86 / 119
終 章 ヴィクトリア編
第86話 サクラの想い出夏休み(4)
しおりを挟む
「うぅぅ、眠れない……」
アリス様が一体何者なのか? 考えないよう考えないようにとすると、余計に気になるのが人としては当然の感情。そこへ就寝前にお姉ちゃんからの一言が重なり合い、結局疲れているのも関わらず一睡もできないまま、窓の外が徐々に明るくなってくる。
そもそもこの枕がいけないのよ。
布団はお日様の匂いがする文句無しのふわふわ好感触。恐らく私たちが訪れる前に公爵家のメイドさん達が準備をしてくれていたのだろう。
ここまでなら普段硬いベットで寝ている環境から変わったからとしても、間違いなく順応していたと誓って言える。だけど枕まで柔らかかな感触が良いかと言われれば、私は否と答えてしまう。
つまりね、枕が変わると寝付けないんだと今回の旅行で初めて気づいたのだ。
だってそうでしょ? これまで旅行らしい旅行なんて行ったこともなければ、友達の家にお泊まりに行ったことすらないのだ。
もちろんお母さん達と近くの野山に出かけた事ぐらいはあるが、そのどれもが日帰りの旅行。お友達の家にだって、お泊まりに行くだけでその家の生活に負担をかけてしまうのだから、良識のある親なら余程の事がなければ許可は出さないだろう。
なので今の今まで枕が変わるという経験をした事がなかったのだ。
「あぁ、もう無理!」
隣でスヤスヤと寝息を立てているお姉ちゃん羨ましく一睨みし、パジャマ姿のまま足音をたてずに静かに部屋を出る。
勘違いしないでよね、ちょっとお手洗いに行くだけなんだから!
誰に言う分けでもなく一人自分にツッコミを入れながらトイレへと向かう。
間も無く朝日が顔を出す時間帯とはいえ、流石にまだ誰も起きていないのだろう。お屋敷内は昼間の賑やかな声が嘘雨のように静まり返っている廊下を足早に急ぐ。
私は素早く所用を済ませ、部屋へ戻りかけたところで思いとどまる。
このまま戻ったとしてもどうせ今更眠れないだろう。ならば気分転換に早朝の浜辺でも散歩するかと考え、その場で回れ右。そして一歩踏み出したところで自分がまだパジャマ姿だった事を思い出し、更にもう半回転をし部屋へと向かう。
ルテア様からはこの別荘の庭先から少し降りたところにある浜辺は、公爵家専用で誰も入ってこないとは聞いているが、流石にパジャマ姿のまま向かうわけにはいかないだろう。
お姉ちゃんを起こさないよう、持ってきたカバンから簡単に着れそうな服をとりだす。
「あれ? こんなワンピース持っていたっけ?」
一瞬、間違えてお姉ちゃんのカバンを開けてしまったのかと確認するも、これは間違いなく私のカバン。するとお母さんかお姉ちゃんがこの日の為にと用意してくれたのだろう。
これがもしアリス様やミリアリア様からのプレゼントだとすると、豪華なドレスになりそうだからその線はない。お姉ちゃんからのサプライズプレゼントだとすると、寧ろ着ている姿をお披露目する方が感謝の気持ちを示せると言うもの。
私は一時考えた末、着ているパジャマを脱ぎ捨て手にした薄いピンクのワンピースを手に取る。
着地は文句無しの一級品。サイズも私のが何時も着ている服と同じで、可愛らしくピンクの花々が刺繍され、正に私の好みを知らない者では用意できないだろう。
「それにしても高そうな服だなぁ」
ワンピースを広げ、施されたデザインをマジマジと観察。
ここで言う高そうとはあくまでも庶民である私からの感覚。質感だけで言えば、昨日お借りしていたメイド服の方が何倍も値が張るものではないだろうか。
「するとお母さんじゃないわね。こんな高そうな服を買うならもっと別なものにお金を使うよね」
いくらお姉ちゃんからの仕送りが来ているとはいえ、将来お姉ちゃんが結婚する時の為に貯金している事は知っている。
お姉ちゃんはお姉ちゃんで、そんなお母さんの性格を知っている関係で、時折珍しいお菓子や嗜好品なんかを送ってきてくれる。
あれでも一応、王家に使えるロイヤルメイドだから、お給金もそれなりに余裕があるんだそうだ。この前なんて、おこずかいって金貨を渡そうとしてくるし。
それじゃこれはきっとお姉ちゃんからのプレゼントなんだろう。どんな形であれ私にとっては初めての旅行となるわけだから、そのあたりを色々と気遣ってくれたのかもしれない。
「あっ、やっぱりお姉ちゃんからのプレゼントだ」
折りたたんであったワンピースからヒラリと落ちるメッセージカード。
『Happy Birthday・サクラ お姉ちゃんより』
「お姉ちゃん……」クスッ
小さくクスリと笑い、寝ているお姉ちゃんに「ありがとう、おねえちゃん」と感謝を言葉を口にし、起こさないように着替えて再び一人で部屋を出る。
「ん~、やっぱり朝の空気は気持ちいなぁ」
これから午後にかけて益々暑くなるのだろうが、朝日が昇る前の今は海から吹く風で気持ちい。
それに周りは木々や緑に囲まれており、散歩コースにはうってつけ。これが王都ならば公園まで行かなければここまでの緑あふれる場所はないので、私にとってはとても新鮮に思えてしまう。
「ゆ~らりゆ~らりゆ~……」
別荘から浜辺に降りた辺りだろうか、何処からともなく綺麗な歌声が風に乗って聴こえてくる。
「誰だろう? こんな朝早くから」
この辺り一帯はエンジニウム公爵家の所有地だと聞いているし、ここから街まではそれなりの距離がるとも聞いている。となると、この歌声の主は一般人だとは考えにくい。
それじゃ一体だれが?
ミリアリア様達がわざわざ早起きをしてまで歌の練習するとは考えにくい。
ボタンが歌を歌うとは聞いた事がないし、カトレアさんがルテア様を置いて一人でお屋敷を出るとは思えない。
ふとお姉ちゃんの顔が浮かぶも私が部屋を出る時にはまだ寝ていたし、そもそも音痴であるお姉ちゃんがこんな綺麗な歌を歌える訳がない。
「よし、気になったなら見に行けばいいじゃない」
別にこそこそする理由もないし、なんだったら木の陰からこっそり覗くだけでもいい。
もしかすると、こんな早朝にお屋敷から離れて歌の練習をしていのだから、誰にも気づかれないようにしているのかもしれないが、これ以上気になる要素が増えるのは私的には良くないだろう。
私は自分に言い訳するように言い聞かせ、歌声の聞こえる方へと向かうのだった。
アリス様が一体何者なのか? 考えないよう考えないようにとすると、余計に気になるのが人としては当然の感情。そこへ就寝前にお姉ちゃんからの一言が重なり合い、結局疲れているのも関わらず一睡もできないまま、窓の外が徐々に明るくなってくる。
そもそもこの枕がいけないのよ。
布団はお日様の匂いがする文句無しのふわふわ好感触。恐らく私たちが訪れる前に公爵家のメイドさん達が準備をしてくれていたのだろう。
ここまでなら普段硬いベットで寝ている環境から変わったからとしても、間違いなく順応していたと誓って言える。だけど枕まで柔らかかな感触が良いかと言われれば、私は否と答えてしまう。
つまりね、枕が変わると寝付けないんだと今回の旅行で初めて気づいたのだ。
だってそうでしょ? これまで旅行らしい旅行なんて行ったこともなければ、友達の家にお泊まりに行ったことすらないのだ。
もちろんお母さん達と近くの野山に出かけた事ぐらいはあるが、そのどれもが日帰りの旅行。お友達の家にだって、お泊まりに行くだけでその家の生活に負担をかけてしまうのだから、良識のある親なら余程の事がなければ許可は出さないだろう。
なので今の今まで枕が変わるという経験をした事がなかったのだ。
「あぁ、もう無理!」
隣でスヤスヤと寝息を立てているお姉ちゃん羨ましく一睨みし、パジャマ姿のまま足音をたてずに静かに部屋を出る。
勘違いしないでよね、ちょっとお手洗いに行くだけなんだから!
誰に言う分けでもなく一人自分にツッコミを入れながらトイレへと向かう。
間も無く朝日が顔を出す時間帯とはいえ、流石にまだ誰も起きていないのだろう。お屋敷内は昼間の賑やかな声が嘘雨のように静まり返っている廊下を足早に急ぐ。
私は素早く所用を済ませ、部屋へ戻りかけたところで思いとどまる。
このまま戻ったとしてもどうせ今更眠れないだろう。ならば気分転換に早朝の浜辺でも散歩するかと考え、その場で回れ右。そして一歩踏み出したところで自分がまだパジャマ姿だった事を思い出し、更にもう半回転をし部屋へと向かう。
ルテア様からはこの別荘の庭先から少し降りたところにある浜辺は、公爵家専用で誰も入ってこないとは聞いているが、流石にパジャマ姿のまま向かうわけにはいかないだろう。
お姉ちゃんを起こさないよう、持ってきたカバンから簡単に着れそうな服をとりだす。
「あれ? こんなワンピース持っていたっけ?」
一瞬、間違えてお姉ちゃんのカバンを開けてしまったのかと確認するも、これは間違いなく私のカバン。するとお母さんかお姉ちゃんがこの日の為にと用意してくれたのだろう。
これがもしアリス様やミリアリア様からのプレゼントだとすると、豪華なドレスになりそうだからその線はない。お姉ちゃんからのサプライズプレゼントだとすると、寧ろ着ている姿をお披露目する方が感謝の気持ちを示せると言うもの。
私は一時考えた末、着ているパジャマを脱ぎ捨て手にした薄いピンクのワンピースを手に取る。
着地は文句無しの一級品。サイズも私のが何時も着ている服と同じで、可愛らしくピンクの花々が刺繍され、正に私の好みを知らない者では用意できないだろう。
「それにしても高そうな服だなぁ」
ワンピースを広げ、施されたデザインをマジマジと観察。
ここで言う高そうとはあくまでも庶民である私からの感覚。質感だけで言えば、昨日お借りしていたメイド服の方が何倍も値が張るものではないだろうか。
「するとお母さんじゃないわね。こんな高そうな服を買うならもっと別なものにお金を使うよね」
いくらお姉ちゃんからの仕送りが来ているとはいえ、将来お姉ちゃんが結婚する時の為に貯金している事は知っている。
お姉ちゃんはお姉ちゃんで、そんなお母さんの性格を知っている関係で、時折珍しいお菓子や嗜好品なんかを送ってきてくれる。
あれでも一応、王家に使えるロイヤルメイドだから、お給金もそれなりに余裕があるんだそうだ。この前なんて、おこずかいって金貨を渡そうとしてくるし。
それじゃこれはきっとお姉ちゃんからのプレゼントなんだろう。どんな形であれ私にとっては初めての旅行となるわけだから、そのあたりを色々と気遣ってくれたのかもしれない。
「あっ、やっぱりお姉ちゃんからのプレゼントだ」
折りたたんであったワンピースからヒラリと落ちるメッセージカード。
『Happy Birthday・サクラ お姉ちゃんより』
「お姉ちゃん……」クスッ
小さくクスリと笑い、寝ているお姉ちゃんに「ありがとう、おねえちゃん」と感謝を言葉を口にし、起こさないように着替えて再び一人で部屋を出る。
「ん~、やっぱり朝の空気は気持ちいなぁ」
これから午後にかけて益々暑くなるのだろうが、朝日が昇る前の今は海から吹く風で気持ちい。
それに周りは木々や緑に囲まれており、散歩コースにはうってつけ。これが王都ならば公園まで行かなければここまでの緑あふれる場所はないので、私にとってはとても新鮮に思えてしまう。
「ゆ~らりゆ~らりゆ~……」
別荘から浜辺に降りた辺りだろうか、何処からともなく綺麗な歌声が風に乗って聴こえてくる。
「誰だろう? こんな朝早くから」
この辺り一帯はエンジニウム公爵家の所有地だと聞いているし、ここから街まではそれなりの距離がるとも聞いている。となると、この歌声の主は一般人だとは考えにくい。
それじゃ一体だれが?
ミリアリア様達がわざわざ早起きをしてまで歌の練習するとは考えにくい。
ボタンが歌を歌うとは聞いた事がないし、カトレアさんがルテア様を置いて一人でお屋敷を出るとは思えない。
ふとお姉ちゃんの顔が浮かぶも私が部屋を出る時にはまだ寝ていたし、そもそも音痴であるお姉ちゃんがこんな綺麗な歌を歌える訳がない。
「よし、気になったなら見に行けばいいじゃない」
別にこそこそする理由もないし、なんだったら木の陰からこっそり覗くだけでもいい。
もしかすると、こんな早朝にお屋敷から離れて歌の練習をしていのだから、誰にも気づかれないようにしているのかもしれないが、これ以上気になる要素が増えるのは私的には良くないだろう。
私は自分に言い訳するように言い聞かせ、歌声の聞こえる方へと向かうのだった。
0
あなたにおすすめの小説
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。
悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~
オレンジ方解石
ファンタジー
恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。
世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。
アウラは二年後に処刑されるキャラ。
桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる