正しい聖女さまのつくりかた

みるくてぃー

文字の大きさ
78 / 119
終 章 ヴィクトリア編

第78話 私の名は

しおりを挟む
「サクラぁー、お姉ちゃんは心配だよー」
 あれは私がスチュワート学園の入学が決まった時のこと、同じく就職先が決まったお姉ちゃんが別れを惜しむように私に抱きついてきた。

 お姉ちゃんは私がこれから入学する学園を入れ替わるように卒業し、今は就職先で暮らす為の準備をしている。
 なんでもお姉ちゃんが働く先は住み込みが定められており、これからは私たちが暮らすこの家に帰ってくるのも難しくなるんだとか。だけどこれはメイドとして働いていくからには当然の心得であるし、商会に勤められたとしても下働き時代には住み込まなければならない仕事も沢山ある。
 そう考えればお姉ちゃんがこれから暮らす先は生活面での保証は十分されており、お給金も実家への仕送り用にと手当てが付いている上、メイドでは珍しく十分に余裕があるほどの一人部屋を充てがわれているんだとか。
 
「もうお姉ちゃんは心配性だなぁ。寧ろ私はお姉ちゃんの方が心配だよ」
 こんな心配性のお姉ちゃんだけど、中身はとっても凄い人。
 一般入学では困難と言われているスチュワート学園に見事一発合格。その上学生生活の中で優秀な成績を修めたとかで、お城から就職先のスカウトが来たんだとか。
 毎年スチュワート学園にはお城からも求人が来るそうだけど、その倍率は相当なものだと聞いている。そんな中で向こうの方からスカウトが入るんだから、お姉ちゃんの実力は相当なものだと噂になっているらしい。

「でもね、平民が多いスチュワートって言っても、実は貴族のご令嬢がこっそり紛れ込んでいたり、公爵家の次期ご夫人になる人が気さくに挨拶をしてきたり、実はお忍びで入学された聖女様と、それを護衛する女性騎士が隣の席にいるかもしれないんだよ」
「何バカな事を言ってるのよお姉ちゃん。そんな物語のような出来事が本当に起こるわけがないじゃない」
「そうだけどぉー」
 よく物語などでそんなシチュエーションが描かれている事もあるけど、現実にそんな事はあるはずがないと分かる歳にはなっている。
 小さい頃は学園で王子様とバッタリと出会い、そのまま恋に落ちちゃうなんて夢物語を描いていた頃もあったけれど、実際この国の王子様はすでに卒業されているというし、すでに婚約者も決まっているとも聞いている。
 噂じゃ2学年上に王女様がヴィクトリア学園にいらっしゃるという話なので、もしかすると遠くから拝見出来るんじゃないかという期待はあるけれど、所詮はその程度の考えしか持っていないんだ。間違えても聖女様に「やっほー」なんて気軽に挨拶をされるなんて考えは微塵もない。

「ハンカチ持った? お財布は忘れてない? そうだ、お金が足りないといけないからお姉ちゃんが少し渡しておくね」
「もう、大丈夫だよ。大体入学式に出るだけなのになんでそんな大金がいるのよぉー」
 お姉ちゃんが自分の財布から取り出した金貨を見て、受けとらないように慌てて両手を後ろに隠す。
 お姉ちゃんは学生時代からたまにお城でアルバイトをしていて、すでに幾らかのお給金は貰っていたんだという。
 大半は家の家計にとお母さんへ渡していたそうだけど、それでもお小遣いようにと少しは持っていたのだろう。だからといって、金貨をサラッと出すなんてちょっと金銭感覚おかしくなっていない?

「それじゃ行ってくるね、ココリナお姉ちゃんもお仕事がんばってね」
 こうして私のスチュワート学園での生活が始まった。



 あれから約2ヶ月。
 私は改めてお姉ちゃんの偉大さを感じる日々を過ごしている。

「サクラちゃんのお姉さんって、あの伝説のココリナ様なんだよね?」
「凄いよねぇ、ココリナ様。お城からスカウトが来るってこの学園でも初めてらしいよ」
「それ私も聞いた、なんでも学園社交界で王女様からご指名が入ったんだって。王女様って言えば今年三年生なんだよね? もしかすると妹であるサクラちゃんにご指名が入るんじゃない?」
 私がお姉ちゃんの妹だと知るやいなや、皆んなが羨ましそうに話しかけてくる。
 そもそも伝説のココリナ様って誰が言い出したのよ。
 私としては自慢のお姉ちゃんなので、皆んなが褒めてくれるのはすごく嬉しいけど、本人は自分がこんな噂になっていると知ると、きっとフリーズして動かなくなっちゃうんだろうなぁ。

 そんなある日、ヴィクトリア学園とスチュワート学園の合同による学園社交界が発表される。

「サクラさん、貴女にご指名が入っていますよ」
 先生がホームルームでそう告げると、教室中から私に対しての大きな声援の声が響き渡る。
「おめでとうサクラさん」
「おめでとうございますサクラさん、私たちの分まで頑張ってください」
 仲のいい友達からも声をかけられるが、正直内心は複雑な気持ちでいっぱい。
 だって、私はお姉ちゃんのように優秀でもないし、この学園に入学出来たのだって実は試験に合格したわけではなかったりする。
 詳しくは教えてもらえなかったけれど、私がお姉ちゃんのようなメイドになりたいと言ったら、なぜか推薦してくれる人が現れ、入学費から生活面での費用まで全面的に支援してもらった。
 恐らくこれも伝説のメイドと呼ばれているお姉ちゃんの存在が成しえた事なんだろうとは思うけど、過大な期待はかえってプレッシャーに感じてしまう。

 そんなこんなで私のスチュワート学園の入学が決まったわけだが、私自身はそれほど特色があるわけでもなく、また学費を支援してもらえるほどの優秀な成績では決してない。
 今はお姉ちゃんの妹ってだけで、周りからももてはやされてはいるけれど、いつか私の無能さに気づかれてしまったらどうなるかと不安でいっぱい。
 別に持て囃されている事に優越感を抱いている訳ではないが、お姉ちゃんの名前をキズ付けたり、実は大した人じゃなかったんだと思われる事はしたくない。
 だから私は毎日必死にがんばっているんだ。

「先生、サクラさんのご指名ってやはり王女様なんですか?」
 生徒の一人が興味があるかのように先生に質問を投げかける。
「残念だけどそれはないわね。今は国の情勢が情勢だけに、今年は王女様の担当はお城から派遣されるそうよ」
 確かに先生のいう通り、今はお隣の国との戦争中だからその辺りの警備は厳しいのだろう。でもだったら私をご指名されたのっていったい?

 ざわざわざわ
 私を指名されたのが王女様じゃないと分かると、クラス中が相手を予想しようとざわつきだす。
「それじゃサクラさんのご指名相手ってどなたなんですか?」
「えーっと、サクラさんいいかしら?」
 生徒の一人が我慢できずに口を開き、先生も困ったかのように私へと尋ねてくる。
「あ、はい。大丈夫です」
 どうせ今言わなくてもすぐに噂として知れ渡るのだ、ならば潔くクラス中に知れ渡った方が変に気を使わなくてすむと言うもの。
 だけど聞かされた名前は私の予想を遥かに超えるものだった。

 アリス様? だれだろう? 
 私はお姉ちゃんの様な貴族マニアではないので、名前だけ言われてもピンとこない。でも逆を言えばそれほど名前が知れ渡っていない人ならば、変に意識せずにすむのではないか?
 だけどその目論見も次の瞬間全てが砕け散る。
「ハ、ハ、ハ、ハルジオン!?」
 その名が出た瞬間クラス中から割れんばかりの声援が響き渡る。
 ハルジオンと言えばこのレガリアの四大公爵家と呼ばれる最上級の貴族様。それもハルジオンを名乗る事を許されているという事は、お姫様と呼ばれてもよい存在。昨年お姉ちゃんのお友達がエンジウム公爵家に招かれたと聞いているが、それもこの学園では異例中の異例だったと言う話だから、このご指名がどれだけ凄いかはある程度想像してもらえれば分かってもらえるだろう。
 でもなんでハルジオン家なんだろう?

 結局このクラスでご指名が入ったのは私だけ。
 通常、入学したての一年生でご指名が入る事自体が異例らしく、私は不安な気持ちを抱きながら学園社交界の当日を迎えるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです

山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。 今は、その考えも消えつつある。 けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。 今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。 ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~

オレンジ方解石
ファンタジー
 恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。  世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。  アウラは二年後に処刑されるキャラ。  桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

処理中です...