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桜花爛漫
第29話 厄災再び(5)
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「なんだ、何が起こった!?」
「この状況で爆発だと? すぐに調べろ!」
「場所はどこだ。えぇい、邪魔をするな!」
突如敷地内で起こった轟音に、北条家の術者達が慌てたように動き出す。
バカか、バカなの?
何が起こったかなんて、このまとわりつく様な妖気を感じればすぐにわかるでしょ!
「敵よ、妖魔の方から攻めてきたのよ!」
私と蓮也は既に臨戦態勢、兄はまだ状況が飲み込めていないようだし、妹の沙夜に至っては巨大な妖気に足元が震え、そば付きの少女に支えられている始末。
まぁ、この妖気を瞬時に感じとれた事には賞賛するが、これで妹の沙夜は戦力外という事が判明した。
如何に巨大な霊力を有し、将来を期待されているとはいえ、所詮は実戦を経験していな見習い術師。この私だって初陣はつい最近の事だったので、妹の気持ちも多少は理解出来る。
「敵だと!? バカな、妖魔の方から攻めてきたというのか!」
「中庭よ!」
嫌な妖気が溢れるこの中で、何やら偉そう叫ぶ術者を無視し、私は白銀を一旦帰還させながら蓮也と共に既に駆け出す。途中蓮也が事前に預かったインカムを通し、待機させている結城家の術者に指示を出している。
おそらく周囲へ被害を出さないための結界と、警察へ交通規制をかける様に連絡を入れているのだろう。
「こっちよ」
これでも嘗てはここで暮らした事がある身、蓮也を案内する様先頭を走る。やがて妖気の元凶ともいえる中庭へ、私と蓮也がいち早く到着した。
「おいおいマジかよ、この妖気はシャレにならないぞ」
「えぇ……。ギリギリ鬼化はしていなようだけれど、予想以上の強敵みたいね」
中庭の中央に、黒く靄のような妖気を纏った人間が、嫌な笑みを浮かべながら佇む。その周りには上空から急降下でもしてきたのか、小さなクレーターのようなものが出来上がっている。
「し、茂様!?」
「まさか茂だと!? 本当に奴の方からやってきたというのか!」
「舐めた真似をしおって、返り討ちにしてやる!」
遅れること数十秒、兄と沙夜を含めた術者達が合流し、各々臨戦態勢を取りながら妖気を纏った正木茂を取り囲む。
「なんと愚かな姿だ。由緒ある北条家の人間が妖魔なんぞに取り憑かれおって」
茂の様子を見て、近くに来た兄が吐き捨てる様に言葉を吐く。
別に彼の事をフォローするつもりはないが、ここまで彼を追い詰めたのは当主である父であり、その意思を遂行する兄であり、この忌まわしい北条家そのもの。
それを理解もせず、ただ彼だけが悪いと言い放つとは、はやり思っていた以上のクズ人間なのだろう。
だが、今はその問題より目の前の妖魔に意識を集中せねばなるまい。
「放て!」
兄の掛け声とともに、周りを取り囲む術師から一斉砲撃が放たれる。
「やったか!?」
「これだけの集中放火だ、滅せないまでもダメージは与えているはずだ」
「のこのこと乗り込んできた事を後悔しろ!」
はぁ……。これほどの妖気を纏っている相手に、そんな水鉄砲のような砲撃が通じるはずがないでしょ。
案の定、砲撃の土煙の中から、何事もなかったかの様な一人の人間の影が浮び出す。
「おいおい、出迎えにしては少々派手だな。それとも何か? 今の攻撃でこの俺を倒せると本気で思っていたのか?」
黒く嫌な妖気を纏った茂が、演技がかった仕草をしながら言葉を吐く。
やはり彼は妖魔などに操られてはいない。一目見た時からどこか違和感を感じていたのだ。
通常妖魔に取り憑かれると、まず目がうつろな状態となり、出てくる言葉もどこか意味不明なものがおおい。それなのに彼の瞳は、薄暗くはなっているものの、そこから伝わる意思は強く、言葉の内容こそ乱暴だが、ハッキリと本人の意思ちが込められている。
すると考えらる可能性は、自ら妖魔を受け入れたという事なのだが、一体どこでこれほど強大な妖魔を見つけてきたのかが疑問に上がる。
「バ、バカな。妖魔に取り憑かれた状態でしゃべっただと!?」
「ありえん、操られているだけではないのか?」
バカなのは貴方達の方でしょ。この状況を見て、彼の身に何が起こっているかをまるで理解していない。
「しゃべっている暇があるなら、とっとと逃げなさい! あなた達が敵う相手ではないわ」
これがB級妖魔に止まっている程度なら、彼らも多少の戦力にはなるのだろうが、いま目の前にいる敵は明らかにB級クラスを上回っている。
さすがに災害級といわれるS級とまではいかないのだろうが、いまこの現状でまともに張り合えるのは、兄と妹を含めた恐らく4名。最悪沙夜は戦力にならない可能性もあるので、実質3名といったところではないだろうか。
しかし私の忠告も虚しく。
「なに? 我らに逃げろというのか!」
「結城家の人間が何を偉そうに」
「我らの力を舐めるな!」
バカどもが。
私の言葉に逆らうのは構わないが、それで命を落としてしまえば意味がないでしょうに。
「えぇい、今一度だ!」
術者の誰かによる言葉と共に、再び北条家の術者による砲撃が火が吹くも、今度は術を放った者達から悲鳴が上がる。
「くははは、バカだなぁ。そんな豆鉄砲のような術が効くかよ」
一見妖気の壁で防いだように見えた技だが、いま茂が行使した術は、風壁とよばれる風の術に近い技。本来はただ防ぐだけの術なのだが、茂は似たような術を無理やり構築し、迫り来る砲撃を力任せに跳ね返したのだ。
「ぐはっ」
「は、跳ね返した……だと?」
「くそっ、我らの術が通じない」
だから言ったのに……。
今の行動からしても、やはり茂は妖魔には操られてはいない。
もし妖魔が彼に取り憑いているのならば、精霊術のような技は使わないだろう。だけどそれは同時に、本来彼の近くにいた筈のの精霊が消滅している事を示している。
恐らく妖魔に自らの相棒を生贄に差し出したのではないだろうか。
「なんで、なんで茂様が風の術を……」
へぇ、今の術を見破ったのね。
隣に来た沙夜が呟く様に言葉を吐く。
もともと北条家は水の精霊術に好かれる傾向がり、その分家の人間でもある茂も水の精霊と契約していた。そして精霊術師が同時に契約できるのは1体のみ。
もし茂の負の感情により、彼の精霊が妖魔化していたら風の術なんて使える筈もなく、単に茂本人が妖魔に取り込まれていれば、ただ力任せに妖気をまき散らすだけ。
つまりどちらにせよ、茂は風の術を使える様にはならないのだ。
「オラオラオラ、マヌケどもがどうした! もう終わりか?」
「くそっ、こんなところで」
「助けてくれ、障壁が持たない!」
「足が、俺の足がぁ!!」
彼らになにか恨みでもあるのか、すでに倒れた術者達に対し、追い打ちをかけるように黒い散弾を振りまく。
辺りは既に阿鼻叫喚、別に彼らを助ける義理はないが、流石にこれ以上の横暴は見過ごす事は出来ない。
私は隣に立つ蓮也に無言で合図を送り、茂に仕掛けようとしたその時。
「調子にのるな!」
近くに立つ、北条将樹が自らの精霊を呼び出ながら攻撃する。
「ぐはっ」
兄が放った水龍に吹き飛ばされる茂。
ムカつくほど性格が曲がりくねっているとはいえ、やはり今世紀最強を称えられる兄の力。
その傍らには人間の女性の姿をした精霊が静かに佇んでいる。
(おい、アレが彼奴の精霊なのか?)
(えぇ、彼女こそが兄が契約をしている精霊、紬よ)
姿こそ成人女性の姿を模しているが、中身は正真正銘の中級精霊。その見た目は水の羽衣を纏った天女と言えばわかるだろうか。
「ちっ、くそ。腐っても北条家最強の術者ってわけか」
「うそ……アレで立ち上がれるの?」
何事もなかったかのように立ち上がる茂の姿をみて、沙夜から驚きの言葉が飛び出す。
やはりあれは……
「たぶん『纏』よ。彼は妖魔を纏っているのよ」
「!?」
高位の術師でも扱えるものが少ないと言われる、精霊術師最高の奥義。
言葉の通り契約している精霊をその身に『纏う』のだが、その効果は霊力の強化だけには止まらず、身体能力の向上から常識を覆すような防御障壁まで、『纏』が扱える術者が一人いるだけで、その一族が特別視されるほどの強力な術と言われている。
そしてこの『纏』、多くの術者は知らないと思うが、妖魔もまた人は纏えてしまうだ。
「そんな、人が妖魔を纏うだなんて聞いたことがありません」
「……」
沙夜の言葉に思わず声を失う私。
(耳が痛いわね)
精霊が霊気の塊であるように、妖魔もまた霊気が負のエネルギーで染まったもの。元が同じ霊気なのだから妖魔も同じく纏おうと思えばできてしまう。
ただ正常な考えをもつ精霊術師ならば、わかっていても妖魔を纏おうとは思わないだろう。精霊術師の近くには相棒と呼べる精霊がおり、『纏』を使えるのは契約の儀式を終えたパートーのみ。
もし契約している精霊をそのままにして、妖魔との契約を交わせばどうなるか。答えは簡単、より強力な方が弱者側を飲み込んでしまう。精霊同士でも同じ現象が確認されているのだから、相手が妖魔に変わったとしても結果としては同じだろう。
「ほぉ、ただのコスプレ女だとは思っていたが、この俺の秘密を一発で見破るとは大したもんだ」
「それはどうも」
「だが、それでどうする? 最強の精霊術でもある『纏』すら出来ない人間が、妖魔を『纏』ったこの俺に勝てる思っているのか?」
はぁ……。まったく、おめでたい人間ね。
最強の精霊術でもある『纏』は確かに強力な技ではあるが、決して無敵と呼べるような術ではない。
戦い方次第、戦略次第で『纏』を使えない術者でも攻略は可能だし、纏う者の体力や、纏っている側の霊力によっても、限界はいずれやってくる。
ただ問題が、茂が纏っている妖魔が異常に強く、彼を取り巻く妖気が非常に強固なうえ、扱えるはずのない風の術が行使できているという謎の部分。
考えられる可能性は、彼が纏っている妖魔自身の能力なのだが、それは同時に、属性の能力を扱えるほどの強大な力な妖魔だと意味している。
(どうする? こっちも対抗するか?)
隣に立つ蓮也が私にだけ聞こえるように話しかける。
相手が『纏』を使っているいるならば、こちらも同じく『纏』で対抗すればいい。
だけど現状この場で『纏』の術が使えるのは恐らく私ただ一人。白銀との『纏』は強力すぎてあまり長時間は持たないし、風華との『纏』はある事情により、兄達には見せたくないというのが本音。
するとここは正攻法で攻略するべきであろう。
「舐めるな! この私が『纏』如きで怯むと思ったか。行くぞ紬!」
「はい、主様」
私たちが行動に出るよりも早く、再び兄の精霊術が茂を襲う。
「大蛟《おおみずち》!!」
突如茂の足元から蛇のような水飛沫が幾つも立ち上り、逃げ場を塞ぐように水蛇が周りを取り囲む。
本来はそのまま一気に対象者を飲み込むのだが、兄は茂の逃げ場を塞ぎ、更なる追い討ちを掛けるように、新たな術を発動させる。
「これで終わりだ、大水龍!」
うまい。
予め逃げられないよう大技で周りを取り囲み、唯一の隙間である上空から別の大技で追撃を掛ける。
その場にはまだ大蛟の術が残っており、逃げようにも上空からは大水龍が降り注ぐ。そして兄の意思の元、二つの術が同時に炸裂する。
「この状況で爆発だと? すぐに調べろ!」
「場所はどこだ。えぇい、邪魔をするな!」
突如敷地内で起こった轟音に、北条家の術者達が慌てたように動き出す。
バカか、バカなの?
何が起こったかなんて、このまとわりつく様な妖気を感じればすぐにわかるでしょ!
「敵よ、妖魔の方から攻めてきたのよ!」
私と蓮也は既に臨戦態勢、兄はまだ状況が飲み込めていないようだし、妹の沙夜に至っては巨大な妖気に足元が震え、そば付きの少女に支えられている始末。
まぁ、この妖気を瞬時に感じとれた事には賞賛するが、これで妹の沙夜は戦力外という事が判明した。
如何に巨大な霊力を有し、将来を期待されているとはいえ、所詮は実戦を経験していな見習い術師。この私だって初陣はつい最近の事だったので、妹の気持ちも多少は理解出来る。
「敵だと!? バカな、妖魔の方から攻めてきたというのか!」
「中庭よ!」
嫌な妖気が溢れるこの中で、何やら偉そう叫ぶ術者を無視し、私は白銀を一旦帰還させながら蓮也と共に既に駆け出す。途中蓮也が事前に預かったインカムを通し、待機させている結城家の術者に指示を出している。
おそらく周囲へ被害を出さないための結界と、警察へ交通規制をかける様に連絡を入れているのだろう。
「こっちよ」
これでも嘗てはここで暮らした事がある身、蓮也を案内する様先頭を走る。やがて妖気の元凶ともいえる中庭へ、私と蓮也がいち早く到着した。
「おいおいマジかよ、この妖気はシャレにならないぞ」
「えぇ……。ギリギリ鬼化はしていなようだけれど、予想以上の強敵みたいね」
中庭の中央に、黒く靄のような妖気を纏った人間が、嫌な笑みを浮かべながら佇む。その周りには上空から急降下でもしてきたのか、小さなクレーターのようなものが出来上がっている。
「し、茂様!?」
「まさか茂だと!? 本当に奴の方からやってきたというのか!」
「舐めた真似をしおって、返り討ちにしてやる!」
遅れること数十秒、兄と沙夜を含めた術者達が合流し、各々臨戦態勢を取りながら妖気を纏った正木茂を取り囲む。
「なんと愚かな姿だ。由緒ある北条家の人間が妖魔なんぞに取り憑かれおって」
茂の様子を見て、近くに来た兄が吐き捨てる様に言葉を吐く。
別に彼の事をフォローするつもりはないが、ここまで彼を追い詰めたのは当主である父であり、その意思を遂行する兄であり、この忌まわしい北条家そのもの。
それを理解もせず、ただ彼だけが悪いと言い放つとは、はやり思っていた以上のクズ人間なのだろう。
だが、今はその問題より目の前の妖魔に意識を集中せねばなるまい。
「放て!」
兄の掛け声とともに、周りを取り囲む術師から一斉砲撃が放たれる。
「やったか!?」
「これだけの集中放火だ、滅せないまでもダメージは与えているはずだ」
「のこのこと乗り込んできた事を後悔しろ!」
はぁ……。これほどの妖気を纏っている相手に、そんな水鉄砲のような砲撃が通じるはずがないでしょ。
案の定、砲撃の土煙の中から、何事もなかったかの様な一人の人間の影が浮び出す。
「おいおい、出迎えにしては少々派手だな。それとも何か? 今の攻撃でこの俺を倒せると本気で思っていたのか?」
黒く嫌な妖気を纏った茂が、演技がかった仕草をしながら言葉を吐く。
やはり彼は妖魔などに操られてはいない。一目見た時からどこか違和感を感じていたのだ。
通常妖魔に取り憑かれると、まず目がうつろな状態となり、出てくる言葉もどこか意味不明なものがおおい。それなのに彼の瞳は、薄暗くはなっているものの、そこから伝わる意思は強く、言葉の内容こそ乱暴だが、ハッキリと本人の意思ちが込められている。
すると考えらる可能性は、自ら妖魔を受け入れたという事なのだが、一体どこでこれほど強大な妖魔を見つけてきたのかが疑問に上がる。
「バ、バカな。妖魔に取り憑かれた状態でしゃべっただと!?」
「ありえん、操られているだけではないのか?」
バカなのは貴方達の方でしょ。この状況を見て、彼の身に何が起こっているかをまるで理解していない。
「しゃべっている暇があるなら、とっとと逃げなさい! あなた達が敵う相手ではないわ」
これがB級妖魔に止まっている程度なら、彼らも多少の戦力にはなるのだろうが、いま目の前にいる敵は明らかにB級クラスを上回っている。
さすがに災害級といわれるS級とまではいかないのだろうが、いまこの現状でまともに張り合えるのは、兄と妹を含めた恐らく4名。最悪沙夜は戦力にならない可能性もあるので、実質3名といったところではないだろうか。
しかし私の忠告も虚しく。
「なに? 我らに逃げろというのか!」
「結城家の人間が何を偉そうに」
「我らの力を舐めるな!」
バカどもが。
私の言葉に逆らうのは構わないが、それで命を落としてしまえば意味がないでしょうに。
「えぇい、今一度だ!」
術者の誰かによる言葉と共に、再び北条家の術者による砲撃が火が吹くも、今度は術を放った者達から悲鳴が上がる。
「くははは、バカだなぁ。そんな豆鉄砲のような術が効くかよ」
一見妖気の壁で防いだように見えた技だが、いま茂が行使した術は、風壁とよばれる風の術に近い技。本来はただ防ぐだけの術なのだが、茂は似たような術を無理やり構築し、迫り来る砲撃を力任せに跳ね返したのだ。
「ぐはっ」
「は、跳ね返した……だと?」
「くそっ、我らの術が通じない」
だから言ったのに……。
今の行動からしても、やはり茂は妖魔には操られてはいない。
もし妖魔が彼に取り憑いているのならば、精霊術のような技は使わないだろう。だけどそれは同時に、本来彼の近くにいた筈のの精霊が消滅している事を示している。
恐らく妖魔に自らの相棒を生贄に差し出したのではないだろうか。
「なんで、なんで茂様が風の術を……」
へぇ、今の術を見破ったのね。
隣に来た沙夜が呟く様に言葉を吐く。
もともと北条家は水の精霊術に好かれる傾向がり、その分家の人間でもある茂も水の精霊と契約していた。そして精霊術師が同時に契約できるのは1体のみ。
もし茂の負の感情により、彼の精霊が妖魔化していたら風の術なんて使える筈もなく、単に茂本人が妖魔に取り込まれていれば、ただ力任せに妖気をまき散らすだけ。
つまりどちらにせよ、茂は風の術を使える様にはならないのだ。
「オラオラオラ、マヌケどもがどうした! もう終わりか?」
「くそっ、こんなところで」
「助けてくれ、障壁が持たない!」
「足が、俺の足がぁ!!」
彼らになにか恨みでもあるのか、すでに倒れた術者達に対し、追い打ちをかけるように黒い散弾を振りまく。
辺りは既に阿鼻叫喚、別に彼らを助ける義理はないが、流石にこれ以上の横暴は見過ごす事は出来ない。
私は隣に立つ蓮也に無言で合図を送り、茂に仕掛けようとしたその時。
「調子にのるな!」
近くに立つ、北条将樹が自らの精霊を呼び出ながら攻撃する。
「ぐはっ」
兄が放った水龍に吹き飛ばされる茂。
ムカつくほど性格が曲がりくねっているとはいえ、やはり今世紀最強を称えられる兄の力。
その傍らには人間の女性の姿をした精霊が静かに佇んでいる。
(おい、アレが彼奴の精霊なのか?)
(えぇ、彼女こそが兄が契約をしている精霊、紬よ)
姿こそ成人女性の姿を模しているが、中身は正真正銘の中級精霊。その見た目は水の羽衣を纏った天女と言えばわかるだろうか。
「ちっ、くそ。腐っても北条家最強の術者ってわけか」
「うそ……アレで立ち上がれるの?」
何事もなかったかのように立ち上がる茂の姿をみて、沙夜から驚きの言葉が飛び出す。
やはりあれは……
「たぶん『纏』よ。彼は妖魔を纏っているのよ」
「!?」
高位の術師でも扱えるものが少ないと言われる、精霊術師最高の奥義。
言葉の通り契約している精霊をその身に『纏う』のだが、その効果は霊力の強化だけには止まらず、身体能力の向上から常識を覆すような防御障壁まで、『纏』が扱える術者が一人いるだけで、その一族が特別視されるほどの強力な術と言われている。
そしてこの『纏』、多くの術者は知らないと思うが、妖魔もまた人は纏えてしまうだ。
「そんな、人が妖魔を纏うだなんて聞いたことがありません」
「……」
沙夜の言葉に思わず声を失う私。
(耳が痛いわね)
精霊が霊気の塊であるように、妖魔もまた霊気が負のエネルギーで染まったもの。元が同じ霊気なのだから妖魔も同じく纏おうと思えばできてしまう。
ただ正常な考えをもつ精霊術師ならば、わかっていても妖魔を纏おうとは思わないだろう。精霊術師の近くには相棒と呼べる精霊がおり、『纏』を使えるのは契約の儀式を終えたパートーのみ。
もし契約している精霊をそのままにして、妖魔との契約を交わせばどうなるか。答えは簡単、より強力な方が弱者側を飲み込んでしまう。精霊同士でも同じ現象が確認されているのだから、相手が妖魔に変わったとしても結果としては同じだろう。
「ほぉ、ただのコスプレ女だとは思っていたが、この俺の秘密を一発で見破るとは大したもんだ」
「それはどうも」
「だが、それでどうする? 最強の精霊術でもある『纏』すら出来ない人間が、妖魔を『纏』ったこの俺に勝てる思っているのか?」
はぁ……。まったく、おめでたい人間ね。
最強の精霊術でもある『纏』は確かに強力な技ではあるが、決して無敵と呼べるような術ではない。
戦い方次第、戦略次第で『纏』を使えない術者でも攻略は可能だし、纏う者の体力や、纏っている側の霊力によっても、限界はいずれやってくる。
ただ問題が、茂が纏っている妖魔が異常に強く、彼を取り巻く妖気が非常に強固なうえ、扱えるはずのない風の術が行使できているという謎の部分。
考えられる可能性は、彼が纏っている妖魔自身の能力なのだが、それは同時に、属性の能力を扱えるほどの強大な力な妖魔だと意味している。
(どうする? こっちも対抗するか?)
隣に立つ蓮也が私にだけ聞こえるように話しかける。
相手が『纏』を使っているいるならば、こちらも同じく『纏』で対抗すればいい。
だけど現状この場で『纏』の術が使えるのは恐らく私ただ一人。白銀との『纏』は強力すぎてあまり長時間は持たないし、風華との『纏』はある事情により、兄達には見せたくないというのが本音。
するとここは正攻法で攻略するべきであろう。
「舐めるな! この私が『纏』如きで怯むと思ったか。行くぞ紬!」
「はい、主様」
私たちが行動に出るよりも早く、再び兄の精霊術が茂を襲う。
「大蛟《おおみずち》!!」
突如茂の足元から蛇のような水飛沫が幾つも立ち上り、逃げ場を塞ぐように水蛇が周りを取り囲む。
本来はそのまま一気に対象者を飲み込むのだが、兄は茂の逃げ場を塞ぎ、更なる追い討ちを掛けるように、新たな術を発動させる。
「これで終わりだ、大水龍!」
うまい。
予め逃げられないよう大技で周りを取り囲み、唯一の隙間である上空から別の大技で追撃を掛ける。
その場にはまだ大蛟の術が残っており、逃げようにも上空からは大水龍が降り注ぐ。そして兄の意思の元、二つの術が同時に炸裂する。
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