在るべきところへ

リエ馨

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◆在るべきところへ◇7話◇神話の裏側 ④

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◆在るべきところへ◇7話◇神話の裏側 ④


 レイは自分のせいだとは言わなかったが、それでももう一度聞きたかった。

「あたしこの子を連れて行きたいの。どうしても必要なのよ」

 女が言っていたことを鮮明に思い出す。
 あの時抵抗しなければよかった。
 誰が悪いのか、答えが出ているような気がしてしまう。
 それでも、レイから聞きたかった。自分に一番近い彼からお前が悪いと言われれば受けられる、受け入れようと思っていたのに。

「……大丈夫?」

 不意に声をかけられて、インティスははっと顔を上げた。
 声をかけたのは隣に座っていたフェレナードだ。

 焚き火の向こうにいたレイの姿がない。

「回りの様子を見てくるって」

 答えたのは水の精霊ライネだった。

「……そっか」

 それだけ言うと、インティスは焚き火の前に座り直した。
「……誰だって、いきなり自分の出生を教えられたら戸惑うものだよ」

 異国の言葉であるはずなのに、隣のフェレナードは滑らかに言った。

「そう?」
「そう」
「……あんたも?」
「……まあね。俺の場合は結果的に知って良かったと思ってるけど、皆がそうとは限らないしね」
「……ちょっと今は無理」
「……そうだね」

 フェレナードは優しくそう返しただけで、それ以上話しかけてこなかった。

 いきなり聞き返されたにも関わらず、さらっと自分のことを話せてしまうのは、結局事実を受け入れているからなのだろうと、インティスには思えた。
 少なくとも今の自分には、そんな余裕はどこにもない。

 答えも見つからず、心の整理もつかないままだった。




 俯いてしまったインティスから視線を焚き火に戻し、フェレナードは考えた。

 彼は恐らく、少女がさらわれたことを酷く気に病んでいる。
 賢者は彼に対し何も悪くないと言ったが、全く納得していない様子だったからだ。
 標的が変わったのはフェレナードから見ても偶然だと感じた。だからこそ納得できないのだろう。

 偶然を必然と思い込み、それを自分のせいと追いつめてしまう傾向もよくわかる。

 彼に言いたいことはまだあったが、続きは別の機会にすることにした。
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