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三章
ロイドの調査 side Bクラス1
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時間は同日の昼休みにまで戻る。
朝の校門でエレナに絡んでいた3人の女性徒はブツブツと愚痴を言いあっていた。
「ふざけんじゃないわよ! 何が『君たちとは遊べないね』よ!」
「本当よ! 学年主席だからって偉そうに!」
「自分は婚約者をほったらかして遊んでいるくせに!」
今朝、彼女らはエレナに『ロイドから声をかけられた』と言っていたが、アレはエレナをからかうための嘘だった。しかし、途中でシルヴァに邪魔をされ、不完全燃焼に終わってしまった。
そこで、彼女らは『いっそ本当にしてしまい、ロイドを自分達の側に置いてしまうのはどうか』という結論に至った。しかし、肝心のロイドに拒否されたのだ。
自業自得としか言えないが、『女にだらしのない遊び人』と評判のロイドから断られた、というのは彼女らからすると、プライドを傷つけられたように感じるのだ。
「でもどうする? 下手にあの男を刺激すると報復を喰らうわよ?」
「なら泣き寝入りしろっていうの?」
「そうじゃないけど……アイツは学年主席よ? それに侯爵家出身の上に将来は伯爵位になる保証もある。正面から敵対するのは不味いわ」
「じゃあーー婚約者の責任は、エレナ様に背負ってもらいましょうよ」
1人が不気味な笑みを浮かべるが、残り2人はあまり乗り気ではないようだ。
「正気? 今朝のことをもう忘れたの? 殿下に見られてるのよ?」
「そうよ。そっちだって迂闊な事をしたらーー」
「貴方たち、あの女が素直に殿下を頼ると思う?」
その言葉に、2人も考え込む。
「確かに……。この間も助けてくれた相手の胸ぐらを掴んでいたしーー」
「あいつに告げ口が出来るなら、最初からしてるだろうしーー」
「そういうこと。あいつが1人の時なら、何をしても大丈夫でしょうね」
その言葉に、残りの2人もニタリと笑う。
「そうね。なら、私達だけじゃあ盛り上がりにかけるわね」
「私達みたいにロイドに恨みを持つ子は他にもいるでしょうね」
「あ、いいわねソレ。フフ……エレナ様には私達のうっぷんを晴らしてもらいましょうか」
…………
三人の女性徒がその顔を狂気に歪めていた頃。
カイウスは、ロイドの調査をどうしようかと考えていた。
カイウスのいるBクラスのメンバーはカイウス、メルク、リリー、マリアの4人だ。
(……めんどうな事になりそうなメンバーだがーー)
「カイウスさん」
1人で考え込むカイウスに、メルクが話しかける。
「ん? なんだメルク?」
「あの件、黙っていただいてありがとうございます。サラ様から聞きました。マリア達に捕まったって……。カイウスさんは被害者なのに……」
「まぁ、故意じゃなかったのは今のお前を見れば分かるしな。他のメンバーも黙っているようだし、オレだけがベラベラ喋る訳にもいかんだろう」
「カイウスさん……。本当にありがとうございます。この恩はいつか必ずお返しします」
「気にするな。オレの訓練にも付き合ってもらっているんだ。お互い様だ」
「カイウス様? 何をこそこそしているんですか?」
メルクとカイウスが2人で話していると、リリーがマリアを連れてやってきた。
「いや、ロイドの件をどうしようかと思ってな。あまり大声で話すわけにもいかないだろう」
「そうですね。それからマリアが暴走しないように気をつけないといけませんね」
「お前は気をつけたところで放置するだろう……」
「あら、軽く発散させてやった方がすぐに落ち着くんですよ?」
「お二人とも? 私をペットか何かだと思っていませんか?」
「まぁまぁ。それより、ロイドさんの調査、どうしましょうか?」
カイウスとリリーの会話に、流石のマリアも異論があるようだ。そんなマリアを宥めつつ、メルクはカイウス達に本題を投げかける。
「そうだな……」
カイウスは腕を組んで考え込む。
折角同じクラスなのだ。ロイドに直接聞くのもいいかもしれない。だが、ロイドの元には先日サラ達が訪ねたばかりだ。ここで自分達が聞きに行っても鬱陶しがられるだけではないか、と思う。
では、本人と繋がりがある者に聞き込みをするのはどうだろうか。
「ん? 待てよ……? ーーメルク。ロイドが手を出しているという女性、誰なのか知っているか?」
「いえ。噂くらいしか知りません。マリアは?」
「私も全然興味がありません。リリーはどうです?」
「……マリア? 知っている知らないと、興味はまた別よ? えぇと……そうですね。何人かは知っています。ただ、彼女達にロイド様の話を聞いても、深くは教えてくれないと思いますよ?」
「そうだな……。例えば『何故、ロイドとそういう関係になったのか』はどうだろうか?」
カイウスは何の気なしに尋ねるが、その様子にリリーが呆れたように溜息をつく。
「……カイウス様。それ、かなりデリカシーの無い質問ですよ?」
「ん? そうなのか?」
カイウスは頭に疑問符を浮かべながら、メルクに確認を取る。そんなカイウスに、メルクの脳裏には一つの可能性が思い浮かぶ。
「……カイウスさん。念のため聞きますが、ロイドさんが手を出している、という意味。わかりますか?」
「? 男女で夜を共にしたということだろう?」
「あ、いや……そんな真っすぐな目で言われるとは思いませんでしたが、まぁ、そうです」
言葉の意味が分からない訳ではないのに、何故そんな無神経な質問が出来るのだろうか、とメルクはがっくりと肩を落とす。
そんな様子をリリーは瞳を輝かせながらブツブツと呟いた。
「……成程。知識はあるけど常識が無いタイプの無知ね。そうなるとシル×カイ? いや、逆に無知故のカイ×シル? いや、新機軸のメル×カイ!?」
「何の話だ?」
「いえ。それはそれで妄想が美味しいという話です」
「リリー? そんな話はしてませんよ?」
「すみません、僕の質問で脱線させましたね」
これでは話の収集がつかないと、メルクは話を終わらせる。本題はあくまでロイドについての話をどう集めるかだ。だが、そんなやり取りをしていると、調査対象であるロイド自ら声をかけてくる。
「君たち……人をダシに何の話をしているんだ……」
「ん? どうしたロイド? オレ達に話しかけてくるなんて珍しいな」
「いや……教室で僕の名前が聞こえたと思ったら、とんでもない会話をしていたからね……。流石にスルーは出来ないよ……」
そんなロイドに、マリアもリリーも問題が解決したと頷く。
「それでは、後はロイド様に質問すれば調査の必要もありませんね」
「そうね。これで調査も終了ね」
「お前ら……」
「二人共……興味が無いにもほどがあるよ……」
「本人の前で凄いね君たち……。女性にそこまで無関心な態度を取られるのは初めてだよ……」
男性陣3人は、女性陣2人のあまりにも自由な姿にただただ呆れる他なかった。
朝の校門でエレナに絡んでいた3人の女性徒はブツブツと愚痴を言いあっていた。
「ふざけんじゃないわよ! 何が『君たちとは遊べないね』よ!」
「本当よ! 学年主席だからって偉そうに!」
「自分は婚約者をほったらかして遊んでいるくせに!」
今朝、彼女らはエレナに『ロイドから声をかけられた』と言っていたが、アレはエレナをからかうための嘘だった。しかし、途中でシルヴァに邪魔をされ、不完全燃焼に終わってしまった。
そこで、彼女らは『いっそ本当にしてしまい、ロイドを自分達の側に置いてしまうのはどうか』という結論に至った。しかし、肝心のロイドに拒否されたのだ。
自業自得としか言えないが、『女にだらしのない遊び人』と評判のロイドから断られた、というのは彼女らからすると、プライドを傷つけられたように感じるのだ。
「でもどうする? 下手にあの男を刺激すると報復を喰らうわよ?」
「なら泣き寝入りしろっていうの?」
「そうじゃないけど……アイツは学年主席よ? それに侯爵家出身の上に将来は伯爵位になる保証もある。正面から敵対するのは不味いわ」
「じゃあーー婚約者の責任は、エレナ様に背負ってもらいましょうよ」
1人が不気味な笑みを浮かべるが、残り2人はあまり乗り気ではないようだ。
「正気? 今朝のことをもう忘れたの? 殿下に見られてるのよ?」
「そうよ。そっちだって迂闊な事をしたらーー」
「貴方たち、あの女が素直に殿下を頼ると思う?」
その言葉に、2人も考え込む。
「確かに……。この間も助けてくれた相手の胸ぐらを掴んでいたしーー」
「あいつに告げ口が出来るなら、最初からしてるだろうしーー」
「そういうこと。あいつが1人の時なら、何をしても大丈夫でしょうね」
その言葉に、残りの2人もニタリと笑う。
「そうね。なら、私達だけじゃあ盛り上がりにかけるわね」
「私達みたいにロイドに恨みを持つ子は他にもいるでしょうね」
「あ、いいわねソレ。フフ……エレナ様には私達のうっぷんを晴らしてもらいましょうか」
…………
三人の女性徒がその顔を狂気に歪めていた頃。
カイウスは、ロイドの調査をどうしようかと考えていた。
カイウスのいるBクラスのメンバーはカイウス、メルク、リリー、マリアの4人だ。
(……めんどうな事になりそうなメンバーだがーー)
「カイウスさん」
1人で考え込むカイウスに、メルクが話しかける。
「ん? なんだメルク?」
「あの件、黙っていただいてありがとうございます。サラ様から聞きました。マリア達に捕まったって……。カイウスさんは被害者なのに……」
「まぁ、故意じゃなかったのは今のお前を見れば分かるしな。他のメンバーも黙っているようだし、オレだけがベラベラ喋る訳にもいかんだろう」
「カイウスさん……。本当にありがとうございます。この恩はいつか必ずお返しします」
「気にするな。オレの訓練にも付き合ってもらっているんだ。お互い様だ」
「カイウス様? 何をこそこそしているんですか?」
メルクとカイウスが2人で話していると、リリーがマリアを連れてやってきた。
「いや、ロイドの件をどうしようかと思ってな。あまり大声で話すわけにもいかないだろう」
「そうですね。それからマリアが暴走しないように気をつけないといけませんね」
「お前は気をつけたところで放置するだろう……」
「あら、軽く発散させてやった方がすぐに落ち着くんですよ?」
「お二人とも? 私をペットか何かだと思っていませんか?」
「まぁまぁ。それより、ロイドさんの調査、どうしましょうか?」
カイウスとリリーの会話に、流石のマリアも異論があるようだ。そんなマリアを宥めつつ、メルクはカイウス達に本題を投げかける。
「そうだな……」
カイウスは腕を組んで考え込む。
折角同じクラスなのだ。ロイドに直接聞くのもいいかもしれない。だが、ロイドの元には先日サラ達が訪ねたばかりだ。ここで自分達が聞きに行っても鬱陶しがられるだけではないか、と思う。
では、本人と繋がりがある者に聞き込みをするのはどうだろうか。
「ん? 待てよ……? ーーメルク。ロイドが手を出しているという女性、誰なのか知っているか?」
「いえ。噂くらいしか知りません。マリアは?」
「私も全然興味がありません。リリーはどうです?」
「……マリア? 知っている知らないと、興味はまた別よ? えぇと……そうですね。何人かは知っています。ただ、彼女達にロイド様の話を聞いても、深くは教えてくれないと思いますよ?」
「そうだな……。例えば『何故、ロイドとそういう関係になったのか』はどうだろうか?」
カイウスは何の気なしに尋ねるが、その様子にリリーが呆れたように溜息をつく。
「……カイウス様。それ、かなりデリカシーの無い質問ですよ?」
「ん? そうなのか?」
カイウスは頭に疑問符を浮かべながら、メルクに確認を取る。そんなカイウスに、メルクの脳裏には一つの可能性が思い浮かぶ。
「……カイウスさん。念のため聞きますが、ロイドさんが手を出している、という意味。わかりますか?」
「? 男女で夜を共にしたということだろう?」
「あ、いや……そんな真っすぐな目で言われるとは思いませんでしたが、まぁ、そうです」
言葉の意味が分からない訳ではないのに、何故そんな無神経な質問が出来るのだろうか、とメルクはがっくりと肩を落とす。
そんな様子をリリーは瞳を輝かせながらブツブツと呟いた。
「……成程。知識はあるけど常識が無いタイプの無知ね。そうなるとシル×カイ? いや、逆に無知故のカイ×シル? いや、新機軸のメル×カイ!?」
「何の話だ?」
「いえ。それはそれで妄想が美味しいという話です」
「リリー? そんな話はしてませんよ?」
「すみません、僕の質問で脱線させましたね」
これでは話の収集がつかないと、メルクは話を終わらせる。本題はあくまでロイドについての話をどう集めるかだ。だが、そんなやり取りをしていると、調査対象であるロイド自ら声をかけてくる。
「君たち……人をダシに何の話をしているんだ……」
「ん? どうしたロイド? オレ達に話しかけてくるなんて珍しいな」
「いや……教室で僕の名前が聞こえたと思ったら、とんでもない会話をしていたからね……。流石にスルーは出来ないよ……」
そんなロイドに、マリアもリリーも問題が解決したと頷く。
「それでは、後はロイド様に質問すれば調査の必要もありませんね」
「そうね。これで調査も終了ね」
「お前ら……」
「二人共……興味が無いにもほどがあるよ……」
「本人の前で凄いね君たち……。女性にそこまで無関心な態度を取られるのは初めてだよ……」
男性陣3人は、女性陣2人のあまりにも自由な姿にただただ呆れる他なかった。
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