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◆20話◇在るべきところへ ①
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◆20話◇在るべきところへ ①
インティスにとってレイは、血が繋がっていないだけでほとんど親のようなものだ。
砂漠の村に住みながら、精霊の力で気候を和らげたり、見習いをつけて医者の代わりもしてきた。今思えば、彼がいずれいなくなるかもしれないことを見越して見習いをつけていたのだろう。
レイは村の運営の中心にいた。だからインティスは彼には従い、自分なりに彼を守ってきたつもりだった。
彼は村に必要とされているから、アテネを救出したら皆で村に帰るのだと思っていた。こんなに唐突に別れの時が来るなんて思っていなかった。
普段は喜怒哀楽すら乏しくて読み取れないのに、今は誰もが一目見てすぐにわかってしまうほど、インティスは動揺していた。
「すぐに、すぐに死んだりしないって言ったのに!」
レイの体の粒子化は早く、光の粒は散り散りになって、見えなくなっていく。
「レイ! レイってば!」
インティスが声をかけ続けると、粒子化が胸まで進んだ辺りで、レイはようやく薄く目を開けた。
「……大丈夫、まだ意識はとどまれそうだ」
「でもっ……」
「体は失くなってしまうけど、私自身はカーリアンの中にいるから、何かあったら呼びなさい」
「レイ……」
「君は私の教え子だ。毎朝私を起こしてくれたようにするだけでいいよ。君の声でしか、私は目覚めないからね……」
「レイ! あっ……!」
粒子が肩を越えると、後は一瞬で感触がなくなってしまった。
人の形をした光の粒は、インティスの腕からふわふわと飛び立ち、消えていった。
「…………っ」
あまりにも突然すぎて、言葉が出ない。
「まったく、簡単に人の体に居座らないでよね」
溜息をついて、カーリアンが長い金髪を掻き上げた。
「カーリアン、賢者様は……」
呆然としたままのインティスに代わって、フェレナードが尋ねた。
「いるわよ、私の中に。けど、起こすなら私と入れ替えになるから、人の命がかかってるとか余程のことがないと駄目だからね。森の国全体の精霊の契約は私がしてるから」
「……うん……」
フェレナードが危ぶんでいた天空神ラキタルの恩寵は、今でも続いていた。
だが、一気に力を使いすぎてバランスが取れなくなり、体が崩壊してしまったのだとカーリアンが説明してくれた。
そして、意識だけでも残ったのは恩寵のおかげだということも。
完全に消えてしまったわけではない。そう自分に言い聞かせて、インティスは頷いた。
「さ、上に寝かせた子が起きるまでに色々片付けなきゃ。二人とも手伝って」
カーリアンが物置にしている一階に行くよう促すのでフェレナードは向かおうとしたが、インティスは動かない。
「……今は忙しい方がいい。おいで」
「…………」
フェレナードに腕を引かれ、インティスは無言のまま二人について行った。
◇
インティスにとってレイは、血が繋がっていないだけでほとんど親のようなものだ。
砂漠の村に住みながら、精霊の力で気候を和らげたり、見習いをつけて医者の代わりもしてきた。今思えば、彼がいずれいなくなるかもしれないことを見越して見習いをつけていたのだろう。
レイは村の運営の中心にいた。だからインティスは彼には従い、自分なりに彼を守ってきたつもりだった。
彼は村に必要とされているから、アテネを救出したら皆で村に帰るのだと思っていた。こんなに唐突に別れの時が来るなんて思っていなかった。
普段は喜怒哀楽すら乏しくて読み取れないのに、今は誰もが一目見てすぐにわかってしまうほど、インティスは動揺していた。
「すぐに、すぐに死んだりしないって言ったのに!」
レイの体の粒子化は早く、光の粒は散り散りになって、見えなくなっていく。
「レイ! レイってば!」
インティスが声をかけ続けると、粒子化が胸まで進んだ辺りで、レイはようやく薄く目を開けた。
「……大丈夫、まだ意識はとどまれそうだ」
「でもっ……」
「体は失くなってしまうけど、私自身はカーリアンの中にいるから、何かあったら呼びなさい」
「レイ……」
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「レイ! あっ……!」
粒子が肩を越えると、後は一瞬で感触がなくなってしまった。
人の形をした光の粒は、インティスの腕からふわふわと飛び立ち、消えていった。
「…………っ」
あまりにも突然すぎて、言葉が出ない。
「まったく、簡単に人の体に居座らないでよね」
溜息をついて、カーリアンが長い金髪を掻き上げた。
「カーリアン、賢者様は……」
呆然としたままのインティスに代わって、フェレナードが尋ねた。
「いるわよ、私の中に。けど、起こすなら私と入れ替えになるから、人の命がかかってるとか余程のことがないと駄目だからね。森の国全体の精霊の契約は私がしてるから」
「……うん……」
フェレナードが危ぶんでいた天空神ラキタルの恩寵は、今でも続いていた。
だが、一気に力を使いすぎてバランスが取れなくなり、体が崩壊してしまったのだとカーリアンが説明してくれた。
そして、意識だけでも残ったのは恩寵のおかげだということも。
完全に消えてしまったわけではない。そう自分に言い聞かせて、インティスは頷いた。
「さ、上に寝かせた子が起きるまでに色々片付けなきゃ。二人とも手伝って」
カーリアンが物置にしている一階に行くよう促すのでフェレナードは向かおうとしたが、インティスは動かない。
「……今は忙しい方がいい。おいで」
「…………」
フェレナードに腕を引かれ、インティスは無言のまま二人について行った。
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