ってきたんだけど、美味しくてまた買いにきちゃったわ」
「ありがとうございます。どのような感じのものをお求めですか?」
「そうね白い雪のようなものが乗っているのがいいわね。まぁ、こんなに沢山の種類が? 困るわね」
 やっぱり庶民の人達には馴染みのない食べ物なんだ。生クリームなんて恐らく見るのも食べるのも初めてだろう、美味し美味しいと食べ続けると太ってしまうんだけど。
 神様、女の子の体型を壊してしまう私をお許しください。


カランカラン
「いらっしゃいませ」
 そろそろ午後からのお客様が入りだしてきたみたいね。

「さぁ、もう一息頑張りましょう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...