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終 章 ヴィクトリア編
第85話 サクラの想い出夏休み(3)
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「うにゅー、つーかーれーたぁー」ぱふっ
割り振られた部屋に入るなり、メイド服のまま柔らかいベットへとダイブする。
ん~~~、肌に伝わって来る柔らかさがなんとも心地よく、一時の間と自分に言い訳を聞かせていたが、お布団の温かみと柔らかさが疲れ切った体を眠りへと誘って行く。
「こら、サクラ。はしたないよ。ベットで横になるなら着替えてからしなさい」
成り行きとは言え、同室になったお姉ちゃんが私の行動を諌めてくる。
確かに分別がつく前の幼さならともかく、中等部と言われる学部に通う今となっては、はしたないと言われても仕方がない。だけどそもそも私が疲れるようになった原因がお姉ちゃんにあるのだから、その辺りは多少の融通を利かせたっていいのではないだろうか。
まぁ今着ているメイド服と、横になっているベットは公爵家の持ち物なのだからここは素直に従っておく。
「ねぇお姉ちゃん。アリス様って一体何者なの?」
ベットの誘惑から抜け出し、パジャマに着替える最中に何気ない気落ちで口にする。
私が今日疲れる原因となった最大の人物、アリス様。
初日は移動と言うこともあり、お茶会半分メイドお仕事半分で問題なく一日の予定は全て終了。
ボタンも最初こそは緊張から両手両足が同時に動くという動作を起こしていたが、カトレアさんのフォローとミリアリア様達の親しみやすい接し方のお陰で、次第に笑顔が増えていった。
なんでも、常日頃は周りの視線と上位貴族という立場上、優雅に振る舞う事を要求されてる分、こんな時ぐらい一人の少女に戻りたいんだとはミリアリア様の言葉。例えそれが私たちを気遣っての言葉だとしても、その気持ちは平民の私でもなんとなく理解も出来るというもの。
言われてみれば私たち庶民から見ると、その行動一つも失敗は許されないというイメージが確かにある。だけど実際話してみると、私たちとそう大差もない世間話大好き、恋話大好きな普通の女性。
聞いた話では物語に出てくるような意地悪なご令嬢もいるらしいが、今この別荘にいる皆さんは間違いなく全員前者にあたるであろう。
「やっぱりサクラもアリスちゃんの事が気になる?」
「ん~、気になると言えばやっぱり気になるかなぁ。誰がどう見ても良家のお嬢様なのに、メイドのお仕事は出来るわ、お料理は美味しいわ、おまけに一番優しくてフレンドリーなんだよ? ボタンなんて完全に目が崇拝しちゃってたよ」
アリス様の見た目は間違いなくお嬢様。その動き一つ一つをとったとしても誰しもがそう判断するであろう。だけど本人は頑として一市民だと言い張るし、メイドのお仕事もお姉ちゃん同様に色々アドバイスが出来るレベル。そして最大のポイントがアリス様が作る料理の美味しさ。
多少ミリアリア様が料理場に入ろうとして、皆んな(特にお姉ちゃん)が必死に止めていた小さな? トラブルもあったが、見た事もない料理をたった一人でつくり、テーブルに並べられた数々の品から美味しそうな匂いが漂ってくれば、昨夜からのあまりの緊張で食事が取れなかった私たちが、一時の間とはいえ王女様達の前だと言うのも忘れ、一心不乱にかぶり付いてしまった事は是非忘れてほしい過去の一つ。
そんなアリス様が私たちが通っている同じスチュワートの生徒だったと聞けば、ボタンじゃなくても尊敬の眼差しで見てしまうのも仕方ないだろう。
だけど……
「お姫様、なんだよね?」
思わず疑問に思っていたセリフを言葉にしてしまう。
お姉ちゃんの立場上、本当の事は教えてもらえないと分かってはいるが、ついつい尋ねてしまうのは仕方がないのではないだろうか。
「ん~、そうじゃないんだけど……サクラはどうしてお姫様だと思ったの?」
「どうしてって……誰がどう見ても物語に出てくるお姫様そのものじゃない。ミリアリア様が影武者で表に立って、裏ではアリス様を守っているみたいな?」
よく物語などで話を盛り上げるためにあるシチュエーション。
命を狙われるお姫様を後ろに下げ、護衛兼影武者がお姫様に成りすまして周りの目を誤魔化す。そして必ずと言って良いほど本物のお姫様は庶民に優しく、正体がバレる頃には皆んなに慕われる良き王女へ成長していく。
まさに今のアリス様そのものではないだろうか?
「残念だけどサクラの推察はハズレかな。ミリアリア様は正真正銘の王女様だし、アリスちゃんに王家の血は流れていないと思うよ」
「でも……」
「サクラは聖女様を見たことないでしょ? もし一目でも見たことがあるなら、どっちが本物の王女様かはすぐに分かる筈だよ。それにあのアリスちゃんが嘘を付いているようにも見えないでしょ?」
確かにアリス様の態度からはとても嘘をついてるようには見えないし、王女様の姉に当たる方が現在この国の聖女様だと聞いたこともある。ミリアリア様とアリス様の容姿が似ていればまた違ったのかもしれないが、お二人に血が繋がっているとは正直言い難い。
つまり影武者であるミリアリア様が王女様だと名乗ったところで、聖女様のお姿を見た者からすれば常に側にいるアリス様の方が本物だと確信するはず。そんな分かりきった罠など意味がないだろう。
じゃなに? アリス様って一体何者なの?
王女様でないことは今の内容から間違いないだろう。お姉ちゃんも嘘をついている様子もないし、尋ねる私を諌める感じでもない。
もしかすると本気で知らないだけかもしれないが、ミリアリア様がお姉ちゃんに心を許しているのもまた確か。そうでなければいきなり王女様お抱えのメイドになれるなんてまずあり得ないだろう。
いっその事、王様の隠し子とか言ってもらえると納得もできるのだが、王妃様との仲もよく、実際にご両親も存在していたと言う話だからこの線は考えられない。
考えれば考えるほどアリス様という人物がわからなくなってくる。
「うぅ、私なんかが深く追求しちゃダメなのはわかるけど、気になって仕方がないよぉー」
私の性格上、謎を謎のままにしておくのは背中がむず痒くて仕方がない。勿論深入りしてお姉ちゃんに迷惑を掛けてしまうのは困るけど、早々他人の秘密をペラペラ喋るような人間ではないとも思っている。
「それじゃお姉ちゃんからアドバイスを一つ。肩書きとか、疑惑とか、そんなものを全て取り払って純粋な目でアリスちゃんを見て。そうすれば自ずとその答えは見えてくる筈だよ」
「えっ? それってどういう?」
「さぁ、明日の朝ごはんは私たちが用意するんだから今日は早く寝よう」
それだけ言うとお姉ちゃんは明かりを消してベットへと入る。
「あっ、待ってよお姉ちゃん」
慌てて私もベットに入り、おやすみの一言で眠りにつく。
お姉ちゃんは恐らくこれ以上何も教えないとの意思表示なのだろう。寧ろここまで教えてくれたのだって奇跡とも言える。
それがプロのメイドとしての立場であり、教えてもらえないと責めるのは間違いである事も理解できる。
だけど、なんだろう。お姉ちゃんは既に別の世界の住人になったようで、寂しさが徐々に込み上げてくる。
純粋な目で見る、か。
そういえば私って初めから貴族や王族の方っていう視点でしか見ていなかったっけ。
今思えばアリス様もミリアリア様等も、私を庶民だとか別世界の人間だとかで見下すような事は一度もなかった。
いつも私をお姉ちゃんの妹として、一人の学園の後輩として優しく接してくれていた。
もしかして、相手は貴族様だと思って壁を作っていた私は失礼だったんじゃないだろうか。
カーテンの隙間から見える星の光を見つめながら、眠れぬ夜が続くのであった。
割り振られた部屋に入るなり、メイド服のまま柔らかいベットへとダイブする。
ん~~~、肌に伝わって来る柔らかさがなんとも心地よく、一時の間と自分に言い訳を聞かせていたが、お布団の温かみと柔らかさが疲れ切った体を眠りへと誘って行く。
「こら、サクラ。はしたないよ。ベットで横になるなら着替えてからしなさい」
成り行きとは言え、同室になったお姉ちゃんが私の行動を諌めてくる。
確かに分別がつく前の幼さならともかく、中等部と言われる学部に通う今となっては、はしたないと言われても仕方がない。だけどそもそも私が疲れるようになった原因がお姉ちゃんにあるのだから、その辺りは多少の融通を利かせたっていいのではないだろうか。
まぁ今着ているメイド服と、横になっているベットは公爵家の持ち物なのだからここは素直に従っておく。
「ねぇお姉ちゃん。アリス様って一体何者なの?」
ベットの誘惑から抜け出し、パジャマに着替える最中に何気ない気落ちで口にする。
私が今日疲れる原因となった最大の人物、アリス様。
初日は移動と言うこともあり、お茶会半分メイドお仕事半分で問題なく一日の予定は全て終了。
ボタンも最初こそは緊張から両手両足が同時に動くという動作を起こしていたが、カトレアさんのフォローとミリアリア様達の親しみやすい接し方のお陰で、次第に笑顔が増えていった。
なんでも、常日頃は周りの視線と上位貴族という立場上、優雅に振る舞う事を要求されてる分、こんな時ぐらい一人の少女に戻りたいんだとはミリアリア様の言葉。例えそれが私たちを気遣っての言葉だとしても、その気持ちは平民の私でもなんとなく理解も出来るというもの。
言われてみれば私たち庶民から見ると、その行動一つも失敗は許されないというイメージが確かにある。だけど実際話してみると、私たちとそう大差もない世間話大好き、恋話大好きな普通の女性。
聞いた話では物語に出てくるような意地悪なご令嬢もいるらしいが、今この別荘にいる皆さんは間違いなく全員前者にあたるであろう。
「やっぱりサクラもアリスちゃんの事が気になる?」
「ん~、気になると言えばやっぱり気になるかなぁ。誰がどう見ても良家のお嬢様なのに、メイドのお仕事は出来るわ、お料理は美味しいわ、おまけに一番優しくてフレンドリーなんだよ? ボタンなんて完全に目が崇拝しちゃってたよ」
アリス様の見た目は間違いなくお嬢様。その動き一つ一つをとったとしても誰しもがそう判断するであろう。だけど本人は頑として一市民だと言い張るし、メイドのお仕事もお姉ちゃん同様に色々アドバイスが出来るレベル。そして最大のポイントがアリス様が作る料理の美味しさ。
多少ミリアリア様が料理場に入ろうとして、皆んな(特にお姉ちゃん)が必死に止めていた小さな? トラブルもあったが、見た事もない料理をたった一人でつくり、テーブルに並べられた数々の品から美味しそうな匂いが漂ってくれば、昨夜からのあまりの緊張で食事が取れなかった私たちが、一時の間とはいえ王女様達の前だと言うのも忘れ、一心不乱にかぶり付いてしまった事は是非忘れてほしい過去の一つ。
そんなアリス様が私たちが通っている同じスチュワートの生徒だったと聞けば、ボタンじゃなくても尊敬の眼差しで見てしまうのも仕方ないだろう。
だけど……
「お姫様、なんだよね?」
思わず疑問に思っていたセリフを言葉にしてしまう。
お姉ちゃんの立場上、本当の事は教えてもらえないと分かってはいるが、ついつい尋ねてしまうのは仕方がないのではないだろうか。
「ん~、そうじゃないんだけど……サクラはどうしてお姫様だと思ったの?」
「どうしてって……誰がどう見ても物語に出てくるお姫様そのものじゃない。ミリアリア様が影武者で表に立って、裏ではアリス様を守っているみたいな?」
よく物語などで話を盛り上げるためにあるシチュエーション。
命を狙われるお姫様を後ろに下げ、護衛兼影武者がお姫様に成りすまして周りの目を誤魔化す。そして必ずと言って良いほど本物のお姫様は庶民に優しく、正体がバレる頃には皆んなに慕われる良き王女へ成長していく。
まさに今のアリス様そのものではないだろうか?
「残念だけどサクラの推察はハズレかな。ミリアリア様は正真正銘の王女様だし、アリスちゃんに王家の血は流れていないと思うよ」
「でも……」
「サクラは聖女様を見たことないでしょ? もし一目でも見たことがあるなら、どっちが本物の王女様かはすぐに分かる筈だよ。それにあのアリスちゃんが嘘を付いているようにも見えないでしょ?」
確かにアリス様の態度からはとても嘘をついてるようには見えないし、王女様の姉に当たる方が現在この国の聖女様だと聞いたこともある。ミリアリア様とアリス様の容姿が似ていればまた違ったのかもしれないが、お二人に血が繋がっているとは正直言い難い。
つまり影武者であるミリアリア様が王女様だと名乗ったところで、聖女様のお姿を見た者からすれば常に側にいるアリス様の方が本物だと確信するはず。そんな分かりきった罠など意味がないだろう。
じゃなに? アリス様って一体何者なの?
王女様でないことは今の内容から間違いないだろう。お姉ちゃんも嘘をついている様子もないし、尋ねる私を諌める感じでもない。
もしかすると本気で知らないだけかもしれないが、ミリアリア様がお姉ちゃんに心を許しているのもまた確か。そうでなければいきなり王女様お抱えのメイドになれるなんてまずあり得ないだろう。
いっその事、王様の隠し子とか言ってもらえると納得もできるのだが、王妃様との仲もよく、実際にご両親も存在していたと言う話だからこの線は考えられない。
考えれば考えるほどアリス様という人物がわからなくなってくる。
「うぅ、私なんかが深く追求しちゃダメなのはわかるけど、気になって仕方がないよぉー」
私の性格上、謎を謎のままにしておくのは背中がむず痒くて仕方がない。勿論深入りしてお姉ちゃんに迷惑を掛けてしまうのは困るけど、早々他人の秘密をペラペラ喋るような人間ではないとも思っている。
「それじゃお姉ちゃんからアドバイスを一つ。肩書きとか、疑惑とか、そんなものを全て取り払って純粋な目でアリスちゃんを見て。そうすれば自ずとその答えは見えてくる筈だよ」
「えっ? それってどういう?」
「さぁ、明日の朝ごはんは私たちが用意するんだから今日は早く寝よう」
それだけ言うとお姉ちゃんは明かりを消してベットへと入る。
「あっ、待ってよお姉ちゃん」
慌てて私もベットに入り、おやすみの一言で眠りにつく。
お姉ちゃんは恐らくこれ以上何も教えないとの意思表示なのだろう。寧ろここまで教えてくれたのだって奇跡とも言える。
それがプロのメイドとしての立場であり、教えてもらえないと責めるのは間違いである事も理解できる。
だけど、なんだろう。お姉ちゃんは既に別の世界の住人になったようで、寂しさが徐々に込み上げてくる。
純粋な目で見る、か。
そういえば私って初めから貴族や王族の方っていう視点でしか見ていなかったっけ。
今思えばアリス様もミリアリア様等も、私を庶民だとか別世界の人間だとかで見下すような事は一度もなかった。
いつも私をお姉ちゃんの妹として、一人の学園の後輩として優しく接してくれていた。
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