悪役令嬢キャロライン、勇者パーティーを追放される。

Y・K

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第二章 ミッドランドに帰らなきゃ編

44、執政官、ついにその時が訪れる。

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 イエローの頭には沢山の疑問符が浮かび上がってきていた。



 どうしてキャロラインがそこにいるのか?


 いつパナと入れ替わったというのか?


 傍らにいるこの顔を変えられる女は誰なのか?


 パナはどこにいったのか?


 キャロラインは一体どこまでを知っているのか?



 いや、そもそもキャロラインが自身の名を口にしたときに、彼女の言っている言葉が真実であると、なぜ私は分かってしまったのだろう?


 分からない。なのに、言葉が疑いようのない真実であると、頭が勝手に分かってしまったのだ。


 それこそ、有無を言わさず、否応なしに……


 なんなのだこれは? 本当に一体なんなのだ?



 いや、まてよ……


 これはきっとそういうスキルなのだ。


 相手に真実を告げるスキル。相手に真実が筒抜けになるスキル。恐らく、これはそういう類のスキルに違いない。


 だとしたらまずい。


 まずい!!



 女王キャロラインは口をひらく。


「まずは、皆に詫びなければなりません。いくら暗殺者に襲われたとはいえ、この愛すべきミッドランドを離れ、デーン大陸に強制的に移動させられてしまったことを。
 すべての混乱はそこから始まった。すべてはこのわたくしが留守の間に行われてしまったのよ」


 諸侯たちが顔を見合わせる。


「留守の間に?」という小さな声が方々から聞こえた。



「お待ちください!」と慌てたイエローは声をあげるが、キャロラインはイエローを黙殺した。


「我が父アルバトーレが殺された時も、ドンスター領がフェレイラ公とスパロウ公の両公爵に攻め立てられている時も、わたくしはこのミッドランドの大地にいなかったのです」


「しかし!」と諸侯の誰かが声をあげた。「その間もずっとミッドランド城に陛下はおわしたではありませんか!」


「それはわたくしではありません。わたくしの影武者のパナです。パナ! これへ」


 その声を合図に大広間の袖口から一人の女性が入ってきた。


 その姿に大広間がざわつく。そこにいたのは、キャロラインと全く瓜二つの少女だった。


「はじまりは、わたくしが暗殺者に襲われた騒ぎにありました。皆には情報が行ってなかったかもしれませんが、わたくしはその時、デーン大陸に飛ばされてしまったのです。そして、この城に残った方がわたくしの影武者のパナでした」


 諸侯は不思議なほどその言葉に反論しなかった。


 皆、まるで頭から女王の言葉を信じ込んでしまったようにうなずくのだ。


 キャロラインは傍らのパナを見ながら言った。


「パナ、皆にお話しなさい。皆に何があったのかを正確に……」


「はい」とパナは答え、そして自分の身に起きたことを語った。


 イエローがアルバトーレを殺した話。その罪をビアンキに擦り付けた話。従わなければ自分の家族を殺す、と脅された話。自分が女王として振る舞い、皆を騙していた話。そして、それは公文書のサインにまで及ぶ話。


 その言葉を聞きながら、イエローは震える思いであったと同時に、まだどうにかなるかもしれない、と思った。よく分からないが、パナの言葉は、真実である、という判定を頭が勝手に下さないのだ。


 やはり、思った通り、キャロラインの口から出た言葉でなければ効果がない類のスキルであったか。


 ならば勝機はある、イエローは思った。


 すべての罪をパナに擦り付けるのだ。


 そうするしかない。



「お待ちください陛下!」とイエローは大声をあげた。「私も陛下と同じ立場でございます! 私は騙されていたのです。この女に! この女は嘘を言っております!」


「ち、違います!」とパナは叫んだ。


「違わなくない! 貴様よくも私を騙してくれたな! 陛下、私もこの女に騙されていたのです。この女は陛下に成りすまし、私を操っていたのです! だからこそ、例の暗殺騒ぎの時にこの女だけが殺されなかった。そうでしょう? 陛下、それならばつじつまはあうはずです。そうでしょう?」


「そうね、たしかにつじつまは合うかもしれない」とキャロラインは言った。「わたくしもひょっとして最初にあなたのその言葉を聞いていたら騙されていたかもしれない。でも、それは無理があるでしょう? イエロー」


 そう言ってキャロラインは自分のほっぺたを指さした。


 イエローは最初キャロラインが何をしているのか分からなかった。


 このアバズレの頬がどうしたというのだ……一体どうした……と。


 あ……


 膝が震えはじめる。


 体の色んな部位が震え、顔が青白くなっていった。


 キャロラインの頬はほんのり赤く腫れた跡があった。


 それは、イエローが女王を殴った箇所だった。生意気な口をきくから、と女王の頬を思い切り殴ってやったのだ。


 ということは……、つまり、あの言葉も聞かれたのだ。


 アルバトーレを殺した理由も……、今までのすべての罪さえも……


 あの時にはすでに入れ替わっていたのか……


 嘘だ……


 そんな馬鹿な……


 キャロラインはゆっくりと大広間の階段を降りる、一歩、また一歩……と。


 そしてキャロラインはまるで汚物でも見るような目でイエローを眺める。



「貴方は確かに言った。玉座が欲しかったから、アルバトーレを殺したのだ、と。その為に影武者を呼び寄せ、その影武者を操る計画をたてたのだ、と。

 いいこと? 貴方に対し、罪を認めるか認めないか、と聞いたのは最後の情けだったのよ。罪を悔いているならば、死に方ぐらい決めさせてあげようと思ったの。でも、あなたはこの後及んでパナに罪を擦り付けようとした。

 そんな男に情けをかける必要などなさそうね」



 心臓が早鐘を打つようになり、血液が逆流しそうであった。
 イエローは悲壮感に包まれた声を叫んだ。



「お待ちください陛下!」



 だがキャロラインは止まらない。その怒りも、言葉も何もかもが止まらなかった。



「我が父アルバトーレを殺した罪、王家への反逆罪、自分の父であるケヴィン=イエローを手にかけた罪、ガインス兄弟と自分の妻を殺した罪、そして名も知らぬ多数の女性を自身の快楽のために面白半分で殺した罪……

 そのすべての罪により穢れた汝の魂の救済をはかるべく、ミッドランド女王キャロライン=ドンスター1世の名により、ダヴィド=イエロー執政官を 車裂きの刑 とする!!」



 イエローが血相を変えて叫ぶ。



「車裂き? く、車裂きだって? へ、陛下お待ちください! 陛下!!!」



 車裂きとは、中世においてもっとも残酷な刑罰とされた処刑方法の一つだった。


 回転する大きな車輪に囚人は縛り付けられ、そこに目がけ、刑執行人が巨大な鉄のハンマーを振り落すのだ。

 ハンマーは何度も振り下ろされる。


 死ぬまで、何度も、何度も……


 この刑罰は、死ぬ最後の瞬間まで苦痛が与えられる処刑だった。
 

 そして何よりこの刑は、聴衆の見世物、という側面も持ち、名誉も何もかもを失墜する刑罰でもあった。



 イエローは息ができない、と思った。


 そして、ついに大広間の床に膝から崩れ落ちた。


 嫌だ。こんなことは嫌だ!



 キャロラインは、そんなイエローに顔を近づける。


「死ぬ最後の瞬間まで絶望を味わうといいわ。
 あなたは楽には殺さない。
 殺してくれとあなたが自分で叫んでも絶対に殺してやらないわ。
 あなたは、魂が削れるまで、その生命のさいごの一滴が失われるまで、徹底的に絶望を味わいなさい。それこそがあなたのような悪に相応しい末路よ!!」
 

 キャロラインはそう言うと、キングスガードに命じる。


「この悪党を牢へ連れて行きなさい!」


 筋骨隆々としたキングスガードの二人がイエロー執政官に駆け寄り、彼の両脇を抱える。


 イエローの両目から涙があふれだす。


「やめて! やめてくれ! 悪かった! 悪かったよぉおお! ほしかったんだ! ほしくなっちゃんだ玉座が! それだけだったんだ! 頼むよぉお! ほんの少し魔が差しただけなんだ! 頼むって! 車裂きだけは嫌だ! 嫌だぁあああああ!! 違う刑に変えてくれえええ!」


「早く連れて行きなさい!」とキャロラインが叫んだ。


 イエローの体がキングスガードに引きずられてゆく。


 大広間の諸侯の前を引きずられてゆく……


「嫌だぁああああ! 嫌だぁああああ!! やめてぇえええ! 車裂きだけは嫌だぁああああああああ!! あああぁああああ! 神様ぁあああ!!」


 ギィー、と大きな扉が開き、バタン! という扉が閉まる音が大広間に響いた。



 そして、そのあとには冬の夜空のような静寂だけが残った。




 かくして、キャロラインが留守にしていた間に広がった騒動は終わりを迎えたのだった。
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