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◆在るべきところへ◇4話◇水の遺跡 ②
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◆在るべきところへ◇4話◇水の遺跡 ②
砂漠の村が砂嵐の影響を受けずに存在し続けられるのは、両親の持つ炎の力のおかげだ。精霊を契約し、村を守っているのだ。
アテネも同じように炎の力を受け継いでいるが、まだうまく操れずにいる。
だから三日に一度、賢者からその制御方法を学んでいた。
自分の中の炎の中心を見つける。たったそれだけなのに、成功の可能性は未だに低い。
「……お父さんもお母さんも炎の力が強いから、大変なのはしょうがないんだけど……」
「そういうの、代々受け継がれてくんだっけ」
人間のあらゆる能力に個人差があるように、体内に持つ精霊の中で特化して強い力を持つ者がいる。
そういう人間は村の長になったり、国の指導者になったりする者が多く、親から子へと受け継がれていくものなのだと、インティスはレイから教わったことがあった。
「そうみたい。だって、他に手から炎吹き出す人なんて見たことないし」
「今はやめろよ」
「わかってるもん!」
そのひとときだけ、昨日までの自分たちのような気がしてお互いに笑い合った。
そして、今日になって突然やってきた不安が、足元からまとわりついてくる。
「……同じ大陸の、砂漠の向こうの国さえ行ったことないのに」
アテネの表情が心配そうに曇っていた。
「レイがいるし、大丈夫だよ」
「うん……インティスも来てくれるもんね?」
「一緒に来いって言われてるし」
「だよね。それを聞いて、あたしちょっと安心したの。だって、この村で一番強いじゃない?」
「それはよくわかんないけど……」
「いいの。あたしはまだちゃんと魔法使えないし、賢者様だってインティスみたいに剣で戦えるわけじゃないから、何かあったらあたしたちを守ってね」
「はいはい」
アテネはもういつも通りの明るい彼女に戻っていて、インティスは何気ない会話のつもりで、二つ返事で頷いた。
◇
二人で村に戻って、アテネは花を届けに行き、それぞれの家に帰った。
もう夕刻をすぎていたので、インティスは夕食の支度を始める。
レイは自室に籠もりきりになってしまったが、フェレナードが戻って来たので二人分の準備なのは変わらない。
彼が手伝うと言ってきた時は悪いと思ったが、手持ち無沙汰そうだったのでちょうどいいようだった。
調味料とか、肉を焼く時の道具とか、色々多少の片言で聞かれて答えながら夕食はできあがった。
砂ミミズの肉は脂が乗ってておいしいはずなのに、何故か今日だけは味を感じなかった。
そして、結局片付けも手伝われていつもよりも早く終わり、彼には空いていた客室をあてがって、インティスは自分も部屋に引っ込んだ。
ベッドに入ってみても落ち着かないのは、次の日になったら旅支度を始めて、夜にはこの村を出ることになるからだ。
これからどうなるのか考えると、予想がつかなくて胸の奥がちりちりするし、背中がざわざわする。
そして、もう一つの不安。
今夜も眠れば今朝と同じ夢を見るのだろうか。
できれば見たくない。炎に包まれた人間は音もないのに赤々と燃えていて不気味だし、腕を捕まれた時の、抵抗できないほどの力の強さも怖い。
だが眠らなければ。体調は整えておかないと、何かあった時に二人を守れない。そう思うことにして、インティスは無理矢理目を閉じたのだった。
夢は見なかった。
途中で目が覚めてしまったから。
家の中はまだ真っ暗だった。
インティスの部屋の小さな窓からは夜空が見え、村の中央にある広場が見える。
感じたのは人の気配だ。
そこに、炎に包まれた人間が立っていた。
砂漠の村が砂嵐の影響を受けずに存在し続けられるのは、両親の持つ炎の力のおかげだ。精霊を契約し、村を守っているのだ。
アテネも同じように炎の力を受け継いでいるが、まだうまく操れずにいる。
だから三日に一度、賢者からその制御方法を学んでいた。
自分の中の炎の中心を見つける。たったそれだけなのに、成功の可能性は未だに低い。
「……お父さんもお母さんも炎の力が強いから、大変なのはしょうがないんだけど……」
「そういうの、代々受け継がれてくんだっけ」
人間のあらゆる能力に個人差があるように、体内に持つ精霊の中で特化して強い力を持つ者がいる。
そういう人間は村の長になったり、国の指導者になったりする者が多く、親から子へと受け継がれていくものなのだと、インティスはレイから教わったことがあった。
「そうみたい。だって、他に手から炎吹き出す人なんて見たことないし」
「今はやめろよ」
「わかってるもん!」
そのひとときだけ、昨日までの自分たちのような気がしてお互いに笑い合った。
そして、今日になって突然やってきた不安が、足元からまとわりついてくる。
「……同じ大陸の、砂漠の向こうの国さえ行ったことないのに」
アテネの表情が心配そうに曇っていた。
「レイがいるし、大丈夫だよ」
「うん……インティスも来てくれるもんね?」
「一緒に来いって言われてるし」
「だよね。それを聞いて、あたしちょっと安心したの。だって、この村で一番強いじゃない?」
「それはよくわかんないけど……」
「いいの。あたしはまだちゃんと魔法使えないし、賢者様だってインティスみたいに剣で戦えるわけじゃないから、何かあったらあたしたちを守ってね」
「はいはい」
アテネはもういつも通りの明るい彼女に戻っていて、インティスは何気ない会話のつもりで、二つ返事で頷いた。
◇
二人で村に戻って、アテネは花を届けに行き、それぞれの家に帰った。
もう夕刻をすぎていたので、インティスは夕食の支度を始める。
レイは自室に籠もりきりになってしまったが、フェレナードが戻って来たので二人分の準備なのは変わらない。
彼が手伝うと言ってきた時は悪いと思ったが、手持ち無沙汰そうだったのでちょうどいいようだった。
調味料とか、肉を焼く時の道具とか、色々多少の片言で聞かれて答えながら夕食はできあがった。
砂ミミズの肉は脂が乗ってておいしいはずなのに、何故か今日だけは味を感じなかった。
そして、結局片付けも手伝われていつもよりも早く終わり、彼には空いていた客室をあてがって、インティスは自分も部屋に引っ込んだ。
ベッドに入ってみても落ち着かないのは、次の日になったら旅支度を始めて、夜にはこの村を出ることになるからだ。
これからどうなるのか考えると、予想がつかなくて胸の奥がちりちりするし、背中がざわざわする。
そして、もう一つの不安。
今夜も眠れば今朝と同じ夢を見るのだろうか。
できれば見たくない。炎に包まれた人間は音もないのに赤々と燃えていて不気味だし、腕を捕まれた時の、抵抗できないほどの力の強さも怖い。
だが眠らなければ。体調は整えておかないと、何かあった時に二人を守れない。そう思うことにして、インティスは無理矢理目を閉じたのだった。
夢は見なかった。
途中で目が覚めてしまったから。
家の中はまだ真っ暗だった。
インティスの部屋の小さな窓からは夜空が見え、村の中央にある広場が見える。
感じたのは人の気配だ。
そこに、炎に包まれた人間が立っていた。
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