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第二章 ミッドランドに帰らなきゃ編
20、女王と影武者、暗殺者に襲われる。
しおりを挟むパナは王の間の更に奥の女王の寝室にて、あるものを眺めていた。
時計のようなものだが、針が無く、奇怪な言葉が刻まれており、それが時折パタパタと変わる。それがちょうどベッドの脇のサイドテーブルに置かれていた。
「あの……これはなんですか女王様」
「ああ、これ? うーん。時計らしいわよ……魔族の……。わたくしもこれで時をどう読めばいいか分からないのだけど、寝ているすぐ脇に置け、と言われたものだからこうしてるの……」
「ほぇ……、魔族の時計……」
女王様はそんな珍しいものまでもっているのか、とパナは思った。
「そういえば、どうしてここに連れてこられたか、という話は聞いたかしら?」というキャロラインの言葉にパナは首を横に振った。
「やっぱりね。ブホホはそういう奴よね。まぁいいわ、わたくしが説明してあげましょう。ほら、わたくしのベッドにお座りになって」
パナは促されるままにベッドに座る。
そして、その隣にキャロラインも腰を下ろした。キャロラインはしっかりとパナの目を見ながら言葉を続ける。
「最近わたくしを狙った事件が頻発していてね。遠くから矢で射られる、とか、毒入りのスープが食卓に届けられるとか、そういう事件がおきているの。
そこでイエロー執政官があなたをつれてきたというわけ。わたくしの影武者としてね。ベタな作戦だけど、身代わり作戦ってところかしら」
「えぇえええ!?」とパナは思わず声をあげ立ち上がる。「じゃあオラが女王様の代わりに狙われるのけ?」
「まぁ、そういうことになるのかしら」
「ブホホさんはオラにそんなことなんも言ってくれてねぇだ」
「言ったら逃げられると思ったのかもね」
「えぇ……」
うなだれ、再びベッドに腰を下ろしたパナにキャロラインは背中をさすった。
「大丈夫よ暗殺者なんて、どうにでもなるわ。それよりも、ちょっとわたくしの服を着てみてくださらない? そこにタンスがあるから、好きなものを選ぶといいわ」
「今ですか?」
「そうよ。どういう風に見えるか見てみたいのよ」
「……わかりました」
パナはそう言いタンスをあける。すると、煌びやかな服が目に飛び込んできた。黄色のひらひらのフリルがついたドレスに、鮮やかな赤に染色されたドレス、それに……
胸元が開いており、腰が細く、お尻のあたりからふわっと膨らんだベージュ色の花柄のドレスが目についた。
それはまるでパナが思い描いていた貴夫人の着るようなドレスだった。
「ほぇ~~」
パナは迷わず“それ”を手に取った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 数分後 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ようやく着付けを終えたパナは嬉しくて鏡の前で回る。すると、ドレスの裾がふんわりと浮き上がった。
「ふーん。わたくしはこう見えるのねぇ」といいながらキャロラインはベッドに座り、興味深くそれを眺めていた。キャロラインはすでにパナが脱ぎ捨てた服を拾い集め、それを着て町娘の恰好をしていた。
パナは回るのをやめてキャロラインを見た。
「女王様……そんな服を着てよかったのですけ?」
「そりゃあ、影武者と女王は本来こういう感じなのよ。あなたが派手な服を着て敵を陽動して、わたくしは地味な服を着て敵から目をそらす。そういうものでしょう?」
「まぁ……」
「よし! これでイエロー執政官に会いにいくわよ! あいつを騙してやるわ」
「えぇ!?」
「だってそうじゃない。本当に見分けがつかないのか試してみる必要があるわ」
「だって……オラ怒られないでしょうか?」
「心配ないわ。わたくしの命令なのだし。さぁ行くわよ!」
そう言い、二人は女王の寝室から飛び出し、王の間の扉をあけた。目の前には蛇の廊下が伸びている。だが、不思議なことにキングスガードの二人がいない。
「あら? ビッグスとウェッジはどこにいったのかしら?」
「ビッグス? ウェッジ? ですか?」
「門番の二人よ。何してるのかしら本当に……、さぼりは減給に処さなきゃ……」
すると、カツン、という音が聞こえた。
大理石の床を踏みしめる高い音だ。
キャロラインとパナはそろって蛇の廊下の先を眺めた。
男だった。異様に太い眉毛のボロボロの服を纏った男……、それがゆっくりと二人に向かって歩いてきたのだ。
それは、まるで白昼夢のようだった。
窓から射し込む光が廊下に溢れ、壁に施された蛇の金細工が光り輝く。その明るい空間に、キャロラインとパナが並び……向こうから一人の男が近づいてくる。
キャロラインの心臓がドクンと一拍大きく鳴った。
ヤバい、と思ったのだ。これは何かヤバいぞ、と。
男はその太い眉毛を動かし、ジロジロと二人を見比べる。そして、やがてキャロラインだけを見てこう言った。
「陛下……恨みはありませんが、お許しください。これがあっしの仕事なので……、なぁに死にはしませんよ。魔界か異空間か、はたまた別の土地か、あっしにだって陛下の行き先はわかりませんが、ただ陛下はそこに送られるだけなのだから安心してください」
「パナ! 逃げるわよ!」と言いキャロラインは扉の脇に立てかけられた燭台を男に投げつける。
「え? え?」と困惑するパナの手をとり、キャロラインは王の間に逃げ込んだ。
パナの足がもつれ、王の間を転がった。キャロラインはすぐさま、扉を閉め、パナに向かって「鍵よ! そのテーブルにある鍵をとって!」と叫んだ。
――テーブル?
パナは起きあがり首を振るが、テーブルが三つほどあり、どのテーブルのことを言っているのか分からない。
「陛下! 指さしてくださ――」とパナが言いかけたと同時に、扉が蹴破られ、男が王の間に入ってきた。扉を支えていたキャロラインは床を転がる。
パナは怖くて動けなかった。
「じょ、女王さまぁ……」
男は寝転がるキャロラインの首をつかみ、そのまま持ち上げた。キャロラインの体はぶらんと垂れ下がり、暴れ狂う猫のように足をばたつかせる。
「放しなさい!」とキャロラインは叫ぶも、男は全く聞いていない。そして何かを唱え始めた。恐らく魔法だ。
キャロラインの体が震えはじめる。
まずい、とキャロラインは思った。これは不味いやつだ。
キャロラインの体が段々と赤く染めあげられてゆく。赤と黒が入り交じったような気味の悪い色に……
パナと目があった。
パナは涙を流しながらこちらをみつめていた。
キャロラインは微笑む。
「大丈夫よ、だってきっ――」と言いかけたその瞬間、視界のすべてが歪んでいった。何もかもが歪み、引き伸ばされ、自分の体さえもどこかに溶けてしまったように、赤黒い球の中に吸い込まれてゆく。
宙に浮くその赤黒い球が消えると、そこにはもう何もなかった。
そう、最初から何もなかったように綺麗さっぱりとキャロラインは姿を消したのだった。
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