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三章+
Aクラス代表者
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放課後前のホームルーム。ざわざわと落ち着かないクラスの様子を、シルヴァは黙って眺めていた。
「えー、では、体育祭の出場種目は粗方決まりましたので……最後は対抗戦の出場者を決めたいと思います」
「クレアさんには体育祭の実行委員会から出場依頼が来ています。クレアさん。問題ありませんか?」
「はい。神鏡の力。皆さんに見ていただけるかと思います」
「「おぉー!!」」
クラスにどよめきが走る。が、それも当然だろう。
流石に普段、衆人環視の中で守護騎士を召喚するわけにもいかないので、守護騎士の姿など、見たこともない者ばかりだからだ。
「とうとう神鏡の力が見れるのか!」
「守護騎士を召喚したって噂に聞いてたけど……どんなのかな!?」
「いやー! 早く見てみたいぜ!!」
「神鏡に選ばれたって話……出鱈目じゃなかったのね」
「どうかしら? 見てみないことにはわからないんじゃない?」
「ま、その日になればわかるでしょ」
生徒達の反応に、シルヴァは成程と頷いた。
(玉木の言う通り、魔人の存在どころか、クレアが神鏡に選ばれたことすら疑わしく思っている生徒までいたのか)
学園に通っていながら、他の生徒達の様子が見えていなかった。こんな様では王となった時に民の様子など、見れる筈もないと自戒する。
だが反面、仲間の頼もしさに胸が熱くなる。
まだまだ王として未熟だと自覚しているが、そんな自分の不始末を、彼らは助けてくれる。先日のエレナに対するサラしかり、ロイドに対するカイウスしかり、だ。
「ーーさて、残りの代表お二人ですが……一人は殿下にお願いしたいと思います。皆さん、いかがでしょうか?」
進行係の言葉に、再び教室にどよめきが起こる。
「やっぱそうだよな。神鏡の使い手が出るなら神剣の使い手だって、出場すべきだろ!?」
「ひょっとして、神剣の力も見れるんじゃないか!?」
「やったぜ! きっとすごい戦いにーー」
「いや、待ってくれ」
シルヴァの言葉にクラス中が静まり返る。皆一様に、シルヴァの発言を待っている。
「私が出場する。このことに異論はない。だが、神剣は使えない。アレは大きな力を持っている。周囲を巻き込みかねない」
「「えぇー……」」
周りから落胆の声が聞こえる。
(まぁ、周囲を巻き込むというのは嘘だが、流石に神剣まで持ち出すのはな)
「そうがっかりしないでくれ。それに、神剣が無くともここ数日、私は神鏡の守護騎士のお陰で大きな力を持っている。……それこそーー」
そう言って机に手をつき、逆立ちのまま、片手腕立てをして見せる。そして、そのまま片腕だけで宙返りで着地する。そんなシルヴァにクラス中が絶句する。
「こんな芸当が簡単に出来るほどだ。この力だけでも、充分、見る価値はあると思うぞ?」
「す……すげぇ!! 殿下、そんなことまで出来たのか!?」
「神鏡の守護騎士のお陰って言ってたよな!? やっぱり何か特別な力を貰っているのかな!?」
「ねぇ、殿下って今、フリーよね?」
「そうね! なんとかアピールしてお近づきにならなきゃ!!」
クラスメイトの様子から、自分の出場に異論はないようだとシルヴァは一息ついた。
そして、再び口を開いた。
「それで、残りの出場者についても提案があるんだが……」
「? なんでしょうか?」
「残りは一人。だが、出場したいと思うものは多いはずだ。なら、希望者のみでトーナメント形式で出場者を決めるのはどうだろうか?」
「トーナメント? 1対1でですか?」
「そうだ。本番同様、頭に風船をつけ、割られた方の負けだ」
「なるほど。今のお話、異論のある方はいますか……?」
「「……」」
「では、殿下の仰るように、トーナメントを行いましょうか。出場したい方はこちらに集まってください」
そうして、主に男子たちが向かう中、サラに声をかける。
「サラ」
「シルヴァ様?」
「君もトーナメントに出場してみないか?」
「え?」
「私もクレアも、どうせなら君と共に戦いたい。君なら、私たちの動きにも合わせられるからね」
「シルヴァ様……。わかりました。私も参加します」
「ふふ。それでこそだ。あ、それから近くに玉木はいるかい?」
「えぇ。私の後ろにいますよ?」
「玉木、少し来てくれないか?」
「シルヴァ様?」
「いや、玉木に少し話があってね」
「? わかりました。では、私はトーナメントに参加してきますね」
「あぁ、頑張って」
「ありがとうございます」
そう言って参加を表明するサラを見やる。彼女は自分達と違い、身体能力の強化が出来ない。玉木の事を明かせない以上、どうしても自分たちと対等な仲間だとは認識されないだろう。だが、出来れば彼女も仲間として評価されて欲しいとシルヴァは願っていた。
(……こんなもの、私のエゴでしかないがな。それでも私にとって、彼女は大切な仲間だ。ぞんざいな扱いをされることは避けたい)
…………
体育館では、トーナメント形式で戦いが行われている。サラちゃん以外は殆どが男子だ。女子も参加してはいたが、彼女たちは素人だったようで、もう既に残っていない。
そしてオレはというと、王子に頼まれた仕事をしている。
「さぁ、残りは8人! 出場者は誰になるのか!?」
「お前? なんか活き活きしてないか?」
「こんな場面でテンションを上げなくてどうする! 私は今、最も輝いている!」
誰に頼まれたわけでもないのに、何故か実況をしている子がいる。あの子もなんか面白そうな子だな。
「続いてはぁ……! ベスト4を決める戦いだぁ!!」
「えぇ。よろしくお願いします」
「くっ!? まさかシルフォード嬢がこんなに強いなんて!?」
まぁ、サラちゃんが槍を持ったら普通の兵士より強いって話だったもんな。このトーナメント参加者の武器は槍か剣。なら、普通に戦えばサラちゃんが負ける要素はないわな。
……普通に戦えば、な。そうして、隅の方でコソコソしているやつらの傍に行く。
「あの女! こんなところまで出しゃばって!!」
「どうせ、殿下へのアピールでしょ!? なんて図々しい女なのかしら!」
「でも、どうする? あの女。自分の装備から絶対に離れないわよ? 話しかけても道具からは手を離さなかったし」
「忌々しい! でも、それなら対戦相手の道具に細工すればいいのよ」
「風船にオイルでも塗りましょ。そうすれば槍で割る事なんて無理でしょ」
「そうね! すぐに行動しましょ」
うーん……。やっぱりこうなるか。ま、しょうがない。
「ねぇねぇ。次、貴方の番でしょ?」
「ん?」
「サラ様は流石に強いけど、貴方だって負けてないわよ! 頑張って!!」
「え!? えへへ……そうかな? なんか照れーーん? 何かに肩をーー!? 君!? 僕の装備になにしてるんだ!?」
「あ!? い、いや、手入れをしてあげようと……」
「手入れ? どうしてそんな……それ、オイルじゃないか!? なんでそんなものをーーまさか君たち、僕を嵌めようと!?」
「え!? いや、ちがーー」
「僕を卑怯者にしたてあげる気だったんだな!? 皆! こいつら、恐ろしい女達だぞ!!」
「「なっ!?」」
おや、思いもしない展開だな。まぁ、自業自得だ。必死に否定しているが、現行犯だ。受け入れられることは無いだろう。
この世界、賢く誠実な人ばかりじゃない。でも、愚かで卑怯な人ばかりでもないんだ。こんなことがバレたら、すぐに彼女たちの立場は悪くなるだろうな。
「玉木? 貴方の仕業ね?」
「ん? あぁ、気づいたの?」
「えぇ。貴方が周囲を警戒していることも、彼女達が何かしようとしていた事もね。シルヴァ様に頼まれて?」
「うん。彼が表立って君を守っても、君の立場が悪くなるからね」
「そう。でも、勝負にはーー」
「勿論、手は出さないよ。それに、出す必要がないさ。オレの主はそんなに弱くないからね」
「もう……。でも、ありがと。シルヴァ様にも御礼を言っておいて。じゃ、残りもしっかり勝ってくるわ」
「うん。頑張って」
そう言って、トーナメントに集中するサラちゃん。
その後は特に波乱もなくサラちゃんが優勝し、Aクラスの出場者が決定した。
「えー、では、体育祭の出場種目は粗方決まりましたので……最後は対抗戦の出場者を決めたいと思います」
「クレアさんには体育祭の実行委員会から出場依頼が来ています。クレアさん。問題ありませんか?」
「はい。神鏡の力。皆さんに見ていただけるかと思います」
「「おぉー!!」」
クラスにどよめきが走る。が、それも当然だろう。
流石に普段、衆人環視の中で守護騎士を召喚するわけにもいかないので、守護騎士の姿など、見たこともない者ばかりだからだ。
「とうとう神鏡の力が見れるのか!」
「守護騎士を召喚したって噂に聞いてたけど……どんなのかな!?」
「いやー! 早く見てみたいぜ!!」
「神鏡に選ばれたって話……出鱈目じゃなかったのね」
「どうかしら? 見てみないことにはわからないんじゃない?」
「ま、その日になればわかるでしょ」
生徒達の反応に、シルヴァは成程と頷いた。
(玉木の言う通り、魔人の存在どころか、クレアが神鏡に選ばれたことすら疑わしく思っている生徒までいたのか)
学園に通っていながら、他の生徒達の様子が見えていなかった。こんな様では王となった時に民の様子など、見れる筈もないと自戒する。
だが反面、仲間の頼もしさに胸が熱くなる。
まだまだ王として未熟だと自覚しているが、そんな自分の不始末を、彼らは助けてくれる。先日のエレナに対するサラしかり、ロイドに対するカイウスしかり、だ。
「ーーさて、残りの代表お二人ですが……一人は殿下にお願いしたいと思います。皆さん、いかがでしょうか?」
進行係の言葉に、再び教室にどよめきが起こる。
「やっぱそうだよな。神鏡の使い手が出るなら神剣の使い手だって、出場すべきだろ!?」
「ひょっとして、神剣の力も見れるんじゃないか!?」
「やったぜ! きっとすごい戦いにーー」
「いや、待ってくれ」
シルヴァの言葉にクラス中が静まり返る。皆一様に、シルヴァの発言を待っている。
「私が出場する。このことに異論はない。だが、神剣は使えない。アレは大きな力を持っている。周囲を巻き込みかねない」
「「えぇー……」」
周りから落胆の声が聞こえる。
(まぁ、周囲を巻き込むというのは嘘だが、流石に神剣まで持ち出すのはな)
「そうがっかりしないでくれ。それに、神剣が無くともここ数日、私は神鏡の守護騎士のお陰で大きな力を持っている。……それこそーー」
そう言って机に手をつき、逆立ちのまま、片手腕立てをして見せる。そして、そのまま片腕だけで宙返りで着地する。そんなシルヴァにクラス中が絶句する。
「こんな芸当が簡単に出来るほどだ。この力だけでも、充分、見る価値はあると思うぞ?」
「す……すげぇ!! 殿下、そんなことまで出来たのか!?」
「神鏡の守護騎士のお陰って言ってたよな!? やっぱり何か特別な力を貰っているのかな!?」
「ねぇ、殿下って今、フリーよね?」
「そうね! なんとかアピールしてお近づきにならなきゃ!!」
クラスメイトの様子から、自分の出場に異論はないようだとシルヴァは一息ついた。
そして、再び口を開いた。
「それで、残りの出場者についても提案があるんだが……」
「? なんでしょうか?」
「残りは一人。だが、出場したいと思うものは多いはずだ。なら、希望者のみでトーナメント形式で出場者を決めるのはどうだろうか?」
「トーナメント? 1対1でですか?」
「そうだ。本番同様、頭に風船をつけ、割られた方の負けだ」
「なるほど。今のお話、異論のある方はいますか……?」
「「……」」
「では、殿下の仰るように、トーナメントを行いましょうか。出場したい方はこちらに集まってください」
そうして、主に男子たちが向かう中、サラに声をかける。
「サラ」
「シルヴァ様?」
「君もトーナメントに出場してみないか?」
「え?」
「私もクレアも、どうせなら君と共に戦いたい。君なら、私たちの動きにも合わせられるからね」
「シルヴァ様……。わかりました。私も参加します」
「ふふ。それでこそだ。あ、それから近くに玉木はいるかい?」
「えぇ。私の後ろにいますよ?」
「玉木、少し来てくれないか?」
「シルヴァ様?」
「いや、玉木に少し話があってね」
「? わかりました。では、私はトーナメントに参加してきますね」
「あぁ、頑張って」
「ありがとうございます」
そう言って参加を表明するサラを見やる。彼女は自分達と違い、身体能力の強化が出来ない。玉木の事を明かせない以上、どうしても自分たちと対等な仲間だとは認識されないだろう。だが、出来れば彼女も仲間として評価されて欲しいとシルヴァは願っていた。
(……こんなもの、私のエゴでしかないがな。それでも私にとって、彼女は大切な仲間だ。ぞんざいな扱いをされることは避けたい)
…………
体育館では、トーナメント形式で戦いが行われている。サラちゃん以外は殆どが男子だ。女子も参加してはいたが、彼女たちは素人だったようで、もう既に残っていない。
そしてオレはというと、王子に頼まれた仕事をしている。
「さぁ、残りは8人! 出場者は誰になるのか!?」
「お前? なんか活き活きしてないか?」
「こんな場面でテンションを上げなくてどうする! 私は今、最も輝いている!」
誰に頼まれたわけでもないのに、何故か実況をしている子がいる。あの子もなんか面白そうな子だな。
「続いてはぁ……! ベスト4を決める戦いだぁ!!」
「えぇ。よろしくお願いします」
「くっ!? まさかシルフォード嬢がこんなに強いなんて!?」
まぁ、サラちゃんが槍を持ったら普通の兵士より強いって話だったもんな。このトーナメント参加者の武器は槍か剣。なら、普通に戦えばサラちゃんが負ける要素はないわな。
……普通に戦えば、な。そうして、隅の方でコソコソしているやつらの傍に行く。
「あの女! こんなところまで出しゃばって!!」
「どうせ、殿下へのアピールでしょ!? なんて図々しい女なのかしら!」
「でも、どうする? あの女。自分の装備から絶対に離れないわよ? 話しかけても道具からは手を離さなかったし」
「忌々しい! でも、それなら対戦相手の道具に細工すればいいのよ」
「風船にオイルでも塗りましょ。そうすれば槍で割る事なんて無理でしょ」
「そうね! すぐに行動しましょ」
うーん……。やっぱりこうなるか。ま、しょうがない。
「ねぇねぇ。次、貴方の番でしょ?」
「ん?」
「サラ様は流石に強いけど、貴方だって負けてないわよ! 頑張って!!」
「え!? えへへ……そうかな? なんか照れーーん? 何かに肩をーー!? 君!? 僕の装備になにしてるんだ!?」
「あ!? い、いや、手入れをしてあげようと……」
「手入れ? どうしてそんな……それ、オイルじゃないか!? なんでそんなものをーーまさか君たち、僕を嵌めようと!?」
「え!? いや、ちがーー」
「僕を卑怯者にしたてあげる気だったんだな!? 皆! こいつら、恐ろしい女達だぞ!!」
「「なっ!?」」
おや、思いもしない展開だな。まぁ、自業自得だ。必死に否定しているが、現行犯だ。受け入れられることは無いだろう。
この世界、賢く誠実な人ばかりじゃない。でも、愚かで卑怯な人ばかりでもないんだ。こんなことがバレたら、すぐに彼女たちの立場は悪くなるだろうな。
「玉木? 貴方の仕業ね?」
「ん? あぁ、気づいたの?」
「えぇ。貴方が周囲を警戒していることも、彼女達が何かしようとしていた事もね。シルヴァ様に頼まれて?」
「うん。彼が表立って君を守っても、君の立場が悪くなるからね」
「そう。でも、勝負にはーー」
「勿論、手は出さないよ。それに、出す必要がないさ。オレの主はそんなに弱くないからね」
「もう……。でも、ありがと。シルヴァ様にも御礼を言っておいて。じゃ、残りもしっかり勝ってくるわ」
「うん。頑張って」
そう言って、トーナメントに集中するサラちゃん。
その後は特に波乱もなくサラちゃんが優勝し、Aクラスの出場者が決定した。
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