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みるくてぃー

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希望へのはじまり

第39話 エスコートは誰の手に

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 ローズマリー二号店の開店から約二週間。
 一号店のオープンダッシュとは違い最初こそ来店者数は少なかったが、日に日に客足が伸びてきており、今では中々の繁盛ぶりとなっている。

 そして昨日出来上がってきた私のドレス。クチュールのマダムの前で試着をし、簡単なサイズを調整した後、無事ドレスを受け取る事となった。
 もちろん今日開催されるルテアの誕生日パーティーに参加するため。

「ねぇ、昨日も思ったのだけど、私には似合わないんじゃないかしら」
 エレンたちが頑張って(?)考えてくれたデザインだけど、私にはどうも似合わない気がして仕方がない。
 だってスカートはこれでもか! ってぐらいのふっくらボリュームに、裾にかけての三段レース。右腰には大きな花のコサージュをあしらい、そこからスカート全体を包むように伸びるリボンレースのオーバースカート。
 胸元は寄せて上げたビスチェタイプのデザインで、そこから首元までレースがつながっており、首の後ろでリボンを作り止めてある。
 ショールを掛けてあるとはいっても、肩は丸出しのノースリーブ。手首にはリボンのついたコサージュをつけ、髪はストレートに流し華美にならない程度のコサージュで飾り付けている。
 唯一の救いは全体が薄いブルーに、白いレースの縁取りがされた落ち着いた色合いと言う点。

「そんな事ありませんよ、よくお似合いです」
 エレンを含め、着替えを手伝ってくれたメイドたちがキャーキャーと私の出来上がりを見て盛り上がっている。

「でも肩丸出しっていいのかしら? あまり見た事が無いデザインなんだけど」
 前にも言ったかもしれないが、肌を出すデザインの服はほとんど存在しない。
 たしかに胸元が開いているドレスはあるが、それはあくまで装飾品を目立たすためであって、ノースリーブのドレスは恐らく存在しない。

「何を仰っているんですか、とても可愛いですよお嬢様」
「そうそう、絶対殿方の視線を独り占めにしちゃいますよ」
「私たちの自慢のお嬢様なんですから、他の人にもめいいっぱい自慢しなくちゃ」
 とメイド達がやたら褒めちぎる。

「それに、私たちは毎日肩出しの制服を着てるんですよ。これは是非お嬢様にも着ていただかないと『ねー』」
 うっ、やられた……。こんなところで趣味のしっぺ返しを味わう事になるなんて。
 止めはエレンが私の耳元で「スカートが短くないだけマシと思ってください」だって、エレンもグルか!

 今更反論しても現状が変わるわけでもないので仕方なく諦める。
 いいわよ、どうせもう社交界に出る事もなければ、このドレスを着る事もないんだから。

 屋敷の外には御者をしてくれるカイエルが、すでに馬車を用意して待っていてくれた。

「今日はよろしくね、カイエル」
「はい、お嬢様」
 カイエルのエスコートで馬車に乗り込む。

「あら、もしかして内装も直してくれたの?」
 この馬車は屋敷を買った時に馬車小屋に入っていた車で、動く分には問題なかったんだけど、外装は塗装が剥げていたり、内装のクッションが破れていたりと修理が必要だったのだ。

 私としては別に動けば気にしなかったんだけど、仮にも公爵家のパーティーに参加するには、外装だけは修理が必要かと思いカイエルに頼んでいたのだ。

「はい、私は以前工業ギルドに所属しておりましたし、この程度の修理はそれほど難しくありませんので」
 カイエルはこの程度って言ってるけど、クッションの張り替えや内装の装飾まで、以前見たボロボロの車とは全然違うのよ。

「すごいわ、こんな細かなところまで修理されてるなんて。ありがとうカイエル助かるわ」
 顔を赤らめているカイエルにお礼を言って出発する。



 今日開催されるルテアの誕生日ケーキは、全てローズマリーが手がけている。
 もちろん私もルテアのために頑張りましたよ。

 可愛らしデザインにしたかったので、ラズベリーを使った薄いピンク色のクリームをベースに、色付けしたチョコと砂糖がしを使い、桜をイメージした三段仕様のケーキ。
 すでに他のケーキと共に公爵家へ納品済みだ。今頃は私が作った誕生日ケーキを見て、喜んでくれていれば嬉しいのだけど。

 馬車は貴族区の中心街、つまりお城の近くまで向かっていく。
 レガリアの二大公爵家はお城を挟んで左右に位置している。私たちはそのうちの西側に位置する大きなお屋敷の敷地内へと入っていった。

 今日のパーティーは公爵家の庭園で開かれると聞いている。
 私の乗る馬車は一旦庭園に向かうも、なぜか素通りしお屋敷の前に止まった。

「どうしたのカイエル、パーティーは庭園じゃないの?」
「すみませんお嬢様。警備の者からお屋敷の方に案内するよう申しつかりまして」
 なんだろ、ルテアが呼んでるのかしら?

 私が馬車から降りるとすぐさま公爵家の執事が迎えに来て、屋敷の中へと案内してくれる。
 執事が案内してくれたのはやはりルテアの部屋で、事前に私が来たらここに案内するよう言われていたらしい。

 ノックをして中に入ると、そこにはルテアと弟のティートがいた。
 ルテアは三人姉弟きょうだいの長子で、二つ下の弟ティートと、今年10歳になる妹のチェリーティアがいる。

「今日はお招き頂きありがとうございます」
「こちらこそ、ようこそお出でくださいました」
お互いカーテシーで挨拶をし、どちらからともなく自然と笑いが込み上げてきた。

「お誕生日おめでとう、ルテア」
「ありがとうアリスちゃん」
 先ほどまでの堅苦しい挨拶から一変し、お互い軽く抱き合って再会を喜ぶ。二週間ぶりだけどね。

「ティートもお久しぶり。しばらく見ないうちにカッコよくなったね」
 ルテアの家に来るのは実に二年ぶりだから、ティートと会うのも久々だ。
 学生時代はよくルテアの家に遊びに来ては、ティートやチェリーティアと一緒に遊んだものだ。

「お久しぶりです、アリスさん」
 こうやって気軽に名前で呼びあってるけど、公式の場ではちゃんとするわよ。
 私だって初めて公爵家に遊びに来た時は様付けで呼んでたんだけど、ルテアのお母さんが堅苦しいからって今の呼び方に変わった。
 ついでに言うならエリスもルテアを呼ぶ時は、ルテアお姉ちゃんって呼んでいる。

「チェリーティアはお屋敷にいないの?」
「うん、あの子はまだ10歳だからね。今日はお母様の親元に預かってもらってるの」
 公爵家のパーティーだからね、偉い人が大勢くるから参加を見送ったのだろう。

「それでどうしたの? 私をここに呼んで……もしかしてケーキに何かあった?」
 ケーキを運ぶ際に何処か崩れたりしたのかと思ったけど、帰って来た答えは全く違った。

「アリスちゃん、今日はジーク様がいないでしょ? だからティートにエスコートをさせようと思って」
「…………へ? ってちょっとまって。なんでルテアがジーク様の事知ってるのよ!」
 まてまて、私ジーク様の事をルテアに話してないわよね。そもそもジーク様が今日来れないって話は私も知らない。
 一瞬ユミナ様の顔が浮かんだけど、先日お会いした時にはそんな話はしていなかった。

 ユミナ様は時々お忍びで店に来ていたけど、二号店が出来てからはほぼ毎日遊びに来るようになった。
 主にエリスと遊んでいるんだけどね。

「アストリア様に聞いたの。ジーク様とアリスちゃんが付き合ってるって」
「まって! いろいろ誤解があるようだけど、まずはアストリア様って第一王子様よね。なんでここで名前が出てくるのよ」
 この国の王子王女様は上から第一王子のアストリア様、第一王女のフィーナ様、第二王女のレティシア様の三人兄妹。
 たしか年齢が……第二王女のレティシア様がエリスと同じ歳で、第一王女のフィーナ様がその二つ上。そしてアストリア様が私の二つ上……あっ、ジーク様の同じ歳か。
 王家と公爵家だからお互い仲が良くても不思議じゃない。でもジーク様がそんな事言うかなぁ?

「アリスちゃん知り合いなんでしょ? アストリア様が言ってたよ、昔はよく三人で遊んでたって」
「はぁ? 私が? 王子様とジーク様と遊んでた? なんかの間違えじゃないの?」
 自分で言っててなんだけど、答える言葉が全て疑問系だ。

「あれ~? おかしいなぁ。アストリア様がそんな事言ってたんだけど」
「多分誰かと間違えておられるんじゃないかなぁ。そもそも伯爵家の……それも昔って子供の頃って事でしょ? 私の身分で王子様に会える訳がないじゃない」
 幼少時の王子様、それも第一王子においそれと伯爵家の私が会える訳がない。
 いずれこの国を支える国王になる方ですからね、危険が及ばないように幼い頃から大事に育てられてるんですよ。

「大体なんでアストリア様とそんな話をしているのよ」
「えっとね、まだおおやけにはなっていないんだけど、私婚約するの。アストリア様と」
 あぁ、まぁ、別に驚く事もないか。王子様の相手にはこれ以上相応しい令嬢はいないだろう。
 ルテアのエンジウム公爵家と対象のハルジオン公爵家には、現在ユミナ様しか女性はいない。今年12歳のユミナ様と今年19歳アストリア様では歳の差があると言うもの。
 そう考えればルテアが王子様の結婚相手に一番相応しい相手だろう。

 貴族の中には二大公爵家のパワーバランスが崩れるのではと考える者もいるだろうが、このレガリアでは王家と公爵家の信頼関係はかなり深い。
 軍のトップ要するハルジオン家と政治を司るエンジウム家はお互い尊重し合い、長い歴史の中王家を支え続けてきたのだ。
 生半可な理由では信頼を失う事もないだろう。

「おめでとうルテア。あぁ、何かお祝いしたいけど……」
「ありがとうアリスちゃん。でもまだ内緒だよ。アストリア様が戻られたら正式に発表されると思うけど」

「アストリア様はどこかに行かれているの?」
「今は王国の各領地を見て回ってらっしゃるの。ジーク様も護衛で一緒に行かれてるはずだよ」
 そう言えばユミナ様がそんな事をおっしゃっていたっけ。あの時はエリスやエレンに冷やかされ、話をそらしてたからすっかり忘れていたわ。

 だからジーク様がいないからって、ティートを私のエスコートに付けてくれたのね。
 私としてはエスコートなんて要らないし、ジーク様との関係も何もないんだけどなぁ。

「ルテアは誰にエスコートしてもらうの?」
「私はお父様にお願いしてるの。他の男の人じゃいろいろマズいでしょ? それにアリスちゃんは今日が社交界デビューなんだから、一人って訳にはいかないよ」
 うぅ、私の事をそんなに思ってくれてたなんて。

「ありがとうルテア。いっそ私のお嫁さんになって欲しいぐらいだよ」
「えぇー、それじゃアリスちゃんがタキシードを着る事になるじゃない。私はアリスちゃんのウエディングドレス姿を見たいんだけどなぁ」
 嬉しさのあまり冗談でルテアに告白したら、見事にカウンターを食らってしまった。
 本気じゃないからね! 私にはエリスがいるんだから!

「でも本当いいの? ティートだって年頃なんだし、気になるご令嬢とかいるんじゃないの?」
「い、居ませんよそんな人! 僕はその……アリスさんと比べればまだ子供ですが、女性をエスコートするぐらいできますから!」
「ありがとうティート、それじゃお願いしようかな」
 ティートの手を取ってお礼を言う。もちろん目線は外さずにだ。お礼を言う時に目線をはずすなんて失礼だからね。

「もう何照れてるのよティートは。アリスちゃんのドレス姿に見とれちゃったんじゃないの」
「な、何言うんだよ姉さん。そんなんじゃないって」
 二人のやり取りを見て弟もいいなぁって思ってしまった。ルテアの兄妹は仲がいいのよね。

「アリスちゃん、ティートも今日が社交界デビューだからよろしくね」
「そうなの? だったら余計に私で申し訳ないわね」
「もう、姉さんは余計ない事言わないでよ」

 この後、なぜか必死のティートに説得され、私はありがたく二人の好意を受ける事にした。
 でもいいんだろうか、次期エンジウム公爵様にエスコートをしてもらっても……。
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