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第一章 スチュワート編(一年)
第16話 はぷにんぐ!
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学園社交界当日、私は主人であるエスターニア様の支度を終え、生徒会棟と呼ばれている建物へとやってきた。
「悪いわねこんな事まで手伝わせてしまって」
「いいえ、気になさらないでくださいエスターニア様」
学園社交界の当日といえども副会長をしているエスターニア様には、ゆっくりパーティーに参加している余裕は全くない。
元々この催しは生徒会が主体となって取り仕切っている為、本番である今日も書類の山がてんこ盛り。更に学園に援助をしてくださっている貴族や資産家の方々が来客として来られるので、その案内で当日でも仕事が山積みなんだそうだ。
今もここ生徒会室では、何名かの生徒会役員とその付き人であるスチュワートの二年生が忙しそうに動き回っている。
「もう、相変わらずリアは頭が硬いわね。昔のようにお姉様でいいわよ」
「いえ、そういう訳にはいきません。私はライラック家の侍女なのですから」
私たちのやりとりを見た人達がクスクスと笑っているが、先ほど私の妹だと紹介された時には本気で焦った。慌てて事情を説明して納得してもらったが、何も知らない人からすれば、あの紹介だと私が公爵様の隠し子だと勘違いされてもおかしくない。
本音を言えば今でも心の中では姉と慕っているし、お姉様と口に出して呼びたいけれど、何も知らなかった昔と違い今は自分の置かれた環境が理解できてしまっている。
それでも少しでも近くにいたいという気持ちは捨てきれず、私は侍女として生涯お側に置いていただけるようこの道を選んだ。
「すまないエスニア、来賓の人数に変更が出たんだ」
ノックも無しに入ってこられたのは一人の男性、ネクタイの色からエスターニア様と同じ四年生だとは思うが、公爵家のご令嬢であるエスターニア様を気安く愛称で呼ぶのは如何なものか。
少々二人のやりとりを不機嫌そうに見つめていると、私の視線に気づいたのか優しそうな笑顔をこちらに向けてくる。
「この子はもしかしてエスニアの?」
「えぇ、私の可愛い妹よ」
不意打ちの様に再び見知らぬ男性に妹と紹介され、嬉しさの余り顔が真っ赤になるも、すぐさま動き出した脳が警報の鐘を鳴り響かせる。
な、何言ってるんですか! 嬉しいですけど、嬉しいですけど、誰がまた誤解を解くと思ってるんですかー!
「あ、あの、エスターニア様……」
勘違いをされる前に慌てて訂正しようと口にするも、その言葉は意外な一言で遮られてしまう。
「いつも妹がお世話になっている様だね」
「えっ、妹?」
目の前の男性に見覚えはない。そもそもヴィクトリアに通っている生徒さんの妹などに、心当たりなんてあるはずが……
いた、しかも三人も。まず常識から考えてイリアさんのお兄さんという可能性は間違いなくゼロと言い切れる。そしてパフィオさんのお兄さんは二人とも騎士団に入っていると聞いているので、既に生徒ではないのだろう。騎士団に所属しながら学校に通うなど聞いたことがない。
それじゃ残された一人、つまりこの人は……
「初めまして、僕はエリクシール・レーネス・レガリア、アリスの兄だよ」
予想的中……いや、この場合出来れば外れて欲しかった。
ココリナさんやカトレアさんに比べては多少貴族に対しての耐性はあると自負しているが、流石に突然王子様が目の前に現れては動揺するなという方が無理であろう。しかもエスターニア様の婚約者ともなれば尚更だ。
「リリアナだったよね、大丈夫?」
動揺と思考が目まぐるしく脳内で活動してしまったせいで、自分の名を名乗るとういう常識すら完全に停止してしまっていた。
私の名前を知っているという事は、おそらくエスターニア様やアリス様から聞いておられたのだろう。
「エリク、あまり私の妹を虐めないでよ。突然王子が目の前に現れたら誰だって驚くわよ」
背後から抱きしめる様に声を掛けられ、ようやく停止していた体が動き出す。
「も、申し訳ございません。いきなりだったもので……私はリリアナと申します。エスターニア様の……」
「妹よね?」
「えっ、あ、はい……じゃなくて!……きゃっ、あぅ」
背後からエスターニア様に抱かれた状態で挨拶するも、途中で言葉を遮られ、とどめとも言える私の耳元にフッと息を吹きかけられる。
思わず口から可愛らしい悲鳴が飛び出すも、エスターニア様のスキンシップは更に加速し、最後は私の耳たぶをかぶりつく始末。
って、なに大勢の前で恥ずかしいことしてるんですか!
「君たちは本当に仲がいいんだね、ティア姉さんもよくアリスやミリィと戯れ合っているよ」
「ふふふ、当然でしょ」
あぁ、もう好きにしてください。
どうせ否定したところで私がエスターニア……エスニアお姉様に敵うはずがないんですもん。本当はアリス様のように甘える事が出来ればどれだけ嬉しいか。
こんな時だというのに背後から抱きしめられている幸せを味わっていると、誰かがノックをして部屋へと入ってきた。
「すみません生徒会長」
「どうしたんだいミツバ」
入ってきた女性、リボンの色からこの人も四年生なんだろう。ヴィクトリアとスチュワートでは女性はリボン、男性はネクタイの色で学年がわかるよう分けられている。
スチュワートではそれほど先輩と関わる事は少ないが、ヴィクトリアでは学年ごとの生徒数が少ない関係で、全体を通して合同実習が多いんだとか。
一応校則では上級生が下級生を指導していくとされているので、リボンの色はその目安とされている。
「実はリンダが……ピアノ担当の子がまだ到着していないんです」
ミツバさんが言うには、ピアノ担当で三年生リンダさんが急に両親の仕事の関係で領地に戻らなくてないけなくなったらしく、三日ほど前から学校を休んでいたんだそうだ。
予定では昨日の夜には戻る事になっていたけれど、あいにく雨が降っていた関係で危険を避け、夜が明けてからの出発する事にしたそうなんだが、ぬかるんだ道に馬車の車輪を取られ、思うようなスピードが出せないらしい。
流通に力を入れているレガリアでも未だ地方にまでは手が行き届いておらず、雨が降れば悪路に変わる道は幾つもあると聞いている。恐らくその何処かに運悪くぶつかってしまったのだろう。
早馬で連絡だけは伝えて来たそうなんだが、やはりどうしても遅れてしまうとの事だった。
「それじゃリンダが到着するまで代役立てなければならないんだね」
「そうなんです。でも今からじゃ……」
淑女の嗜みとして貴族の子息子女達なら何かしらの楽器は扱えるだろう。その中でもピアノは比較的に人気の楽器だが、別にプロを目指している訳でもないので、いきなり楽譜を渡され弾いてくれと言われても断られるのは当然の事。
しかもピアノは音楽隊のメイン伴奏となるので、失敗は特に目立ってしまう上にソロパートも用意されている。
「エスニア、誰か心当たりはないか?」
「そうね、ピアノを弾ける子は何人か知っているけれど、楽譜だけを渡されて弾けるかと言われれば正直難しいわね。ティアラ様なら笑ってやってのけそうだけれど」
エリクシール様に尋ねられ、エスターニア様が心当たりを思い出されるが、やはりいきなり本番は難しいだろう。
エスターニア様もピアノは習われていたが、有名な曲を何曲か弾かれるだけで、ご令嬢の嗜みとしては十分とされている。
「困ったな……さすがに姉上のレベルまでには無理だろうが、練習もなしにとなるとそれぐらいの実力が必要なのか……」
「「あっ!」」
一瞬私の脳裏にある人物が浮かび上がる。
それはどうやらエリクシール様も同じだったらしく、二人の声が同時に重なり合った。
「どうしたの二人とも? 誰か心当たりが?」
「あ、いえ、一人思い当たる方が……」
「僕もだよ、どうやら同じ人物を考えているようだね」
先日の何気ない会話で出てきた一言、「ピアノとヴァイオリンは得意だよ」
実際目の前で弾いてもらった事はないが、ティアラ王女の義妹で、私たちの常識が一切通用しない人物。
「一体誰なんです? 私の知っている子かしら?」
「アリスだよ、詳しくは知らないけど精霊は音楽に惹かれるという話だから、小さな頃から色んな楽器を習っていたんだ。中でもピアノとヴァイオリンは姉上のお墨付きだ」
精霊? 少し気になる言葉がエリクシール様から出てくるが、一介のメイドが関わっていい問題ではないだろう。
なんと言ってもあのアリス様だ。聖女の力が使え、王家で大切に育てられ、恐らくパフィオさんという護衛までもが付いている。
ココリナさん達は気付いていないだろうが、パフィオさんの行動を良く観察していれば常にアリス様を警護の目で見ている様子が良く分かる。
先日自身が伯爵家の人間だと名乗られた際に驚いたのは、なにも彼女が伯爵家の人間だったからではない。アリス様を警護しているのが只の騎士見習いではなく、王家から信頼を得ている貴族だったからだ。つまりそれはアリス様がこの国にとって余程重要な人物だという事だろう。
「ティアラ様のお墨付きと言うのなら問題なさそうね」
「この時間ですとミリアリア王女様の支度が終わって、控え室にでもおられるのではないでしょうか? 私が呼んで参りましょうか?」
確か聞いた話ではミリアリア様の支度は一番目だったはず、後で私たちにも紹介してくださるって話だったが、まさか王女様を紹介されるなんてココリナさんとカトレアさんは思ってもいないだろう。
「いや、リリアナはエスニアに付いてあげてて。僕がアリスを呼びに行くよ」
「ですがエリクシール様にそのような事を」
「いいのよ、私たちのスキンシップを見て自分も羨ましくなったんでしょ」
そう言って再び私の背後から抱きついてくるエスターニア様。
いやいやいや、王子であるエリクシール様が、人前でアリス様にスキンシップを抱けば大騒ぎどころでは済まないだろう。そもそも義兄妹とはいえ二人に血の繋がりはないのだから。
結局私が声を上げるも、エスターニア様の拘束から抜け出す事が出来ず、笑顔のエリクシール様を只見送る事しか出来なかった。
そういえば控え室の接客役ってココリナさんだったわよね? もしかして今頃アリス様にミリアリア王女を紹介されて固まっているんじゃないかしら、その上王子であるエリクシール様が現れたら……ダメかもしれないわね。
ご武運をお祈りします、ココリナさん。
「悪いわねこんな事まで手伝わせてしまって」
「いいえ、気になさらないでくださいエスターニア様」
学園社交界の当日といえども副会長をしているエスターニア様には、ゆっくりパーティーに参加している余裕は全くない。
元々この催しは生徒会が主体となって取り仕切っている為、本番である今日も書類の山がてんこ盛り。更に学園に援助をしてくださっている貴族や資産家の方々が来客として来られるので、その案内で当日でも仕事が山積みなんだそうだ。
今もここ生徒会室では、何名かの生徒会役員とその付き人であるスチュワートの二年生が忙しそうに動き回っている。
「もう、相変わらずリアは頭が硬いわね。昔のようにお姉様でいいわよ」
「いえ、そういう訳にはいきません。私はライラック家の侍女なのですから」
私たちのやりとりを見た人達がクスクスと笑っているが、先ほど私の妹だと紹介された時には本気で焦った。慌てて事情を説明して納得してもらったが、何も知らない人からすれば、あの紹介だと私が公爵様の隠し子だと勘違いされてもおかしくない。
本音を言えば今でも心の中では姉と慕っているし、お姉様と口に出して呼びたいけれど、何も知らなかった昔と違い今は自分の置かれた環境が理解できてしまっている。
それでも少しでも近くにいたいという気持ちは捨てきれず、私は侍女として生涯お側に置いていただけるようこの道を選んだ。
「すまないエスニア、来賓の人数に変更が出たんだ」
ノックも無しに入ってこられたのは一人の男性、ネクタイの色からエスターニア様と同じ四年生だとは思うが、公爵家のご令嬢であるエスターニア様を気安く愛称で呼ぶのは如何なものか。
少々二人のやりとりを不機嫌そうに見つめていると、私の視線に気づいたのか優しそうな笑顔をこちらに向けてくる。
「この子はもしかしてエスニアの?」
「えぇ、私の可愛い妹よ」
不意打ちの様に再び見知らぬ男性に妹と紹介され、嬉しさの余り顔が真っ赤になるも、すぐさま動き出した脳が警報の鐘を鳴り響かせる。
な、何言ってるんですか! 嬉しいですけど、嬉しいですけど、誰がまた誤解を解くと思ってるんですかー!
「あ、あの、エスターニア様……」
勘違いをされる前に慌てて訂正しようと口にするも、その言葉は意外な一言で遮られてしまう。
「いつも妹がお世話になっている様だね」
「えっ、妹?」
目の前の男性に見覚えはない。そもそもヴィクトリアに通っている生徒さんの妹などに、心当たりなんてあるはずが……
いた、しかも三人も。まず常識から考えてイリアさんのお兄さんという可能性は間違いなくゼロと言い切れる。そしてパフィオさんのお兄さんは二人とも騎士団に入っていると聞いているので、既に生徒ではないのだろう。騎士団に所属しながら学校に通うなど聞いたことがない。
それじゃ残された一人、つまりこの人は……
「初めまして、僕はエリクシール・レーネス・レガリア、アリスの兄だよ」
予想的中……いや、この場合出来れば外れて欲しかった。
ココリナさんやカトレアさんに比べては多少貴族に対しての耐性はあると自負しているが、流石に突然王子様が目の前に現れては動揺するなという方が無理であろう。しかもエスターニア様の婚約者ともなれば尚更だ。
「リリアナだったよね、大丈夫?」
動揺と思考が目まぐるしく脳内で活動してしまったせいで、自分の名を名乗るとういう常識すら完全に停止してしまっていた。
私の名前を知っているという事は、おそらくエスターニア様やアリス様から聞いておられたのだろう。
「エリク、あまり私の妹を虐めないでよ。突然王子が目の前に現れたら誰だって驚くわよ」
背後から抱きしめる様に声を掛けられ、ようやく停止していた体が動き出す。
「も、申し訳ございません。いきなりだったもので……私はリリアナと申します。エスターニア様の……」
「妹よね?」
「えっ、あ、はい……じゃなくて!……きゃっ、あぅ」
背後からエスターニア様に抱かれた状態で挨拶するも、途中で言葉を遮られ、とどめとも言える私の耳元にフッと息を吹きかけられる。
思わず口から可愛らしい悲鳴が飛び出すも、エスターニア様のスキンシップは更に加速し、最後は私の耳たぶをかぶりつく始末。
って、なに大勢の前で恥ずかしいことしてるんですか!
「君たちは本当に仲がいいんだね、ティア姉さんもよくアリスやミリィと戯れ合っているよ」
「ふふふ、当然でしょ」
あぁ、もう好きにしてください。
どうせ否定したところで私がエスターニア……エスニアお姉様に敵うはずがないんですもん。本当はアリス様のように甘える事が出来ればどれだけ嬉しいか。
こんな時だというのに背後から抱きしめられている幸せを味わっていると、誰かがノックをして部屋へと入ってきた。
「すみません生徒会長」
「どうしたんだいミツバ」
入ってきた女性、リボンの色からこの人も四年生なんだろう。ヴィクトリアとスチュワートでは女性はリボン、男性はネクタイの色で学年がわかるよう分けられている。
スチュワートではそれほど先輩と関わる事は少ないが、ヴィクトリアでは学年ごとの生徒数が少ない関係で、全体を通して合同実習が多いんだとか。
一応校則では上級生が下級生を指導していくとされているので、リボンの色はその目安とされている。
「実はリンダが……ピアノ担当の子がまだ到着していないんです」
ミツバさんが言うには、ピアノ担当で三年生リンダさんが急に両親の仕事の関係で領地に戻らなくてないけなくなったらしく、三日ほど前から学校を休んでいたんだそうだ。
予定では昨日の夜には戻る事になっていたけれど、あいにく雨が降っていた関係で危険を避け、夜が明けてからの出発する事にしたそうなんだが、ぬかるんだ道に馬車の車輪を取られ、思うようなスピードが出せないらしい。
流通に力を入れているレガリアでも未だ地方にまでは手が行き届いておらず、雨が降れば悪路に変わる道は幾つもあると聞いている。恐らくその何処かに運悪くぶつかってしまったのだろう。
早馬で連絡だけは伝えて来たそうなんだが、やはりどうしても遅れてしまうとの事だった。
「それじゃリンダが到着するまで代役立てなければならないんだね」
「そうなんです。でも今からじゃ……」
淑女の嗜みとして貴族の子息子女達なら何かしらの楽器は扱えるだろう。その中でもピアノは比較的に人気の楽器だが、別にプロを目指している訳でもないので、いきなり楽譜を渡され弾いてくれと言われても断られるのは当然の事。
しかもピアノは音楽隊のメイン伴奏となるので、失敗は特に目立ってしまう上にソロパートも用意されている。
「エスニア、誰か心当たりはないか?」
「そうね、ピアノを弾ける子は何人か知っているけれど、楽譜だけを渡されて弾けるかと言われれば正直難しいわね。ティアラ様なら笑ってやってのけそうだけれど」
エリクシール様に尋ねられ、エスターニア様が心当たりを思い出されるが、やはりいきなり本番は難しいだろう。
エスターニア様もピアノは習われていたが、有名な曲を何曲か弾かれるだけで、ご令嬢の嗜みとしては十分とされている。
「困ったな……さすがに姉上のレベルまでには無理だろうが、練習もなしにとなるとそれぐらいの実力が必要なのか……」
「「あっ!」」
一瞬私の脳裏にある人物が浮かび上がる。
それはどうやらエリクシール様も同じだったらしく、二人の声が同時に重なり合った。
「どうしたの二人とも? 誰か心当たりが?」
「あ、いえ、一人思い当たる方が……」
「僕もだよ、どうやら同じ人物を考えているようだね」
先日の何気ない会話で出てきた一言、「ピアノとヴァイオリンは得意だよ」
実際目の前で弾いてもらった事はないが、ティアラ王女の義妹で、私たちの常識が一切通用しない人物。
「一体誰なんです? 私の知っている子かしら?」
「アリスだよ、詳しくは知らないけど精霊は音楽に惹かれるという話だから、小さな頃から色んな楽器を習っていたんだ。中でもピアノとヴァイオリンは姉上のお墨付きだ」
精霊? 少し気になる言葉がエリクシール様から出てくるが、一介のメイドが関わっていい問題ではないだろう。
なんと言ってもあのアリス様だ。聖女の力が使え、王家で大切に育てられ、恐らくパフィオさんという護衛までもが付いている。
ココリナさん達は気付いていないだろうが、パフィオさんの行動を良く観察していれば常にアリス様を警護の目で見ている様子が良く分かる。
先日自身が伯爵家の人間だと名乗られた際に驚いたのは、なにも彼女が伯爵家の人間だったからではない。アリス様を警護しているのが只の騎士見習いではなく、王家から信頼を得ている貴族だったからだ。つまりそれはアリス様がこの国にとって余程重要な人物だという事だろう。
「ティアラ様のお墨付きと言うのなら問題なさそうね」
「この時間ですとミリアリア王女様の支度が終わって、控え室にでもおられるのではないでしょうか? 私が呼んで参りましょうか?」
確か聞いた話ではミリアリア様の支度は一番目だったはず、後で私たちにも紹介してくださるって話だったが、まさか王女様を紹介されるなんてココリナさんとカトレアさんは思ってもいないだろう。
「いや、リリアナはエスニアに付いてあげてて。僕がアリスを呼びに行くよ」
「ですがエリクシール様にそのような事を」
「いいのよ、私たちのスキンシップを見て自分も羨ましくなったんでしょ」
そう言って再び私の背後から抱きついてくるエスターニア様。
いやいやいや、王子であるエリクシール様が、人前でアリス様にスキンシップを抱けば大騒ぎどころでは済まないだろう。そもそも義兄妹とはいえ二人に血の繋がりはないのだから。
結局私が声を上げるも、エスターニア様の拘束から抜け出す事が出来ず、笑顔のエリクシール様を只見送る事しか出来なかった。
そういえば控え室の接客役ってココリナさんだったわよね? もしかして今頃アリス様にミリアリア王女を紹介されて固まっているんじゃないかしら、その上王子であるエリクシール様が現れたら……ダメかもしれないわね。
ご武運をお祈りします、ココリナさん。
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