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プロローグ
邂逅
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==公爵家=====
「魔人を召喚する、ですか?」
フローラは意味がわからない、といった表情で返す。
「えぇ。これを見て」
サラは髪を束ねて抱えるようにしゃがみこみ、床を指しながら話を続ける。
「ほら。模様が彫ってあるでしょう? この模様に召喚者の血を流すことで召喚出来るみたいなの。更に召喚した魔人とは、何らかの対価を払って契約することも出来るそうよ」
「そんな事が……。しかし、誰からそんな事を?」
「この部屋の本に書いてあったの。私も試したことはないから本当かどうかはわからないけどね。でも、試す価値はあると思う」
「ですが、魔人召喚など……」
躊躇うような表情のフローラ。当然だ。魔人召喚など、考えるまでもなく重罪だろう。
魔人は人を謀り殺め、多くの悲劇や絶望を生んだとされている。
そんなものを召喚して無事に済むのか。そもそも契約してくれるのか。契約してくれたところでこちらの意図に従ってくれるのか。あまりにも無謀な賭けだ。だがーーそれでもサラは魔人召喚を行うべきだと考えていた。
「このまま何もしなければ、私は神鏡の使い手を暗殺しようとした女にされる。それに……そもそも今回は不可解なことが多いでしょ?」
そこで一呼吸置いてから続きを話す。
「襲撃者と警備兵の一部が繋がっていたとしても、学園寮の警備は複数の貴族の兵士が合同で行っているわ。ドゥーク侯爵、いえ、その上のマルタ公爵であっても、容易に侵入させることなんて出来るはずがないわ」
「そうですね。それに公爵の旦那様、いえ、ここまで黒い噂が尽きない男。恐らく王家でも調査はしているのでしょう。ですが、それでも証拠が一切見つからない」
「そう。極めつけは私しか知らない場所にある筈の、印を利用したこと。普通に考えればありえないけれど……」
サラの言いたいことを察したフローラが慎重に口を開く。
「まさか……これらに魔人が関わっていると?」
「えぇ。魔人の中には人を操る者もいるそうだから。そうだとすれば説明がつくわ」
「ですが、それでは尚のこと危険では? 召喚したと同時にすぐに操られでもすればーー」
「そう。だからフローラ。貴方には私が操られていないかを見極めてほしいの。もし、操られて……戻せそうになければその時は貴方が私を……」
「お嬢様!?」
「お願い。私では貴方が操られても、実力的に止められない。けど、貴方なら……
勿論、召喚出来たらの話よ。それに、契約出来ずに殺される可能性もあるけれど……」
あまりの発言にフローラは言葉を失う。そんな彼女を前に、サラは自分がどれだけの事を言っているのか自覚した。
(彼女は本当に私を大事にしてくれている。そんな彼女にこんな事を頼むのは残酷だわ。それでもーー)
「ねぇフローラ。さっきも言ったけれど、何もしなければ間違いなく私は罪を被せられる。それだけならまだいい。でも、ドゥーク侯爵がその程度で済ます筈が無い。
フローラ、お父様、執事長をはじめとする当家に仕えてくれる人たち。ひょっとしたらシルヴァ様にも。私の大切な人をあの男は間違いなく苦しめる。それならいっそ、すべてを失う覚悟で……!」
「……分かりました。このフローラ。最後までお嬢様と共に戦いましょう」
彼女はサラの目を見てハッキリと応える。それだけで、サラの心には勇気が湧いてくる。
「ありがとう。……お姉ちゃん……」
最後は聞こえない程小さく。けれど、小さい頃から傍にいてくれた彼女にずっと使いたかった呼び方。それでも、彼女は聞こえたのか嬉しそうに笑った。
「さぁ、準備出来たら儀式を始めましょう! フローラ!」
「はい! お嬢様!!」
==========
おぉ……これが尊いということか。キマシタワーを立てたくなる話だ。
でもサラちゃんと戦うとき、傍にメイドはいないんだよな。召喚した魔人に殺されたのか?
それだと死んだ目をしてるサラちゃんにも納得がいくが……
というかさっきから思っていたが、途中のボスでしかないサラちゃんに、ここまでスポットを当てる理由は何なんだ? 攻略サイトにも、サラちゃんの破滅を回避する方法の質問は挙がってた。けど、どの質問にも「ありません」としか書かれていなかった筈。救いがないキャラ。それも攻略対象でも無いキャラに、ここまでスポットを当てる必要があるのか?
っと考えていた所でゲームの方でも召喚の準備が出来たようだ。さて、ではいよいよサラちゃんを破滅に追いやるであろうクソ魔人の召喚か。
くぅ……。気が重いが、頑張れ俺。朝になったらすぐにサラちゃんグッズを買って幸せなサラちゃんの妄想をするんだ。
さぁ、召喚だ!
――プツッ――――
意気込んだところで辺りが真っ暗になった。なんだ? 停電か? とりあえずブレーカ―を確認するか。
そう思って立ち上がった途端、辺りに閃光が走る。
「ちょっ!? えっ!? 眩しっ!?」
急な光に目を眩ませるが、どうやら一瞬だけのようで段々と光が晴れてきた。もう腕で顔を覆う必要もないか。
何だったんだ今のは? しかし、なんか変な匂いがするな。埃とカビの匂い。しかも微妙に血の匂いもする。
困惑していると、なにやら女性の声が聞こえてくる。
「やった……やったわフローラ! 召喚に成功したわ!」
「やりましたねサラ様! しかし、ここからですよ」
「えぇ! わかってる!」
まだ目がチカチカするな。
サラとかフローラとか物語のキャラみたいな名前だ。というか召喚? なんのことだ?
お? 目が慣れてきた。えっと……カビの生えていそうな薄暗い部屋の中? 目の前には綺麗な金色の長髪のーーお姫様? と、メイド? 彼女らは二人ともオレを見ている。
ただ……なんか黒魔術みたいに魔法陣やら蝋燭やらに囲まれてるんだけど……
え? 何? 召喚ってことは? お姫様とメイドが? 黒魔術で召喚? 何を? オレを? なんで?
様々な疑問が水泡のように思いついては消えていく。そんなオレに対し、おずおずと前に出てきたお姫様が口を開く。
「は、はじめまして魔人様。私はサラと申します。どうか、私の願いを聞き届けてくださいませんか?」
いや……。なにこれ? 異世界転生ってやつ?
「魔人を召喚する、ですか?」
フローラは意味がわからない、といった表情で返す。
「えぇ。これを見て」
サラは髪を束ねて抱えるようにしゃがみこみ、床を指しながら話を続ける。
「ほら。模様が彫ってあるでしょう? この模様に召喚者の血を流すことで召喚出来るみたいなの。更に召喚した魔人とは、何らかの対価を払って契約することも出来るそうよ」
「そんな事が……。しかし、誰からそんな事を?」
「この部屋の本に書いてあったの。私も試したことはないから本当かどうかはわからないけどね。でも、試す価値はあると思う」
「ですが、魔人召喚など……」
躊躇うような表情のフローラ。当然だ。魔人召喚など、考えるまでもなく重罪だろう。
魔人は人を謀り殺め、多くの悲劇や絶望を生んだとされている。
そんなものを召喚して無事に済むのか。そもそも契約してくれるのか。契約してくれたところでこちらの意図に従ってくれるのか。あまりにも無謀な賭けだ。だがーーそれでもサラは魔人召喚を行うべきだと考えていた。
「このまま何もしなければ、私は神鏡の使い手を暗殺しようとした女にされる。それに……そもそも今回は不可解なことが多いでしょ?」
そこで一呼吸置いてから続きを話す。
「襲撃者と警備兵の一部が繋がっていたとしても、学園寮の警備は複数の貴族の兵士が合同で行っているわ。ドゥーク侯爵、いえ、その上のマルタ公爵であっても、容易に侵入させることなんて出来るはずがないわ」
「そうですね。それに公爵の旦那様、いえ、ここまで黒い噂が尽きない男。恐らく王家でも調査はしているのでしょう。ですが、それでも証拠が一切見つからない」
「そう。極めつけは私しか知らない場所にある筈の、印を利用したこと。普通に考えればありえないけれど……」
サラの言いたいことを察したフローラが慎重に口を開く。
「まさか……これらに魔人が関わっていると?」
「えぇ。魔人の中には人を操る者もいるそうだから。そうだとすれば説明がつくわ」
「ですが、それでは尚のこと危険では? 召喚したと同時にすぐに操られでもすればーー」
「そう。だからフローラ。貴方には私が操られていないかを見極めてほしいの。もし、操られて……戻せそうになければその時は貴方が私を……」
「お嬢様!?」
「お願い。私では貴方が操られても、実力的に止められない。けど、貴方なら……
勿論、召喚出来たらの話よ。それに、契約出来ずに殺される可能性もあるけれど……」
あまりの発言にフローラは言葉を失う。そんな彼女を前に、サラは自分がどれだけの事を言っているのか自覚した。
(彼女は本当に私を大事にしてくれている。そんな彼女にこんな事を頼むのは残酷だわ。それでもーー)
「ねぇフローラ。さっきも言ったけれど、何もしなければ間違いなく私は罪を被せられる。それだけならまだいい。でも、ドゥーク侯爵がその程度で済ます筈が無い。
フローラ、お父様、執事長をはじめとする当家に仕えてくれる人たち。ひょっとしたらシルヴァ様にも。私の大切な人をあの男は間違いなく苦しめる。それならいっそ、すべてを失う覚悟で……!」
「……分かりました。このフローラ。最後までお嬢様と共に戦いましょう」
彼女はサラの目を見てハッキリと応える。それだけで、サラの心には勇気が湧いてくる。
「ありがとう。……お姉ちゃん……」
最後は聞こえない程小さく。けれど、小さい頃から傍にいてくれた彼女にずっと使いたかった呼び方。それでも、彼女は聞こえたのか嬉しそうに笑った。
「さぁ、準備出来たら儀式を始めましょう! フローラ!」
「はい! お嬢様!!」
==========
おぉ……これが尊いということか。キマシタワーを立てたくなる話だ。
でもサラちゃんと戦うとき、傍にメイドはいないんだよな。召喚した魔人に殺されたのか?
それだと死んだ目をしてるサラちゃんにも納得がいくが……
というかさっきから思っていたが、途中のボスでしかないサラちゃんに、ここまでスポットを当てる理由は何なんだ? 攻略サイトにも、サラちゃんの破滅を回避する方法の質問は挙がってた。けど、どの質問にも「ありません」としか書かれていなかった筈。救いがないキャラ。それも攻略対象でも無いキャラに、ここまでスポットを当てる必要があるのか?
っと考えていた所でゲームの方でも召喚の準備が出来たようだ。さて、ではいよいよサラちゃんを破滅に追いやるであろうクソ魔人の召喚か。
くぅ……。気が重いが、頑張れ俺。朝になったらすぐにサラちゃんグッズを買って幸せなサラちゃんの妄想をするんだ。
さぁ、召喚だ!
――プツッ――――
意気込んだところで辺りが真っ暗になった。なんだ? 停電か? とりあえずブレーカ―を確認するか。
そう思って立ち上がった途端、辺りに閃光が走る。
「ちょっ!? えっ!? 眩しっ!?」
急な光に目を眩ませるが、どうやら一瞬だけのようで段々と光が晴れてきた。もう腕で顔を覆う必要もないか。
何だったんだ今のは? しかし、なんか変な匂いがするな。埃とカビの匂い。しかも微妙に血の匂いもする。
困惑していると、なにやら女性の声が聞こえてくる。
「やった……やったわフローラ! 召喚に成功したわ!」
「やりましたねサラ様! しかし、ここからですよ」
「えぇ! わかってる!」
まだ目がチカチカするな。
サラとかフローラとか物語のキャラみたいな名前だ。というか召喚? なんのことだ?
お? 目が慣れてきた。えっと……カビの生えていそうな薄暗い部屋の中? 目の前には綺麗な金色の長髪のーーお姫様? と、メイド? 彼女らは二人ともオレを見ている。
ただ……なんか黒魔術みたいに魔法陣やら蝋燭やらに囲まれてるんだけど……
え? 何? 召喚ってことは? お姫様とメイドが? 黒魔術で召喚? 何を? オレを? なんで?
様々な疑問が水泡のように思いついては消えていく。そんなオレに対し、おずおずと前に出てきたお姫様が口を開く。
「は、はじめまして魔人様。私はサラと申します。どうか、私の願いを聞き届けてくださいませんか?」
いや……。なにこれ? 異世界転生ってやつ?
応援ありがとうございます!
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