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二章

VS ガスク決着

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 フローラさんとの会話の後、サラちゃんを背負った所で手前の礼拝堂が爆発した。
 あれは4本腕の自爆!? という事はゼルクさん達は勝ったのか! けど、二人は無事なのか!?

「玉木! すぐに向かって!!」

「わかった!!」


 …………


 礼拝堂が瓦礫だらけになっている。しかし、ゼルクさん達の姿がない。
 二人はどこに……? まさか!?

「玉木! あそこ!」

「えっ? あっ!」

 サラちゃんの指した場所を見ると、瓦礫からゼルクさんが這い出る。その下にはゼリカさんの姿もある。二人共傷だらけだが、大ケガはしていないようだった。
 よかった。二人共無事だったか。

「さすが双竜のお二人ね」

「そうだね。これならすぐに追いついてくれるだろうから、オレ達は先に進もう」

「えぇ。そうしましょう」

 よし。二人が他の戦場に向かってくれれば、状況は大きく好転する!


 …………


 楽観的になったオレ達だったが、それが甘い事に気づくのに時間は要らなかった。

「これは……」

「シル……ヴァ……様……」

 奥に進んだオレ達の目に入ってきたのは、壁にもたれかかったまま気を失っているカイウス君と、槍を左肩に差して倒れている王子だった。
 まずい! 王子は無事か!?
 
 すぐに傍により、確認する。虚ろな目をしてはいるが、意識はあるようだ。それに左肩の傷も電撃で焼かれた事が幸いし、出血も止まっている。少しすればゼルクさんが来る。オレではこれ以上の応急処置も難しい。
 なら、すぐにクレアちゃんの所に向かうべきだ。
 そう判断し、後ろで声が出せなくなっているサラちゃんに声をかける。

「サラちゃん」

「……玉木?」

 呆然としている。そうだ。いくら凄い子だとしても、まだ少女。想い人のこんな姿を見て、動揺しない筈がない。

「意識はあるし、血も止まっている。オレがここにいても状況は好転しない。クレアちゃん達も心配だ。すぐに向かう。サラちゃんはここに残ってーー」

 オレの言葉を遮るようにサラちゃんが言葉を被せる。

「玉木……。この場では私は仲間。子供扱いはしないで」

 その声は震えつつも、どこか怒りがこもっていた。自分が軽んじられたように聞こえたのだろう。
 そんなサラちゃんに、オレはただ淡々と言葉を続ける。

「違う。ゼルクさんが来るまで、王子の意識を保たせるのも大切な事。そしてこれは認識されないオレには出来ない。君ならゴースト化を解けば話も出来る」


 サラちゃんはオレの言葉に一瞬沈黙するが、すぐに返答が返ってきた。

「……いえ、私も行くわ」

「わかった。ならすぐに向かおう」

「……止めないの?」

「君はオレなんかよりずっと賢い。今の王子を見て大丈夫だと判断したんだろう? オレだって、すぐにゼルクさんが来るから十中八九、大丈夫だと思う。残りの一、二があったから確認しただけだ」

 サラちゃんは誇り高い子だ。それに、戦いに関してはオレよりも詳しい。どうすべきかをオレが勝手に判断するのは、彼女の誇りを傷つけかねない。ただーー

「ただ、前にも話したように、感情を持つ事は悪い事じゃない。ゴースト化してたら周囲には認識されない。オレも背中の君の顔は見れない。移動時間もある」

 これだけで彼女なら、オレが何を言いたいかを察してくれる。

「……そう。なら、甘えさせて」

 その言葉の後、オレの背中が濡れる。彼女は皇太子である王子を愛し、結ばれようとしている。それはいずれ女王になるということだ。甘えたことは許されなくなる。けど、それは今じゃない。なら、オレは出来る事をするだけだ。


 …………


 クレアちゃん達が通路の奥に見える。だが、明らかに状況が悪い。

「サラちゃん」

「もう大丈夫。状況は確認出来ているわ」

「わかった」
 
 そう言ってすぐに近づく。が、

――ボキッ!!――

「散々倒してくれたなぁ!! この代償は高いぞメルク!!」

「い……ぐあぁぁぁぁ!!」

「メルクさん!!」

「やかましい!!」

――バンッ!!――

「きゃあっ!!」

 な!? こいつ!! メルク君の腕を折った上に、クレアちゃんにまで手を!!
 そう憤っていると、背後から凄まじい怒気を感じた。

「……玉木。ボウガンであの兵士の腰を射抜いて」

 かなり怒っている。腰を射抜いて動きを止めるという事か。……容赦がないが当然だ。

「OK。背後から撃ち抜こう。サラちゃんはそのままアイツを気絶させる?」

「えぇ。アレの背後に降ろして。ボウガンが刺さったら、すぐにあのハゲジジイをぶっ飛ばすわ」

 ……声が聞こえないのを良い事に口調まで……。まぁ、細かい事はいい。
 ガスクがメルク君を脅している。そんな姿を男は呆れた様子で見ている。……隙だらけだな。

「ガスク様、お愉しみの所申し訳ございませんが、まずは奴らを止めねば」

「そうだな。他の兵達はーー後回しだな。大半動けなくなっているのだろう。回復するのを待っておれん。お前は神鏡の娘を連れていけ。お前が連れていく方が確実だろう。最悪、神鏡の娘さえ確保出来ていればどうとでもなるからな」

 そこまで聞いて、足元のクレアちゃんを拾おうとする。悪いな。ガスクの元にいた事を後悔しろ。

――ザシュッ!!――

「なっ!?」

――バンッ!!――

「がっ!?」

 サラちゃんとの連携で気絶させ、すぐにボウガンの矢を補充する。この男、見るからに強そうだし、実際クレアちゃんとメルク君を追い詰めたという事は強いんだろう。だが、どんな達人でもここまで虚をつかれれば無理だわな。
 そして一連の行動はメルク君の叫び声に遮られ、ガスクには聞こえなかったようだ。


「……? おい。聞こえないのか? 周囲を警戒してーー」

 振り向いたガスクが固まる。想定外の事態に声も出ないようだ。

「……は?」

「サ、サラ……様……?」

「あぐ……ひ、人……質は……?」

「大丈夫。二人共助けてあるわ。他の皆も無事よ。二人もよく頑張ってくれたわね。後は任せて」

 そう言って槍を構える。ガスクはこの展開についていけてないようだ。

「何を……言っている? 人質を助けた? 他も無事? 後は任せろ?」

「えぇ。貴方に出来るのはもう、降参して許しを乞うだけよ。ただまぁーー」

 言葉の途中で、背後のクレアちゃんをチラと見る。

「友達を……ここまで苦しめた貴方に慈悲は与えないけどね」

「慈悲? 許しを乞え……?
 小娘が!! どこまで愚弄する気だ!!」

 そう言って懐の剣を抜き、メルク君に向ける。

「はっ! 友達だったか? どうせ、こいつもそうだろう!」

「ぐっ!?」

「さて、その槍を置け。そのまま突撃して来てももいいぞ? その時はコイツを盾にする。貴様もそれなりにはやるようだが、動きを見れば分かる。別に強者でもなかろう。それならば、私程度でも反応は出来る」

「サ……サラ様……! 僕の事は気にせずに……クレアさんを!!」

「やかましいぞメルク!!」

 そう言いつつもメルク君には手出ししない。当然だろう。今のサラちゃんから視線を外せば流石にやられる。

「……そうでしょうね。私の攻撃では貴方に対応されるでしょうね。それにしても……小娘相手に取る手段がそれ? 貴方の程度がしれるわね」

「なに!?」

「神鏡の小娘と自分の息子相手に兵を浪費。挙句の果てには強者でもない小娘に対して人質? どこまで低能なのかしら。ひょっとして油断を誘うため? なら、素晴らしい成果だわ」

「なっ……なっ!?」

 どこぞの毒舌メイドを思い出す煽り方。彼女の言動はサラちゃんに悪影響を与えているのでは?

「ふざけるなよクソガキが! ならもういい!! メルクを盾にこのままーー」

 そう言って、メルク君を前に持ってくる。
 はい、お疲れさん。

――ザシュッ!!――

「……あ?」

 左肩をボウガンで撃ち抜かれ、メルク君を手放した。そのままメルク君を回収し、クレアちゃんの傍まで運ぶ。

「た……玉木さん……?」

「玉木様もおられるのですね……。良かった……」

 安堵する二人。対照的に、ガスクは事態に頭が追いついたのだろう。叫び声を上げだした。

「あ……あぁぁぁぁぁ!? わ、私の肩がぁぁぁぁぁ!?」

「痛いでしょうね。けど、電撃まで喰らったシルヴァ様や、疲労困憊の中で腕を折られたメルク様の苦痛を、貴方にはまだまだ教えてあげるわ」

――ザクッ!!――

「あぎゃぁぁぁぁぁ!?」

 そのまま右肩を槍で貫通させる。更に槍を引き抜き、頭に思いっきり振り下ろす。

――バンッ!!――

「はが……」

 そしてそのまま気絶する。エグイ。

「玉木、一応右肩は止血しておいて。失血死されても面倒だわ」

「了解」

「メルク様? 腕を見せてください。この槍を折って添え木にします」

「あ……なら、僕の杖の方が使いやすいかと思います。それに、まだ敵がいるかもしれませんから」

「わかりました。
 それと……申し訳ありませんが、応急手当が終わったら、そのままシルヴァ様を診ていただけないでしょうか? カイウス様の槍が左肩を貫通し、更に電撃を喰らっています。」

「なんですって!? わかりました。すぐに行きましょう。幸い、戦闘では特に魔力を使っていない。この数日教わった治療術が役に立つかもしれません」

「ありがとうございます」

「サラ様! じゃあ、カイウス様も!?」

「えぇ! クレア! 申し訳ないけれど貴方にもすぐに働いてもらうわ! 玉木! シルヴァ様の所に向かうわ!! 貴方は周囲を警戒して!」

「了解!!」


 こうして、今回の激しい戦闘は幕を下ろした。


 ……ただ、1つ。オレ達は過ちを犯した。この場でガスクを回収しなかったことだ。
 全員合流し、周囲を包囲していた兵達に現場の回収作業を任せたところ、ガスクが首を切られて死亡しているのが発見された……
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