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二章

幕間 女子会1 後半

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「それにしても……この人数が入っても狭さを感じない、このお部屋も本当に広いですよね」

 クレアはキョロキョロと周りを見回しながら呟く。

「そうね。けど、逆に一人で寝るときは少し寂しさもあるわよ?」

「あ、そうねんですね。でも、それも貴族ならではって感じで新鮮です。マリア様やリリー様のお部屋もこのくらい広いんですか?」

「まぁ、流石にここまでは広くないですけどね。ここのーー4/5くらいの大きさといったところですね」

「マリアの部屋も大きいものね。逆に私はここの1/3くらいね。あんまり広くても読書に集中しづらいし」

「へぇ……。結構バラバラなんですね」

 他愛無い話をして、友達と夜を過ごす。たったこれだけでクレアの胸は躍った。

「けど、サラ様は冤罪事件の時には、ずっとこのお部屋にいたとお聞きしています。ここでずっとお一人でいるのは問題なかったんですか? リリーのように読書していたわけでもないでしょうし」

「流石マリアね……。聞きづらくない? その質問。別に良いのだけれど……」

「? 何がです?」

「いえ……。なんでもないわ……。そうね。あまりそういった事は感じなかったわね。あの時期はフローラと玉木と3人で話をすることが殆どだったから」

「では、毎日パジャマパーティしていたようなものですか?」

「流石に会話の殆どは状況を解決するための議論だったけどね。けどまぁ、私は3人での会話。特にフローラと玉木のコントが好きだからね。退屈とは無縁だったわ」

「コントですか?」

「えぇ。いつも面白い会話をしているわよ?」

 マリアとサラのやりとりに、ゼリカがフローラに怪訝な顔を向ける。

「あんた、そんな事してんのかい……?」

「誠に遺憾ですが……あのクソ魔人と私の会話がお嬢様を楽しませているのは事実です」

 フローラの口から出た『クソ魔人』という言葉にクレアはぎょっとする。

「フローラさんは玉木さんの事が嫌いなのですか?」

 するとすかさずマリアが質問する。聞きづらい事をすぐに聞いてくれるマリアにクレアはこっそりと感謝した。

「そうですね。アレがお嬢様に益をもたらさなければ排除しているところです」

「クスクス……。フローラったら、またそんな事を言って……」

 サラの言葉にクレアはパッと明るくなる。

「あ、なんだ。冗談なんですね」

「勿論よ。あ、でも初対面の時は玉木の胸にナイフを突き立ててたわね」

「そうですね。召喚初日は特に不審者でしたから」

「「え!?」」

 サラとフローラのあまりの言葉にクレアは仰天する。流石のマリアやリリーも同様のようだ。

「あんた……ホントに何してるんだい……」

「えぇ全く。アレが最初で最後のチャンスだったのに。仕留めきれずに残念です」

「フローラさん……? 冗談ですよね……?」

「いいえリリー様。本心ですよ?」

「……サラ様……? 玉木さんって……そんなにアレな方なんですか?」

 珍しく戸惑いの色を見せながら、マリアがサラに問いかける。

「クスクス……。フローラのせいで玉木がまたあらぬ疑いを持たれてるわね。彼がここにいたら『オレの悪評を捏造した上で吹聴しないで!?』って言ってるわね」

「捏造は一切していませんがね」

「『フローラさんの主観ではね!?』かしらね? クスクス……」

 上機嫌で玉木の真似をするサラ。どうやらサラとフローラの発言は友好の証らしいとクレアは納得した。

「あんたら普段そんな会話してんだね……。だけどそこまで仲がいいなんてフローラは玉木に気がーーいや、なんでもないからそんな顔はしないでおくれよ」

「途中で訂正いただきありがとうございます。私たちにそのような感情はありません」

「私としては残念なんだけどね。玉木にもそんな気持ちはないみたいだし。ちなみにゼリカさんはどうなんですか?」

「何がだい?」

「恋愛の話ですよ。ゼリカさん。女性人気は凄いですよね?」

「……そうだね……。毎年数人の女の子に告白されるけどね……あたしはそっちの気は無いね」

 その言葉にクレアは自宅を思い浮かべた。自室で「捨てるのもねぇ……」と言って困り果てるゼリカと、怪訝な顔をしたゼルクの姿だ。
 そんなゼリカにサラは諦めまいと切り込む。

「けれど、男性からも人気があるんじゃないですか? スタイルも綺麗ですし顔も整っていますし」

「まぁねぇ……。ただ、アタシに惚れていたって後で聞くことの方が多いね。なんでも好きだったけど、どうしても話しかけることが出来なかったとかね」

「まぁ確かに……。ゼリカさんは立場もあるし、ゼリカさんより強い男性なんてそれこそゼルクさんくらいですから、余計に話かけづらいんでしょうね……」

「アタシとしても、そんな度胸も無い男はゴメンだからね。ま、そういう意味ではガキながらも『弟子にしてくれ』って頼みこんできたカイウスは立派だったね」

「頼みこんだ?」

 サラとゼリカの会話にクレアは首をこてんとたおす。そういえば自分はそのあたりの話は知らない。そんな彼女にリリーが補足をする。

「えぇ。カイウス様はシルヴァ様がゼルク様の弟子になった時、ものすごく焦っておられたの。『オレはこのままじゃ一生シルヴァに勝てなくなる』って言ってね。
 それで、『ゼリカ様なら同じ双竜だし、武器もハルバードだから槍も教われるはずだ』って頼み込みに行ったの」

「アタシも最初は断ってたんだけどね。何日も家の前にやってきて、挙句の果てには防衛任務にもついていくって言いだしてね。仕方ないから『音を上げたら帰れ』って言って厳しい指導をしたんだよ。
 けど、カイウスも泣きじゃくりながらも、『ここで逃げたらオレは一生負け犬だ!』って言ってくらいついてきてね。そのままなし崩し的に弟子になったんだよ」

「そんな事が……」

「その事があったからアタシも兄貴もシルヴァの事はシル坊って呼んでも、カイウスは名前で呼んでいたのさ。
 ま、シルヴァもこないだの戦いで、そんなカイウスの為に漢を見せたからね。もう、シル坊なんて呼べないさ」

「凄い……。シルヴァ様とカイウス様は本当に、お互いを高め合うライバルなんですね」

 そんな話を聞いて心が震える。素直に二人の事をカッコイイと思う。リリーも同じように震えていた。クレアはそれを見てなんだか嬉しくなった。自分と同じようにきっと感動して……

「そう。お二人の関係はとても尊いもの……。お互い同格だからこそ、シル×カイにもカイ×シルにもなる……」

「リリー? よく口に出しているそれはなんなのですか?」

「マリア? 貴方……深淵を除く覚悟はあって?」

「はい?」

 マリアの両肩をリリーが掴む。ただごとではないその形相に、隣にいたクレアは身をすくませる。

「半端な覚悟では沼にハマって抜け出せなくなるわ……。引き返すなら、今よ……?」

「う……。わ、わかりました。じゃあ、今は良いです」

「えぇ。その方が良いわ」

 無敵に見えたあのマリアが引くほどの話とはいったい何なのだろうか。恐いものみたさで聞いてみたい気もするが、クレアはその好奇心をぐっと飲み込んだ。

「何を言っているんだいあんたは……。
 それで、リリーはカイウスとはどうなんだい? あんたも嫌いじゃないんだろ?」

「……はっ!? コホン。
 そ、そうですね。私としても良い供給源ーーもとい、良い婚約者だと思っています。
 ただ、正直殿方としては意識していないですね。そもそもあまり交流をしていませんから」

「……何を訂正したのかは聞かないでおくよ……。
 けど、そうかい。ま、アンタらにそんな甘酸っぱい気配は感じないからね……」

「マリアはどうなの?」

「私ですか? 私もリリーと同じようなものですね。
 メルク様は私を無理矢理黙らせるような事はしませんし、気遣いもしてくれます。だから人としては好意を持っていますけど、特段ときめいたりとかそういった事はありません」

「二人共、婚約者に対してホントにドライね……」

 呆れるサラにリリーが訂正を加える。

「いえ。寧ろサラ様が特殊だと思いますよ? 政略結婚で相手を好きになるケースなんて稀だと思います」

「そうなのかしら……? そこまで特殊だとも思わないんだけど……クレアはどう?」

「私ですか?」

「そういえばクレアちゃんって、入学当初は結構シルヴァ様と一緒にいましたよね? シルヴァ様に好意を持ったりはしないんですか?」

「マリア様!? サラ様の前でそんなーー」

 慌ててサラに目を向けるが、彼女は特に気にした風でもない。

「心配しないでクレア。前にも言ったでしょ? 貴方が誰とどういう関係を築いても私は変わらず友達よ」

「サラ様……」

「それで? どうなの!? 私もそこは気になっていたの! 友達と同じ相手を好きになるって物語では見るけど実際にはなかなかないもの!」

「サラ様!?」

 サラの予想外の反応に驚く。彼女の言葉は嬉しかったが、どうやら本音は純粋な興味のようだ。だがーー

「うーん……そうですね。
 勿論。シルヴァ様は恩人ですし、素敵な方です。けど、異性として好きという感じでは無いんです。
 それに、やっぱりサラ様と恋敵になるのが嫌、って気持ちの方が強くって。サラ様が気にしなくても、私は気にしちゃうんです」

 ずっと友達がいない中で優しくされ続けていたら、多分好きになっていただろうと思う。
 だが、友達も出来て、自分の心にも素直になれた。だから、特にシルヴァと恋人になりたいとか、そういった気持ちはなかった。

「そうなのね。でも、残念で嬉しいような……いえ、嬉しいわ! クレア!!」

「きゃあ! サラ様! 急に飛びつかないでくださいよぉ!!」


「仲が良くていいわね」

「そうですね。リリーも私の胸に飛び込んできてもいいですよ?」

「何の脈絡もないじゃない……。逆に貴方が飛び込んできたら私も驚くわよ……」 


「フフ……クレアも楽しそうで良かったよ。あんたもそう思うだろう?」

「そうですね……。お嬢様も楽しそうで、本当に良かったです」


 こうして、初めてのパジャマパーティは、楽しさに包まれながら過ぎていった。
 クレアはそんな中、既に次回の開催日について考えていた。
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