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終 章 ヴィクトリア編
第86話 サクラの想い出夏休み(4)
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「うぅぅ、眠れない……」
アリス様が一体何者なのか? 考えないよう考えないようにとすると、余計に気になるのが人としては当然の感情。そこへ就寝前にお姉ちゃんからの一言が重なり合い、結局疲れているのも関わらず一睡もできないまま、窓の外が徐々に明るくなってくる。
そもそもこの枕がいけないのよ。
布団はお日様の匂いがする文句無しのふわふわ好感触。恐らく私たちが訪れる前に公爵家のメイドさん達が準備をしてくれていたのだろう。
ここまでなら普段硬いベットで寝ている環境から変わったからとしても、間違いなく順応していたと誓って言える。だけど枕まで柔らかかな感触が良いかと言われれば、私は否と答えてしまう。
つまりね、枕が変わると寝付けないんだと今回の旅行で初めて気づいたのだ。
だってそうでしょ? これまで旅行らしい旅行なんて行ったこともなければ、友達の家にお泊まりに行ったことすらないのだ。
もちろんお母さん達と近くの野山に出かけた事ぐらいはあるが、そのどれもが日帰りの旅行。お友達の家にだって、お泊まりに行くだけでその家の生活に負担をかけてしまうのだから、良識のある親なら余程の事がなければ許可は出さないだろう。
なので今の今まで枕が変わるという経験をした事がなかったのだ。
「あぁ、もう無理!」
隣でスヤスヤと寝息を立てているお姉ちゃん羨ましく一睨みし、パジャマ姿のまま足音をたてずに静かに部屋を出る。
勘違いしないでよね、ちょっとお手洗いに行くだけなんだから!
誰に言う分けでもなく一人自分にツッコミを入れながらトイレへと向かう。
間も無く朝日が顔を出す時間帯とはいえ、流石にまだ誰も起きていないのだろう。お屋敷内は昼間の賑やかな声が嘘雨のように静まり返っている廊下を足早に急ぐ。
私は素早く所用を済ませ、部屋へ戻りかけたところで思いとどまる。
このまま戻ったとしてもどうせ今更眠れないだろう。ならば気分転換に早朝の浜辺でも散歩するかと考え、その場で回れ右。そして一歩踏み出したところで自分がまだパジャマ姿だった事を思い出し、更にもう半回転をし部屋へと向かう。
ルテア様からはこの別荘の庭先から少し降りたところにある浜辺は、公爵家専用で誰も入ってこないとは聞いているが、流石にパジャマ姿のまま向かうわけにはいかないだろう。
お姉ちゃんを起こさないよう、持ってきたカバンから簡単に着れそうな服をとりだす。
「あれ? こんなワンピース持っていたっけ?」
一瞬、間違えてお姉ちゃんのカバンを開けてしまったのかと確認するも、これは間違いなく私のカバン。するとお母さんかお姉ちゃんがこの日の為にと用意してくれたのだろう。
これがもしアリス様やミリアリア様からのプレゼントだとすると、豪華なドレスになりそうだからその線はない。お姉ちゃんからのサプライズプレゼントだとすると、寧ろ着ている姿をお披露目する方が感謝の気持ちを示せると言うもの。
私は一時考えた末、着ているパジャマを脱ぎ捨て手にした薄いピンクのワンピースを手に取る。
着地は文句無しの一級品。サイズも私のが何時も着ている服と同じで、可愛らしくピンクの花々が刺繍され、正に私の好みを知らない者では用意できないだろう。
「それにしても高そうな服だなぁ」
ワンピースを広げ、施されたデザインをマジマジと観察。
ここで言う高そうとはあくまでも庶民である私からの感覚。質感だけで言えば、昨日お借りしていたメイド服の方が何倍も値が張るものではないだろうか。
「するとお母さんじゃないわね。こんな高そうな服を買うならもっと別なものにお金を使うよね」
いくらお姉ちゃんからの仕送りが来ているとはいえ、将来お姉ちゃんが結婚する時の為に貯金している事は知っている。
お姉ちゃんはお姉ちゃんで、そんなお母さんの性格を知っている関係で、時折珍しいお菓子や嗜好品なんかを送ってきてくれる。
あれでも一応、王家に使えるロイヤルメイドだから、お給金もそれなりに余裕があるんだそうだ。この前なんて、おこずかいって金貨を渡そうとしてくるし。
それじゃこれはきっとお姉ちゃんからのプレゼントなんだろう。どんな形であれ私にとっては初めての旅行となるわけだから、そのあたりを色々と気遣ってくれたのかもしれない。
「あっ、やっぱりお姉ちゃんからのプレゼントだ」
折りたたんであったワンピースからヒラリと落ちるメッセージカード。
『Happy Birthday・サクラ お姉ちゃんより』
「お姉ちゃん……」クスッ
小さくクスリと笑い、寝ているお姉ちゃんに「ありがとう、おねえちゃん」と感謝を言葉を口にし、起こさないように着替えて再び一人で部屋を出る。
「ん~、やっぱり朝の空気は気持ちいなぁ」
これから午後にかけて益々暑くなるのだろうが、朝日が昇る前の今は海から吹く風で気持ちい。
それに周りは木々や緑に囲まれており、散歩コースにはうってつけ。これが王都ならば公園まで行かなければここまでの緑あふれる場所はないので、私にとってはとても新鮮に思えてしまう。
「ゆ~らりゆ~らりゆ~……」
別荘から浜辺に降りた辺りだろうか、何処からともなく綺麗な歌声が風に乗って聴こえてくる。
「誰だろう? こんな朝早くから」
この辺り一帯はエンジニウム公爵家の所有地だと聞いているし、ここから街まではそれなりの距離がるとも聞いている。となると、この歌声の主は一般人だとは考えにくい。
それじゃ一体だれが?
ミリアリア様達がわざわざ早起きをしてまで歌の練習するとは考えにくい。
ボタンが歌を歌うとは聞いた事がないし、カトレアさんがルテア様を置いて一人でお屋敷を出るとは思えない。
ふとお姉ちゃんの顔が浮かぶも私が部屋を出る時にはまだ寝ていたし、そもそも音痴であるお姉ちゃんがこんな綺麗な歌を歌える訳がない。
「よし、気になったなら見に行けばいいじゃない」
別にこそこそする理由もないし、なんだったら木の陰からこっそり覗くだけでもいい。
もしかすると、こんな早朝にお屋敷から離れて歌の練習をしていのだから、誰にも気づかれないようにしているのかもしれないが、これ以上気になる要素が増えるのは私的には良くないだろう。
私は自分に言い訳するように言い聞かせ、歌声の聞こえる方へと向かうのだった。
アリス様が一体何者なのか? 考えないよう考えないようにとすると、余計に気になるのが人としては当然の感情。そこへ就寝前にお姉ちゃんからの一言が重なり合い、結局疲れているのも関わらず一睡もできないまま、窓の外が徐々に明るくなってくる。
そもそもこの枕がいけないのよ。
布団はお日様の匂いがする文句無しのふわふわ好感触。恐らく私たちが訪れる前に公爵家のメイドさん達が準備をしてくれていたのだろう。
ここまでなら普段硬いベットで寝ている環境から変わったからとしても、間違いなく順応していたと誓って言える。だけど枕まで柔らかかな感触が良いかと言われれば、私は否と答えてしまう。
つまりね、枕が変わると寝付けないんだと今回の旅行で初めて気づいたのだ。
だってそうでしょ? これまで旅行らしい旅行なんて行ったこともなければ、友達の家にお泊まりに行ったことすらないのだ。
もちろんお母さん達と近くの野山に出かけた事ぐらいはあるが、そのどれもが日帰りの旅行。お友達の家にだって、お泊まりに行くだけでその家の生活に負担をかけてしまうのだから、良識のある親なら余程の事がなければ許可は出さないだろう。
なので今の今まで枕が変わるという経験をした事がなかったのだ。
「あぁ、もう無理!」
隣でスヤスヤと寝息を立てているお姉ちゃん羨ましく一睨みし、パジャマ姿のまま足音をたてずに静かに部屋を出る。
勘違いしないでよね、ちょっとお手洗いに行くだけなんだから!
誰に言う分けでもなく一人自分にツッコミを入れながらトイレへと向かう。
間も無く朝日が顔を出す時間帯とはいえ、流石にまだ誰も起きていないのだろう。お屋敷内は昼間の賑やかな声が嘘雨のように静まり返っている廊下を足早に急ぐ。
私は素早く所用を済ませ、部屋へ戻りかけたところで思いとどまる。
このまま戻ったとしてもどうせ今更眠れないだろう。ならば気分転換に早朝の浜辺でも散歩するかと考え、その場で回れ右。そして一歩踏み出したところで自分がまだパジャマ姿だった事を思い出し、更にもう半回転をし部屋へと向かう。
ルテア様からはこの別荘の庭先から少し降りたところにある浜辺は、公爵家専用で誰も入ってこないとは聞いているが、流石にパジャマ姿のまま向かうわけにはいかないだろう。
お姉ちゃんを起こさないよう、持ってきたカバンから簡単に着れそうな服をとりだす。
「あれ? こんなワンピース持っていたっけ?」
一瞬、間違えてお姉ちゃんのカバンを開けてしまったのかと確認するも、これは間違いなく私のカバン。するとお母さんかお姉ちゃんがこの日の為にと用意してくれたのだろう。
これがもしアリス様やミリアリア様からのプレゼントだとすると、豪華なドレスになりそうだからその線はない。お姉ちゃんからのサプライズプレゼントだとすると、寧ろ着ている姿をお披露目する方が感謝の気持ちを示せると言うもの。
私は一時考えた末、着ているパジャマを脱ぎ捨て手にした薄いピンクのワンピースを手に取る。
着地は文句無しの一級品。サイズも私のが何時も着ている服と同じで、可愛らしくピンクの花々が刺繍され、正に私の好みを知らない者では用意できないだろう。
「それにしても高そうな服だなぁ」
ワンピースを広げ、施されたデザインをマジマジと観察。
ここで言う高そうとはあくまでも庶民である私からの感覚。質感だけで言えば、昨日お借りしていたメイド服の方が何倍も値が張るものではないだろうか。
「するとお母さんじゃないわね。こんな高そうな服を買うならもっと別なものにお金を使うよね」
いくらお姉ちゃんからの仕送りが来ているとはいえ、将来お姉ちゃんが結婚する時の為に貯金している事は知っている。
お姉ちゃんはお姉ちゃんで、そんなお母さんの性格を知っている関係で、時折珍しいお菓子や嗜好品なんかを送ってきてくれる。
あれでも一応、王家に使えるロイヤルメイドだから、お給金もそれなりに余裕があるんだそうだ。この前なんて、おこずかいって金貨を渡そうとしてくるし。
それじゃこれはきっとお姉ちゃんからのプレゼントなんだろう。どんな形であれ私にとっては初めての旅行となるわけだから、そのあたりを色々と気遣ってくれたのかもしれない。
「あっ、やっぱりお姉ちゃんからのプレゼントだ」
折りたたんであったワンピースからヒラリと落ちるメッセージカード。
『Happy Birthday・サクラ お姉ちゃんより』
「お姉ちゃん……」クスッ
小さくクスリと笑い、寝ているお姉ちゃんに「ありがとう、おねえちゃん」と感謝を言葉を口にし、起こさないように着替えて再び一人で部屋を出る。
「ん~、やっぱり朝の空気は気持ちいなぁ」
これから午後にかけて益々暑くなるのだろうが、朝日が昇る前の今は海から吹く風で気持ちい。
それに周りは木々や緑に囲まれており、散歩コースにはうってつけ。これが王都ならば公園まで行かなければここまでの緑あふれる場所はないので、私にとってはとても新鮮に思えてしまう。
「ゆ~らりゆ~らりゆ~……」
別荘から浜辺に降りた辺りだろうか、何処からともなく綺麗な歌声が風に乗って聴こえてくる。
「誰だろう? こんな朝早くから」
この辺り一帯はエンジニウム公爵家の所有地だと聞いているし、ここから街まではそれなりの距離がるとも聞いている。となると、この歌声の主は一般人だとは考えにくい。
それじゃ一体だれが?
ミリアリア様達がわざわざ早起きをしてまで歌の練習するとは考えにくい。
ボタンが歌を歌うとは聞いた事がないし、カトレアさんがルテア様を置いて一人でお屋敷を出るとは思えない。
ふとお姉ちゃんの顔が浮かぶも私が部屋を出る時にはまだ寝ていたし、そもそも音痴であるお姉ちゃんがこんな綺麗な歌を歌える訳がない。
「よし、気になったなら見に行けばいいじゃない」
別にこそこそする理由もないし、なんだったら木の陰からこっそり覗くだけでもいい。
もしかすると、こんな早朝にお屋敷から離れて歌の練習をしていのだから、誰にも気づかれないようにしているのかもしれないが、これ以上気になる要素が増えるのは私的には良くないだろう。
私は自分に言い訳するように言い聞かせ、歌声の聞こえる方へと向かうのだった。
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