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第二章 彼の決断
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「今夜は三日月、か……」
しん、と静まり返っている廊下の窓辺に座って、脱力していく身体で壁によりかかる。背中越しに外を見あげながら、フィルロードはぼんやりとつぶやいた。
全身に酒が回って、頭もよく動いてはくれない。今は、それが逆に心地よかった。
「あなたは、今頃……」
ズル、とだらしなく騎士団の衣装が崩れていき、彼の胸元から細い筒状のものが姿を現した。
銀の横笛。一度も会ったことのない、記憶にすらない母からの形見の品。そう、父からは教えられていた。常に持ち歩いておけ、とも。
最初に受け取ったときは、形見の品なのにどうして父ではなく自分が? と疑問だった。歳を重ねていく内に、その理由には行きついたけれど。
取り出して手慰みのように弄んでから、フィルロードはそれを口元に当てた。少しだけ、傍の窓を開ける。
久しぶり過ぎて上手く扱えるだろうか、なんとなくそう思ったものの、次の瞬間そこからは澄んだ音色が奏でられ始めた。
フィルロードの心情や想いを乗せた物悲しい旋律が、風に運ばれて流れていく。
どれくらいぶりに、横笛を吹いただろうか?
覚えている限りでは――、そうだ。父が亡くなった、あの日が最後だった。それまでは時間を見つけては練習を重ねていたのに、いつの間にか身に着けているだけで取り出すこともしなくなっていた。
そんなに余裕がなくなっていたのか、と今さらながらに思う。
笛から唇を離して、息を継ぐ。
あの日から、すべてが変わった。変わってしまった。変わらざるをえなかった。
俺はこの国に仕える騎士で、彼女はこの国の王女。その関係は、変わらない。おそらく、彼女に対する想いも。
それなら、いっそのこと――
一通り演奏し終えてから、彼は短く嘆息した。
こんなことをしていても、何も変わらない。何も……、変わらない。
横笛を懐に戻し、手の甲を額に当てる。
ふと、窓の外で白いものが翻った――気がした。
「? なんだ……?」
窓を全開にし、そこから身体を乗り出すようにフィルロードは上を見あげた。
空には、美しい三日月。そしてそれに照らされた白いベールと、青みがかった銀糸のような紫の髪に一瞬で目を奪われる。
ドクン、とフィルロードの心臓が大きく跳ね上がった。
弾かれたように、彼は窓から離れる。荒くなる息を何度も整えながら、彼はフラッとその場を立ち去って行った。
しん、と静まり返っている廊下の窓辺に座って、脱力していく身体で壁によりかかる。背中越しに外を見あげながら、フィルロードはぼんやりとつぶやいた。
全身に酒が回って、頭もよく動いてはくれない。今は、それが逆に心地よかった。
「あなたは、今頃……」
ズル、とだらしなく騎士団の衣装が崩れていき、彼の胸元から細い筒状のものが姿を現した。
銀の横笛。一度も会ったことのない、記憶にすらない母からの形見の品。そう、父からは教えられていた。常に持ち歩いておけ、とも。
最初に受け取ったときは、形見の品なのにどうして父ではなく自分が? と疑問だった。歳を重ねていく内に、その理由には行きついたけれど。
取り出して手慰みのように弄んでから、フィルロードはそれを口元に当てた。少しだけ、傍の窓を開ける。
久しぶり過ぎて上手く扱えるだろうか、なんとなくそう思ったものの、次の瞬間そこからは澄んだ音色が奏でられ始めた。
フィルロードの心情や想いを乗せた物悲しい旋律が、風に運ばれて流れていく。
どれくらいぶりに、横笛を吹いただろうか?
覚えている限りでは――、そうだ。父が亡くなった、あの日が最後だった。それまでは時間を見つけては練習を重ねていたのに、いつの間にか身に着けているだけで取り出すこともしなくなっていた。
そんなに余裕がなくなっていたのか、と今さらながらに思う。
笛から唇を離して、息を継ぐ。
あの日から、すべてが変わった。変わってしまった。変わらざるをえなかった。
俺はこの国に仕える騎士で、彼女はこの国の王女。その関係は、変わらない。おそらく、彼女に対する想いも。
それなら、いっそのこと――
一通り演奏し終えてから、彼は短く嘆息した。
こんなことをしていても、何も変わらない。何も……、変わらない。
横笛を懐に戻し、手の甲を額に当てる。
ふと、窓の外で白いものが翻った――気がした。
「? なんだ……?」
窓を全開にし、そこから身体を乗り出すようにフィルロードは上を見あげた。
空には、美しい三日月。そしてそれに照らされた白いベールと、青みがかった銀糸のような紫の髪に一瞬で目を奪われる。
ドクン、とフィルロードの心臓が大きく跳ね上がった。
弾かれたように、彼は窓から離れる。荒くなる息を何度も整えながら、彼はフラッとその場を立ち去って行った。
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