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三章

ロイドとエレナ

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 次の日の放課後、ロイド君を仲間に加える為の情報収集を終えたオレ達は、各チームの情報を共有することにした。
 ……のは良いんだが……


「エレナ? どうして君がここに?」

「サラ様にお声がけいただきました。寧ろロイド様は何故、こちらにおられるのですか? 本日は、ロイド様を仲間に加える為の議論をすると聞いていたのですが…」

「シルヴァ……これはどういうことなんだ……?」

「それはこっちのセリフだぞカイウス……。ロイドの情報について持ってくると思ったら、まさかロイド本人を連れてくるとは……」

 そう。何故か今回、想定外のメンバーが追加されていた。一応サラちゃんからはエレナちゃんと話をしたとだけ聞いていたが、まさか連れてくるとは……
 エレナちゃんにしてもロイド君にしても、各チーム一体何をしているんだ……?

 クレアちゃんがロイド君に確認する。

「え、えぇと……ロイド様はその……私達の仲間に加わるという訳ではないんですよね……?」

「まぁ、そうだね。流石に戦いに加われと言われても困るね」

「そ、そうですか」

「だけど僕は昨日、カイウス君、メルク君と友達になってね。皇太子殿下? 君も僕と同じ神に選ばれし者。できれば友達になってくれないかい?」

「あ、あぁ。それは構わない。仲間になれば同じことだからな」

「おや、カイウス君と同じ事を言うね。やはり君たちは仲間だということかな。呼び方はシルヴァ君でも良いかい?」

「勿論だ。ロイド、よろしく頼む」

 そう言って握手を交わす王子。え? このまま話を進めるの?


「マリア様、リリー様。ご機嫌よう」

「ご機嫌よう。エレナ。貴方がこの場に来るなんて思わなかったわ」

「そうですね……。初めは私などには場違いだとお断わりしたのですが、サラ様から是非来てくれと……」

「えぇ。貴方の意見だって聞かせてもらいたかったからね。……まさかロイド様ご本人が来られるとは思わなかったけれど」

「サラ様はエレナと友人になったのですか?」

「えぇ。私はそう思っているわ。エレナはどう?」

「あ……ありがとう……ございます。その……私で良ければ……」

「当然じゃない。だから貴方もマリアやリリーとも、仲良くしてくれると嬉しいわ」

「は、はい。リ、リリー様、マリア様。よろしくお願いします」

「よろしく。エレナ」

「よろしくお願いします。エレナさん」


 女性陣の挨拶も終わったことを確認し、王子が気まずそうに口を開く。彼がこんなに戸惑うのも初めて見るな。

「あーっと……その、とりあえず……。一応、報告をしようか。Aクラスはロイドと繋がりのある、エレナ嬢の話を聞かせてもらったんだ」

「内容としては、エレナが苦しんでいたことについてだったのですが……エレナ? 貴方の口から説明できる?」

「え? でも、ロイド様の前で……」

「大丈夫よ。昨日、私が話したことを覚えている? そのことを頭に入れながら説明してみて」

 そう言ってサラちゃんはエレナちゃんをなだめる。

「僕は席を外した方がいいかい?」

「いえ、寧ろロイド様に聞いていただきたいお話です。大丈夫です。ロイド様を不快にさせるような内容ではありません」

「……まぁ、シルフォード嬢が言うのならそうなんだろう。聞かせてもらうよ」

「あ……」

「頑張って、エレナ。大丈夫。パニックを起こしそうになったら、私が止めるから」

「は、はい」

 サラちゃん……喧嘩を仲裁する保母さんにしか見えないな……。相変わらず凄い子だ。


「ロイド様」

「……なんだい?」

「その……これまでの失礼な態度、申し訳ありませんでした」

「え?」

 そうして、エレナちゃんはロイド君に向けて、頭を下げる。
 だが、頭を下げられたロイド君は、ポカンとして固まっている。まぁ、エレナちゃん。昨日の様子でもそうだったけど、かなり不器用そうな子だったもんな……。こうやって素直に謝られる事もなかったんだろう。


「私はロイド様に対して、二つの気持ちを持っていました。一つは私の家の事情のせいで、ロイド様に私が婚約者として押し付けられたこと。ずっと……そこに後ろめたさを感じていました」

「……」

「二つ目は、婚約者の私を無視して、色んな女性に手を出していた事。それだけは、どうしても我慢が出来ませんでした。私など、自分の視界にいれる必要もない、と言われているように感じていました」

 ロイド君は黙って聞いているが、少し目線が下がっている。きっと、彼にも色々と思う所もあるのだろう。

「この二つの気持ちで、ロイド様には色々と失礼な態度を取ってしまいました。ですので、謝らせてください。申し訳ありませんでした」

 そう言って再度頭を下げる。ひょっとして、謝り方をサラちゃんに教えてもらったのかな? すごくわかりやすい謝罪だ。
 そんな彼女に戸惑った様子のロイド君がサラちゃんに目を向ける。

「……その、謝り方はシルフォード嬢が?」

「えぇ。彼女には昨日、色々と話を聞かせていただきました。彼女は色々な感情を上手く整理出来ていませんでしたからね。とても苦しそうだったので、気持ちの整理を手伝わせていただきました。ですが、謝罪の内容については全て、今、彼女が自分で考えて発言したものです。先ほどの言葉は紛れもなく、彼女自身の言葉です」

「……そうかい」

 そう呟いて、エレナちゃんの方を向き、再度口を開く。

「エレナ。顔を上げてくれ」

 言われて顔をあげるエレナちゃん。ただ、その顔は、きちんと話せた安堵と、どんな返答が返ってくるかの恐怖とが混在しているように見える。

「その……。僕は今、かなり困惑している。そんな風に、真っすぐに君の気持ちを聞いたことは初めてだからね。
 一つ目の気持ちだがーー正直、婚約当初は煩わしいと思っていた。婚約なんて、どうして勝手に決められなければならないのかと」

「はい……」

「だが……これは君のせいじゃない。僕は侯爵家の跡取りだ。君でなくとも別の婚約者を押し付けられていた。だというのに、僕は君に辛く当たった。寧ろ、謝るのは僕の方だ」

「ロイド様……」

「そして、二つ目についてだがーーこちらは最早弁解のしようがない。僕は……貴族のしがらみに縛られるのが苦痛で堪らなかった。だから……学生時代だけでも、そんなしがらみから少しでも解放されていたかった」

「はい。存じております」

「だから、先ほどの君の気持ち。原因はどちらも僕にある。謝るのは僕の方だ。エレナ」


 そう言って頭を下げる。

「すまなかった」

 恐らく、エレナちゃんはこれまで見た事もないであろう、ロイド君からの謝罪。

「……っ! ……っ……!」

 そんな姿を見て、エレナちゃんは大粒の涙を流し、声も出なくなっている。
 そうだよな。多分、エレナちゃんはロイド君の事がずっと好きだったんだ。けど、不器用だったし、後ろめたい気持ちもあって正直になれなかったんだろう。


「エレナ。頑張ったわね」

「……っ……!」

「泣きなさい。声を出したっていいわ。貴方は独り、頑張って戦ったんだもの」

「……っ……う……あぁぁぁぁぁぁ!!」


 そう言ってエレナちゃんに胸を貸す。本当に凄いなこの娘は……
 だが、そんな事を思いながら見ていると、サラちゃんがこちらに目を合わせ、笑いかけてくる。
 なんだろう? ひょっとして、こうやって優しく出来るのはオレーーいや、オレとフローラさんのお陰ってこと?

 ……多分、そういう意図なんだろうな。全く……。ホントにこの娘には敵わないな。
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