悪役令嬢キャロライン、勇者パーティーを追放される。

Y・K

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第二章 ミッドランドに帰らなきゃ編

32、女王、金を借りることのできない辛さを知る。

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「なるほどね。担保がほしいというのね。あのね、わたくしはミッドランドの女王なのよ。だから、そんなことを心配する必要などないわ」


 微妙な表情でキャロラインの横顔を見たチルリンが、その言葉を翻訳し店主に伝える。すると、間髪入れずに店主の声が飛んできた。

「ホウワケカイエウツハケマホアテイル!」



「うーんとね。いいから担保になるものもってこいってさ、キャル」


 キャロラインは大きなため息をついた。

「だから言ったでしょう? 担保はないの。金はミッドランドに帰り次第キッチリ返すわ。満額で、しかも即金でね。そう伝えてチルリン。これは悪い話ではないはずよってね」


「ゲケウル!」と店主は叫んだ。


 この程度の簡単な言葉ならキャロラインにも分かるようになってきた。


 消えろ、という意味だ。


「だから! ミッドランドに帰ったら金は返すって言ってるじゃない! 倍の値段でもいいわ。いや、三倍でもいいわ! わたくしは女王なのよ、わたくしの言葉を信じなさい!」


「ゲケウル!」とまた店主に叫ばれ、更に突き飛ばされ、キャロラインとチルリンは軒先を追い出された。




 いったいこれで何度目だろう……


 もうキャロラインは何度もこんな風にあらゆる店から追い出されていた。


 道端に這いつくばっていたキャロラインは、上体を起こすと、次にスカートについた砂ぼこりを手で払い、そして怒りを噛みしめながら言った。


「何なのここのやつらは! 一体何なのよ! 無礼よ」

 チルリンは溜息をつく。

「キャルが女王だと知ってるのはアチキだけ。他のヤツなんて信じないんだろうよ。だって、女王って偉いんだろ? そんな偉いヤツが金もなく彷徨ってるだなんて、誰も思わねーんじゃね?」


 当たり前のような話をモンスターから諭されて、どことなくキャロラインは悔しかった。


「目と鼻の先にあるのよ! わたくしのミッドランドが! なのに、こんなに何もできないなんて……」



 そう、キャロラインが魔法により飛ばされた先は意外とミッドランドに近かった。


 ミッドランド島のすぐ隣のデーン大陸と呼ばれる場所にキャロラインは飛ばされたのだ。


 ちなみに、今キャロラインがいるのはデーン大陸西岸近くの街“テテルテン”と呼ばれる場所だった。このテテルテンから更に西に行けば港町があるらしい。そこからミッドランド行きの船が出ていた。



 だからこそ、その船代を借りようと思い、たった今、土倉(金貸し業者)に顔をだしたのだが、担保がないなら金など貸せないの一点張りで店を追い出されたのだ。



「というか、土倉なんてアチキでも行きたくねー場所だぞキャル。少し考えろよ」

「なら、他にどんな手があるっていうの? チルリンだって一緒にあの話を聞いていたじゃない」



 あの話、というのは船代のことだ。


 その船代は女王キャロラインにとって何でもない額だったが、港町に働く人々の年収に相当するような額だった。


 つまり、無一文の今のキャロラインにとても払えるような額ではなかったのだ。


「そんなことアチキに聞くな! 人間だろお前は! 人間社会のことぐらい人間のお前が解決しろ!」


 キャロラインは頭を抱えた。


 こんなことなら、パナと服を取り換える前に暗殺者に襲われてしまいたかった。それなら、服を担保に金を借りることができたのに……。なんで……よりにもよって町娘の恰好の時にワープしてしまったんだか……


「なによ……、わたくしは運がずば抜けて高いはずなのに……。おかしいわ。絶対におかしい」

「異界に送られるかもしんなかったのに、ミッドランドとかって国の隣にワープ出来て、それだけで十分運が良かって思いなよキャル。そうだろ? アチキはそうやって生きてるぞ」そう言ってチルリンは長い金髪の髪をかき上げた。


 チルリンの方が何やら良さげなことを言ってるから更にイラっとくる。


 そんなこと分かっているわ。


 すると「カコエナイレハミ!」と道行く男に怒鳴りつけられた。男の隣には女の子がおり、男の袖を引っ張っていた。


「邪魔だからどけってさ、キャル」とチルリンが訳してくれたので、キャロラインとチルリンは不満顔をしながらもそこをどける。


「なによアイツ、まぁこっちも道端で話し込んでたから、それも悪いけど……」とキャロラインは口に出したあたりで気づく。


 さきほど、わたくしを怒鳴りつけた男……、数時間前に違う女性を連れていた男だわ。


「あなた数時間前とは違う女性つれていいご身分ね!」とキャロラインは叫んだ。「ほら、訳すのよチルリン!」


 チルリンは溜息をつきながらも訳す。


 すると、男はこちらを向き、次に男の隣の女性が目から涙を流して男の頬をビンタする。


 その光景を見てキャロラインは笑うと、逃げるわよチルリン! と言って、起き上がり、走り始める。


 チルリンは溜息をつきながらキャロラインのあとを追いかけた。


 チルリンはだんだん不安になってきた。


 いい服が着たいからこの訳の分からない女に協力してはいるが、本当にそのミッドランドという国に無事帰れるのだろうか?


 この女王は本当に見ていて悲しくなるほど無計画かつ無鉄砲かつ無謀な女だった。


 こんな具合ならひょっとするとアチキは何年経ってもイケてる服なんて着れないんじゃないか、って気がしてきた。


 すると、突然キャロラインが立ち止まった。チルリンもそれにつられて止まる。


 キャロラインは驚愕の目で目の前に立ち塞がる男を見つめていた。ボロボロの服を身に纏った金髪の男だ。


 金髪の男は笑いながら近づいてきた。


「知り合いか? キャロライン」


「ええ、まぁ……」とキャロラインは苦い顔をしていた。


 金髪の男は、キャロラインを見ると目を皿のようにして、声を張り上げる。

「はーっはっはっはっはっはっはっは。ここにミッドランドの女王を名乗る不逞の輩が居ると聞いてね、ぼくのマイハウスから参上したってわけさ。どれどれ、その女王なら世界で一番心が醜いあの女かもしれないぞ、と思ってね。そして、やっぱりその通りだった」


 そう言って金髪の男は指を鳴らした。


「まったく、また逢えて本当に嬉しいよキャロライン。ぼくの愛しのキャロライン」


 キャロラインは一度目をつぶり、それからゆっくり口を開き、こう言った。


「ええ、わたくしもまた出会うとは思ってもみなかったわ。ジークフリード」
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