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第二章 ミッドランドに帰らなきゃ編
43、執政官、まさか、と呟く。
しおりを挟む大広間の諸侯の注目が一気にイエローに集まる。
ガン、とハンマーで頭を殴られたような衝撃がイエローの体を突き抜ける。
意味が分からなかった。
狂ったのか、パナ。
家族がどうなってもいいというのか?
女王は“金の椅子”に深く腰かけ、涼しい目つきでイエローを眺めている。
イエローは傍らの猫耳フードの女の頭の上に手を広げた。これを触れば、パナの家族は死ぬ。だから、敢えて触る直前であることをアピールしたのだ。そして大胆不敵にもこう言ってのけた。
「女王陛下は冗談がお好きのようだ。もちろんビアンキ殿の罪の話をしていたのですよね? 陛下。
だっておかしいじゃありませんか。女王陛下自身がビアンキ討伐を指示していたのに、急になんの証拠もなしに、このイエローが犯人だとおっしゃるつもりか?
はっはっはっはっは。そんな馬鹿げた話などあるわけがない。
そうでしょう? 陛下。ねぇ、これは冗談なのですよね? ええ、もちろん私には分かっていますとも。だけど、この場の皆が不安がっております。改めて考えをお聞かせください。
陛下は、ビアンキ殿の罪の話をしているのですよね?」
どうだパナ。言い返せまい? それに、自分の家族は殺せまい? さぁ早く私の言葉にうなずけ、この影武者め! お前にはそうする以外道はないのだ。
大広間の注目が今度は女王に集まる。
赤い髪をかきあげた女王はイエローを見据え、ゆっくりと言った。
「いいえ、もちろん、あなたの罪の話をしているのですよイエロー執政官」
イエローの目はすわり、ハッキリと女王を睨み返す。
あほうめ。
お前はあまりにも愚かなので気づいていないが、お前がビアンキの討伐に同意した女王である、という事実がある限り、このイエローを処罰することなどできんのだよ。それこそ正気を疑われ、この裁きは延期になるだろう。
逆に、お前が偽物だと皆が知れば、それはむしろお前こそが不敬罪の対象になるだろう。
どうせ、そんなことすら分かってないんだろう? パナ。
だがあくまでも、そう言うのなら、当然覚悟は出来ているということだな?
イエローの唇はつりあがる。
さぁ、泣き叫べ、パナ。
そして愚かな自分を恥じろ。
お前の家族は死に、そして、お前はこの私を処刑すらできずに、絶望を味わうのだ。愚か者め。
イエローの眼鏡の奥の目つきが鋭い殺人者の目つきに変わり、ゆっくりと広げた手のひらを通信魔法士の頭にのせる。
そしてまるで、赤ん坊の頬でも撫でるようにやさしく猫耳フードの頭を撫でたのだ。
やさしく。やさしく……
……
……?
やれ、という声が聞こえてこない。
猫耳フードの通信魔法士ラルルにはそう言い含めていたはずだ。キールに連絡し、一言、やれ、と言え、と。
……
忘れているのだろうか?
だから、イエローは小声でラルルに言った。
「おい、キールに連絡し、早く“やれ”と言うんだ。忘れたかラルル?」
だが、ラルルは何も言わない。
「ラルル?」
なにかがおかしかった。どうも通信魔法を使った様子もない。
「おい、早くしろ何をやっている」とイエローがイラつきながら言うと、猫耳フードの女はこう言った。
「ホウスエカイオアカヘオタエカオエウハ? ――なんかキモイオッサンがアチキに話しかけてくるんだけど、もう顔を元に戻してもいいか?――」
「いいわよ」と女王が不敵に微笑んだ。
すると、ラルルの顔が見知らぬギャルメイクの女の顔に変貌ゆく……
それはイエローにとって天地がひっくり返らんばかりの衝撃だった。
誰だ?
こいつは誰なんだ?
いや、待てよ……
まさか……
ま、まさかぁ!!
イエローは咄嗟に金の椅子に座る女王を、驚きの目で見て、一言もらす。
「まさか、お前は……」
すると、女王の唇がゆっくりとつりあがる。
「あら、わたくしの顔を見忘れたって言うのかしら? イエロー。それともわたくしを、ずっとわたくしの影武者のパナと思い込んでいたのかしら?」
イエローの歯が鳴っていた。
心臓が魚でも飛び跳ねるように動き、心臓の鼓動が止まらない。
息が激しくなりどうすることもできない。
頭にはおなじセリフばかりが何度も回り続ける。
馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、そんな馬鹿なことなどあるわけない! 絶対にあるわけないんだ!! 絶対に!!
女王は立ち上がり、そして万人が見守る中、スキルを発動させた。
「 【 女王の言葉 】 」
その瞬間、女王の赤毛が舞い上がり、大広間全体に風が吹き抜ける。
イエローや諸侯の衣服が波立ち、そして、女王は凛々しく言った。
「我はミッドランド女王キャロライン。キャロライン=ドンスター1世なり。
再度尋ねるわイエロー! 心して答えなさい!」
女王キャロラインは厳しい目つきでイエローを睨みつける。
「我が父アルバトーレに対する殺人、および王家に対する反逆。
これらの罪を認めるか? 答えよ! イエロー執政官!!!」
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