自分には何もないと思っていた青年は『浄化』という特別な力を手にし浄化師と呼ばれる存在となる

紙條雪平

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 有川が第三十二区に到着すると、大量の執行局の車があり、局員もたくさんいた。有川は近くの局員に尋ねる。

「浄化師の有川だ、本部はどこだ?」

 局員は案内します、と言って有川を本部近くまで案内してくる。本部となっているテントに入ると、そこには、御澤と守谷を含むこの作戦に参加する執行局の中佐以上の人間十数名がいた。全員は有川に視線を向ける。

「遅れました、第十七浄化師小隊の有川特佐です」

 このテントの中にいる執行局の局員で一番上官の中将はそれを聞いて頷く。

「これで、周辺区画で志願した全部隊が揃ったな、諸君に聞くが、覚悟はあるな?」

 全員は頷くと、ここにいる全員を見渡す。この作戦はオーティの詳細が把握できなかったのもあり、志願した部隊のみで構成されていた。
 この場にいる全員は執行局にとって、オーティの情報を少しでも多く回収するためだけの人柱であった。全員がそれについて納得して、志願していた。

「では、作戦を説明する」

 そして、中将から作戦が説明された。それはオーティが捕捉されたポイントに向かって、ここにいる人員を再編成してつくられた三つの特別中隊を三方向から進撃させるというものだった。
 再編成の内容を有川が確認すると、有川は御澤の部隊と共に行動することになっていた。

「作戦は確認できたな」

 全員が頷く。それを見て、中将も頷く。

「諸君らの健闘に期待する」

 中将がそう言うと、全員が敬礼をして、このテントから出ていく。有川はテントから出ると、守谷に声をかけられる。

「ゲン、死ぬなよ」

 有川は守谷のほうを向いて、笑顔で言う。

「ヤス、お前もな」

 守谷はそれを聞いて笑うと、敬礼をして自分の部隊のところへと向かう。彼ら二人は死を覚悟していた。これが最後の会話になるかもしれないと思っていた。だが、二人は互いに長々と言葉を交わす必要ないと思っていた。
 有川も御澤の部隊のところに向かう。

「よろしくな、御澤」

 有川は御澤に声をかける。御澤は有川のほうを見て、一瞬にらむ。そして、御澤はぶっきらぼうに言う。

「こちらこそ、よろしく頼む、特佐」

 有川はその態度に若干いらっとするも、それに関しては何も言わない。有川は一度ため息をつくと、御澤に尋ねる。

「御澤、ここに来る途中で聞いたんだが、オーティに関する新情報ってなんだ?」

 御澤は即座に口を開く。

「やつは、穢れをどこからか、呼べる力があると推測されるというものだ」

 有川はなるほどね、と言う、どこか有川は納得していた。あの第十六区の一件はオーティのものではないか、と有川は予測していたからであった。

「特佐、はっきり言ってそれは問題ない。問題は」

 御澤が言うことを有川が勝手に引き継ぐ。

「やつの力だろ。お前の炎も、数多の銃撃をも防ぐ正体不明の力」
「とりあえず、やつに俺が触れられるように援護してくれ」

 御澤はそれを聞いて即座に問う。

「それが最適だというのか?特佐」
 有川は黙って頷く。御澤はそれを見て、自分も黙って頷くと、有川に背を向け、部隊の全員のほうを見る。そして、御澤は口を開く。

「では、私たちが最大限の援護をしてやる。しくじるなよ」
「お前もな」

 有川は即座に言う。御澤はふっと笑うと、部隊の状況を確認する。有川は空を見上げる。そして、つぶやく。

「加崎はどうなったかな」

 しばらくして、彼らは準備を完了すると、中将の合図とともに進撃を開始する。


 加崎は病院を出ると、屯所へと向かっていた。有川に電話をしたがつながらなかった。そこから、加崎はもう作戦が始まっているか、もしくは始まりそうになっているのではないか、と考えていた。
 そこで、一度装備を整え、情報を確認するために、屯所へと向かっていたのだった。屯所につき、エレベーターを降りてすぐに、即座に自分の装備を探す。
 だが見つからなかった。どういうことだ、と加崎が思った瞬間、後ろから声が聞こえた。

「何してるんだい、加崎君?」

 加崎は声が聞こえたほうをむく。そこには、古賀がいた。加崎は驚きながら押し黙る。そして、どうするかを考える。

「作戦に無断で参加するつもりだね」

 古賀は加崎の行動を見通していた。加崎は何を言うか、を考える。すると、古賀は加崎にバッグを投げてくる。それは加崎の装備などが入ったバッグだった。

「オーティは第三十二区だ。作戦はもうすぐ始まる」

 加崎は驚き古賀の顔を見る。古賀は笑顔だった。加崎を引き留めようとする意志はまったく感じ取れなかった。

「なんで、止めないんですか?」

 加崎は震えた声で古賀に問う。加崎は古賀が止めてくるのではないか、と思っていた。今から自分がやることは自分勝手なものであると加崎は思っていた。

「止めてほしいなら、止めるけどね」

 加崎は小さく首を振り、下を向く。実際古賀が止めてくるならどうしようか、と加崎は思っていた。

「止めてほしくないことはわかる。全く特佐の周りの人は、無茶ばっかりしようとするのは何なんでしょうね、待つことしかできない人のことも考えてほしいものだ」

 古賀はどこかを見つめながら言う。加崎は苦笑するほかなかった。そして、加崎は古賀に向かって頭を下げる。

「古賀さん、ありがとうございます」

 古賀は構いません、と言って笑う。そして、加崎が頭をあげると、真剣な顔をする。

「加崎君。一つだけ約束です、必ず帰ってきてください。あの馬鹿な特佐と一緒に。死んでもいいなんてのは許されません」

 加崎は頷く。そして、古賀をまっすぐと見つめる。

「必ず、自分は帰ります。そう約束したので、他の人とも」
「彼女のことかな、時村優衣」

 加崎は頷く。それを見て古賀は笑みを浮かべる。それは安心感からくるものであった。そして、加崎は背を向ける。

「行ってきます」
「いってらっしゃい、お気をつけて」

 加崎はエレベーターに乗り、第三十二区へと向かっていく。それを見送りながら古賀は思う。
 自分に自信がなく、自分のことを卑下し、傷つけていた青年はもういない。今見送った青年は自分の信じる道を見つけ出し、その道を突き進む青年の姿だった。

「私も今やれることをしますか」

 そう言って古賀は自分の机へと向かう。古賀はこの場にいない二人のために今できることを最大限やる。それしか自分はできないと知っていたから。そして、それが自分だけにできるだけだと知っていた。

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