ローズマリーへようこそ

みるくてぃー

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希望へのはじまり

第41話 運命の招待状

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「アリスさま、私もアリスお姉さまとお呼びしていいですか?」
「フィーナ姉様ずるいです。私もお姉さまとお呼びしてもいいですか?」
「「きゃー」」
 えっと……これは何? 一体どうしてこうなった?

「二人共、アリスが困ってるじゃない。ごめんなさいね、ルテアから貴方の話を聞いていて、今日会えるのをずっと楽しみにしていたのよ」
「い、いえ。その、私の方こそお二人からご好意いただき恐縮でございます。さま」
「あら、そんな堅苦しい言い方じゃなく、カテリーナと呼んでくれていいのよ」

 …………ちょっと落ち着いて思い出そう。
 たしかあれは10日程前だったと思う。



「お嬢様、招待状が届いております」
 私が執務室でラクディア商会との書類の確認していたら、グレイが扉をノックして入ってきた。

 ローズマリー二号店をオープンさせて以来雑務が忙しく、厨房へ入る時間が減ってきた。

 一号店は現在エスニアをチーフマネージャーとし、調理場をエリクに一任している。
 そのためグレイには二号店に戻って来てもらい、私の補佐をしてもらっている。

「私に招待状?」
 私をパーティーに誘うなんてルテア以外では全く心当たりがない。
 そのルテアも数週間前にパーティーをしたばかりだ。

 もしかしてユミナ様かしら? ユミナ様はまだ12歳だけど、自分のお屋敷で親しい人だけでするパーティーなら可能性はあるかもしれない。
 以前エリスと共謀して何かを仕掛けてきたが、あれ以来ジーク様以外の護衛付きで来る事が多くなったし、なぜかやたらと私に懐いている。流石にもう私を罠にかけるこ事もないだろう。別に脅してないわよ。

「それが……王家が主催される秋の収穫祭の招待状らしく……」
「……はぁ? 何かの間違えじゃない?」
 淑女らしからぬ声を出したのは仕方がないと思う。だって王家からの招待状ってありえないでしょ。

 秋の収穫祭。秋の実りを祝うお祭りで、ここレガリア王国では春に行われる建国祭の次に大きな催しになる。

 この日は国中がお祭り騒ぎで、路上には露天が立ち並び、子供から大人まで一日中歌ったり踊ったりして過ごすのだ。
 そしてこのお祭りに合わせ、お城では貴族や上流階級を招き大きなパーティーが開催される。
 このパーティーに招待されることは大変名誉で、よほどの理由がない限り断るなんてことはまず出来ない。
 早い話が『せっかく招待したのに、来なかったら怒っちゃうよ』と言われているようなものなのだ。

「それが、陛下直属の騎士様が直接お届けに参られて……」
 さすがのグレイも戸惑っているのか、先ほどか言葉のキレが全くない。

「陛下直属の騎士が届けた?」
 ますます訳がわからない。そもそも招待状を届けるのに陛下直属の騎士を使うはずがない。
 陛下直属の騎士と言うのはエリート中のエリートので、陛下からも信頼されており、常に王家の方々を守っている由緒正しい騎士なのだ。
 重要な手紙なら理由は分かるが、招待状ぐらいなら見習い騎士や文官の新人がこう言った雑用をこなす。

 私はグレイから招待状を受け取り、裏の封蝋ふうろうを確かめる。

 封蝋ふうろうとは手紙の口を止めるもので、赤い蝋の上から印を押すことにより、印の紋章でどこの貴族が送ったかが分かるようになっている。
 この印は各貴族の長でないと押すことが出来ず、偽造などしようものなら刑罰の対象となるのだ。
 つまりは……

「本物だわ……」
「そのようでございます」

「どう思う?」
 私はグレイの考えを訪ねた。
 この招待状は恐らく本物だろう、と言うことはだ。叔父と間違えて持ってきた可能性がないかと聞いているのだ。

「本邸と間違える、という可能性は低いかと思われます」
「そうよねぇ、取りあえず中身を確認しなくちゃね」
 この招待状の中には誰宛に送っているかが書かれている。間違えて人様の封を開けるなど失礼極まりないからね。

 私はペーパーナイフを取り出し封を開ける。
 うん、私の名前が書いてるや。

「ごめん、頭が痛くなってきたわ」
 私は封の中身をグレイに渡す。
 中身を確認したグレイも、眉をひそめながら返してきた。

「悪いんだけど、内政府の王領管理部に行って確認して来てもらえるかしら?」
 内政府とは国の内側を管理する組織で、その中にある王領管理部では貴族階級の爵位の管理や、王国が所有する領地の管理をしている。

 私は伯爵家の地位を捨てた身。それなのに招待状の名前には『アリス・アンテーゼ伯爵令嬢』と書かれていたのだ。
 屋敷を出てから叔父がどのように国へ報告を上げたか知らないが、まさか『報告をわすれてました』など馬鹿げたことをするはずもないだろう。
 つまりは何かの手違いで、私の名前を消すのを忘れていた、とかそんなオチだったらいいなぁと思ったわけだ。

「分かりました。すぐに確認してまいります」

 ユミナが以前言いかけていたのはこれの事なの?
 はぁ。……嫌な予感しかしない。
 グレイの出て行く背中を見つめながら、私は深いため息をついたのだ。





「……つまり私はこのパーティーに参加しなければならないのね」
 グレイが戻り経緯を一通り聴き終えた結果、私が出した答えがこれだ。

「叔父はいったいどんな手続きをしたの? なんで私がまだ次期伯爵のままなのよ」
 グレイが持ち帰ってくれた書類と系図の写しによると、アンテーゼ伯爵には現在祖父の名前が書かれているのだ。

「担当の者に確認したのですが、どうもカーレル様の申請書類が通らず、現在は保留中との事でした」
「意味が分からないわ、あの時私が書いた書類に不備はなかったはずよ。それにもし書類に問題があれば叔父が私に言ってくるはずでしょ? そもそもなんでお爺様が伯爵になっているのよ」

 何もかも分からないだらけだ。
 叔父が伯爵でない事も、私にまだ継承権がある事も、お爺様が現在伯爵であることもだ。

 叔父はこの事を知っているのかしら? 考えられる可能性として、叔父ではどうする事も出気なかったか、申請書類が通らなかった事を知らないかだが……いや、後者の可能性は少ないか。さすがに申請書類が通らないとは本人にも通知が行くだろう。
 それじゃ叔父にはどうする事も出気なかったって事?

「でも仮に私が書いた書類が通らなかったとしてもよ、お爺様に一旦爵位が戻るとかってありえるの?」
 普通に考えると、爵位を告げる者がいなければ先代に戻る事もあるかもしれないが、現状では正当なアンテーゼ家の血を引く叔父がいるのだ。

 そして更に私を混乱に落とし入れるのがこの系図の写しだ。
 他の国の事はしらないが、このレガリアでは男女関係無しに生まれた順番で継承権が決まる。
 ただ、当主が指名したり、遺言が残っていたりした場合はその限りではない。

 つまりは現在伯爵の地位にあるお爺様の一言によって、次期伯爵が誰になってしまうか分からない状態だという事だ。
 それまでは直系の血筋を優先され、その以下は系図の通り継承順位が適応されてしまう。

 この系図によると第一継承権が私、第二位がエリスとなる。ならば叔父はその次かと思うと、継承権が第四位となってしまうのだ。

「それにしてもお父様に妹がおられたなんて、私聞いたことがないわよ」
 そう、グレイが持ち帰ってくれたアンテーゼ家の系図には、お父様と叔父の間にフィオレと言う名の女性が存在しているのだ。そしてその方が第三位の継承権を持っておられる。
 フィオレさんにお子様がいるかは書かれていなが、もしいるとすれば、現状では叔父の息子より継承順位が高い事になる。

「申し訳ございません。フィオレ様は先先代様のご当主様が決めた婚姻に納得ができず、その……駆け落ちをされまして……」
「駆け落ち!?」
 何それ! ロマンティックじゃない。
 って、そうじゃなかった。

「本当なの? その方は今どちらにいらっしゃるの?」
「今はアンテーゼ領で一般の方と暮らしておられます」
「アンテーゼ領で……一度お会いしたいけど今はちょっと無理ね」
 お父様の妹なら是非お会いしたいが、今はこの招待状の方が先決だ。

 お爺様に継承権の権利があるのなら、一体誰を選ぶのか。
 私達姉妹に流れるお母様の血が認められないのは分かっている。フィオレ様は一般人と駆け落ちした事から可能性は低いだろう。
 それじゃやっぱり叔父しかいないじゃない。叔父の奥方は子爵家の血筋だと聞いた事がある。

「もしかしてこれはお爺様の嫌がらせ?」
「それはないと思います。そもそもお嬢様に継承権があったとして、王都の本家ではなく、お嬢様に直接届くのは余りにも不自然です」
 確かにそうだ、第一継承権があるとしても直接私に届く訳がない。
 普通なら『アンテーゼ伯爵ご一家』などと書かれており、社交界に出れる年齢の者はこぞって出席するのだ。



「はぁ、今ここで考えていても仕方がないわね」
 今分かっているのは、私はこのパーティーに参加しなければならないという事だけ。
 恐らくお爺様が伯爵ならこのパーティーに参加されるだろう。そして王都の本邸に住んでいる叔父にも招待状は届いているはずだ。
 私に招待状が届いた理由は分からないままだが、このパーティー生半可な気持ちではいけない事だけはわかる。

 はぁ、しんどいなぁ。私は平穏な日々を送りたいだけなんだけど……。
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