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二章
作戦立案
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「カイウスは無事だったか……!」
オレの報告に、王子が喜色を浮かべる。
彼が殺されていることもあり得たのだ。それを考えれば、この状況はまだ良かったと言える。
「そのようです。ただ、かなり強力な槍を持たされているようですね」
「厄介っすね……。魔具ゲイボルグっていえば、500年前の戦で魔人が使ってた槍っす。電撃を放つあの槍に、当時のグレイクス王は神剣で相対してたっす。けど、正直1対1なら神剣より上かもしらないっす」
「それほどかい? それは確かに面倒だね。カイウスはあれで国でも指折りの槍使い。そんなものを使われたら、アタシらでも抑えるのは難しいかもしれないね」
「えぇ。それに、玉木の言っているもう一つの脅威も気になります」
「4本腕の傀儡だったか? オレやゼリカでも1対1では厳しいとはな……。魔人の能力によるものか?」
「はい。先日玉木の話にあった、兵士を生み出す魔人の一人とのことです。この魔人は複数の傀儡を操るようで、4本腕の傀儡はこの魔人の切り札に当たるそうです」
そう。そしてあいつは多分、ゼルクさん、ゼリカさんが1対1で戦えば多分殺される。それほどの危険度を持った敵だ。
「しかも下手な事をすれば、その他にも魔人が出てくる可能性がある。……クソ! 折角カイウスの居場所がわかったというのに!」
「……まず、魔人の目的を考えましょうか」
「え? メルク様と私の婚約が狙いなんじゃ……?」
「それはガスクの目的よ。問題は、魔人が何故それを手伝うのか」
「ガスクと繋がりがあるようですから、ガスクが2神教を支配すれば魔人にとって都合がいいんじゃないですか?」
「勿論そうね。でも正直、これほどの力を持っているなら、国の制圧はすぐだと思わない? 私が嵌められた時にも思ったけれど、どうしてこんなに回りくどいのかしら……」
そうだな……。ゲームをプレイしていた時には深く考えなかったけど、神剣や神鏡の使い手なんて、魔人からしたらさっさと倒すべき相手じゃないか? 透明魔人や幻覚魔人なら暗殺しようと思えばいつでもできる筈。なのにそれをしないのは何故だ?
それこそラスボスなら、神鏡や神剣が目覚める前に国ごと相手にする事も出来ーー待てよ? ひょっとして……
「……サラちゃん。今回も多分、守護騎士の言葉を証拠にするよね?」
「そうね。きっとガスクは証拠なんて残してないでしょうから」
「その内容なんだけどさ、魔人の事は一切言わず、ガスクだけを非難する方向でいくべきだと思う」
「? どういうこと?」
「魔人が力で制圧してこない理由を、サラちゃんはどう考えている?」
「……やりたくても出来ない……かしら?」
「そうだね。で、その理由については?」
「……分からないわ。でも3年後に必ず戦いがあるというのなら……何かを待っている?」
流石サラちゃん。理解が早い。
勿論、ただの気まぐれな可能性もある。が、それなら尚更刺激しない方がいい。それにその場合は行動の予測が不可能だ。そんなものは考えるだけ無駄だろう。
「その線が強いと思う。前にも話した通り、オレは3年後に戦う敵のボスを知っている。そいつは大きな力を持っていて、それこそゼルクさんとゼリカさん2人がかりで手も足も出ないほどだった」
「そう言っていたわね。凄まじい脅威よね」
「でも、そんな力を持った魔人ならどうして動かない? 透明魔人や幻覚魔人は動いているのにもかかわらず?」
「えぇ。そこも不明な点ね」
「でもそれが、今はそれ程の力を持っていないからだとしたら?」
「成程……その力を得るのに3年かかるんじゃないかということ?」
「そう。そして、魔人達がそれを待っているのだとしたら?」
「ボスの力が必要になる事があるということ? でも、そんなの国を制圧してから待てばいいじゃない」
そう。国なんて先に制圧してからゆっくりボスを待てばいい。けど、それをしてこない。可能性があるとすればーー
「ーー第3勢力がいるとしたら?」
「な!? どういう事!? 敵は魔人だけじゃないという事!?」
「それは分からない。正直、オレもそんな存在は知らない。けれど、例えばオレのように、敵に所属していない魔人もいるかもしれない。後は魔人以外にも周辺国がこの国を狙ってる、とかね」
「下手に動いて寝首をかかれる可能性を危惧しているということ?」
「そう。サラちゃんの言うように背後から奇襲をかけられる可能性もある。それに下手に追い込まれたら、オレ達も第3勢力と結託するしかなくなる」
オレたちをすぐに追い込めない理由があるとすれば、恐らくこんな理由だろう。オレたちだけを相手取るなら、そこまで慎重に動く理由が思いつかない。
「魔人達がそれを警戒しているとすれば、回りくどい方法を取る理由にならないかな?」
「けど、それなら最初から潜伏して、ボスが力を得てから動けばいいんじゃない?」
「それはそれで不味いと考えているんだろう。500年前の大戦でやつらはこの国の初代国王に負けている。そしてその最大の要因である、神剣も神鏡も使い手が現れた。更に使い手が現れたことで、数年前から警戒感を持って過ごしている人も多い。舐めてかかれる理由もない。
だから、3年後の戦いまで、オレ達を追い詰めすぎない程度にジワジワと削り、やつらのボスが力を得たら一気に叩いて第3勢力に備える。
けど、逆を言えば、国が魔人に対して過剰に警戒しない限りは、向こうも派手な方法は避けると思う」
「成程ね。推測が殆どだけれど、確かに筋は通るわね……。わかった。皆に情報を共有するわ」
そう言って、すぐに先ほどの話を全員に共有してくれる。この子と会話が出来るのは本当に助かるな。頼もしい限りだ。
…………
「……つまり、こちらが魔人の存在を大っぴらにしない限りは、魔人も手を出してこない可能性が高いという事か?」
「そうです。玉木の予想はかなり推測の部分がありますが、大きく外れてはいないと思います」
「成程な。今回の敵はあくまでガスク1人か。だが、そうなると4本腕の傀儡やカイウスとも戦わない可能性があるか?」
「そうですね。……出来ればカイウスはここで正気に戻しておきたいですけど……」
「いえ、玉木の話ではカイウス様も4本腕も教皇の家族を見張っているようです。と、いうことはこの二人を退けなければ人質の救出は厳しいかと思います」
「だが……それは……」
ゼルクさんの表情が曇る。そう。4本腕はゼルクさんとゼリカさんの二人で戦ってもらう必要がある。
と、すると残りのメンツでカイウス君を抑えなきゃならない。それも魔槍を持っている状態の、だ。
「では、カイウスは私が抑えよう」
「じゃ、じゃあ私もーー」
「いや、クレアは多分メルクと一緒に行動することになるだろう。
ガスクは国民からの評判も高い。討伐する際に、神鏡の言葉だけでは下手をすると国民の不信を買いかねん。
なら、その息子であるメルクを旗頭にした方がいい。
だが、ガスクが何の備えもしてないとは思えん。メルク1人で行動させるのは危険だ」
「なら玉木にーー」
「それこそないね。
人質の救出を同時にしなけりゃ、下手をすりゃ逃げられる。そうなれば人質の救出は更に難しくなる。
と、なると玉木にはアタシらが気を引いている間に人質を救出してもらう必要がある」
そう。こちらの戦力はオレを入れてもオレ、ゼルクさん、ゼリカさん、クレアちゃん、王子の5人。サラちゃんやフローラさん、それに今のメルク君では些か厳しいものがあるだろう。
「そうだ。だからそうなるとーーシル坊一人でカイウスと戦う事になる。しかもお前は神剣に選ばれてから、神剣を使った訓練はしていない」
「……ですが他に戦力が無い以上、これ以外方法はありません」
「はぁ……決意は固い、か。
わかった。なら、3日程お前の訓練をする。それでお前は神剣を使いこなせ。それが出来なきゃこの作戦は無しだ。メルクには悪いが最悪はーー」
「……構いません。その時はもう……僕が差し違えてもあの男を止めます」
「……ったく。どいつもこいつも死に急ぎやがって。よし、すぐに訓練を開始するぞ」
「はい! お願いします!」
こうして、ガスク討伐、カイウス救出、人質救出の3つのミッションを同時に行う作戦が立案された。
オレの報告に、王子が喜色を浮かべる。
彼が殺されていることもあり得たのだ。それを考えれば、この状況はまだ良かったと言える。
「そのようです。ただ、かなり強力な槍を持たされているようですね」
「厄介っすね……。魔具ゲイボルグっていえば、500年前の戦で魔人が使ってた槍っす。電撃を放つあの槍に、当時のグレイクス王は神剣で相対してたっす。けど、正直1対1なら神剣より上かもしらないっす」
「それほどかい? それは確かに面倒だね。カイウスはあれで国でも指折りの槍使い。そんなものを使われたら、アタシらでも抑えるのは難しいかもしれないね」
「えぇ。それに、玉木の言っているもう一つの脅威も気になります」
「4本腕の傀儡だったか? オレやゼリカでも1対1では厳しいとはな……。魔人の能力によるものか?」
「はい。先日玉木の話にあった、兵士を生み出す魔人の一人とのことです。この魔人は複数の傀儡を操るようで、4本腕の傀儡はこの魔人の切り札に当たるそうです」
そう。そしてあいつは多分、ゼルクさん、ゼリカさんが1対1で戦えば多分殺される。それほどの危険度を持った敵だ。
「しかも下手な事をすれば、その他にも魔人が出てくる可能性がある。……クソ! 折角カイウスの居場所がわかったというのに!」
「……まず、魔人の目的を考えましょうか」
「え? メルク様と私の婚約が狙いなんじゃ……?」
「それはガスクの目的よ。問題は、魔人が何故それを手伝うのか」
「ガスクと繋がりがあるようですから、ガスクが2神教を支配すれば魔人にとって都合がいいんじゃないですか?」
「勿論そうね。でも正直、これほどの力を持っているなら、国の制圧はすぐだと思わない? 私が嵌められた時にも思ったけれど、どうしてこんなに回りくどいのかしら……」
そうだな……。ゲームをプレイしていた時には深く考えなかったけど、神剣や神鏡の使い手なんて、魔人からしたらさっさと倒すべき相手じゃないか? 透明魔人や幻覚魔人なら暗殺しようと思えばいつでもできる筈。なのにそれをしないのは何故だ?
それこそラスボスなら、神鏡や神剣が目覚める前に国ごと相手にする事も出来ーー待てよ? ひょっとして……
「……サラちゃん。今回も多分、守護騎士の言葉を証拠にするよね?」
「そうね。きっとガスクは証拠なんて残してないでしょうから」
「その内容なんだけどさ、魔人の事は一切言わず、ガスクだけを非難する方向でいくべきだと思う」
「? どういうこと?」
「魔人が力で制圧してこない理由を、サラちゃんはどう考えている?」
「……やりたくても出来ない……かしら?」
「そうだね。で、その理由については?」
「……分からないわ。でも3年後に必ず戦いがあるというのなら……何かを待っている?」
流石サラちゃん。理解が早い。
勿論、ただの気まぐれな可能性もある。が、それなら尚更刺激しない方がいい。それにその場合は行動の予測が不可能だ。そんなものは考えるだけ無駄だろう。
「その線が強いと思う。前にも話した通り、オレは3年後に戦う敵のボスを知っている。そいつは大きな力を持っていて、それこそゼルクさんとゼリカさん2人がかりで手も足も出ないほどだった」
「そう言っていたわね。凄まじい脅威よね」
「でも、そんな力を持った魔人ならどうして動かない? 透明魔人や幻覚魔人は動いているのにもかかわらず?」
「えぇ。そこも不明な点ね」
「でもそれが、今はそれ程の力を持っていないからだとしたら?」
「成程……その力を得るのに3年かかるんじゃないかということ?」
「そう。そして、魔人達がそれを待っているのだとしたら?」
「ボスの力が必要になる事があるということ? でも、そんなの国を制圧してから待てばいいじゃない」
そう。国なんて先に制圧してからゆっくりボスを待てばいい。けど、それをしてこない。可能性があるとすればーー
「ーー第3勢力がいるとしたら?」
「な!? どういう事!? 敵は魔人だけじゃないという事!?」
「それは分からない。正直、オレもそんな存在は知らない。けれど、例えばオレのように、敵に所属していない魔人もいるかもしれない。後は魔人以外にも周辺国がこの国を狙ってる、とかね」
「下手に動いて寝首をかかれる可能性を危惧しているということ?」
「そう。サラちゃんの言うように背後から奇襲をかけられる可能性もある。それに下手に追い込まれたら、オレ達も第3勢力と結託するしかなくなる」
オレたちをすぐに追い込めない理由があるとすれば、恐らくこんな理由だろう。オレたちだけを相手取るなら、そこまで慎重に動く理由が思いつかない。
「魔人達がそれを警戒しているとすれば、回りくどい方法を取る理由にならないかな?」
「けど、それなら最初から潜伏して、ボスが力を得てから動けばいいんじゃない?」
「それはそれで不味いと考えているんだろう。500年前の大戦でやつらはこの国の初代国王に負けている。そしてその最大の要因である、神剣も神鏡も使い手が現れた。更に使い手が現れたことで、数年前から警戒感を持って過ごしている人も多い。舐めてかかれる理由もない。
だから、3年後の戦いまで、オレ達を追い詰めすぎない程度にジワジワと削り、やつらのボスが力を得たら一気に叩いて第3勢力に備える。
けど、逆を言えば、国が魔人に対して過剰に警戒しない限りは、向こうも派手な方法は避けると思う」
「成程ね。推測が殆どだけれど、確かに筋は通るわね……。わかった。皆に情報を共有するわ」
そう言って、すぐに先ほどの話を全員に共有してくれる。この子と会話が出来るのは本当に助かるな。頼もしい限りだ。
…………
「……つまり、こちらが魔人の存在を大っぴらにしない限りは、魔人も手を出してこない可能性が高いという事か?」
「そうです。玉木の予想はかなり推測の部分がありますが、大きく外れてはいないと思います」
「成程な。今回の敵はあくまでガスク1人か。だが、そうなると4本腕の傀儡やカイウスとも戦わない可能性があるか?」
「そうですね。……出来ればカイウスはここで正気に戻しておきたいですけど……」
「いえ、玉木の話ではカイウス様も4本腕も教皇の家族を見張っているようです。と、いうことはこの二人を退けなければ人質の救出は厳しいかと思います」
「だが……それは……」
ゼルクさんの表情が曇る。そう。4本腕はゼルクさんとゼリカさんの二人で戦ってもらう必要がある。
と、すると残りのメンツでカイウス君を抑えなきゃならない。それも魔槍を持っている状態の、だ。
「では、カイウスは私が抑えよう」
「じゃ、じゃあ私もーー」
「いや、クレアは多分メルクと一緒に行動することになるだろう。
ガスクは国民からの評判も高い。討伐する際に、神鏡の言葉だけでは下手をすると国民の不信を買いかねん。
なら、その息子であるメルクを旗頭にした方がいい。
だが、ガスクが何の備えもしてないとは思えん。メルク1人で行動させるのは危険だ」
「なら玉木にーー」
「それこそないね。
人質の救出を同時にしなけりゃ、下手をすりゃ逃げられる。そうなれば人質の救出は更に難しくなる。
と、なると玉木にはアタシらが気を引いている間に人質を救出してもらう必要がある」
そう。こちらの戦力はオレを入れてもオレ、ゼルクさん、ゼリカさん、クレアちゃん、王子の5人。サラちゃんやフローラさん、それに今のメルク君では些か厳しいものがあるだろう。
「そうだ。だからそうなるとーーシル坊一人でカイウスと戦う事になる。しかもお前は神剣に選ばれてから、神剣を使った訓練はしていない」
「……ですが他に戦力が無い以上、これ以外方法はありません」
「はぁ……決意は固い、か。
わかった。なら、3日程お前の訓練をする。それでお前は神剣を使いこなせ。それが出来なきゃこの作戦は無しだ。メルクには悪いが最悪はーー」
「……構いません。その時はもう……僕が差し違えてもあの男を止めます」
「……ったく。どいつもこいつも死に急ぎやがって。よし、すぐに訓練を開始するぞ」
「はい! お願いします!」
こうして、ガスク討伐、カイウス救出、人質救出の3つのミッションを同時に行う作戦が立案された。
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