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しおりを挟む隣国に留学したホリーは順調に学園生活を過ごすことができた。
というのも、ケンドル様の婚約者であるキャロライン様の影響が大きかった。
キャロライン様と仲の良いご令嬢を紹介してもらい、仲間にも入れてもらえたから。
ヴィクトル様が隣国の男爵令嬢と婚約したってことは学園内ですごく驚かれた。
でもホリーがドーソンと従兄妹であることで納得される。
不思議に思っていたら、ホリーがいつでも公爵令嬢になれる立場だからだそうで。
ゲルツに振り回された自国の学園に比べると、ここの生徒たちはちゃんと考える頭があるなぁと思ってしまった。
ヴィクトル様とは仲が良い。
彼は甘え上手で、甘やかし上手でもある。
学園でもデートでも、他の令嬢に誤解されるような言動はしないし、私も日に日に心を許していっていると自覚している。
だって、可愛いんだもの。…普段はね。
キスだって、初めの頃は子犬がじゃれるような可愛いものだったのに、最近では獰猛な犬に咬みつかれている気分の時がある。その時、あぁ、やっぱり男の人なんだなぁって実感した。
今日はヴィクトル様の伯爵家の庭にある東屋でお茶を飲んでいたんだけど、ここではいつも私の膝に頭を乗せてくるようになった。
なので、私も遠慮なくフワフワの髪の毛を触らせてもらっている。
「ホリーにそうやって触られるのが好き。癒されてるって気がして。」
「そう?でも私もこうした時間は好きよ。ヴィクトル様の髪の毛もね。」
一緒にクスクス笑うこのひとときは幸せ。だけど、聞きたいことがあった。
「ヴィクトル様、前の婚約者のことを聞いてもいいですか?」
「…誰かに何か聞いた?」
「少し。私の学年では伝聞でしか知らない人ばかりなので、修道院に行ったと。
あとはヴィクトル様に直接聞いた方がいいって。
全く知らないと、嘘を教えられても気づかないからと言われて。」
「ああ、そっか。その可能性もあるね。
彼女はベアトリスといって同じ歳の伯爵令嬢だった。
12歳で婚約して15歳で婚約破棄したんだ。
始めは普通の令嬢だった。
だけど、何度か会ううちに考え方がおかしいと気づいた。
『いずれ結婚する婚約者の物は自分の物』と言い出してね。
最初はお茶を飲んだカップだった。
気に入ったから持って帰ると言って、こちらが呆気に取られているうちに持っていかれた。
花瓶、万年筆、カフスボタン、ハンカチ、皿。そんなに値が張るものでもないけど困った。
そして彼女は友人に、僕が彼女に夢中だと言いふらしていた。
学園に入学してケンドルと会ってからが最悪だった。
『僕の従兄は自分の従兄』だとつきまとった。
そして、ケンドルと結婚すると言い出した。
もう相手に出来なくて僕との婚約を解消したんだけど、ケンドルが婚約者になると信じてて。
大勢の前で僕に『あなたが私を愛しているのはわかってるけど私はもうケンドル様のもの』って。
ケンドルの公爵家とうちの伯爵家から苦情を言ってね、彼女は病気だと。
どうやら伯爵夫人の洗脳のようなものだったみたいで。
母親から離して何度も間違いを正して、落ち着いてから修道院に行った。母親は別の修道院。」
「そういうことでしたか。この間、同級生に言われたんです。
『ヴィクトル様はようやく前の婚約者を諦めてあなたと婚約する気になってよかった』と。
一緒にいたキャロライン様にちゃんとヴィクトル様から聞くべきだって言われたんです。」
「諦めて?…彼女が言いふらした影響がまだ……」
落ち込んでしまったヴィクトル様の頭を撫でて慰めてあげた。
ケンドル様もヴィクトル様の婚約解消に関わりがあったから、ケンドル様が認めた相手じゃないとヴィクトル様が婚約できないっていう噂もあるってことか。なるほどね。
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