悪役令嬢キャロライン、勇者パーティーを追放される。

Y・K

文字の大きさ
19 / 45
第二章 ミッドランドに帰らなきゃ編

19、農民の娘、豪商と王都に赴く。

しおりを挟む



 車輪が回り、荷台が細かく揺れる。


 アーチ型のテントを張った一台の馬車が王都の城門を潜り抜けた。


 馬車の荷台に乗る少女パナは、そのアーチ型のテントから顔をだし、外を眺めた。



「すんごぉい!」



 パナの前には王都の街並みが広がっていた。


 左右にはレンガ造りの家々が続き、屋根には瓦がのっており、道はすべて石で出来ていた。こういうのを“石畳”というらしい。



 田舎の農村から出てきたパナにとって、瞳に映る何もかもが新鮮であった。



「小娘! うろちょろせえへんことや!」と同じ荷台に乗る豪商ブホホが叫んだ。


「はい、ブホホさん。オラ気を付けますだ」


 豪商ブホホは丸いお腹を引きずり、その疑り深いトカゲのような目をパナに近づける。


「“オラ”も無しや小娘。“わたくし”や。“わたくし”って言うてみぃ。何べん言ってもちっとも理解せえへんな。ホンマ頭の悪いやっちゃのう」

「すみませんだ……」

「まぁええか。どうせ、ついたらすぐその言葉遣い直されるよって」


 パナは唾を飲み込んだ。


 パナはこの豪商に買われた。そしてこれから何処かに連れていかれる。


 だけど、どこに連れていかれるのか、ほとんど聞かされていなかった。



 行き先を言わない、ということはよほど悪いところなのだろうか?


 娼婦としてどこかに売られることを覚悟していたが、どうもこの欲深そうな男の言葉を探ると、そうでもないみたいだ。



 ――オラは一体どこに連れていかれるんだべ……


 故郷の村を出て2週間ほどになるが、もう故郷が恋しくなっていた。おとうの顔が見たかった。おっかぁの顔も弟たちの顔も見たかった。


 泣いたら駄目だ。せっかくオラが買われた金でみんな笑顔で暮らしていけるのに……


「小娘!」という声が耳に入り込む。「もうちょいで着くよって、その場で回ってくれへんか?」

「オラ……、いえ、わたくしが?」

「そうや、他に誰がおんねん。服をチェックしたいんや」


 服? たしかに昨日ブホホさんに買ってもらった服を着てるけど……


 パナはその服を着たまま揺れる荷台の中でゆっくりと回った。


 ブホホの手が伸び、しわくちゃになった服を直し、セットされた髪のほつれも直された。


「これで大丈夫や。きっと気に入ってくれるはずや。間違いあらへん」


 ブホホが何に納得しているのか分からなかったが、馬車は石畳を進み続ける。そして、王都の中央にあるお城を囲む大きな城門が開き、馬車は中に入っていく。


「ホラ! 降りるんや! お前はワテについてこればええ。わかったな?」


 パナはコクンと首を縦にふった。


 豪商ブホホは馬車を降り、その丸いお腹を引きずるように赤いカーペットの敷かれた階段を登ってゆく。


 パナはそのあとに続く。お城なんてはじめてで目が回りそうだった。


 金の鎧を着こむ兵士。ピカピカの床に、豪華なシャンデリア。まだ昼なのに、シャンデリアの上に乗せられた蝋燭の明かりが輝く透明な何かガラスによって反射され、その光が辺りに満ちていた。そのほかにも金色の燭台に、壺、カチカチと怪しげな音を鳴らす大きくて光り輝く時計。

 その光景に思わず目移りしてしまう。


「こっちや小娘!」と豪商ブホホが鬼の形相でこちらを睨んでいた。


「すみませんだ」そう言ってパナは再びブホホのあとを追いかける。



 すると、ある場所まで来ると、ブホホは滑り込むように土下座した。


 パナは訳が分からず棒立ちになっていると、大広間の脇から一人の女性が現れた。


 パナとその女性の目が合う。


 パナは信じられない思いだった。


 そこには自分がいたのだ。自分とまったく瓜二つの女性が……


 そして女性もパナを見て目を丸くしているようだった。


 女性は、大広間の玉座に座らず、こちらに駆け寄ってきた。

 そしてパナの顔を見て言った。


「噂には聞いていたけど……本当にわたくしにそっくりね」と女性が声を発したことでブホホは、その女性が近くに来ていたことに気づく。


「これは、ご機嫌麗しゅう」

「べつに麗しくないわ! むしろご機嫌ななめといったところよ。この右手の手首を見てブホホ。真っ赤でしょう? わたくし、あの眼鏡の執政官に殺されるところだったの」


 パナは棒立ちになったままその女性を見つめ続けていた。どう反応していいか分からなかったからである。


「こりゃ! きちんと頭を下げるんや! パナ! このお方をなんやと思ってんねん! このお方はこの国の頂点に立たれている女王陛下やぞ!」


「じょ、女王様!????? し、し、失礼いたしましたぁああ! オラなんもわかんねぇで」


 パナは急いで土下座する。


「別にいいのよ」と妖艶な声が耳に入り込む「顔をあげなさいパナ。そしてわたくしを見るのよ」


 パナは顔をあげた。


 パナの瞳に自分と同じ大きなたれ目が映る。


 女王キャロラインは色っぽいその唇をつり上げる。




「これからよろしくねパナ。わたくしが今日からあなたの主人のキャロラインよ」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

悪役令嬢は断罪の舞台で笑う

由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。 しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。 聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。 だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。 追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。 冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。 そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。 暴かれる真実。崩壊する虚構。 “悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」 婚約者として五年間尽くしたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。 他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

処理中です...