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二章
帰ってきた日常
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「シルヴァ様。失礼いたします」
「あぁ。サラ。いつも訪ねてもらってすまないな」
「お気になさらず。想い人のお見舞いですもの。寧ろ喜んでお邪魔させていただいています」
「フフ……君は相変わらずだね」
オレ達は王子のお見舞いに来ていた。オレ達の中では、肩を槍で貫かれた彼は一番の重傷だった。その為、彼はここ数日、城内でずっと療養している。
「それでシルヴァ様? お体の方はいかがですか?」
「あぁ。経過は順調だ。しかし、魔力による治癒とは凄まじいものだな。肩を破壊されたんだ。左腕は2度と動かない事を覚悟していたがーーまさかたった数週間での完治が見込めるとはな……」
「本当ですね。この事を教えてくれたウンディーネやドリアードには頭が上がりませんね」
「全くだ。お陰でカイウスも無事助けることが出来たし、教皇の人質も無事だ。……ガスクの事は残念だったが」
「申し訳ありません。あの状況で捨て置いた私のミスです」
「いや、あれがもし魔人自らの犯行なら、寧ろ遭遇しなくて幸いだった。玉木が付いていたとはいえ、メルクやクレアのあの状況。どうにかなったとは思えない」
そう。ガスクを殺したのが、傀儡の手下や洗脳兵なら何とかなる。が、それこそ透明魔人だった場合は、どうにもならない。だからガスクの件は仕方ないとするしかない。
「ありがとうございます」
「それに、ガスクの責任問題についても、なんとか国民や教徒達を納得させることが出来てよかったよ」
「そうですね。討伐したのが私たちだけなら問題だったでしょうが、メルク様がキチンと矢面にたち、魔人との戦いへの参加を表明されたのは大きかったですね」
「あぁ。それに私がケガをした事で、彼の治療魔法のデモンストレーションが出来たのも幸いだった」
「……シルヴァ様のお怪我を喜びたくはないのですが……まぁ、結果的にはそうですね。お陰で民もメルク様が聖なる力を持った方だと認識していますから」
そう。ガスクは世間からの評判が高かった。その為、もう少し揉めるかと思っていたが、メルク君自身の頑張りによって、そんな心配も杞憂に終わった。
「そうだな。これから師匠達の所に?」
「えぇ。今日はマリアとリリーも来るそうです。彼女達には申し訳ないですが、私たちと繋がりがある以上、状況を知らない方が危険ですから」
「そうか。よろしく伝えておいてくれ。……私も早く訓練に戻りたいものだ」
「焦らないでくださいね? 貴方の御身は貴方だけのものではないのですから」
「わかっている。きちんと完治させてからにするさ」
…………
城を後にしたオレ達は、ゼルクさん達の家にやってきた。が、何やら騒がしい。
「ウンディーネさん! 貴方の体はどうなっているの!? ドリアードさんとの違いは!? それにどんな事が出来るの!? 知りたい! 知りたいわ!!」
「や、やめなさい! 追ってこられても答えられません……! 私たちは神鏡のーーヒッ!? 来、来ないで!!」
「そんな!? 私はウンディーネさんに危害を加えたりはしないわ!! だから怯えずに私の話を聞いてみて!? さぁ! さぁ!!」
「ク、クレア様! お助けください!!」
「あ、あの、マリア様! 落ち着いてーー」
「落ち着いてなんかいられないわ!! 私が危険な女だという誤解を解かなくては!!」
「クレアさん。もう、諦めてウンディーネさんに投げた方が早いわよ?」
「リリー様!? 諦めないでください!!」
うーん。女の子だけのガールズトークの筈なのに、全然そんな気配はしない。てゆーかマリアちゃんはあんな目にあったのに元気だなぁ……。
呑気に考えているとサラちゃんが溜息をついて近づく。
「貴方たち……。何しているの?」
「あ! サラ様! マリア様を止めてください!!」
「サラ様!! ウンディーネさんに私の無害性をお伝えください!!」
マリアちゃんがものすごい勢いでまくしたてる。が、こんな状況にもサラちゃんは至って冷静だ。
「マリア。ウンディーネさんは、大声で迫ると恐がっちゃうの。だから、大声を出さずに、近づきすぎずに話すといいわよ?」
「成程! そういう事だったのですね!! ウンディーネさん!! 申し訳ありません!!」
「マリア。声が大きいわ」
「はっ!? ウ、ウンディーネさん……? 申し訳ありません……」
サラちゃんがマリアちゃんの暴走を一瞬で止める。すげぇ。猛獣使いみたいだ。
「サラ様……ありがとうございます……。私はクレア様に仕える身。ですが今後、貴方のお言葉は出来る限り最優先で対応させていただきます」
「ウンディーネ? マリアは少し強引な所はあるけれど、嫌だと言われた事はしないわ。だから、質問に対しても、答えられるものと答えられないものを、切り分けて伝えてみて? ドリアードは無意識にそれをしていたから問題にならなかったの」
「そうなのですね……。わかりました。ありがとうございます」
「サラ様……! 凄いです……!!」
「本当ね。メルク様よりマリアの扱いが上手いんじゃないかしら」
クレアちゃんとリリーちゃんも、サラちゃんに感心している。
オレの存在をマリアちゃんに伝えても、間違いなく迫られるな。でもまぁ、オレの主はサラちゃんだからーーいや、待て。彼女はあれでかなりお茶目なところがある。
下手をすればマリアちゃんを煽ってオレにぶつけてくるのでは……?
「クソ魔人? 貴方お嬢様に対して不遜な事を考えていませんか?」
「オレが? そんなこと考える訳ないじゃない。オレ達の素晴らしい主だよ?」
「自白してくださりありがとうございます。後でお嬢様と一緒に尋問いたしましょうか」
「やめてよ!? 二人の尋問とか、ひたすら身に覚えのない濡れ衣を着せられる気しかしないよ!!」
「火のないところに煙は立ちませんよ?」
「フローラさんは放火魔じゃない!? 煙どころか燃え尽きちゃうよ!?」
「おや、貴方は透過出来るでしょう? 何度火を付けられても大丈夫です」
「堂々と放火宣言をしないで!?」
オレ達のそんなやり取りに背を向けながら、サラちゃんは肩を震わせている。……これ、後でノリノリで尋問されるな。オレの濡れ衣祭り、開催決定だ。
そんなサラちゃんにクレアちゃんがキョトンとしながら質問を投げかける。
「サラ様? フローラさんと魔人様で何かお話をされているんですか?」
「プクク……。えぇ、そうね。楽しい話をしているわ。ところで、メルク様とカイウス様は?」
「裏の広場でゼリカさんと、魔槍を扱う特訓をしています」
「あぁ。今日もしているのね」
そう。洗脳されていた時には問題なく扱えていたそうだが、洗脳が解けた後は上手く使えないようで、自身に火傷を負ったりしているのだ。この為、近頃はメルク君の治癒魔法の練習と合わせて特訓しているのだ。
「カイウス様も、急に魔具を持たされて大変ね」
頬に手を当ててカイウスくんを憂うサラちゃん。だが、リリーちゃんがそれを訂正する。
「いえ、寧ろ喜んでいましたよ?」
「そうなの?」
「えぇ。シルヴァ様が神剣の使い手になってからは、神剣を使われれば勝てないのは明白でしたからね。
それが魔槍を手に入れてからは、『神剣を持ったシルヴァにも勝てるかもしれない』といって、毎日喜んで訓練に行ってますから。
……ふふ。シル×カイ が捗るわ……。いえ、逆もありなのかしら」
そういってにやけるリリーちゃん。確か読書が趣味だって言ってたな。あれ? なんかこの娘も面白い娘じゃないか?
「でも、それならどうして皆ここにいるの?」
「私たちも向かおうと思ってたんです。でも、メルク様が向こうに行った後にマリア様が暴走してしまったので……」
「あぁ……そういう事……」
「メルク様もここ最近は訓練で忙しくて、マリアが放し飼い気味なんです。だからなかなか話が進まなくて」
「リリー? 人を猛獣のように言わないでくれませんか?」
「貴方が猛獣でなければ、この世には草食動物しかいないわよ……」
「わかったわ。まぁ、今はとりあえずお二人の様子を見に行きましょ?」
そうして裏の広場に向かう一行。
ちなみにこの後、オレの事を伝えられたマリアちゃんは案の定暴走し、その上サラちゃんが煽りだすせいで、大騒ぎになったのはまた、別のお話……
「あぁ。サラ。いつも訪ねてもらってすまないな」
「お気になさらず。想い人のお見舞いですもの。寧ろ喜んでお邪魔させていただいています」
「フフ……君は相変わらずだね」
オレ達は王子のお見舞いに来ていた。オレ達の中では、肩を槍で貫かれた彼は一番の重傷だった。その為、彼はここ数日、城内でずっと療養している。
「それでシルヴァ様? お体の方はいかがですか?」
「あぁ。経過は順調だ。しかし、魔力による治癒とは凄まじいものだな。肩を破壊されたんだ。左腕は2度と動かない事を覚悟していたがーーまさかたった数週間での完治が見込めるとはな……」
「本当ですね。この事を教えてくれたウンディーネやドリアードには頭が上がりませんね」
「全くだ。お陰でカイウスも無事助けることが出来たし、教皇の人質も無事だ。……ガスクの事は残念だったが」
「申し訳ありません。あの状況で捨て置いた私のミスです」
「いや、あれがもし魔人自らの犯行なら、寧ろ遭遇しなくて幸いだった。玉木が付いていたとはいえ、メルクやクレアのあの状況。どうにかなったとは思えない」
そう。ガスクを殺したのが、傀儡の手下や洗脳兵なら何とかなる。が、それこそ透明魔人だった場合は、どうにもならない。だからガスクの件は仕方ないとするしかない。
「ありがとうございます」
「それに、ガスクの責任問題についても、なんとか国民や教徒達を納得させることが出来てよかったよ」
「そうですね。討伐したのが私たちだけなら問題だったでしょうが、メルク様がキチンと矢面にたち、魔人との戦いへの参加を表明されたのは大きかったですね」
「あぁ。それに私がケガをした事で、彼の治療魔法のデモンストレーションが出来たのも幸いだった」
「……シルヴァ様のお怪我を喜びたくはないのですが……まぁ、結果的にはそうですね。お陰で民もメルク様が聖なる力を持った方だと認識していますから」
そう。ガスクは世間からの評判が高かった。その為、もう少し揉めるかと思っていたが、メルク君自身の頑張りによって、そんな心配も杞憂に終わった。
「そうだな。これから師匠達の所に?」
「えぇ。今日はマリアとリリーも来るそうです。彼女達には申し訳ないですが、私たちと繋がりがある以上、状況を知らない方が危険ですから」
「そうか。よろしく伝えておいてくれ。……私も早く訓練に戻りたいものだ」
「焦らないでくださいね? 貴方の御身は貴方だけのものではないのですから」
「わかっている。きちんと完治させてからにするさ」
…………
城を後にしたオレ達は、ゼルクさん達の家にやってきた。が、何やら騒がしい。
「ウンディーネさん! 貴方の体はどうなっているの!? ドリアードさんとの違いは!? それにどんな事が出来るの!? 知りたい! 知りたいわ!!」
「や、やめなさい! 追ってこられても答えられません……! 私たちは神鏡のーーヒッ!? 来、来ないで!!」
「そんな!? 私はウンディーネさんに危害を加えたりはしないわ!! だから怯えずに私の話を聞いてみて!? さぁ! さぁ!!」
「ク、クレア様! お助けください!!」
「あ、あの、マリア様! 落ち着いてーー」
「落ち着いてなんかいられないわ!! 私が危険な女だという誤解を解かなくては!!」
「クレアさん。もう、諦めてウンディーネさんに投げた方が早いわよ?」
「リリー様!? 諦めないでください!!」
うーん。女の子だけのガールズトークの筈なのに、全然そんな気配はしない。てゆーかマリアちゃんはあんな目にあったのに元気だなぁ……。
呑気に考えているとサラちゃんが溜息をついて近づく。
「貴方たち……。何しているの?」
「あ! サラ様! マリア様を止めてください!!」
「サラ様!! ウンディーネさんに私の無害性をお伝えください!!」
マリアちゃんがものすごい勢いでまくしたてる。が、こんな状況にもサラちゃんは至って冷静だ。
「マリア。ウンディーネさんは、大声で迫ると恐がっちゃうの。だから、大声を出さずに、近づきすぎずに話すといいわよ?」
「成程! そういう事だったのですね!! ウンディーネさん!! 申し訳ありません!!」
「マリア。声が大きいわ」
「はっ!? ウ、ウンディーネさん……? 申し訳ありません……」
サラちゃんがマリアちゃんの暴走を一瞬で止める。すげぇ。猛獣使いみたいだ。
「サラ様……ありがとうございます……。私はクレア様に仕える身。ですが今後、貴方のお言葉は出来る限り最優先で対応させていただきます」
「ウンディーネ? マリアは少し強引な所はあるけれど、嫌だと言われた事はしないわ。だから、質問に対しても、答えられるものと答えられないものを、切り分けて伝えてみて? ドリアードは無意識にそれをしていたから問題にならなかったの」
「そうなのですね……。わかりました。ありがとうございます」
「サラ様……! 凄いです……!!」
「本当ね。メルク様よりマリアの扱いが上手いんじゃないかしら」
クレアちゃんとリリーちゃんも、サラちゃんに感心している。
オレの存在をマリアちゃんに伝えても、間違いなく迫られるな。でもまぁ、オレの主はサラちゃんだからーーいや、待て。彼女はあれでかなりお茶目なところがある。
下手をすればマリアちゃんを煽ってオレにぶつけてくるのでは……?
「クソ魔人? 貴方お嬢様に対して不遜な事を考えていませんか?」
「オレが? そんなこと考える訳ないじゃない。オレ達の素晴らしい主だよ?」
「自白してくださりありがとうございます。後でお嬢様と一緒に尋問いたしましょうか」
「やめてよ!? 二人の尋問とか、ひたすら身に覚えのない濡れ衣を着せられる気しかしないよ!!」
「火のないところに煙は立ちませんよ?」
「フローラさんは放火魔じゃない!? 煙どころか燃え尽きちゃうよ!?」
「おや、貴方は透過出来るでしょう? 何度火を付けられても大丈夫です」
「堂々と放火宣言をしないで!?」
オレ達のそんなやり取りに背を向けながら、サラちゃんは肩を震わせている。……これ、後でノリノリで尋問されるな。オレの濡れ衣祭り、開催決定だ。
そんなサラちゃんにクレアちゃんがキョトンとしながら質問を投げかける。
「サラ様? フローラさんと魔人様で何かお話をされているんですか?」
「プクク……。えぇ、そうね。楽しい話をしているわ。ところで、メルク様とカイウス様は?」
「裏の広場でゼリカさんと、魔槍を扱う特訓をしています」
「あぁ。今日もしているのね」
そう。洗脳されていた時には問題なく扱えていたそうだが、洗脳が解けた後は上手く使えないようで、自身に火傷を負ったりしているのだ。この為、近頃はメルク君の治癒魔法の練習と合わせて特訓しているのだ。
「カイウス様も、急に魔具を持たされて大変ね」
頬に手を当ててカイウスくんを憂うサラちゃん。だが、リリーちゃんがそれを訂正する。
「いえ、寧ろ喜んでいましたよ?」
「そうなの?」
「えぇ。シルヴァ様が神剣の使い手になってからは、神剣を使われれば勝てないのは明白でしたからね。
それが魔槍を手に入れてからは、『神剣を持ったシルヴァにも勝てるかもしれない』といって、毎日喜んで訓練に行ってますから。
……ふふ。シル×カイ が捗るわ……。いえ、逆もありなのかしら」
そういってにやけるリリーちゃん。確か読書が趣味だって言ってたな。あれ? なんかこの娘も面白い娘じゃないか?
「でも、それならどうして皆ここにいるの?」
「私たちも向かおうと思ってたんです。でも、メルク様が向こうに行った後にマリア様が暴走してしまったので……」
「あぁ……そういう事……」
「メルク様もここ最近は訓練で忙しくて、マリアが放し飼い気味なんです。だからなかなか話が進まなくて」
「リリー? 人を猛獣のように言わないでくれませんか?」
「貴方が猛獣でなければ、この世には草食動物しかいないわよ……」
「わかったわ。まぁ、今はとりあえずお二人の様子を見に行きましょ?」
そうして裏の広場に向かう一行。
ちなみにこの後、オレの事を伝えられたマリアちゃんは案の定暴走し、その上サラちゃんが煽りだすせいで、大騒ぎになったのはまた、別のお話……
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