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桜花爛漫
第4話 仮面少女の序曲(4)
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「この臨時収入は助かるわね」
場所を結城家のサロンへと移し、紫乃様から頂いた通帳を片手に、近くにいた胡桃に話しかける。
「そうですね。そろそろ今後の事も考えないといけない時でしたので、正直そのお金は助かりますね」
実家を勘当という理由で追い出された私はほぼ無一文の状態。胡桃は北条家で下働をしていた関係、多少の蓄えはあるらしいが、そのお金は私が使っていいものでは決してない。
今まで怪我の治療で結城家にお世話になっていたが、いつまでも此方でお世話になっているというわけにはいかない。丁度仕事の報酬も入った事だし、そろそろ本格的に今後の事を考えなければいけないだろう。
「えー! お姉さま達はこの家から出て行くんですか!?」
隣で私達の話しを聞いていた凪咲ちゃんが、一人抗議の声をあげる。
「仕方ないでしょ? いつまでもお世話になっているわけにもいかないって、理由もあるけれど、私はこれでも北条家の娘なのよ。もし実家にバレでもしたら、結城家にどんなご迷惑を掛けるかわかったもんじゃないわ」
いまでこそ北条家は拠点を神奈川に置いているが、数世代前までは大江戸屈指の一族とまで言われていたのだ。それが長年強力な術者が生まれず、今のように都市部から追い出されるように拠点を移したが、一族は未だ日本の首都へ返り咲きたいという野望を抱いている。
そして現在、北条家では霊力の強い兄が生まれてしまった。
私が実家にいた時ですら既に打倒結城家、なんて雰囲気まであったので、成人してしまった今の兄なら、本気で目の敵にしているのではないだろうか。
「でもお姉さまってご実家から勘当されちゃったんですよね? だったら今更何言っているんだと突っぱねたらいいじゃないですか」
「それはそうなんだけれど、流石に結城家の本邸に住み込んでいちゃ、一族の恥を晒すなぁ! って怒鳴り込んで来そうじゃない? せめてフリーでお仕事を頂いている程度なら、生きていくために仕方がないんだって文句は返せるけど、このまま住み込みの状態じゃ、結城家の術者さん達にも不満の声が上がると思うのよ」
勝手に目の敵にしている北条家に対し、結城家や親しい一族の方々は、やはり一方的に敵意を向けてくる北条家に、いい感情は抱いていないことだろう。
せめて私が一人前に成長し、フリーの術者として認められれば、また違った結果を残せるのかもしれないが、現在の私にはこのまま術者として生計を立てていくかすら迷ってしまっている。
「だったらお母様に相談してみてはどうすですか? お姉さまなら絶対に力になってくださると思うんです」
「うーん、でもこれ以上ご迷惑をかけるのもねぇー」
戸籍の改ざんに加え、頂いた一億円という報酬。他にも現在進行形で居候の状態だし、実家に報告もせず匿ってすらもらっているうえ、このうえ頼みごとを増やすのは、やはり私の良心がそれを押しとどめてしまう。
「うん、やっぱりここは……」
決意確定、やはりここはお礼をした後に結城家を後にしようと考えがまとまったその時。
「もう、水臭いわね」むぎゅ
「うわっ!?」
いきなり背後から気配なく誰かに抱きつかれてしまい、思わず驚きの声を上げてしまう。
「梢さん! それに紫乃様まで!?」
顔だけ振り向くと、そこにおられたのは先ほど別れたばかりの紫乃様と、柊也様の婚約者でもある千葉 梢さんのお二人がいた。
「きゅ、急にどうされたのですか?」
「紫乃様に呼び出されたのよ。そろそろ沙姫ちゃんが結城家から出て行くと言い出しそうだから、相談に乗ってあげてって」
「うぐっ」
正にたったいま結城家から出て行く相談をしていた身としては、思わず言葉を詰まらせてしまう。
「お久しぶりで梢姉さまぁ」
ぱふっと梢さんに抱きつくかわいい凪咲ちゃん。梢さんは東京都内に拠点を置く千葉家のお嬢様で、精霊術師としては後方支援を担う現役の術者でもある。
梢さんは抱きついてくる凪咲ちゃんを優しく受け止めると、私と胡桃が座る正面に、ご当主である紫乃様と一緒に腰を降ろされる。
「あ、あのぉー。もしかして今の話しを聞かれちゃっていましたか?」
タイミング的にも、やはり私たちの話しを聞かれていたと推測する方が正しいだろう。
「えぇ、聞くつもりはなかったのだけれど、自然と聞こえちゃったという感じ?」
「あぁー、やっぱりそうですよね」
別に秘密の相談をしていたというわけでもないし、お借りしている部屋で密談していたというわけでもない。
それに私が今いるのは結城家のプライベートエリアなので、お二人がこの場にいても別段怪しいわけでもないのだ。
「すみません、後で紫乃様にはご報告しようとは思っていたんです」
これでも約3ヶ月ほどお世話になった身。黙って出て行くつもりもなければ、お礼も言わずに行方をくらませるつもりも全くない。
その事をお二人に伝えると。
「沙姫ちゃん、お仕事は終わったのだから様づけなんていらないわよ」
「えっと……それじゃ紫乃さん」
結城家のご当主相手にさん付けは無いと思うのだが、ご本人がそう呼べと言っているのだから、こちらとしてはそれを否定できない。
だけど……
「もう、いつも言っているけれど、お義母様でもいいのよ」
ブフッ。
先ほども説明したかもしれないけれど、紫乃さんは私を蓮也のお嫁さんする事を積極的に押して来られる。
ただこの国の法律じゃ18歳以下は親の承諾が必要なため、現実的には来年の誕生日以降の話しにはなるのだが、割と本気で私を結城家へ迎え入れたいようで、隙あらばちょくちょくジャブ的なアタックを私にして来られるのだ。
私としてはこの先どうやって生活をして行くかで頭がいっぱいなので、今は結婚だとか恋愛だとか正直考えられないのよね。
それに実家にいた時には不本意ながら、許婚という有難くもない存在も居たため、それが今どうなっているかもわからないし、あの父と兄が結城家へ嫁ぐ事を許す筈もないので、未だに自分の状況がどのようなものかが、ハッキリとわからないのだ。
「その……とりあえず蓮也との話はまた今度ということで……」
「仕方ないわねぇ」
蓮也との出会いはいずれ機会があれば説明するが、一時でも命を預けあった間柄なので、その辺のナンパ男共より信頼関係は築けているとは思っている。だけどそれが恋愛に繋がるといえばまた別の話なのだ。
勿論好きか嫌いかと問われれば、まだ好きの部類には入るのだが、今は自分とこんな私に付いてきてくれた胡桃の事もあるので、正直恋愛の事まで頭が回らないといった方が正しいだろう。
「それじゃここからは真面目な話ね。一応最初に確認するけど、沙姫ちゃん達はここを出たあと行き先ってあるのかしら?」
「いえ、しばらくはホテル暮らしをしながらアパートでも探そうかな、程度の考えなんですけど」
実家を勘当された身なので、北条家がらみの家に押しかけることは出来ないし、実家に帰ることなんて絶対にありえない。
幸い今回頂いた報酬のおかげで、少々大きめのアパートでも暮らせそうなので、胡桃と一緒に不動産屋巡りをしてもいいかな、なんて密かに考えている。
「そう、でも二人とも未成年よね? 知っているかどうかわからないけれど、未成年がアパートを借りるには、親の承諾と保証人が必要なのよ」
「えっ?」
親の承諾と保証人? なにそれ。
「申し訳ございません沙姫様、うっかりしてました」
「胡桃、知っていたの?」
「はい」
聞けばこの国の法律では、未成年がアパートを借りるには色々書類上の手続きが必要なんだとか。
胡桃は知っていたらしいが、実家の勘当から私の大怪我で、すっかりそこの部分が抜け落ちてしまっていたとの事だった。
「どうしよう、保証人ってのもやっぱ胡桃じゃダメなんですよね?」
「えぇ、胡桃ちゃんも未成年だし、何より今は収入がないでしょ?」
保証人になれるのは成人した大人で、尚且つ収入がある人でないとダメとの事。
本来胡桃は私がお給料を支払わなければいけなく、その手続きも法的な手続きも何一つとして出来ていない状態。そんな状況ではとても保証人としては認められないだろう。
結城家を出て行くと行き込んだいいものの、いきなり座礁してしまい不安に駆られる私と胡桃。そんな中、紫乃さんがある提案を提示してくださる。
「そこで提案なんだけれど、このマンションに住まない?」
「ここ……ですか?」
このマンションという事は、この高そうなタワーマンションよね?
「ここなら複雑な手続きは一切いらないし、結城家としても気兼ねにお仕事の依頼もお願いできる。なんだったら結城家とフリー契約を結んでもいいわよ」
「……」
思いがけない紫乃さんからの提案に、私は頭の中でザッと計算する。
確かこのタワーマンションそのものが、結城家が保有する建物だったわよね。そう考えると先ほどおっしゃったように複雑な書類関係は省け、親の承諾や保証人なんてものも一気に解決できてしまう。
少々お仕事絡みで妖魔退治が付いてきてしまうのだが、遅かれ早かれ決断しなければいけなかったんだし、か弱い年頃の女性が暮らすには、このタワーマンションの防犯は非常に有難い。
それに私の手元には一億円なんてお金もあるので、賃貸契約ならば当分の間お金に困るような事は起きないだろう。
私は胡桃に無言の同意を求め、お互いの意思が確認出来た上で紫乃様のご提案に乗らさせて頂く。
「わかりました。どうか宜しくお願いします」
「ふふふ、そんなに畏まらなくてもいいのよ。私の方にもメリットがあるのだし、凪咲もその方が喜ぶでしょ? それにお仕事を頼むと言っても、貴女達の本業は学生の方。時々アルバイト的なお仕事をお願いはするけど、学業に支障を来すつもりはないから安心してちょうだい」
「そういう事でしたら是非」
「勿論、こちらで対処できない事案が舞い込んだら率先的にお願いするケドね」
「うぐっ。お、お手柔らかに」
お小遣いが稼げる程度の軽い気持ちでいると、最後にクギを刺すような重い一撃を貰ってしまう。
でもあんな大きな事件なんてそう滅多に起こるようなものでもないし、東京近辺だけに脅威が集中するなんてこともないので、これは紫乃さん的な軽い冗談のようなものだろう。
実際震災級の妖魔が出てきたら、自分は学生だから無関係とは言っていられないはずだ。
このあと紫乃さん案内で部屋を内覧させてもらい、私と胡桃は結城家を出ることに決まったのだが、その行き先が結城家の本邸が入っている一つ下とくれば、もう引っ越ししているのか別の部屋へと移動しているのか、よく分からない状態となってしまった。
家賃も随分安くしていただいたし、新しい高校への編入手続きもして頂けると言う話なので、これで当面の心配事は解決したこととなる。
こうして私の第二の人生が、この高級タワーマンションで始まる事となるのだが、案内された部屋が余りにも広すぎて、二人して呆然と立ち尽くしてしまった事だけを伝えておく。
場所を結城家のサロンへと移し、紫乃様から頂いた通帳を片手に、近くにいた胡桃に話しかける。
「そうですね。そろそろ今後の事も考えないといけない時でしたので、正直そのお金は助かりますね」
実家を勘当という理由で追い出された私はほぼ無一文の状態。胡桃は北条家で下働をしていた関係、多少の蓄えはあるらしいが、そのお金は私が使っていいものでは決してない。
今まで怪我の治療で結城家にお世話になっていたが、いつまでも此方でお世話になっているというわけにはいかない。丁度仕事の報酬も入った事だし、そろそろ本格的に今後の事を考えなければいけないだろう。
「えー! お姉さま達はこの家から出て行くんですか!?」
隣で私達の話しを聞いていた凪咲ちゃんが、一人抗議の声をあげる。
「仕方ないでしょ? いつまでもお世話になっているわけにもいかないって、理由もあるけれど、私はこれでも北条家の娘なのよ。もし実家にバレでもしたら、結城家にどんなご迷惑を掛けるかわかったもんじゃないわ」
いまでこそ北条家は拠点を神奈川に置いているが、数世代前までは大江戸屈指の一族とまで言われていたのだ。それが長年強力な術者が生まれず、今のように都市部から追い出されるように拠点を移したが、一族は未だ日本の首都へ返り咲きたいという野望を抱いている。
そして現在、北条家では霊力の強い兄が生まれてしまった。
私が実家にいた時ですら既に打倒結城家、なんて雰囲気まであったので、成人してしまった今の兄なら、本気で目の敵にしているのではないだろうか。
「でもお姉さまってご実家から勘当されちゃったんですよね? だったら今更何言っているんだと突っぱねたらいいじゃないですか」
「それはそうなんだけれど、流石に結城家の本邸に住み込んでいちゃ、一族の恥を晒すなぁ! って怒鳴り込んで来そうじゃない? せめてフリーでお仕事を頂いている程度なら、生きていくために仕方がないんだって文句は返せるけど、このまま住み込みの状態じゃ、結城家の術者さん達にも不満の声が上がると思うのよ」
勝手に目の敵にしている北条家に対し、結城家や親しい一族の方々は、やはり一方的に敵意を向けてくる北条家に、いい感情は抱いていないことだろう。
せめて私が一人前に成長し、フリーの術者として認められれば、また違った結果を残せるのかもしれないが、現在の私にはこのまま術者として生計を立てていくかすら迷ってしまっている。
「だったらお母様に相談してみてはどうすですか? お姉さまなら絶対に力になってくださると思うんです」
「うーん、でもこれ以上ご迷惑をかけるのもねぇー」
戸籍の改ざんに加え、頂いた一億円という報酬。他にも現在進行形で居候の状態だし、実家に報告もせず匿ってすらもらっているうえ、このうえ頼みごとを増やすのは、やはり私の良心がそれを押しとどめてしまう。
「うん、やっぱりここは……」
決意確定、やはりここはお礼をした後に結城家を後にしようと考えがまとまったその時。
「もう、水臭いわね」むぎゅ
「うわっ!?」
いきなり背後から気配なく誰かに抱きつかれてしまい、思わず驚きの声を上げてしまう。
「梢さん! それに紫乃様まで!?」
顔だけ振り向くと、そこにおられたのは先ほど別れたばかりの紫乃様と、柊也様の婚約者でもある千葉 梢さんのお二人がいた。
「きゅ、急にどうされたのですか?」
「紫乃様に呼び出されたのよ。そろそろ沙姫ちゃんが結城家から出て行くと言い出しそうだから、相談に乗ってあげてって」
「うぐっ」
正にたったいま結城家から出て行く相談をしていた身としては、思わず言葉を詰まらせてしまう。
「お久しぶりで梢姉さまぁ」
ぱふっと梢さんに抱きつくかわいい凪咲ちゃん。梢さんは東京都内に拠点を置く千葉家のお嬢様で、精霊術師としては後方支援を担う現役の術者でもある。
梢さんは抱きついてくる凪咲ちゃんを優しく受け止めると、私と胡桃が座る正面に、ご当主である紫乃様と一緒に腰を降ろされる。
「あ、あのぉー。もしかして今の話しを聞かれちゃっていましたか?」
タイミング的にも、やはり私たちの話しを聞かれていたと推測する方が正しいだろう。
「えぇ、聞くつもりはなかったのだけれど、自然と聞こえちゃったという感じ?」
「あぁー、やっぱりそうですよね」
別に秘密の相談をしていたというわけでもないし、お借りしている部屋で密談していたというわけでもない。
それに私が今いるのは結城家のプライベートエリアなので、お二人がこの場にいても別段怪しいわけでもないのだ。
「すみません、後で紫乃様にはご報告しようとは思っていたんです」
これでも約3ヶ月ほどお世話になった身。黙って出て行くつもりもなければ、お礼も言わずに行方をくらませるつもりも全くない。
その事をお二人に伝えると。
「沙姫ちゃん、お仕事は終わったのだから様づけなんていらないわよ」
「えっと……それじゃ紫乃さん」
結城家のご当主相手にさん付けは無いと思うのだが、ご本人がそう呼べと言っているのだから、こちらとしてはそれを否定できない。
だけど……
「もう、いつも言っているけれど、お義母様でもいいのよ」
ブフッ。
先ほども説明したかもしれないけれど、紫乃さんは私を蓮也のお嫁さんする事を積極的に押して来られる。
ただこの国の法律じゃ18歳以下は親の承諾が必要なため、現実的には来年の誕生日以降の話しにはなるのだが、割と本気で私を結城家へ迎え入れたいようで、隙あらばちょくちょくジャブ的なアタックを私にして来られるのだ。
私としてはこの先どうやって生活をして行くかで頭がいっぱいなので、今は結婚だとか恋愛だとか正直考えられないのよね。
それに実家にいた時には不本意ながら、許婚という有難くもない存在も居たため、それが今どうなっているかもわからないし、あの父と兄が結城家へ嫁ぐ事を許す筈もないので、未だに自分の状況がどのようなものかが、ハッキリとわからないのだ。
「その……とりあえず蓮也との話はまた今度ということで……」
「仕方ないわねぇ」
蓮也との出会いはいずれ機会があれば説明するが、一時でも命を預けあった間柄なので、その辺のナンパ男共より信頼関係は築けているとは思っている。だけどそれが恋愛に繋がるといえばまた別の話なのだ。
勿論好きか嫌いかと問われれば、まだ好きの部類には入るのだが、今は自分とこんな私に付いてきてくれた胡桃の事もあるので、正直恋愛の事まで頭が回らないといった方が正しいだろう。
「それじゃここからは真面目な話ね。一応最初に確認するけど、沙姫ちゃん達はここを出たあと行き先ってあるのかしら?」
「いえ、しばらくはホテル暮らしをしながらアパートでも探そうかな、程度の考えなんですけど」
実家を勘当された身なので、北条家がらみの家に押しかけることは出来ないし、実家に帰ることなんて絶対にありえない。
幸い今回頂いた報酬のおかげで、少々大きめのアパートでも暮らせそうなので、胡桃と一緒に不動産屋巡りをしてもいいかな、なんて密かに考えている。
「そう、でも二人とも未成年よね? 知っているかどうかわからないけれど、未成年がアパートを借りるには、親の承諾と保証人が必要なのよ」
「えっ?」
親の承諾と保証人? なにそれ。
「申し訳ございません沙姫様、うっかりしてました」
「胡桃、知っていたの?」
「はい」
聞けばこの国の法律では、未成年がアパートを借りるには色々書類上の手続きが必要なんだとか。
胡桃は知っていたらしいが、実家の勘当から私の大怪我で、すっかりそこの部分が抜け落ちてしまっていたとの事だった。
「どうしよう、保証人ってのもやっぱ胡桃じゃダメなんですよね?」
「えぇ、胡桃ちゃんも未成年だし、何より今は収入がないでしょ?」
保証人になれるのは成人した大人で、尚且つ収入がある人でないとダメとの事。
本来胡桃は私がお給料を支払わなければいけなく、その手続きも法的な手続きも何一つとして出来ていない状態。そんな状況ではとても保証人としては認められないだろう。
結城家を出て行くと行き込んだいいものの、いきなり座礁してしまい不安に駆られる私と胡桃。そんな中、紫乃さんがある提案を提示してくださる。
「そこで提案なんだけれど、このマンションに住まない?」
「ここ……ですか?」
このマンションという事は、この高そうなタワーマンションよね?
「ここなら複雑な手続きは一切いらないし、結城家としても気兼ねにお仕事の依頼もお願いできる。なんだったら結城家とフリー契約を結んでもいいわよ」
「……」
思いがけない紫乃さんからの提案に、私は頭の中でザッと計算する。
確かこのタワーマンションそのものが、結城家が保有する建物だったわよね。そう考えると先ほどおっしゃったように複雑な書類関係は省け、親の承諾や保証人なんてものも一気に解決できてしまう。
少々お仕事絡みで妖魔退治が付いてきてしまうのだが、遅かれ早かれ決断しなければいけなかったんだし、か弱い年頃の女性が暮らすには、このタワーマンションの防犯は非常に有難い。
それに私の手元には一億円なんてお金もあるので、賃貸契約ならば当分の間お金に困るような事は起きないだろう。
私は胡桃に無言の同意を求め、お互いの意思が確認出来た上で紫乃様のご提案に乗らさせて頂く。
「わかりました。どうか宜しくお願いします」
「ふふふ、そんなに畏まらなくてもいいのよ。私の方にもメリットがあるのだし、凪咲もその方が喜ぶでしょ? それにお仕事を頼むと言っても、貴女達の本業は学生の方。時々アルバイト的なお仕事をお願いはするけど、学業に支障を来すつもりはないから安心してちょうだい」
「そういう事でしたら是非」
「勿論、こちらで対処できない事案が舞い込んだら率先的にお願いするケドね」
「うぐっ。お、お手柔らかに」
お小遣いが稼げる程度の軽い気持ちでいると、最後にクギを刺すような重い一撃を貰ってしまう。
でもあんな大きな事件なんてそう滅多に起こるようなものでもないし、東京近辺だけに脅威が集中するなんてこともないので、これは紫乃さん的な軽い冗談のようなものだろう。
実際震災級の妖魔が出てきたら、自分は学生だから無関係とは言っていられないはずだ。
このあと紫乃さん案内で部屋を内覧させてもらい、私と胡桃は結城家を出ることに決まったのだが、その行き先が結城家の本邸が入っている一つ下とくれば、もう引っ越ししているのか別の部屋へと移動しているのか、よく分からない状態となってしまった。
家賃も随分安くしていただいたし、新しい高校への編入手続きもして頂けると言う話なので、これで当面の心配事は解決したこととなる。
こうして私の第二の人生が、この高級タワーマンションで始まる事となるのだが、案内された部屋が余りにも広すぎて、二人して呆然と立ち尽くしてしまった事だけを伝えておく。
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