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しおりを挟むひと月半のウィルベルト王太子殿下の閨指導係を終えてデルード家に帰って来たディアンヌはホッとした。
自分の家はここだと思ったからだ。
今朝方までウィルベルトに抱かれて、彼は卒業式に、ディアンヌはいただいたプレゼントと共にデルード家へと最後の別れを済ませて戻って来たのだ。
「ディアンヌ、お帰り。」
「ただいま、フランク。」
フランクは実際の兄以上に兄らしく、家族に思える。
期間が延期になる度にデルード家には伝えてもらっていたけれど詳しくは伝わっていない。
このひと月半の王宮での生活をフランクに語ると、顔を引きつらせていた。
「お前、閨指導係って言ってなかった?恋人もどきかよ。」
「……そう言えば、指導なんてしなかったわね。」
ウィルベルトは閨事に関して質問すらしなかった。
本当に初めてなのかと思うほど手際がよかった。
「はぁ。十分に慰めてもらってきたようだな。
あのまま帰してもらえなくなるんじゃないかと心配していたんだ。」
「愛妾になってこのままいないかとは言われたわ。断ったけど。」
「……やっぱり。気に入られて期間が延びたんだな。帰ってこれてよかったよ。」
「うん。自由がなくなっちゃうし、フランクと再婚するし。
結婚前に既に愛妾がいたら、王女様にも申し訳ないし?」
「だな。ま、ゆっくり休め。」
「ありがとう。」
それからフランクと入籍するまでのんびりと過ごした。
といっても、入籍後の生活も特に変わりはないんだけど。………ないはずだったんだけど。
王宮から帰ってきてひと月が過ぎ、まだ月のものが来ていなかった。
予定では2週間ほど前に来るはずだった。
生活環境が乱れて体調も乱れた?
それとも……妊娠した?
誰にも言わないまま、さらにひと月を過ごした。
「ディアンヌ、何かあったのか?最近おとなしい気がするけど。」
「えーっと。あのね、子供ができた、かもしれないの。」
「………………は?相手は?」
「王太子殿下?」
「はあ?避妊なんて徹底管理されてたろ?お前も、殿下も。」
ディアンヌは思わず目を逸らした。それは疚しいことがあると言っているようなものだ。
フランクが大きくため息をついたのを聞いて、ディアンヌは言った。
「あのね、ちょーっと魔が差したのよ。最後の数日だけよ?
もし子供ができたらデルード家の跡継ぎにできるかもしれないと思っちゃって。
だけど、どうせ妊娠しないと思っていたの。
バレック様ともすぐにできなかったから、可能性は低いだろうなって。」
「…………妊娠なんて相性もあるし、父は歳のせいもあっただろうし。」
18歳と39歳の子種を一緒のように考えるなと言われてしまった。
そういうものなのかな?よくわからないけれど。
「で?うちの跡継ぎにしようと思ったってことは殿下に言うつもりはないのか?」
「ええ。あの時も、2週間後に入籍するから妊娠してもフランクの子だと誤魔化せると思ったの。
誤差の範囲で誰も入籍前に妊娠しただなんて気づかないわ。」
「…………仕方ないな。俺の子だと一生突き通すことになる。いいんだな?」
「もちろんよ。この子はそうなることを望んで産まれてきてくれるんだから。」
ディアンヌは本気でそう思っていた。
デルード家の跡継ぎにするために、この子は授かったのだと。
この子もそれを望んでいるから、ディアンヌを母に選んでくれたのだと。
だから、この子が産まれた瞬間、どういうことなの?と本気で思ったのだ。
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