在るべきところへ

リエ馨

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◆在るべきところへ◇6話◇あいつは誰 ③

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◆在るべきところへ◇6話◇あいつは誰 ③


「アテネを取り戻すために、私たちはこの後森の国へ渡り、妹のカーリアンと合流する。一週間もあれば着けるだろう」

 レイはインティスにわかるよう砂漠の国の言葉で話しているため、フェレナードには時々彼の国の言葉で補足した。多少は予め伝言の後に聞いていたが、その内容を確認するように頷いた。

「……何でアテネが連れてかれたの」

 インティスは聞きたくなかったが、聞かなければこれから先、対処することができない。

「……あの子をさらったのは、恐らくミゼリットだ」
「……え?」

 インティスとフェレナードが同時に聞き返すと、ライネは俯いたまま姿を隠してしまった。

「神話の……神域の四傑士の、ですか?」

 国は違っても、神話の知識は共通らしい。フェレナードはまさかと思いつつ、レイへ聞き返す。
 同じ名前の女性は沢山いるが、その名前を聞いて誰でもまず思い出すのは、神話に出てくる登場人物なのだ。

「……ああ」

 レイは静かに頷いてみせたが、インティスはその答えに納得がいかなかった。

「何でいきなりそんな話になるの? 神話だって、神域の話だって、大昔すぎるから本当かどうかわかんないはずじゃなかったの」

 それらは定説で誰もが知っているから神話なのであり、今知りたいのは友人がさらわれた理由だ。

「ねえ、アテネを連れてったあいつは誰」
 インティスは食ってかかったが、レイは理由の手前から話そうとしているようだ。
 落ち着きなさいとなだめられ、インティスは仕方なく焚き火の前に座り直した。
 それを見届けて、レイはぱちぱちと燃える焚き火に視線を移す。
 あの女性がまとう炎とは違い、音を立てて燃える炎。

「……彼女はミゼリットだよ。フェレナードの言う通り、神域の四傑士のね。友人だったからよくわかってる」
「え……」

 その瞳は、インティスが今まで見たことないほど辛そうだった。
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