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◆在るべきところへ◇10話◇彼の秘密 ④
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◆在るべきところへ◇10話◇彼の秘密 ④
「すごい……」
レイが普段の生活以外に魔法を使うところをあまり見たことがなかったので、インティスは素直に驚いた。まるで煙に言うことをきかせているみたいだ。
「すごいかい? 私もあの頃は力が有り余っていたからね」
「え?」
「さあ、ここからは違う国だ。言葉も違うから、何か困ったことがあったら言いなさい」
「うん……」
力が……何だって?
彼が言ったことが気になったが、とりあえず返事だけしておいた。
◇
陽の光はなかったが、慣れない匂いでアテネは目が覚めた。
湿った土の匂いだ。
「う……」
声は出た。固く踏み固められたような土の上に寝かされていたようだ。
知らない女性に捕まり、熱かったことは覚えているが、体は何ともなく、火傷もしていない。
うつ伏せだったので少し息が苦しい。両腕に力を込めて上体を起こした。特に痛みは感じなかった。
だが、視界が異様に暗い。真夜中のように暗くて、目を凝らさなければ何かあってもわからないだろう。
座り直してみると、天井にすぐ手が届いた。前後左右の壁にも。いずれも土でできていたが、目の前の壁に唯一、小さな穴があいている。
それは空気穴かもしれないと、アテネは思った。生き物は閉じられた空間ではやがて呼吸ができなくなってしまうと、賢者に教えられたことがあった。
壁も湿っていたが、顔を近付けて穴を覗いてみると、何かを引きずるような音が聞こえた。
「何……?」
穴の向こうは、ここよりは広いようだ。天井は同じくらいだが少しだけ明るくて、何かが人間を引きずっている。
「え……?」
人間が抵抗する様子はなかった。それが死んでいるのか、気を失っているのかはわからない。
その日は二人、次の日は三人、その次の日は二人と、毎日何人かが引きずられていった。
人間が人間をそうしているのではなく、人間ではない、見たことのない何かがそうしている。
真っ黒な人間の上半身が地面と繋がっていて、滑るように移動しているようにしか見えない。
直感で、あれらに見つかってはいけないと思った。見つかったら、自分が連れて行かれてしまう。
アテネはそれが自分のところに来ないよう、ただ息を潜めることしかできなかった。
「すごい……」
レイが普段の生活以外に魔法を使うところをあまり見たことがなかったので、インティスは素直に驚いた。まるで煙に言うことをきかせているみたいだ。
「すごいかい? 私もあの頃は力が有り余っていたからね」
「え?」
「さあ、ここからは違う国だ。言葉も違うから、何か困ったことがあったら言いなさい」
「うん……」
力が……何だって?
彼が言ったことが気になったが、とりあえず返事だけしておいた。
◇
陽の光はなかったが、慣れない匂いでアテネは目が覚めた。
湿った土の匂いだ。
「う……」
声は出た。固く踏み固められたような土の上に寝かされていたようだ。
知らない女性に捕まり、熱かったことは覚えているが、体は何ともなく、火傷もしていない。
うつ伏せだったので少し息が苦しい。両腕に力を込めて上体を起こした。特に痛みは感じなかった。
だが、視界が異様に暗い。真夜中のように暗くて、目を凝らさなければ何かあってもわからないだろう。
座り直してみると、天井にすぐ手が届いた。前後左右の壁にも。いずれも土でできていたが、目の前の壁に唯一、小さな穴があいている。
それは空気穴かもしれないと、アテネは思った。生き物は閉じられた空間ではやがて呼吸ができなくなってしまうと、賢者に教えられたことがあった。
壁も湿っていたが、顔を近付けて穴を覗いてみると、何かを引きずるような音が聞こえた。
「何……?」
穴の向こうは、ここよりは広いようだ。天井は同じくらいだが少しだけ明るくて、何かが人間を引きずっている。
「え……?」
人間が抵抗する様子はなかった。それが死んでいるのか、気を失っているのかはわからない。
その日は二人、次の日は三人、その次の日は二人と、毎日何人かが引きずられていった。
人間が人間をそうしているのではなく、人間ではない、見たことのない何かがそうしている。
真っ黒な人間の上半身が地面と繋がっていて、滑るように移動しているようにしか見えない。
直感で、あれらに見つかってはいけないと思った。見つかったら、自分が連れて行かれてしまう。
アテネはそれが自分のところに来ないよう、ただ息を潜めることしかできなかった。
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