上 下
40 / 113
二章

作戦会議2

しおりを挟む
 マリアちゃんの洗脳は治せたし、クレアちゃんも落ち着いた。
 これからどうすべきか。

「さて、まず現状を確認しよう。メルクの話では今回の首謀者は十中八九、ガスク枢機卿だ。目的は恐らく、クレアとメルクの婚約。そしてその先に、自分が2神教の教皇にでもなるつもりだろう」

「メルク様が私と婚約しただけで、自分は教皇になれるんですか?」

「2神教にとって神剣と神鏡の使用者は、それほど重要なものだということだよ。今ですら貴族たちも、国教の枢機卿であるあの男には強く出られない。その息子がクレアと婚約したとなれば、尚更だ」

「間違いありません。加えて、父はどうやら現教皇様も自分の手駒に加えているようです」

「何? 確かに先日の会議の様子には違和感もあったが……」

 シルヴァ君が驚いている。
 だけど、先日の調査でもそんな感じだった。とはいえ教皇と言えば宗教組織のトップ。それを手駒に加えているとなると、殆ど2神鏡を支配しているも同然。 国民の大半が支持している宗教だ。それを支配されたら王族だって簡単には手出し出来ないだろう。

「はい。僕も枢機卿の息子として、何度か2神教の会議に同席することがありました。父が教皇様と話す時は、いつも見下したような目をしています。反対に教皇様は何やら諦めたような態度なのです。そしてそれは、他の枢機卿や司教達も同様です。何か後ろ暗い事をしているのでしょう」

「そうですね。先日、私もクレアと共に教皇様とお会いしましたが、教皇様は枢機卿ーーガスクに怯えておられるようでした」

「シル坊の方は把握してないんだろ? メルク。お前さんの方で何か調べてねーのか?」

「……すみません。下手な事をすればあの男は僕であっても容赦しません。そこまでは調べていません」

「仕方ないね。あんたが無事だったから、あたしらはその話を聞けた。寧ろ褒めるべきだね」

 ゼリカさんの言う通りだ。しかし、この間の調査では尻尾が掴めなかった。と、なるとかなり狡猾そうだ。厄介だな。

「では次は、マリア嬢にメルクを襲わせた理由だな。大体推測はつくが……メルク?」

「はい。
 マリアに僕を襲わせた目的は恐らく2つ。
 1つ目は、単純にマリアとの婚約破棄の為。正当な理由もなく婚約破棄すれば、クレアさんとの婚約が成立する可能性は限りなくゼロですからね。
 2つ目は、マリアの実家、テレーズ家に協力させる為。お前たちの娘に危害を加えられたのだから……とでも言うつもりでしょう。ハーディ家は所詮男爵家ですが、テレーズ家は侯爵家。貴族たちにも強く意見出来ます。加えて、テレーズ家を後ろ盾に出来れば、婚約破棄にはハーディ家の過失が無かった事の証明にもなります」

「そうだな。そうなれば貴族たちもクレア嬢との婚約に反対しようにも、マリア嬢との婚約破棄を理由には出来ない」

「えぇ。国民にも示しがつきます。寧ろ国民からすれば、自分たちの信仰する宗教のトップと神鏡に、繋がりがある方が安心出来るでしょう。父が教皇になる理由としては充分です」


 まぁ、そうだろうな。わざわざマリアちゃんを教会に呼び出して、洗脳した理由はそうだろう。と、するとーー

「て、事はカイウスはただ、それに巻き込まれたってことかい……。ついてない男だねぇ……」

「えぇ。ですが、逆にカイウスが傍にいたにもかかわらず、逃げることも出来なかったということです」

「そうだね、まだまだ未熟とはいえ、カイウスは国でも上位の強さだ。槍を持ってなかったとはいえ、可能なら一人だけでも逃げてくるはず。マリア嬢を見捨ててでも、状況を伝える方がいい。そんな判断が出来ない男じゃない」

「兵士数人程度、カイウスなら逃げきれる。相手もマリア嬢だけをさらうつもりだった筈。となると、そこまで警戒して人数を揃えるとも思えねぇな」 

「そうなると、単体で強いもの。それこそ洗脳魔人や幻覚魔人が近くにいたと考えられますね」

 そう。そして、洗脳魔人や幻覚魔人はゲームではーー

「玉木によると、それらの魔人の強さは双竜のお二人でも、1対1では勝ち目が無いほどだそうです」

「ったく……洗脳なんて明らかにタイマン向きじゃねぇ。だってのに素でオレらより強いってのか? 勘弁してほしいぜ」

「なら、カイウスが逃げきれないのも無理はないね」

「しかし……そうなるとカイウスが無事な保証はねぇな。洗脳や拘束なら良い……。だがーー」

「それは今考えてもどうにもなりません。まずは、ガスク枢機卿の話をしましょう」

 王子が話を進めようとする。彼にとって、カイウス君はとても大切な友人だろうに……。彼は完璧な王子だが、機械のような男じゃない。それは最近関わってみてよくわかった。だからきっと、この態度も自分の立場をよく理解した上だろう。

「そうですね。なら、まずはあの男の周囲を調査しましょう」

「え? 調査なんてしなくても、ドゥーク侯爵の時のように守護騎士の言葉でーー」

「証拠は残していないでしょうし、情報が揃ったら最終的には貴方の言う通りになるわ。だけど、今はダメね」

「な、なんでですか!?」

「ならクレア、貴方なら守護騎士になんて言わせる?」

「え? そ、そりゃあ、ガスク枢機卿が、魔人を使ってマリア様を洗脳したって言ってーー」

「そう。それが不味いの。
 ガスクは2神鏡の枢機卿。それが魔人と繋がっていることが公になれば、それは国民の不安を大きく掻き立てる。
 更に洗脳が出来る魔人がいる事が大きく広まれば、この国の民は疑心暗鬼にかられて崩壊するわ。
 加えて悪評の無い枢機卿相手では、せめて教皇や大司教達を味方に付けなければ、いくら守護騎士の言葉でも説得力に欠ける。
 その上、どうやって教皇を脅しているかが分からなければ、第2、第3のガスクが現れる」

「そ……そんな……」

 クレアちゃんとしては、一刻も早くマリアちゃんの冤罪を晴らしたいんだろう。だが、あの男の立場を考えれば軽はずみな事は出来ない。

「メルク。ガスク以外に調査が必要な人物はいるか?」

「いえ……。父以外の関係者も従っているというよりは、ただ恐れているようでした。ですので多分、父を調査すれば良いかと思います。しかし……あの男は狡猾です。下手な調査をすればすぐにーー」

「そこについては大丈夫だ。
 メルク。この手鏡を見てみろ。玉木。頼む」

「? これが何かーー!? なっ!? えっ!?」

 メルク君が鏡の中、自分の後ろにいるオレに驚く。そうして鏡と背後を交互に見比べている。

「先ほどから名前の出ている『玉木』とは私たちの仲間の魔人だ。詳しい事はあとで説明するが、彼は見ての通り隠密能力が非常に高い。魔人が出てくればともかく、ガスクの身辺調査ならまず間違いなく調べてくれる」

「こ……これが魔人……。そ、その……信用は……出来るのですか?」

「大丈夫だ。私たちは彼に何度も助けられてきた。サラやクレアも彼に命を救われた者だ」

「そ、それなら……」


 姿勢を正し、鏡の前に立つオレに顔を向ける。切り替えの早い子だ。いや、不安はあっても、それどころじゃないことを理解しているのだろう。

「お、お願いします。協力してください!」

 そう言って頭を下げる。だが、オレとて言われるまでも無い。マリアちゃんはサラちゃんの友達だし、カイウス君はオレにとっても仲間だ。だから紙に書いて見せる

『任せてくれ。必ず皆を助けよう』

「……! はい! ありがとうございます!!」

「では、調査内容の確認だ。調査内容は3つ。
 1.教皇がガスクに従う理由。
 2.カイウスの所在。
 3.魔人の数とガスクとの関係性。
 調査対象は ガスク・ハーディ 又は 教皇。
 調査個所は ハーディ家の屋敷と教会だ」

「メルク様、それぞれの場所の説明をお願いします。フローラ? 城内の使用人に頼んで、地図を持ってきてもらって?」

「はい。お嬢様」

「玉木。大変な仕事になるけれどーー」

「任せてよ。ドゥークの時だってそうだった。こういうのはオレの仕事だ」

「玉木!!」

 
 王子が声をかけてきた。なんだ?

「その……カイウスの事は、分かったらすぐに教えてほしい。オレの大切な……友達だから……」

 そう言って、すがる様な目を向けてくる。そうだ。王子だって不安なんだ。だからこそーー

『無論です。オレにとってもカイウス君は仲間です』

「!! あぁ……! そうだな。愚問だった」

「皆様。地図を持ってきました」

「メルク」

「はい!」


 メルク君が場所を教えてくれる。さぁ、仕事の時間だ。
しおりを挟む

処理中です...