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7 保健室でも間が悪い。
しおりを挟む知らない天井。
なんて台詞、どこかで聞いたなぁ。
もちろん天井には見覚えはある。保健室だもん。
ほら、壁に丸い時計があって、壁はクリーム色で、隣に真野くんが。
え。
なんで? なんで真野くんが?
しかも二人きり!?
「だ、だめだよぉ、今日は上下お揃いじゃないしっ」
「ん? どうしたの久保さん。何か夢でも見ちゃったの?」
ふわぁあああ。
優しい声だ。さすが私の癒しプリンス、真野くん。
「ごめんね。保健の先生、いないみたいで」
「ぜぜぜ全然大丈夫っ」
どうして?
どうして真野くんが謝るの?
保健の先生がいないのは、真野くんのせいじゃないのに。
もう、どこまで優しいの?
私は、真野くんさえいてくれたら、それでいいの。
ああ、私が凍れる時間の秘法を使えたら。
ずっと二人で、いられるのに。
「久保さん、熱計ろう」
「だ、大丈夫だから」
保健委員だからか、真野くんは体温計の保管場所も知っていて。
棚を開け、ケースからするりと真野くんの指で抜き出された体温計が、私に差し出される。
恐る恐る、手を伸ばす。
指先が触れるか触れないかの、微妙な距離。
──触っちゃおうかな。
でも嫌われたくないし、ここは我慢。
私、我慢が出来る子ですっ。
「僕、カーテンの外に出てるから、熱計ってね」
体温計を渡してくれた真野くんは、そのまま振り返ってカーテンの外へ向かう。
なんて紳士的。
やっぱり真野くんは私の王子さまだわ。
もう気分は革命前夜の王宮だわ。
『パンが無ければ、真野くんを愛でればいいじゃない』
なんて、私的な名台詞を生み出しそうな気配までする。
そして私は、カーテンを出る真野くんに、私は想いを込めて言い放つの。
「う、うん」
あれ。どうして?
言葉が出ない。
もうっ、どうしてありがとうって言えないのよ、私。
真野くんに失礼な子だと思われちゃうじゃない。
けれど、もう真野くんはカーテンの向こうだ。
仕方なく学校指定ジャージのファスナーを下ろして体操服を胸まで捲り上げる。
んっ、なんか最近ブラがきつくなったなぁ。もうEカップじゃ限界かな。
──あんまり大きくなりたくないなぁ。
「んしょ」
外気に胸を晒して、脇の下に体温計を向ける。
そういえばこの体温計って、真野くんが触った物だ。
しかも、真野くんと二人きりの密室。そこで私は、体操服の胸元を捲り上げてる?
なんてふしだらっ。
なんて背徳感。
なんという、幸福感。
そしてこれから私は、真野くんの分身ともいえる体温計を脇の下に……
いけません、いけませんわ真野くんっ。
私たちはまだ高校生。しかも学校の保健室なのよっ。
こんなこと、こんな、こと。
「だ、だめぇええええ」
「ど、どうしたの久保さ──」
私の叫びに驚いた真野くんが、カーテンを引き開けて、いま私の眼前に、光臨。
そのお姿は、まさしく英雄。
さあ真野くん!
私を、その腰のデュランダルで、救い出してぇえええ!
──え。
真野くんが固まってる。
私を見て、固まってる。
真野くんの視線の先は、私の顔より少し下。つまり。
「あ」
捲り上げた体操服の下の、ブ、ブ、ブラを、み、み、み、見ら、見られ。
「いやぁああああああ」
もうっ、なんでこんな時に勝負下着じゃないの!?
馬鹿、今朝の私の馬鹿っ。
その時、保健室のドアががらりと開いた。
「凄い声が聞こえたけど大丈……なにしてるのっ」
入ってきたのは、髪の長い、眼鏡で白衣の女性。
保健の先生だった。
先生は烈火のごとき勢いでカーテンを閉めて、真野くんに何かを言っている。
というか、怒られてる。
どうしよう。
私のせいで、真野くんが怒られてる。
だって真野くんは、なにも悪い事してないもん。
勇気を出せ、私。
さっき真野くんは、清潔デュランダルで、私を救おうとしてくれたじゃないかっ。
だから、今度は私の番。
真野くんを、守るんだ!
「違うんです先生!」
「久保さんは早く服を着てっ」
しまった。胸元おっぴろげ状態なの忘れてた。
「──え、は……いやぁあああ」
もう、私の役立たず。
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